赤毛の紀行家   作:水晶水

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 よくよく考えたら、長期休暇なのに普段より忙しいことに気がついた有翼人です。

 唯心さん、麗王六花さん、評価ありがとうございます!


K.無慈悲なる女魔道師ザバ

Main Character:アドル=クリスティン

Location:鐘撞き堂

 

 

 

 鐘撞き堂に入ると、すぐサダさんに追いつくことが出来た。僕らと奥へと続く道の間に何者かが立ち塞がっていたからだ。

 

「あら、もう1人いたのね」

 

 奇抜な形のローブを纏った青白い肌で白銀の髪をした魔道師然とした女が口を開く。あくまで人型であるキースさんとは違い、完全に人の形をしている。こいつもダルク=ファクトのように魔をその身に宿した人間なのだろうか。

 

「赤毛に翼……なるほど、あなたが報告にあった、女神と同じ翼を持つ者……。確かに、忌々しいほど澄んだ魔力をしているわね」

 

 コツコツとヒールの高い靴を鳴らしながら一歩一歩こちらへと近づいてくる。

 

「ここは僕が引き受けます。サダさんはマリアさんの救出を」

 

「…………ありがとうございます」

 

 小声でサダさんにそう呼びかけると、数瞬迷う素振りを見せた後にサダさんは走り出した。目の前の魔道師がわざわざ足止めのためにここにいる以上、残されている時間はあまりないと考えた方がいい。

 

「行かせると思って?」

 

「そちらこそ、邪魔をさせるとお思いですか?」

 

 女魔道師がサダさんに杖を向けるが、何かされる前に挟み込むようにしてファイアーを放ち妨害する。それを防いだ魔道師は走り去るサダさんから意識を外し、僕の方を見据えてきた。

 

「あなた、私の美しい肌が火傷したらどうするのよ」

 

「お得意の魔法で治したらどうなんです?」

 

 はあ、と息を吐いて自身の露出された部分を撫で回しながら魔道師は視線を強くした。

 

「まあいいわ、それよりあなた、私たちと共に来る気はない?」

 

「この期に及んで何を言うかと思えば、巫山戯ているんですか?」

 

「いいえ、至って真面目よ。ダーム様とダレス様の力だけでも十分世界を支配できるけど、そこに更にあなたの力が加われば、永遠に世界は私たちの物になるでしょう。どう? 悪い話ではないと思うのだけれど」

 

 見え透いた時間稼ぎだ。瞳の奥に見える色にこちらを嘲るような気配しか感じ取れない。

 

「あの忌々しい女神から鞍替えしない? あなたになら、このザバが磨き上げてきた美しい肢体を好きにする権利を与えるのも吝かではなくてよ?」

 

 そう言って、女は艶めかしいポーズを取りながら瞳を薄める。確かにそのプロポーションに男としては感じないものがないわけではない​──────が。

 

「申し訳ありません、年増には興味がありませんので」

 

「………………あ?」

 

 絵面としては童顔の17歳の少年を誘惑するざばさんじゅうななさいと言ったところだろうか。色んな意味でそれはキツいだろう。

 こちらとしては見え透いた時間稼ぎに対する見え透いた挑発のつもりだったが、どうやらザバの触れてはいけない何かに触れてしまったらしい。いや、冷静に考えると女性に歳の話は普通にNGである。

 

「これほど八つ裂きにしてやりたいと思ったのはあの小僧の時以来ね……。ぶっ殺してやるわ」

 

「御託はいいのでさっさと始めましょう。後がつかえてるんですよこっちは」

 

「いつまでその舐めた口が聞けるかしらね!!」

 

 まんまと挑発に乗ったザバの激昂によって戦いの火蓋は切って落とされた。彼女の身体を闇のオーラが包み込み、その身を魔物の姿へと変える。下半身を鮮血のような色の触手に変え、3メライほどまで巨大化したようだ。

 

「行きなさい! 私の眷属たち!!」

 

 ザバの背後で魔法陣が展開し、赤黒い蝙蝠が大量に飛び出してくる。これはエステリアの廃坑で見たあの魔物だ。蝙蝠たちを力任せのファイアーで焼き払い、合体される前に全て撃ち落とすと、煙の向こうから猛然と1本の触手が突っ込んできた。クレリアの盾で後ろに下げられつつもしっかりと受け止め、引き戻される前にこれを斬り落とすと、触手はびちびちと数秒這い回った後に灰になって消滅した。

 

「流石にここまで来るだけはあるようね」

 

 そう言いながら、ザバは斬られた触手を即座に再生させた。少し心に余裕が戻ったようにも見える。

 

「この程度で八つ裂きにするつもりだったんですか?」

 

「減らず口を!」

 

 再び挑発すると怒りを乗せた一撃が飛んでくるが、これも問題なく無力化し、僕はザバの方へと前進する。触手と召喚した魔物を使って苛烈に攻め立ててくるが、クレリアの剣とファイアーの魔法でこれらを全て撃ち落とす。

 

「おのれ!!」

 

「甘いッ!!」

 

