赤毛の紀行家   作:水晶水

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 石の靴くんはいいやつだったよ……(なお他のアイテム)。

 緑汁さん、評価ありがとうございます!


E.氷壁の守護者ティアルマス

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ノルティア氷壁

 

 

 

 遺跡を後にし、神官によって開かれた聖域の扉を抜けると、そこには雪と氷に包まれた世界が視界一面に広がっていた。壁のように反り立つ氷がこの地の異常さを際立たせているように思える。

 

(隣接する遺跡や村はあんなに穏やかな気候だったのに……いくら何でもこれは……)

 

 予想以上の寒さに面食らいつつ、異空間から外套とファイアーの杖を引っ張り出して装備する。魔力の扱いの練習のために発熱の効果を付与した翼を編んでおこう。

 

 

 

 フィーナさんが女神像を探せと言っていたので、僕の中に流れる2人の魔力が惹かれる方に進んでいると、歩いて行ける範囲で一番高いところに女神像が鎮座しているのを発見した。雪と氷を専用の靴でしっかりと踏みしめて、滑らないように気をつけながら何とかそこまでたどり着く。

 

《勇者よ、よくぞノルティア氷壁までたどり着いてくれました》

 

 今度は女神像からレアさんの声が聞こえてくる。恐らく残留思念だろうから、今回はそのあたりは流していこう。

 

《峻厳なる氷に覆われたここノルティアは、魔物の侵攻を防ぐための結界の影響でいくつかの仕掛けが発生しています。この異常な寒さもそれの1つです》

 

 どうやらこの地を覆う結界とやらの力で、隣の地域に影響を与えずに極寒の地を作り出しているらしい。規模の大きな魔法だとこのようなこともできるのだろうか。

 

《そしてもう1つ、氷壁の内部へ侵入して神殿に向かうためには、真実の扉を見つけてもらう必要があります。今見えている結界で歪められた虚構の扉を真実を暴く光で照らし出してください》

 

(確かライトの魔法にそんな効果がありましたね……。扉を探して早めに抜けてしまいましょう)

 

 神官にされた説明を思い返しながら、次に行くべき場所を見定める。まあ、場所が分からないので結局探し回ることになるのであるが。

 

《氷壁を抜けたら、溶岩の海に囲まれた私たちを探してください。次への道を示してくれるでしょう》

 

 溶岩の海……寒暖差で死にはしないだろうかなどと少々不安になりつつも、僕はレアさんの声に頷いて肯定を示した。

 

《では、最後に私たちに手を》

 

 レアさんの指示に従い、遺跡の時と同じように手で女神像に触れると、これまた前回同様に女神像の光が僕の中に流れ込んできた。僕の中に流れる魔力量も増大していく感じがする。

 

《勇者よ、サルモンの神殿へ急いでください》

 

「分かりました」

 

 それっきり、光を発しなくなった女神像は声を出すことはなくなる。僕はそれをしっかり見届けてからその場を後にした。

 

 

 

 氷の身体を持つ魔物やこの寒さに耐えるために毛皮で覆われた魔獣などをファイアーで焼き払いながら進んでいると、レアさんの言っていた扉を見つけることが出来た。廃坑で見たのと似たような構造なので、恐らくこの奥には行く手を阻む番人がいることだろう。

 試しに扉に触れようとしてみたが、扉が水面のように波打ち、僕の手は扉に触れることなく突き抜け、扉の向こうにある冷たい氷壁に触れた。

 

(なるほど、実体がないわけですか)

 

 虚構の扉という表現に納得しながら、異空間からライトの杖を取り出し、魔力を流して発動させてみると、辺り一面が目が眩むほどの光に照らされた。光が収まってからゆっくりと目を開くと、先程まであった扉が姿を消し、その隣に真実の扉が姿を現した。

 その扉に触れてみると、今度はゆっくりと開いていき、氷壁の中へ入る道が出来上がった。巨大な魔物に備え、ライトの杖からファイアーの杖に持ち替えてから、僕はその扉の先へ進んだ。

 

 

 

 扉の向こうは広大な空間が広がっていた。巨大な魔物も余裕で暴れ回れそうな広さだ。部屋の奥にはいつものように1枚の扉があり、恐らくあそこから溶岩の海とやらに行けるのだろう。

 警戒しながら部屋の真ん中まで進むと、猛スピードで何かが近寄ってくる気配を察知した。急いでその場から跳び退くと、赤い何かが先程まで立っていた場所に落ちてきた。その衝撃で大小様々な雪塊が辺りに撒き散らされるが、跳び退いている時に翼を広げて魔法を使う準備を終えていたので、自分に飛んでくる物を炎で焼き尽くしてこれをやり過ごす。

 視界が晴れて降ってきた物が僕の目に映る。異常に発達した脚と、それに反して上半身が細い歪な形をした魔物だ。身の丈ほどの長さもある腕もその魔物の異様さを引き立たせている。

 魔物がこちらを一瞥したかと思うと、瞬時にその場で跳躍して襲いかかってくる。杖に魔力を流して先端で殴るようにして炎を放つと、流石に空中で体勢を変えることはできなかったようで、魔物は炎に直撃し、爆発しながら後方へ吹き飛ばされていった。しかし、接地とほぼ同時に体勢を整え、今度は地面だけでなく壁や天井も利用してこちらを翻弄し始める。随分と身軽なようだ。

 

(流石にこれ相手に剣を当てるのは無理そうですね)

 

 三次元機動を駆使して攻撃してくる魔物を何とか魔法とクレリアの盾で捌きつつ思考する。これだけ動き回られると当てにくいというのもあるが、着地する瞬間に攻撃を当てようにも、着地の衝撃で勢いよく雪と氷の塊を弾き飛ばしてくるので接近できない。何とかファイアーで隙を作って倒すしかないだろう。

 

「狙うなら​──────ここッ!」

 

 天井に向かって跳躍する魔物に先行して、ファイアーの魔法を飛ばして爆発で天井の一部を崩落させる。その崩落してきた氷壁の一部は、そこ目掛けて跳んでいっていた魔物を巻き込んで一緒に地面に落下して、魔物は背中を強かに打ち付けた。そして大きな隙が生まれる。

 

「これで終わりです!!」

 

 起き上がろうともがく魔物に向けてチャージした魔法を全力で放つ。今出せる最大火力の一撃は魔物に着弾すると、部屋を半分ほど覆い尽くすような爆発を引き起こした。

 爆煙が晴れて視界が確保されると、そこには焼き尽くされた魔物の姿があり、それはほどなくして灰になって消えた。

 

(魔法のおかげで随分と楽に勝てましたね)

 

 そう思いながら手に持っているファイアーの杖に視線を送る。魔法がこれほど強力なのは思ってもいなかったが、嬉しい誤算だ。

 

(さて、ここを行けば次は溶岩地帯でしたか。寒暖差で体調を崩さなければいいですが)

 

 人間の身体は体温調節ができるようになっているが、流石に超自然的な環境を前にしてはそれもあってないようなものだろう。旅に支障が出るので自分の身体に気を使わなければならないなと思いながら、僕は扉の向こうへと歩を進めた。




 実際、原作でもライトの魔法で真実の扉を暴くことは出来るんですよね。鏡がないと進めませんが。

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