Main Character:アドル=クリスティン
「アドルさん、あ〜ん♪」
「あ、あ〜ん……」
僕が気絶した後、力を完全に失った黒真珠は灰になって消滅したらしい。結果的に僕たちは最後の賭けで勝利をもぎ取ることに成功したということになる。
イースもとい、エステリアからは完全に魔法の気配が消え去り、クレリアもただの純度の高い銀になったとか何とか。
そして、僕は今ジェバさんの家でフィーナさんに看病────いや、介護されている。というのも、ダームとの戦いで身体の外側を、黒真珠の封印で身体の内側をこれでもかというぐらいボロボロになるまで酷使したせいで、自分で身動きできないぐらいまで身体能力が低下しているからだ。更におよそ2人分のリソースを一気に失い、そのギャップで心臓の機能が一時的に弱まっているのもこの状況に拍車をかけていた。
バキバキに折れた腕も添え木と包帯で固定している──こういう大きな怪我はポーション等で無理矢理治すと、歪な形で修復されるらしい──ので、実状と外見も相まって、酷く病人然とした姿に落ち着いている。
そこで、僕の身の回りの世話を買って出てくれたのがフィーナさんというわけだ。プロポーズをした影響なのか、お見舞いに来たドギさんやリリアさんたちが若干引くぐらいのやる気を出してくれている。今のように延々と1口サイズに切られた林檎を食べさせてきたり、勢い余って転んだりで、空回っている気がしなくもないが。
そんな日々が1週間ほど続き、僕はようやく自分で動き回れる程度には回復した。フレア先生の見立てでは1ヶ月は動けないだろうとのことだったので、『丈夫な身体』様々である。フィーナさんの喜んでいる表情に、ちらと残念そうな色が映ったのは見てないことにした。
回診に来ていたフレアさんの診断を受け、身体を動かしていいということになったので、リハビリを兼ねて、この冒険で訪れた村々をフィーナさんと一緒に歩いて回っていくことになった。
バギュ=バデットにすっぽり収まるようにして着陸したイースの気候もエステリアに適したものに変化し、かつて氷壁や溶岩地帯となっていた地域も多少温度に差があるレベルにまで落ち着いていた。比較的穏やかな気候の心地良さを身に染みて感じながら、通りがかりの聖獣──フィーナさん曰くルーという名前らしい──が苦い顔をして何処かへ去ってしまうぐらいには甘い時を過ごしながら、かつてのイースの地を渡り歩いた。
訪れた先でも色々なことがあった。ランスの村ではリリアさんやレノアさんといった面々に歓待を受けたり、旧溶岩地帯の村ではタルフ君にせがまれて、僕が故郷を出てから始めた旅の話を朝から晩まで話したりと、とても楽しい時を過ごすことが出来た。皆が心の底から笑い合えるような日常を送っているのを見て、胸に熱いものがこみ上げてくるのは、きっと正しい反応なのだろう。
最終目的地であるラミアの村に着くと、そこは活気に満ち溢れていた。まあ、理由は事前に知らされているので知っているのだが、サダさんとマリアさんの結婚式がまさに今日挙げられるのだ。
「アドルさん、フィーナさん、来てくださったんですね」
「お待ちしてました」
「お2人とも、ご結婚おめでとうございます」
会場が女神の王宮だとレグ殿に教えてもらい、真っ直ぐ会場へ向かうと、準備係の人に案内してもらって、新郎新婦の簡易の控え室まで連れてきてもらった。2人は白を基調とした衣装に身を包んでおり、その表情はとても幸せに満ちたものだ。
「アドル殿、フィーナ様、こちらです」
「キースさん」
「お久しぶりです、キースさん」
挨拶もそこそこに、長居するのも悪いので、控え室を後にして一足先に会場入りすると、キースさんと出くわした。メインテーブルに1番近い場所に呼ばれたので、恐らくそこが僕たちが座る席なのだろう。式場では新郎新婦に近い場所から順に上座になっていると聞いたことがあるが、僕たちはどういう枠で呼ばれていることになっているのだろうか。
とりあえず席に着いてキースさんや後から来たゴートさんたちと話をしていると結婚式が始まった。楽しい時はすぐに過ぎ去るもので、恙無く式は進行し、最後のブーケトスが行われる時間となる。そわそわするフィーナさんを後押しして送り出し、男衆で壁の方へと避難すると、やる気に満ちた女性たちの様子がよく見えるようになる。背を向けたマリアさんがブーケを放ると、それは綺麗な弧を描いて飛んでいき、フィーナさんの手の中に収まった。
「アドルさん!」
ブーケを手にしたフィーナさんが満面の笑みでこちらへかけてきた。その輝かんばかりの姿を見て、今はただこの笑顔を守るために生きていこう。僕はそう改めて決意を固くした。
次話から間章に入ります。セルセタ行きはもうしばらく後になりますね。
結局、解説(?)などは活動報告を利用して書くことにしましたので、気になる方は御手数ですがそちらをご覧ください。