赤毛の紀行家   作:水晶水

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 《闇》あたりの設定をいまいち把握しきれてない有翼人です。セルセタ入るまでには何とかしておきたい。

 ゴレムさん、yuki000さん、マンドラゴルァさん、小説スキーさん、葉介さん、評価ありがとうございます!


G.救出作戦

Main Character:アドル=クリスティン

Location:バーンドブレス

 

 

 

 色とりどりの獣たちが上下するのを視界の下半分で捉えながら、聖獣たちに襲いかかってくる魔物を斬り伏せて溶岩地帯をぐんぐん進んで行くと、壁際に台座が設置してあるのを発見した。彼らも歩を止めて僕の顔を見上げてきているので、どうやらあそこに件の真珠があるらしい。

 視線に促されて台座の方へ進むと、台座の窪みに手のひらに収まるぐらいの大きさの宝石が嵌っているのが見て取れた。近づくとそれが発する魔力の波動の強さに少し及び腰になったが、意を決して抜き取るとその威圧感も霧散してしまった。そして、それと同時に手にした黒い真珠から情報が流れ込んでくる。分かりにくい感覚だが、何となくそんな感じがした。

 

(真珠に魔力を込めると、使用者の魔力を一時的に増幅させることができる……?  フィーナさんが言っていた触れれば理解できるというのはこういうことでしたか)

 

 なるほど、こうすることで感覚的な理解が出来るというのであれば、口で説明するのは確かに無駄な手間だろう。フィーナさんが残した言葉を内心で納得しながら聖獣たちの元に戻ると、何やら何かを訴えかけるように鳴き声を上げていた。

 

「女神様たいへん! 今さっき魔物が人間の子供を攫っていったらしいよ!」

 

 テレパシーの魔法を使って声を聞いてみると、何やら不穏な事態に陥っているらしい。

 

「何処に連れていかれたか分かりますか?」

 

「多分牢屋だと思うよ! でも入口は分かんないや……」

 

「では、その牢屋がどの辺りにあるかは分かりますか?」

 

「牢屋の壁があるところなら知ってる!」

 

「案内はお願いできますか?」

 

「分かった!こっちだよ!」

 

 壁を掘る道具なら持っているので、時間はかかるかもしれないが、入口からじゃなくても助けることはできるはずだ。何故魔物が子供を攫ったのかは分からないが、見捨てるわけにはいかないので、僕たちは目的地を魔物が管理する牢屋に変更し、そこへ向かって走り出した。

 

 

 

「ここだよ女神様!」

 

 溶岩地帯の突き当たりで聖獣たちの案内が止まった。早速救出に取り掛かるためにマトックを異空間から取り出そうとした時、黒い真珠が再び威圧感を放ち始めた。

 

(使え……ということでしょうか?)

 

 真珠が発する意思のようなものを受信したのでそれを手に取ると、真珠はそれを肯定するかのように更に圧力を強めた。不思議なことに、根拠は全くないのに僕もそれが正しいような気がしてくる。

 

「すいません! 今から壁を破壊します!! 出来る限り壁から離れてください!!」

 

 これから大規模な破壊が起きる予感がしたので、壁に空いていた穴から中にいるであろう人たちに向かって、大声でそう呼びかける。そして、しばらく待ってから僕は黒い真珠を握り込んで魔力を流し始めた。

 真珠に流れ込んだ魔力が急速に増加し、暴走しそうになるのを何とか抑え込みながら、慎重にファイアーの杖先へと集めていくと、先端の赤い宝石が煌々と輝き出した。極限まで高めた魔力を杖を振るうことで解き放ち、そしてそれは壁にぶつかると轟音を立てて炸裂し、天地がひっくり返るような衝撃を起こしながら爆発した。音にびっくりした聖獣たちは文字通りひっくり返ってしまったようだ。

 巻き起こる爆風から腕で顔を庇い、煙が晴れるのを待つと、壁が跡形もなく消し飛び、牢屋の中に入れるようになっていた。

 

 

 

「ご無事でしょうか!」

 

 思っていた以上の爆発が起きたので、子供が無事かどうかはらはらしながら牢屋の中へ侵入すると、奥の方に人影が2つあるのを確認できた。1人は恐らく聖獣たちから教えて貰った子供で、もう1人は人型の魔物だった。

 

「ま、待て! いや、お待ちください女神の同胞よ!」

 

 想定外の状況に思わず身構えるが、事が起きる前に魔物が人語を発して静止を掛けてくる。よく見ると、子供も魔物に対して怯えた様子を見せてない​──むしろこっちの方が奇異の視線を向けられているような気がする──ようなので、一先ずは話を聞く体勢に入ることにした。

 

「あなたは?」

 

「俺の名前はキース=ファクト。神官ファクトの子孫です」

 

 魔物の口からファクトの名前が出てきた。脳裏にダルク=ファクトのことが過ぎったが、何だろう、ファクトの一族は魔物化する宿命にでもあるのだろうか。

 

「キースさん、何故魔物の姿を?」

 

「ダームの腹心にかけられた呪いのせいでこのような姿にされてしまいました。その後は人里に戻ることも出来ず、弱ったところを魔物に捕えられてこの灼熱の牢獄に」

 

 こちらを真っ直ぐ見据える瞳を見ると、キースさんが嘘を吐いているようには見えなかった。何故呪いをかけられるような事態に陥ったかは分からないが、複雑な事情があったのだろう。

 

「女神の同胞よ、よろしければあなたのことを教えていただいても?」

 

「僕はアドル=クリスティンといいます。このイースの地には女神の使いとしてやって参りました」

 

「何と……」

 

 僕の言葉にキースさんは目を見開いた。そうか、神官の子孫的には今の僕はかなり重要な役割を持っていることになるのか。

 

「ここに来たのは聖獣たちに、魔物が人間の子供を攫ったと聞いたからです。君も無事で良かった」

 

「え、あ、は、はい!」

 

 キースさんと話していたせいで今の今まで放置していた青髪の少年に声をかけると、不意打ちで驚いたのか、あるいはよく分からない人に声をかけられたからか、若干挙動不審になりながら反応された。

 

「えっと、ありがとうございます」

 

「いえ、お礼はこの子たちに言ってあげてください。彼らがいなければ気づいていませんでしたから」

 

「わ、分かりました。君たちもありがとう」

 

 少年の感謝の言葉に、聖獣たちはその場でぴょんぴょんと跳ねて反応を示した。人語を理解出来ているのだろうか。

 

「さて、キースさんはこれからどうしますか? 僕は彼を人里まで送ってから神殿まで向かいますが」

 

「……俺はこの姿ですから村に入るわけにはいきません。別ルートで先に神殿に侵入しようと思います」

 

「では一先ずお別れですね。ご武運をお祈りします」

 

「はい、アドル殿もお気を付けて」

 

 キースさんはそう言って一礼してから颯爽とその場から去っていった。今見せた俊敏な動きも味方であるなら頼もしい限りである。

 

「では、僕たちも帰りましょうか。道は分かりますか?」

 

「はい、こっちです」

 

 キースさんを見送ってから、僕は少年と聖獣たちを引き連れて人里の方へと歩き出した。ここについてから動き回ってばかりなので、人里に着いたら一旦休憩しようか。




 毒ガス地帯はどうしようかなと思いましたが、ルーたちの力を別の形で借りることになったのでカットさせて頂くことになりました。毒ガス地帯のファンの皆様(?)、申しわけありません。

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