赤毛の紀行家   作:水晶水

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 間章ネタを考えてたんですけど、そういえばVIIIのDLCに水着があったなと。


J.蠢く捕食者ドルーガー

Main Character:アドル=クリスティン

Location:サルモンの神殿

 

 

 

 黒煙が上がり続ける門の残骸を踏み越えて神殿に侵入すると、そこら中で慌てふためく魔物の姿が目に入った。右方の魔物がこちらに気づき向かってくるが、もう1度、黒い真珠で増幅させた魔力を込めたファイアーの魔法でこれを一気に焼き払う。再び爆炎が巻き起こり、侵入1分と経たずに神殿の入口付近は廃墟のような様相に成り果てた。

 

「騒ぎを起こすのはこれぐらいでいいでしょう。女神像のところまで行きますよサダさん」

 

「………………レグ爺さん、卒倒しないよなこれ」

 

 あえて事を大きくしたのには一応理由がある。これだけ派手にアピールすれば、既に神殿に侵入しているキースさんも、僕が来たことに気づいてくれたことだろう。若干引き気味のサダさんや神殿マニアのレグ殿には悪いが、これも必要なことなのだ。

 

「っ! サダさん回避!!」

 

 女神像がある正面の建物に入ろうとした時、前方から巨大な威圧感を感じ、僕らはそれぞれ左右に転がって距離をとる。その直後、壁を破壊しながら巨大な白い蜘蛛の形をした魔物が僕らの目の前に姿を現した。

 

「僕が注意を惹きます! サダさんはその隙に脚を!」

 

「分かりました!」

 

 サダさんに指示を飛ばしながら、異空間からライトの杖を取り出して目が眩むような閃光を放つ。光に釣られてサダさんを見失ったようで、魔物は完全に僕を標的にしてこちらに向かって前脚を振り上げながら加速してきた。

 

「よっ​────と!」

 

 振り下ろされる鋭い前脚を後ろに跳び上がりながら避け、魔物を地面に縫い付けるように上からファイアーを浴びせると、魔物はそれに耐えるように脚を地に踏ん張らせた。

 

「ここだぁぁぁ!!」

 

 しかし、その隙を上手くついて、サダさんのクレリアの剣が魔物の片側の脚を素早く斬り落とすと、魔物はバランスを崩してその場で転倒する。魔物が残った脚でどうにかしようともがいている所に、クレリアの剣を頭に突き立てると、数秒のたうち回った後に灰になって消滅した。

 巨大な魔物を倒したことで更に魔物たちの間で動揺が広がっているようだ。冷静になられる前にさっさと目的地まで走り抜けよう。サダさんの方を向くと、僕の顔を見て1つ頷き、建物の方へと走り出した。

 

 

 

 崩壊した建物を進んでいくと、最奥地の女神像が安置してある所にたどり着いた。頑丈な造りになっていたのか、この部屋には崩落の跡は見受けられない。

 

《勇者よ、よくぞ神殿にたどり着いてくれました。イースの中枢に行くためにはあなたが持っている銀のペンダントと対になる金のペンダントが必要になります》

 

 女神像から聞こえるレアさんの説明はレグ殿が言っていたことと一致しているようだ。しかし、金のペンダントの在り処が分からなければどうしようもない。

 

「金のペンダントが何処にあるかは分かりますか?」

 

《正確な場所は分かりませんが、ダームの腹心であるダレスか、あるいはその忠臣であるザバなら持っていても不思議ではないと思います》

 

 国の重要施設に行くための鍵なので、幹部級の敵から奪う以外はやはり方法がないかと、内心顔を顰めるも、どの道打ち倒さねばならない相手であることに変わりはないので、すぐに気持ちを切り替える。一先ず、それを考えるのは人質を助けてからだ。

 

「一先ず僕たちは鐘撞き堂に向かいます」

 

《それがいいでしょう。では、先に進む前に手を触れてください。あなたに力を託した後でも転移は問題なく行えるので心配は無用です》

 

 レアさんの指示通りに像に触れて残存魔力を譲渡されると、今までのように女神像の輝きが霧散する。

 取り入れた魔力を身体に馴染ませてから、銀のペンダントを取り出してもう1度女神像に触れると、僕とサダさんの姿がその場から消えた。

 

 

 

「ここが本殿西翼でしょうか」

 

「鐘撞き堂があそこに見えるので合ってると思いますよ」

 

 転移後にすぐ建物から出て、書き写した見取り図と現在地を照らし合わせる。サダさんの指の先には最上階に鐘が設置されている建物がそびえ立っているので、地図に間違いはないようだ。しかし、だいぶ距離はあるので、急ぎながら少し無茶な道を2人で走り抜けた。

 

 

 

「アドル殿!」

 

 壁を乗り越えたりしながら、文字通り真っ直ぐ目的地を目指して進んでいると、鐘撞き堂に辿り着く直前で大勢の人を引き連れたキースさんと鉢合わせた。

 

「やはりあの爆発はあなたでしたか」

 

「気づいていただけたみたいですね。ところで後ろの人たちは?」

 

「鐘撞き堂に捕えられていた者たちです」

 

 予想はしていたが、やはり人質にされていた人たちらしい。しかし、何故かキースさんの表情は暗い。

 

「アドル殿、1つお願いしてもよろしいでしょうか」

 

「何でしょう?」

 

「実は、人質を解放している途中で敵の魔導師の襲撃に逢い、1人だけ逃げ遅れたのです」

 

 キースさんの言葉に不穏な空気が場を支配する。

 

「名をマリア。私と同じラミアの村の……」

 

「今マリアと言ったか!?」

 

 キースさんの言葉の途中でサダさんが婚約者の名前に食いついた。

 

「サダ!? お前何でこんな所に……」

 

「俺の名前も知って……お前まさか……キース……?」

 

「ああ、今は呪いでこんな姿だがな。いや、しかし……なるほど、マリアを救うためにここまで来たか。ならば急いだ方がいい。あいつはもうすぐ鐘を鳴らすと言っていた」

 

 人語を話す魔物の正体にサダさんは呆然としていたが、続くキースさんの言葉にサダさんは血相を変えて鐘撞き堂へと走り出した。

 

「キースさん、一先ずあなたたちは女神の王宮に向かってください。後で僕たちもそちらへ行きます」

 

「分かりました。アドル殿、マリアとサダをよろしく頼みます」

 

 キースさんたちに指示を出してから、僕もすぐにサダさんを追うために走り出す。視界の上に映る、かつて福音を鳴らしていたであろう鐘が、今は途轍もなく禍々しい物に見えたような気がした。




 アドルくんが平行世界のファル学時空に迷い込んで、アドルさんと鉢合わせてえらいことになるってネタも機会があればやってみたい。

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