SERANさん、赤毛のアドルさん、赤チリさん、銀腕アラムさん、評価ありがとうございます!
ところで、この作品が日間ランキング5位に載ってて思わず5度見ぐらいしてしまいました。これも皆様のおかげです、ありがとうございます。
Main Character:アドル=クリスティン
Location:バーンドブレス
ノルティア氷壁の内部へ続く扉を潜ると、すぐに身体が異変を訴え始めた。つい数秒前まであれだけ寒かったというのに、既に身体に熱を孕んだ空気が纏わりついてくるのだ。
(これも氷壁と同じような結界の影響……?)
レアさんの言葉を思い返しながら、この異常気象の原因に当たりをつける。まあ、分かったところでどうしようもないのではあるが。
余分な衣服もさっさと脱ぎ去り、翼の特性も発熱から冷却に魔力で上書きしてから進んでいると、氷壁の時とは違ってすぐに女神像を見つけることが出来た。
《勇者よ、よくぞ来てくれました》
女神像が輝き出し、フィーナさんの声が聞こえてくる。
《今あなたを苦しめているこの灼熱の溶岩地帯は、六神官が魔物たちの侵攻を阻むために作り出したものです。環境を変える結界は私たちにとっても辛いものでしたが、時間を稼ぐにはこの方法しかありませんでした》
当時のイースはどうやら相当切迫した状況だったらしい。本で幾らか把握していたが、こうやって当事者の口から聞いてみると、また違った思いが湧き上がってくるようだ。
《この地には、今は魔物を生み出し、活性化させるダームの心臓となってしまった物を模倣して作られた黒い真珠が安置されています。勇者よ、これをこの地に潜む、人ではない協力者と共に奪還して魔物の力を弱めてください。少しは進行が楽になるでしょう》
「そのような危険な物でしたら、破壊した方がいいのではないでしょうか」
《いえ、あれはあの場にあることで魔物への供給機関としての役割を果たします。故にそこから動かされてしまえば、その力は発揮されません。それにあなたならば黒い真珠を使いこなすことも可能ですので、奪還後は上手く活用してください》
「上手く活用するというのは?」
《魔力を増幅させる効果がありますが、恐らく実際に触れてみた方が使い方は理解できると思いますよ》
思わせぶりな発言だが、フィーナさんがそう言うのならばそういうことなのだろう。
《これで私たちの役目は果たされました。残された力をあなたに渡しますので手を》
前と同じように女神像に触れて2人の魔力を授かると、背中に違和を感じた。それは背中から翼となって顕現し、僕は今2対の翼を生やしている。イースの本の力や今までの供給分を合わせて2人分の魔力に達したということだろうか。
《勇者よ、協力者はこの近くに生息しています。まずは彼らを探してみてください》
その言葉を最後に女神像の輝きが霧散する。道はしっかり示してくれたので、一先ず言われた通りに協力者とやらを探してみよう。
(人ではない協力者……そうなるとテレパシーの魔法で交流できるだろうか………………おや?)
どうやって接触しようかと考えていると、視界の端で何かが動いたのを捉えた。視線をその方向に向けると、複数の0.5メライほどの大きさの生物が、物陰からこちらを覗き込んでいるのが見える。視線が交差し、あちらはこちらが気づいたことに気づいたのか、奥の方へ引っ込んでいった。
(まさかあの可愛らしい生物が……?)
とりあえず後を追おうとしてそちらへ足を向けるのと同時に、先ほどより数が増えた獣が凄い勢いで殺到してきて、あっという間に取り囲まれてしまった。殺気はまるで感じないのでいいのだが、それとは別の圧を感じる。
獣たちは僕を囲みながら外見と同じく可愛い鳴き声で何かを訴えかけてくるが、今の姿では何を言っているのかさっぱり理解できないので、使おうとして出していたテレパシーの杖に魔力を流し、魔法を発動させた。発動と同時に身体が光に包まれ、それが収まると、僕の身体は獣たちと同じぐらいの大きさになっていた。
(身体の構造を変化させる魔法ですか……。しかし翼は生えたままのようですね)
依然として残る翼や変わってしまった身体の動きを確かめてみるが、問題なく動けそうだ。
「女神様が僕達と同じ姿に!」
「びっくりしたぁ!」
子供のような可愛らしい声が周りから聞こえてくる。今度は言葉が理解できるようだ。ところで、僕の姿が彼らと同じということは、彼らが女神に仕えていた聖獣ということだろうか。
「すいません、黒い真珠がどこにあるか知っていますか?」
「黒い真珠?」
「きっとあれだよ、魔物たちが守ってるあの丸いやつ!」
「女神様、あれが欲しいの?」
早速黒い真珠について聞いてみると、話を聞く限りでは在処を知っているようだ。僕のことを女神と誤認しているのは気になるが、僕の中にある魔力から判断しているのだろうか。特に不都合はないのでこのまま訂正しなくてもいいだろう。多分。
「はい、それがないといけないみたいなんです」
「じゃあ僕たちが案内するね!」
「あっ、でも魔物はどうしよう?」
「それは僕が元の姿に戻って対処します」
「なら安心だ!」
「行こう行こう!」
その言葉を発端に、聖獣たちは楽しそうに声を上げてぴょんぴょんと跳ねながら先へ進み始めた。僕も人の姿に戻り、これを追いかける。女神(偽)と聖獣の大行進の始まりだ。
アド=ルーくんはセルセタの樹海版のアド=ルーの姿に翼が生えたのを想像してください。ちなみに女の子のルーは耳が垂れてて可愛いです。