Main Character:アドル=クリスティン
Location:サルモンの神殿
あれから女神像の所まで戻って金のペンダントを掲げると、銀のペンダントを使った時とは違う場所に転移させられた。それからは魔物の襲撃に対処しつつ道なりに進んでいくと、行き止まりに巨大な宝玉が嵌め込んであるのを見つけた。大きな魔力の流れを感じるので、何かしらの魔道具だと思われるが……。
「この奥へと続いていく感じ……もしかしてここが中枢に繋がって……?」
「うっすらと女神の気配も感じます。これを起動させれば中枢まで転移できるのでは?」
「ふむ、もうここまでたどり着いたか」
目の前の宝玉について推理していると、部屋に突如としてダレスの声が響き渡り、声に少し遅れてその姿もその場に現した。
「キースさん、マリアさんをよろしく頼みます」
「分かりました、御武運を」
キースさんに指示を出してマリアさんと共に一旦部屋から退避してもらう。残っていればこの場で起きる戦闘の余波で傷つくことは明白だ。
「間もなくイースは地上へ辿り着くぞ?」
「あなたとダームを倒す時間は十分ありますよ」
ダレスの挑発にこちらも挑発で応じる。お互いの戦意で空気が張り詰め始めた。
「あの時とは随分と違うようだな。まあそれはいい、何であろうと戦うことに変わりはあるまい」
そう言って、ダレスは身体を黒いオーラで包みこんだ。色々と聞きたいことを飲み込んで、僕もクレリアの剣とファイアーの杖を構えて戦闘態勢に入る。
オーラが解き放たれて、ダレスの真の姿が顕になった。身体が巨大化し、黒衣を脱ぎ去って禍々しい鎧のような何かを展開したその姿は、物理的な圧を感じさせるほどの魔力を纏っている。
「イースが地上に降りるまで付き合ってもらおうか」
「申し訳ありません、美人との先約があるので手早く切り抜けさせてもらいます」
言い終わるよりも早く、ダレスへと向かって突撃すると、ダレスは背後に無数の魔法陣を出現させて、魔力で生成された火山弾を飛ばしてきた。自分に当たる物だけをファイアーで撃ち落とし、背後で発生する熱風に煽られながら懐に潜り込み、クレリアの剣に魔力を走らせて致命的な一撃を叩き込む──────が。
「ちぃっ!」
「自分の弱点ぐらい把握しているとも!」
魔力でできた障壁に剣を阻まれて大きく金属音が鳴る。思わず舌打ちをしながら急いでその場から離脱すると、足元から赤い魔方陣と共に炎の柱が立ち昇った。大きい図体で小回りが効かないと踏んで強気で攻め込んでみたが、本人もそこを突かれることをしっかり認識しているようで対策は万全らしい。
(あれを突き抜けなければ傷すら付けられませんか……)
「考え事とは随分余裕なようだな!」
障壁をどうやって突破しようかと頭を回転させていると、ダレスは更に攻勢を強めてきた。嵐のように激しい魔力の奔流を、攻撃を受けながらもどうにか掻い潜って再びダレスに接近すると、今度はクレリアの剣の全体に纏わせていた魔力を練り上げて切っ先に集中させて突きを放つ。
「ふっ──────せやぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
「ぐおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおッッッ!!!?」
光の尾を引きながらクレリアの剣が突き刺さり、それと同時に切っ先から解放された魔力が障壁に大きな罅を入れる。ダレスが発生した衝撃で怯んでいる隙に、伸びきった腕を引き戻しながら身体をその場で回転し、クレリアの剣の刀身に魔力を走らせて巨大な光の刃を形作り、遠心力を乗せた全力の横薙ぎの一撃で障壁ごとダレスを叩き斬った。土壇場の思いつきだったが、遺跡の時のように魔力を魔法に変えて放つのではなく、魔力のまま纏わせるように使ったので何とか上手くいってくれたようだ。
「まだ終わらんッ……!」
ダレスは鮮血を撒き散らしながら大きく後方へ飛ばされたが、致命傷を負ったにも関わらず、その瞳に宿る戦意は未だに衰えるばかりか、一層増したようにも見える。こちらもそれなりに魔力の攻撃を被弾して無視出来ない傷を負っている以上、ここで一気に攻め立ててトドメを刺したいところではあるが……。
クレリアの剣を構え直し、三度ダレスに接近する。
「ぬうっ!?」
走りながらファイアーの杖とライトの杖を取り替え、すぐさま魔法を発動させると、白い閃光がダレスの目を焼いて視界を一瞬奪った。その隙に狙いの定まらない攻撃を一気に加速して潜り抜け、そのままダレスの巨体に肉薄する。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ダルク=ファクトがやっていたように魔力で身体を強化し、至近距離から高速の連続突きを放つ。一撃一撃がダレスの強固な身体を打ち砕き、10発目の突きでついにダレスの鎧を完全に破壊した。人間態に戻ったダレスが血だまりの中に沈んでいく。
「何故……かつて女神を見捨てたお前が……」
「誰と勘違いしているかは知りませんが、僕は1度も彼女たちを見捨ててなんかいませんよ」
これ以上言葉を綴れないように、倒れ伏したダレスの心臓を一突きすると、ダレスは最後に血を吐いた後に灰になって消滅した。戦闘の終わりを自覚するのと同時に疲労感が重く身体にのしかかってくる。
異空間から取り出したヒールポーションを頭から被って雑に治療していると、ダレスの死を察したのか、キースさんとマリアさんが部屋に戻ってきた。キースさんは安堵の息を吐き、マリアさんは僕の破れた服の隙間から見える全身の火傷の跡に痛ましそうな視線を向けてきた。
「そろそろ行きましょうか」
応急処置を終えてからすぐに宝玉の方へと足を進める。しつこいようだが、とにかく今は時間が惜しい。
一息で魔力を手から宝玉へ流すと、僕たちの周りの空間が歪み始めた。そして一瞬強い光を放ったかと思うと、次の瞬間には異質な雰囲気が漂う空間へと転移していた。
「ここがイースの中枢……」
「何だかピリピリしますね……」
ダームがいる影響からなのか、空気にですら魔力が混じっており、それが僅かな圧迫感を感じさせているようだ。一先ず女神がいるであろう中枢奥地まで微妙な不快感を覚えながら進んでいくと、混沌とした雰囲気を放つ部屋の前まで辿り着いた。僕は直感でここに2人がいることを理解した。
意を決して部屋の中まで入ると、そこには大きな禍々しい扉と、その左右に黒い何かで囚われた生身の双子の女神の姿があった。
書き始めた当初からプロットが2転3転4転5転ぐらいしてます。