赤毛の紀行家   作:水晶水

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 失われし古代王国編ラストバトル、ゴーファイッ!


O.天理の超越魔王ダーム

Main Character:アドル=クリスティン

Location:イース中枢

 

 

 

 ダームが武器を手にした腕を振り上げるのを合図に、戦いの火蓋は切って落とされた。頂点まで持ち上げられた剛腕が風を切り裂きながら振り下ろされる。地を砕く斧剣の一撃を横へ大きく避けて攻撃範囲から逃れ、迂回するようにダームへと接近しようとすると、ダームの身体から放出された黒い魔力が実体を持ち、巨大な波となって襲いかかってきた。

 

「はぁっ!!」

 

 気合一閃、魔力を込めた剣の薙ぎ払いでそれを消し飛ばし、すかさず間合いを詰める。ダームが無限の魔力を持つ上、タイムリミットもある以上、こちらは短期決戦を仕掛けるしかない。

 魔力の弾幕に穴ができた所を突き抜けるようにして進み、ダームに肉薄してクレリアの剣を全力で叩きつけると、白と黒の魔力が干渉し合って凄まじい反発力が生まれる。

 

「ぐっ​────!」

 

《ぬぅっ​────!》

 

 ダームが苦悶の声を上げているので効いてはいるのだろうが、このペースでは恐らくジリ貧で魔力切れまでに倒せない。ここはダレスの障壁の時のような突破力を求めるべきか。

 魔力同士の反発に身を任せて、1度大きく後方へ跳躍して距離を取る。漲る魔力をクレリアの剣だけでなく全身に回して、身体能力の底上げを図り再び突貫すると、今度は先程よりも大きな魔力弾を複数こちらへ向けて飛ばしてきた。足で急制動をかけつつ力が入るように踏ん張り、クレリアの盾による腰の入ったシールドバッシュでこれらを弾き飛ばすと、それを読んでいたとばかりに、動きが止まった僕に唐竹割りの要領で斧剣が振り下ろされる。全力のサイドステップで直撃は避けたが、発生する衝撃波までは防ぐことが出来ず、鎧に覆われていない部分に無数の傷が刻まれた。

 しかし、血が滴るのを気にも止めず、ダームに向けて走り出す。斧剣を振り下ろして攻撃に転じれない今のうちに勝負を決めるつもりで距離を詰め、あの時以上の魔力をクレリアの剣の切っ先に集中させて、核となっている黒真珠に向けて高速の突きを放った。先程の反発が嘘の様に抵抗無く光の刃が突き刺さり、黒真珠に小さくだが罅が走る。

 

(これでッ!)

 

《ぬ゛ぅおぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!》

 

 魔力を解放して黒真珠を破壊しようとしたその時、ダームの地を揺るがす絶叫とともに目の前で爆発的な魔力の奔流が発生して、僕は咄嗟のことで回避することも出来ずそれに飲み込まれた。身体が宙を舞い、自由落下して地面に叩きつけられる。骨が軋み、身体中から悲鳴が上がる。魔力で身体を強化していなければ今頃消し炭になっていたであろう。

 

《ふんッッ!!》

 

「ッ​──────!!」

 

 凄まじい勢いで横合いから斧剣が迫ってくるのを強化したクレリアの盾で防ぐが、激しい金属音とともに散る木の葉のように易々と弾き飛ばされてしまった。腕の半ばから嫌な音が響き、鈍痛が走る。今度は無様に地面を転がされることは無かったが、その代わりに完全に片腕をへし折られてしまった。額に嫌な汗が浮かぶ。

 

(あと一撃……一撃入れれば黒真珠を破壊できるのですが……)

 

 自身が突いた一点から罅が広がる黒真珠を見据える。タイムリミットが自分に不利に働く以上、このボロボロの身体でも受け身ではなく攻めていかねばならない。

 

(もう少しだけ無茶に付き合ってください……っ!)

 

 全身に過剰なまでの魔力を流して身体能力を強化して、ダームに最後の特攻を仕掛けた。余剰魔力が身体から溢れ出し、白い魔力が僕を染め上げる。全身の節々から悲鳴が上がるが、更にそこから残る全ての魔力をクレリアの剣に流し込んで光の刃を形成させた。

 当然ダームもこれを黙って見過ごすはずもなく、ありったけの魔力弾と魔法を駆使して僕を打ち倒そうとしてくるが、光の刃でそれらを切り伏せ、ダームに向けて確実に一歩一歩前進する。

 

《死ねぃ!!》

 

 斧剣が頭上から迫ってくる。足を止めず、軋む全身に力を込めてこれを無理やり剣で弾き飛ばす。よほど予想外だったのか、黒真珠(ダーム)から驚愕と動揺の意思が伝わってきた。

 無理な動きに血が噴き出し、力が抜けそうになるが最後の力を振り絞ってダームの頭上に跳躍すると、再び黒真珠に膨大な魔力が集まり始める。斧剣も振れる体勢でなく、弾幕で止められる距離でないので、恐らく先程の大技を撃ってくるのだろう。

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あああああああぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」

 

《お゛ぉ゛ぉ゛お゛おおおおぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉ!!!!!》

 

 白と黒の極大な魔力同士がぶつかり合う。黒い魔力の奔流に呑まれ、身体が端から焼け落ちるような感覚が走るが、それを無視して許容量の限界を超えた魔力をクレリアの剣に注ぎ込む。鬩ぎ合い、膠着状態が永遠に続くとも思われたが、クレリアの剣にビシリと一筋の罅が走る。もう駄目かと思われたが、突然フィーナさんの指輪が輝き出し、それと同時に白が黒を押し始めた。

 

「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!」

 

《があ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ゛あ゛あ゛!!!?》

 

 闇の奔流を侵食して光の刃による下突きが黒真珠に到達する。そして、その全身全霊の一撃はついに黒真珠を白い魔力の刃で貫き、漆黒の鎧が霧散した。

ゴトリと重い音を立てて黒真珠が地面に落下する。力を失ったのか、中で揺らめいていた炎も凪いでいて、ダームの声も聞こえなくなった。

 

(終わり……ましたよ…………)

 

 気が抜けて全身に回していた魔力が途切れ、そのせいで身体を支える力を失ってその場で崩れ落ちる。限界を超えて動いていたため、もう指1本動かす気力も湧いてこない。そのまま意識も遠くなっていき、僕は黒真珠の側で倒れ伏したまま気を失った。




 決め手:ソルブレイカー

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