赤毛の紀行家   作:水晶水

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 一纏めにしておきました。


C.イースの神官

Main Character:アドル=クリスティン

Location:聖域トール

 

 

 

《イースの本を揃えし勇者よ、その扉を潜り我らの前に姿を見せてくれないだろうか》

 

 フレアさんと共に魔物がいなくなった廃坑から帰る途中、聖域トールにある例の扉に似た大きな扉の前を通りかかった時に、そんな声が僕の頭に響いてきた。

 

「アドルくん?」

 

 突然のことに足を止めてしまったので、それに気づいたフレアさんが不思議そうな顔でこちらを振り返ってくる。

 

「どうやら、女神の使いとしての仕事があるみたいです」

 

「そうか……。じゃあ、僕は一足先に戻ってるよ。皆心配してるだろうし、リリアちゃんの薬を作らないといけないからね」

 

 戻ってきたら1度診療所に寄ってくれ、と残してフレアさんは聖域から村へと向けて歩いていった。それを見送ってから僕は目の前の扉を開いて中へと入っていく。

 

 

 

 扉の向こうには祭壇を囲むようにして6体の聖職者のような格好をした石像が並んでいる空間が広がっていた。イースの本に関わりのある6人ということは、彼らがイースの神官だろうか。

 考え事をしながら石像の前まで来ると、ダームの塔の時と同じように、異空間から勝手にイースの本が飛び出してきた。本たちは1度僕の周りを回った後に、1冊ずつそれぞれの石像の前まで飛んでいき、石像に吸い込まれるようにしてその姿を消した。

 

《我らはイースの神官。勇者よ、よくぞ全ての本を揃えてここまでたどり着いてくれた》

 

 威厳のある声が僕に語り掛けてくる。

 

《今この天空の地では、地上より舞い戻った魔王ダームの影響で、眠っていた魔物たちが再び活動を始めてしまっている。かつてイースを襲った災いが復活しようとしているのだ》

 

 イースの書に記されていた魔王ダームと魔物による大侵攻、それが再び起ころうとしているらしい。

 

《元々ダームはただの魔力炉だった。しかし、女神の制止を振り切り、魔法の力と魔法銀(クレリア)を産み出すことで国の発展を優先させた結果、その魔力炉に人間の負の感情が蓄積され、それがやがてダームという存在を産み出すことになった》

 

 繁栄の陰に魔は育ち、人間の驕りの中に悪は生まれた。イースの本にそう記されていたことを思い出す。

 

《魔物は魔法から生まれたものだ。故に、国1つをたやすく発展させるほどの魔力炉としての性質を持っているダームを打倒せねば、イースの災いを収束させることはできない。勇者よ、女神と同じ力を持つ者よ、どうかサルモンの神殿に赴き、ダームを倒してくれないだろうか》

 

「元より僕は女神によって、災いを治めるためにこのイースの地に遣わされたのです。魔王ダームを打倒することがその道となるのであれば、僕にそれを断る理由はありません」

 

《そう言ってくれるか。ならば、我らの力をあなたに託そう》

 

 神官たちの声に応えるように祭壇の上に1本、神官の像の目の前に4本、計5本の杖が光を放ちながら顕現した。

 

《これはロダの樹で作られたイース王国の指導者の証となる杖。名を神界の杖と言う。これを手にし、指導者としてイースを平和に導いてくれ》

 

 神界の杖が独りでに浮かび上がり、主人の元へ舞い降りるようにして僕の手に収まる。女神の使いとして持っておくべき物なのだろう。

 

《次に、これらは我ら神官の魔法を行使するための杖である》

 

 神界の杖に続いて4本の杖が僕の前に降りてくる。2本足りないのは魔物に奪われてしまったのだろうか。

 

《赤い宝石が先に嵌められているのは力の神官トバの魔法。魔力を炎に変えて放つことが出来るファイアーという名の魔法だ》

 

 赤い宝石の中に炎が燃え盛る杖が僕の手に収まる。持ち手の部分がクレリア製なので鈍器としても使えそうだ。

 

《青い光が灯されているのは光の神官ダビーの魔法。その聖なる光は暗闇と真実を照らし出すライトという名の魔法だ》

 

 先端で光が揺らめいている松明ほどの長さの杖が降りてくる。両手とも塞がっているので、一先ず異空間にしまっておこう。

 

《女神の翼が象られているのは大地の神官ハダルの魔法。あなたが訪れたことのある場所へ瞬時に帰還することができるリターンという名の魔法だ》

 

 先端で2枚の翼が広がる杖が舞い降りてきた。先ほどと同様に異空間へしまっておく。

 

《最後に、杖の先に魔物の姿が象られているのは知恵の神官ジェンマの魔法。使用者の姿をかつて女神に仕えていた聖獣の姿へと変え、人外の者との対話を可能にするテレパシーという名の魔法だ》

 

 蜘蛛のような形をした物が先端に取り付けられた杖が降りてくる。再三異空間を開き、これもしまっておく。

 

《残り2本はこの聖域には残っていない。可能であれば魔物に悪用されないように回収して欲しい》

 

「承りました」

 

《うむ、勇者よ、聖域にあるサルモンの神殿への道を開いておく。ここを通り、サルモンの神殿へ向かってくれ》

 

 神官の像がそう言った直後、ガコンッと何かが開く音が地を鳴らしながら響いた。恐らく聖域にあるもう1つの扉が開いた音だろう。

 

《勇者よ、イースに平和を齎してくれ》

 

 その言葉を最後に、神官の像は物言わぬ石像になってしまった。一気に色んなことが起きて少し混乱しているが、一先ずランスの村に帰ろう。石像に1度頭を下げてから聖域を後にし、僕は村への帰路についた。




 残り2本の扱いはどうしようかなと考え中。

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