Main Character:アドル=クリスティン
Location:イース中枢
《讃えよ、魔の偉大さを。祝え、魔の時代の到来を》
突如として空間が歪みだし、圧倒的な魔力の威圧感とともに謎の声が部屋に響く。
《2人の女神は我が力に屈し、女神を支えし6人の神官も今は亡い。総ての加護を失った人間どもよ、我が前にひれ伏せ》
2人を覆う黒い呪縛に視線が行く。祈りのポーズのまま微動だにしないフィーナさんとレアさんを見て少し心に陰が差した。
《700年前はあのような結果に終わり、幾万もの屈辱の日々を送ることになったが、それも終わりを告げる時が来た。今こそ約束の時! 魔が人間に代わり世界を支配する時が来たのだ。時は満ちた。同胞よ! 眷属よ! 我が子らよ! 我が声を聞け! 人間どもに本当の魔の恐ろしさを教えてやろう!》
「おっと、そいつはちと困るな」
謎の声を遮るように聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。振り返って声の主を見ると、そこには地上にいるはずのゴーバンさんの姿があった。よく見ると、その後ろからも見覚えのある人たちが続々と部屋に入ってきているようだ。
「ゴーバンさん!?」
「おう、女神様に呼ばれたんで来てやったぜ。さてアドル、まずはこいつで女神様たちを解放してやんな!」
僕の驚きに笑顔で返すゴーバンさんが、何かを放り投げてくる。落とさないようにしっかり受け止めて手の中を見てみると、それはレアさんのハーモニカだった。
ハーモニカの吹き方なんぞ今までで聞いたことすらないが、これはクレリアで出来たハーモニカである。
(これに魔力を流せば……)
直感に従ってハーモニカに魔力を流してみると、頭の中に自然と演奏の仕方が経験として流れ込んでくる。思い浮かぶのは酒場で聴かせてもらったあの曲だ。
魔力を切らさないようにしながらハーモニカに口をつけると、そこからは身体が勝手に動き出し、あの時と変わらない音楽が部屋に響き渡った。魔力を乗せた澄んだ音色が場を支配する重々しい魔力を浄化し、演奏が終わる頃にはフィーナさんとレアさんを覆っていた黒い呪縛も完全に無くなったようだ。
「アドルさん!」
呪縛から解放されたフィーナさんが跳びついてきたので、しっかり抱き止めて地面に下ろした。眩しいぐらい満面の笑みを向けてくるフィーナさんに、これから決戦であることも忘れてしまうぐらい心が穏やかになる。
「アドルさん、本当によくここまで来てくれたわね」
同じく台座から下りてきたレアさんが横から話しかけてきた。
「この扉の奥にダームはいるわ。もはや私たちだけでは力を増した彼を封印することすらできないの。力を貸してくれる?」
「はい、そのためにここまで来ましたから」
レアさんの問いに迷わず答えると、レアさんは薄く微笑んでくれた。
「アドルさんには魔の根源たるダームを、彼が取り憑いている黒真珠から引き剥がして欲しいの。フィーナ、あれをアドルさんに」
レアさんに言われたフィーナさんが懐から何かを出して手渡してきた。
「指輪……ですか?」
「これは魔の力を弱める効力があります。ダームの攻勢もこれで少しは抑えられるかと」
「なるほど……ありがとうございます」
お礼を言って右手の中指にフィーナさんの指輪を嵌めると、身体を聖なる気が覆うような感覚がした。
「ダームは魔そのものだから普通の魔法は効かないどころか吸収されてしまうわ。ダーム相手にはクレリアの剣だけで戦うようにしてね」
「アドルさんが持つ白い魔力を込めた剣なら、ダームにも有効な攻撃を与えられると思います」
「白い魔力?」
「はい、翼を持つ者だけが扱うことが出来る魔力のことです」
そういえば、ザバが僕のことを見て忌々しいほど澄んだ魔力をしていると言っていたような。魔物やそれに類するものに対して有効な力を持つということか。
「苦しい戦いになると思うから、私たちの魔力も持って行って」
「話したいこともいっぱいあります。どうか、無事に帰ってきてくださいね」
フィーナさんとレアさんにそれぞれの手を握られ、2人の温かい魔力が僕の中に流れ込んで来る。魔力の譲渡が終えると、背中に違和感が走り、それは3対目の翼として顕現した。過剰な魔力が身体からも溢れ出てきているような気がする。
「あなたにイースの未来を託します。御武運を」
「アドルさん、あなたの勝利を信じて待ってます」
「はい、皆さん、行ってきます」
2人だけでなく、その場にいた全員の激励を背中に受けながら、僕は扉の奥へ走り出した。
奥へ進むと、円形の広い空間に出た。中心には禍々しい魔力を放つ頭ほどの大きさもある黒真珠が浮いている。あれが討ち取るべき敵、魔王ダーム。
《我が名はダーム。魔法の力の源にして、魔の根源》
2人が封印されていた部屋でも聞いた威厳のある声が頭に響いてくる。
《真にイースを創世せしは我が力……! 真にイースを支えしは我が力……! 愚かなる者どもよ、絶望の果てに我が糧となれ!!》
そう言い終わるのと同時に、黒真珠がオーラで覆われて魔物の姿を形成し始めた。それは獣のような形をした巨大な漆黒の鎧となり、各部のパーツがまるで生きているかのように動いている。黒真珠は核のように鎧に埋め込まれていて、そこから黒い魔力が溢れ出し、空間が軋みを上げていた。
こちらも負けじと全身から白い魔力を放出する。それを纏うようにイメージすると、身体中から力が漲ってきた。
地上にいた人たちがここまで登ってこれた以上、残された時間もあと僅かだ。僕はクレリアの剣に魔力を流してダームを真っ直ぐに見据える。
そして、世界の存亡をかけた闘いが今幕を開けた。
完全に技量不足案件なんですが、上手い戦闘描写というのが書けないですわ。