Main Character:アドル=クリスティン
Location:ラスティーニの廃坑
レノアさんの案内で遺跡の地下から聖域トールと呼ばれる場所を抜けて、僕は廃坑の入口まで来ていた。彼はもう帰ってしまったので、今は村で借りた地図と松明を手にして廃坑を奥へ奥へと進んでいるところだ。
魔物を斬り伏せつつ複雑に入り組んだ道を隅々まで探索して回ったが、結局フレアさんを見つけることは出来ずに残った最深部までの道にたどり着くと、見覚えのある物を見つけた。
(これは……イースの本の時と同じ扉……?)
微妙に意匠が異なる両開きの物のようだが、同じようなデザインの扉を見つけて少し嫌な予感がした。
(坑道に魔物が出るようになったのは、エステリアと同じように魔物を統率する魔物が住み着いたからのようですね)
そういうことなら、この奥にいるであろう存在を倒せばこの廃坑の魔物も姿を消すかもしれない。考えていなかった状況ではあるが、より一層気を引き締めて目の前の扉を開けて先に進むことにした。
奥の方を見ていた巨大な魔物が扉を開けた音に気づいたのか、ゆっくりとこちらを振り返ってくる。
全身を覆う真っ赤な鎧のような甲殻と鋭く長い爪が特徴の魔物のようだ。クレリアの剣も通るかどうか怪しいが、ギョロリとした青い大きな一つ目を狙えば十分に勝機はあるだろう。関節を狙うのもいいかもしれない。
お互いに睨み合い闘志を高めていると、突然クレリアの剣が輝き出したので松明を後方に放っておき、再び魔物を見据える。下半身はあまり発達していないようなので、素早い動きで翻弄すれば戦いやすいだろうか。
「グオォォォ!」
緊張の糸が張り詰めたところで、先に仕掛けてきたのはあちらの方だった。目から魔力の塊を放ってきてこちらを攻撃してくる。幸い、そこまでの速さはなかったので、大きく右に回ってこれを避ける。
「グオォォォォォォ!!」
「遅いっ!!」
避けられて怒ったのか、先程よりも大きな雄叫びを上げながら腕を振り下ろしてくるが、大振りの攻撃に当たってやるほど甘くはない。廃坑の地面にめり込むほどの威力のようだが、当たらなければどうということはない。
走る勢いのままこれを避け、腕を地面から抜かれる前に跳び乗り肩まで登ると、身体を激しく揺すり振り落としてこようとしてくるが、そうなる前に深くクレリアの剣を突き立てて、抉るように腕を斬り落とす。
「ギィィィィィィィ!!?」
足場が無くなり腕と一緒に自然落下し、暴れる魔物から1度距離をとる。離れながら異空間から取り出した弓矢で目を狙って見たが、暴れつつも冷静なようで、残った片腕でしっかりと防がれてしまった。
距離を取ると魔力の光線で攻撃してくるようなので、再び距離を詰めて振り下ろしを誘発させるように行動すると、同じように腕を叩きつけてきた。先程の焼き直しのように腕に跳び乗ると、今度は斬り落とさせまいと自分の腕ごと魔力の塊で僕を焼き払おうとしてくるが、クレリアの盾でこれを弾き飛ばして目に跳ね返した。咄嗟に目を閉じたようだが、その隙に残った腕も斬り落とし、落ちる前に魔物の肩を蹴って跳躍し、ゆっくりと開かれる魔物の大きな目に向けてもう1度取り出した弓にクレリアの剣を番えて構える。
「これで終わりです────っ!」
目を庇う腕をなくし、更に目を開いた直後なのもあって、放たれたクレリアの剣は何にも阻まれることなくその青い瞳に突き刺さった。
「グオ゛ォ゛ォォォォォォ…………!!!」
それが決定打になったようで、魔物は地の底に響くような断末魔を上げながら地に伏し、そしてその身を灰に変えた。
手から離れたクレリアの剣は光を放たなくなっていたので、放っておいた松明を拾い上げてから剣を手にして、最初に魔物が見ていた先にある扉の奥へと歩を進めることにする。この奥は最下層のはずだが、恐らくフレアさんはこの先にいるだろう。
巨大な魔物を倒した影響か、やはり魔物の姿が見えなくなっていたのであの後は楽に進むことが出来た。奥へ奥へと進んでいると、落盤が起きた場所を発見できた。地図によると水場になっている場所のようだが。
「フレアさん! そこにいらっしゃいますか?」
「おお……誰か助けに来てくれたのか」
呼びかけてみると奥の方から男性の声が聞こえてきた。良かった、一応無事だったようだ。
「すまない、薬の材料を取りに来ただけだったから何も持ってきていないんだ。マトックがあればこのぐらいの落盤なら脱出できたんだが……」
マトック……そういえば、路銀稼ぎで数日炭坑夫の仕事をした時に、古くなったから譲ってもらった物があったはずだ。
「分かりました。少し下がっていてください」
フレアさんにそう指示を出し、異空間から取り出したマトックを振り下ろして岩を削っていく。幸い硬い層ではなかったようで、これを繰り返していくだけでやがて人が通れるスペースを確保することが出来た。
「ありがとう、助かったよ。ん? 村の人じゃなかったのか」
「はい、ランスの村の人たちからお願いされてあなたを助けに来ました。あと、こんな時で申し訳ないですがこれを」
穴の向こうから出てきて驚くフレアさんに、バノアさんから預かった手紙を渡した。フレアさんがそれを読んでいくと、だんだんと険しい顔つきになっていく。
「そうか……リリアちゃんがあの病気に……。いや、でもある意味ちょうど良かったかもしれない。実はね、その病気の特効薬を作るのに必要な材料を取りに来ていたんだ。ほら、これだ」
そう言って、フレアさんが深い蒼色の花を見せてくれた。これはどこかで見たことがあるような……。
「セルセタの花……?」
「おお、知っているのかい?」
「はい、確か色々な薬の材料になるとかで重宝されていると聞いたことがありますが」
人伝に聞いたことを口にしながら、異空間から前に人にもらったセルセタの花を取り出すと、フレアさんがひどく驚いた顔をした。
「それはセルセタの花の原種……! それをどこで!?」
「あぁ、えっと……」
フレアさんに詰め寄られ、戸惑いながらも前にお世話になった人に危険な旅になるだろうからと言われいくつか渡されたこと、その旅がエステリアへの渡航で、それから紆余曲折あって女神の命によりイースまでたどり着いたことを説明した。
「なるほど……女神様の使いか……」
フレアさんはどこか納得したような様子だ。
「使い方も分かりませんし、良ければお譲りしましょうか?」
「いいのかい? 貴重なものだろうに」
「僕が持っていてもそれこそ宝の持ち腐れですよ。これは使える人が持っておくべき物です」
そう言って、半ば無理やりフレアさんに持っていたセルセタの花を渡した。
「うむ……そうだね。原種の方がより良い効果が出るらしいし、リリアちゃんのためならこっちの方がいいかもしれないね。……よし、じゃあ早速戻ろうか!」
フレアさんが軽い足取りで出口へと向かっていく。僕も遅れないように慌ててそれを追いかけた。
最近夢によくフィーナ様が遊びに来てくれるので寝るのが楽しみな有翼人です。