赤毛の紀行家   作:水晶水

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 Ysの二次小説増えないかな。


I.突入、サルモンの神殿

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ラミアの村

 

 

 

 洞窟を抜けると、肺まで焼き尽くすような灼熱の空気が、淀みのない澄んだ空気に変わった。視界一面に空が広がっているのに気づいて、改めて自分が天空の地にいるということを思い知らされる。

 どうやら人里に直接繋がっていたようで、視線を外の方から内に向けると、木製の家々が立ち並んでいるのが目に入った。

 一先ず手っ取り早く人の目を引いて情報を集めるために、あえて翼を大きく広げ、神界の杖を手にして歩いていると、村の人たちがそれに気づいたのかざわつき始めた。

 

「すいません、どなたか神殿に詳しい方はいらっしゃいませんか?」

 

 ある程度人が集まり始めたところでそう村の人たちに呼びかけると、人混みの奥から1人の老人が現れた。

 

「儂は魔物が復活する以前神殿の調査をしておりました。名をレグと申します」

 

「これはご丁寧に。私は女神によりイースに遣わされたアドルという者です」

 

 お互いに一礼して自己紹介を済ませると、女神に遣わされたというフレーズに周りの人のざわつきが更に大きくなった。

 

「レグ殿、神殿について詳しく教えてくださいますか?」

 

「分かりました。では一旦儂の家まで来てください。神殿内部の地図と照らし合わせながら説明します」

 

 

 

「これが儂が調べた神殿の構造になります」

 

 そう言いながら、レグ殿は4人がけのテーブルが容易く埋まるほどの大きさの図面を広げて見せてくれた。ざっと見ても下手な都市の何倍も広い上、地下水路まで張り巡らされており、相当複雑な造りになっているようだ。

 

(これがかつて栄華を誇ったイースの象徴……。流石に全部を見て回るのは骨が折れるどころの話ではないですね……)

 

「これで大方調べられているとは思いますが、実はイースの中枢にはまだたどり着けておらんのです」

 

 中枢、名前の響きからして恐らくダームがいるであろう場所。

 

「行き方も何も分からないのでしょうか?」

 

「いえ、一応行き方は分かっておるのです。入口正面の建物にある女神像から、金のペンダントという、この銀のペンダントと対になる物を持つ者だけがイースの中枢に進むことが出来ると言われております」

 

 レグ殿はそう言いながら地図の上に銀色のペンダントを置いた。うっすらと魔力を感じるので、恐らく識別用の魔道具か何かだろう。

 

「この銀のペンダントは何処へ通じる鍵になるのでしょうか?」

 

「これは女神の王宮と鐘撞き堂へ通じる道を開く鍵になります。女神の王宮は読んで字が如く、かつて女神様が暮らしていらした宮殿です。今は女神像が2体置かれているだけのようですが……」

 

 今までのことを考えると、また重要な話が聞ける可能性は十分にあるだろうか。一先ず1つ、この広い神殿の中から行くべき場所として覚えておこう。

 

「そしてこの鐘撞き堂ですが、今ここは魔物たちによって捕えられた人間が収容されている場所になります」

 

「収容……いったい何のために?」

 

「生け贄です。魔物たちは1日1人、鐘を5回鳴らした後に見せしめとして殺しておるのです」

 

 レグ殿の言葉に思わず顔を顰める。タルフ君の時といい、随分と卑劣な真似ばかりをするようだ。

 

「この村の人間も先日捕まってしまいました。その娘は、マリアは若く幸せの絶頂にありましたが……どうか救ってやってください」

 

「分かりました」

 

 涙を押し殺すような声を出して頭を下げてくるレグ殿の言う通り、まずは鐘撞き堂に行って人質をどうにかするとしよう。とにかく人命が優先だ。

 

「では、ペンダントはお借りしていきます」

 

「もう行かれますか。どうかご武運を」

 

 必要最低限の内部構造図を手帳に書き写し、銀のペンダントを懐に入れてから、僕はレグ殿の家を後にした。向かうは神殿へと続く大きな正門だ。

 

 

 

「アドルさん! 俺も連れて行ってください!」

 

 門を開いてもらおうと門番に話しかけようとした時、そんな声が後ろから聞こえてきたので振り返ると、視線の先には装備を整えた男がこちらの方へ走ってくるのが見える。身につけているのは魔力を帯びた立派なクレリア製の武具のようだ。

 

「サダ、お前……」

 

「絶対に足でまといにはなりません! お願いします!」

 

 門番が悲痛な表情で名前を呼ぶのも気づかずに、必死の形相でサダという名の男性が懇願してくる。

 

「一応、理由を聞いても?」

 

「俺の婚約者が魔物に捕まってるんです……! マリアを取り返すためにも俺は行かなきゃいけません!」

 

「…………剣の腕に自信は?」

 

「村で1番であると自負してます」

 

「分かりました。一緒に行きましょう」

 

「アドルさん、いいんですか?」

 

 僕の肯定の言葉が予想外だったのか、門番が驚いた顔でそう尋ねてくる。

 

「はい、戦力は少しでも多い方がいいですしね。それに、居ても立っても居られない気持ちは分かりますので」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 腰を90°に曲げてサダさんが礼をしてきた。こちらとしてもさっきの言葉は何の嘘偽りもない。戦える人が増えるのは歓迎すべきである。

 

「では行きましょうか。門を開けてください」

 

「は、はい! アドルさん、ご武運を。サダも無理だけはするなよ」

 

 門番の激励を背に受けて、サダさんと一緒に門の向こう側へ進むと、更に大きな門が視界に広がっているのに気づいた。どうやらあちらの門番は魔物のようで、鎧や兜の隙間から異形が覗き込んでいる。

 

「サダさん、神殿に入ったらまずは鐘撞き堂を目指します。覚悟はよろしいですか?」

 

「マリアを救うためなら何だってやりますよ、俺は」

 

 その意気や良し。サダさんの闘志を剥き出しにする瞳を見て僕も気合を入れる。

 黒い真珠とファイアーを異空間から取り出すと、異変に気づいたのか、何かを喚きながら門番の魔物がこちらへ向かってくる。しかし、魔物が辿り着く前に魔力のチャージを終え、僕は眩い光を放つファイアーの杖を前方に向けて魔力を解き放った。杖先から放たれた魔炎は通りすがりに魔物を蒸発させて門に衝突すると、イース中に響くかと錯覚するような爆音を引き起こして炸裂した。門が跡形もなく吹き飛び、破片が神殿中に降り注ぐ。

 

「さあ、行きましょう」

 

 目指すは鐘撞き堂。人間の反撃の狼煙が今、派手な音を立てて上がった。




 実は原作よりもかなりハイペースでイースを攻略しているアドル君。

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