 ザバは近づいてきた僕の周りを囲うようにして触手を展開して絞め殺そうとしてきたが、魔力を纏わせたクレリアの剣を構えてぐるりとその場で旋回し、根元に近い部分から触手を斬り落とした。

 ザバがバランスを崩したところにトドメを刺そうと迫るが、召喚された蝙蝠たちに邪魔されて距離を取る。蝙蝠を打ち倒している間に体勢を整えたようで、ザバは既に立ち上がったようだが、斬られすぎたせいなのか、少し再生が遅くなっているようだ。

 

「エルディーン……! お前たちはまた私たちの邪魔をするのか!!」

 

「きっかけがあったとはいえ、元々平和だった国を荒らし、イースの滅亡を決定的なものにしたのはあなたたちでしょう? これは邪魔ではなく因果応報と言うのですよ」

 

「うるさいうるさいうるさい!!!!!」

 

 ザバは頭を抱えながらヒステリックに叫ぶ。そして、大量の触手を一斉に、一直線に僕へ向けて飛ばしてきた。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「死ぬのはあなたです。今まで弄んだ人の命に報いなさい」

 

 飛んでくる触手を跳び上がって避け、そのまま触手の上に着地して更に跳躍する。そして一気にザバの眼前まで迫り、横一文字に振るわれたクレリアの剣によってザバの首が宙を舞った。

滑るように着地し、ゴトリと重い頭が地面に落ちる音がした方を向くと、まだザバの息があるように見えた。存外しぶといらしい。

 

「うふ、ふ……つかの間の勝利に喜び、そして絶望するといいわ……」

 

「何を言って……」

 

 ザバの意味深な言葉を追及しようとした時、突如鐘の音が響き渡った。

 

「ダレス様の処刑が始まるわ……。あと4回鐘の音が鳴れば、それで生け贄は死ぬ……。うふ、あはは、あははははははは!!」

 

 その言葉を遺言にして、ザバは身につけていた物を残して灰になって消えた。ザバが残した言葉の意味を考えると、まだサダさんはマリアさんを救えていないのだろうか。とにかく急ぐ必要がありそうだ。

 

 

 

 あの後、すぐにサダさんの後を追いかけて奥に進むと、青みがかった髪の女性が鎖に繋がれた部屋にたどり着いた。あれが恐らくマリアさんなのだろうが、どういうわけかサダさんの姿が見えなかった。マリアさんの方に魔力でできた強力な結界があるのを考えると、直接鐘の方を止めに行ったのだろうか。

 

「そこのお方! どうかサダをお救いください!」

 

 数瞬逡巡していると、マリアさんの方からそう懇願される。その表情はひどく悲痛な想いを秘めていた。

 

「私は大丈夫ですから! どうか今はサダを!」

 

 自らが命の危機に瀕しているとは思わせないほどの力強さで、マリアさんはサダさんの方へ行くように促してくる。確信めいた何かがあるのか、その瞳の奥に潜む力強さが伝わってくる。

 

「…………後で必ず戻ります!!」

 

「ありがとうございます!」

 

 ここで扱いの分からない結界の前で手をこまねいていても何にもならないのも事実。結局マリアさんの言葉の力強さに負けて、僕も鐘撞き堂の最上階に向けて走り出した。

 2回目の鐘が鳴った。タイムリミットが刻一刻と迫ってくる。

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!!?」

 

 最上階に登る途中でもう1度鐘が鳴り、あと少しでたどり着くというところで、サダさんの声が木霊した。

 

「サダさん!」

 

「ア、アドルさん……」

 

ボロボロになったサダさんが階段から滑り落ちてくるのを受け止める。そして、4度目の鐘が鳴り響いた。

 

「サダさん、これを」

 

「マ、マリアを……」

 

「分かってます!」

 

 サダさんにヒールポーションを渡してから、数段飛ばしで階段を駆け上がっていく。そして大鐘楼まで登り詰めると、鐘の下に黒衣の男が立っているのが目に入った。

 

「あなたがダレスかッ!!」

 

「いきなり随分な挨拶だな……っ! 翼を持つ者よ……っ!」

 

 出会い頭にクレリアの剣を叩きつけると、男は手に持っていた杖で防いできた。金属同士が擦れ合う不快な音が響きながら杖と剣が拮抗する。

 

「700年前は静観しておいて、何故今更貴様が我らの邪魔をする……ッ!!」

 

「何の話を……っ!?」

 

 力任せに杖を振り抜かれて腕が弾かれる。そして、がら空きになった腹に蹴りを入れられ、ダレスとの距離が開かされた。

 

「ようやく我らの悲願が達成されるのだ! 貴様は女神とイースが滅びゆく様をそこで見ていろッッ!!」

 

 ダレスの血を吐くような絶叫と共に5度目の鐘が鳴り響き、そして鐘撞き堂に黒雷が降り注いだ。




 歳の話をすると、(見た目はともかく実年齢的に)フィーナ様とレア様も吐血することになるぞアドル君。ちなみに年増発言は金髪の彼のオマージュです。

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