Main Character:アドル=クリスティン
Location:バルバドの港町
目が覚めると真っ白な天井が視界に映った。横になっている場所も地面ではなく柔らかいベッドの上で、着ていた服は脱がされて、その代わりに包帯が巻かれていて、それに気づいたら思い出したかのように傷が痛んできた。
「あらあら、もう目を覚ましたの?傷は大丈夫?」
ちょうど僕が起きていることに気がついた看護師が部屋に入ってきた。青髪で少しベテランの雰囲気を感じさせる女性だ。
「少し痛みますが大丈夫です。あの、ここはどこなんでしょう?」
「ここはバルバドよ。ミネアの近くの港町」
それから二、三言看護師のアイラさんと話すと、思い出したかのように先生に僕が目を覚ましたことを伝えてくると言ってパタパタと部屋から出て行った。
バルバドはエステリア南端の港町だとビクセンさんから聞いていた。僕が小舟で入港しようとしていたところでもある。
身体はボロボロだが、僕はエステリアに辿り着けた事実に遅ればせながら大きな喜びを感じた。
「おお、ホントに起きてる。大したもんだ」
「ほっほ、では少し身体を診てみるとしよう」
僕が感慨に耽っていると、部屋の入口からそんなことを口にしながらアイラさんと共に新たに2人の男が入ってきた。白衣を着たお年寄りの方がブルドーさんと言って、この診療所で医者をやっているらしい。もう1人の若い男はスラフさんと言って、ブルドーさんの息子で街の自衛団のリーダーだそうだ。
また、スラフさんは僕が街の近くの砂浜に漂着しているのを見つけて運んでくれたのだという。
「おかげで助かりました。ありがとうございますスラフさん」
「いやぁびっくりしたよ。嵐が起きたから漂着物が流れてきてないか確認しに行ったら人が倒れてるんだから」
そう言って、頭を下げる僕にスラフさんは笑いかけてくる。
「それで、何であんなところに倒れてたのさ」
「エステリアまで渡航しようとして途中で難破してしまいまして」
流れ着いた経緯を僕が説明すると、3人は揃って驚愕を顔に貼り付けた。
「それは何とも……嵐の結界を越えてきた、というわけかの?」
「はい、結果的にはそうなりますね」
「あ、呆れた……よく生きてたわねアドルくん」
確かに、我ながら運が良かったなとは思う。二重の意味で。
それから、しばらく3人に質問攻めに逢いながら時を過ごし、お昼になる頃にスラフさんは自衛団の詰め所へと戻っていった。
僕も外を見てこようかと思いベッドを降りようとしたが、今日一日はゆっくりしておきなさいと2人に宥められ、助けてもらった手前無茶をするわけにもいかず、ベッドで大人しくすることになった。
その日が暮れる前には女神様の加護のお陰で普通より丈夫になった身体はすっかり回復し、動き回っても問題ないようになっていた。
女神様の加護と言えば、もう1つ物を自由に収納しておける異空間を操る能力を授かっていたが、女神様からの計らいかどうかは定かではないが、自分の所有物なら離れたところにあっても異空間を経由して手元に引き寄せることができるようになっていた。
これを使って難破した際に紛失した剣を呼び戻すと、着替えた服とともに再び帯剣しておく。
「驚いた、傷はもう大丈夫なのかね?」
荷物という荷物は全部異空間にしまってあるので、手早く身支度を済ませて部屋を出ると、ちょうどブルドーさんと鉢合わせた。
「はい、こう見えて丈夫なのが取り柄なので」
「うむ、そのようじゃの」
僕がニッと笑い力こぶを作り大丈夫であることをアピールすると、ブルドーさんは顔の皺を更に深くして微笑む。
僕が今日中にミネアまで行くことを伝えると、少し心配をされたが送り出してもらえた。
その後、診療所の2人に別れを告げて僕はミネアへ出発した。
あと1時間もしないうちに太陽が沈んでしまいそうだが、ミネアの街を囲う高い壁はバルバドからもはっきりと見える。恐らく夜になる前にたどり着ける距離だろう。
Location:城塞都市ミネア
それから道中は何事もなく、僕は無事にミネアに到着した。こうして近づいてみると、目測で10メライはあるだろうか。この都市の市壁の堅牢さがありありと伝わってくる。
壁を見上げるのを止めてミネアの街に入ると、プロマロックほどではないが、それでもそれなりの活気があるのが窺えた。
少し浮かれて街を見て回っていたら完全に夜になってしまい、僕は慌てて宿を探すことにしたが不運なことにどこも部屋がいっぱいになってしまったらしい。
「お若い剣士殿、少し私の話を聞いてもらえませんか?」
漂流に宿無し、自分の旅の幸先の悪さを呪いつつ再びミネアの街を散策していると、ローブを着た長髪の美しい女性に話しかけられた。
「はい、どうかしましたか?」
「私は占い師のサラと申します。ここで話すのも何ですので、私の家に寄っていきませんか?」
少し強引な気がしなくもないが、美人に誘われて悪い気はしない。悪い人にも見えないので、無言で頷き返すと、サラさんはにっこり笑った後に僕を先導して歩き始めた。
僕はその後をついていきながら、長い夜になりそうな気配を1人感じたのであった。