Main Character:アドル=クリスティン
Location:ランスの村
村に向かう道中、ダームの塔の最上階にクレリアの装備を全部置きっぱなしにしておいたことを思い出し、服を取り出すついでに呼び戻しておいた。それ以外は特に何事もなく、リリアさんの故郷であるランスの村にたどり着くことが出来た。
「ただいまお母さん!」
「おかえり、リリア。おや、そちらの方はどなただい?」
「この人はアドルさん。遺跡の方の平原で迷ってたのをここまで連れてきたの」
「アドル=クリスティンと申します。サルモンの神殿に行く途中で迷ってしまいまして、それでリリアさんにこの村に案内してもらったのです」
「神殿へ? 何だってそんなところに?」
「約束がありまして」
僕の言葉にリリアさんのお母さん──後でリリアさんに聞いたがバノアさんと言うらしい──は心底不思議そうな表情を浮かべた。恐らく、人が行くような場所ではないといったところだろうか。
「お母さん、アドルさんは天使様なのよ!」
「天使様?」
バノアさんが完全に不審者を見るような目で見てくる。残念ながら当たり前である。
「空から凄い勢いでやって来てね! 翼も凄い白くて綺麗だったんだから!」
テンションが上がりきったリリアさんはそんなバノアさんの様子に気づくこともなく次々に爆弾を投下していくが、娘の言うことだからか、少しずつバノアさんの顔から疑いの色が消えていく。
「でもリリア、その綺麗な翼とやらが見えないのだけれど」
「アドルさん!」
(お、押しが強い……)
バノアさんの言葉に待ってましたと言わんばかりに瞳を輝かせて、リリアさんが僕に催促してくる。いや、まあ、不審者扱いされて通報されたり追い出されたりするよりは、きっちり証明しておいた方がいいのだろうか。とりあえずそう考え至ったので、後ろを向いてから背中を出すように服を捲り上げて、強く翼が広がるイメージを想い起こす。
「おぉ……なるほど、確かに天使様みたいだね」
ばさりと広がる白翼を見て感嘆するバノアさんに、リリアさんがでしょー? と楽しそうに話しかける。人間なので天使ではないのだが、信じてもらえて何よりだ。……イースにいる間は背中の部分が開いた服を着るべきだろうか。
「私、村の皆に教えてくるね!」
「あっ、それは……ってもう行っちゃいましたか……」
リリアさんが凄い勢いで飛び出していったので、この場にはバノアさんと僕だけが取り残された。とりあえず翼を消してから服を元の位置に戻しておく。
「アドルさん、1つ聞いてくれるかい?」
何やら、先程とは打って変わって深刻そうな表情をするバノアさん。リリアさんに案内してもらった恩もあるのでその言葉に頷いて肯定する。
「リリア、とっても元気にしてただろう?」
「はい」
「実はね、病気なんだよ。本人には伝えていないけど、余命はほとんど無いかもしれない」
重い病気と聞いて、僕は今世のお父さんのことを思い出した。
「……治療法はあるんですか?」
「フレアっていうこの村の医者が見つけたらしいんだけどね。その新しい薬の材料を探しに行ったっきり姿を見ないんだよ。だから、フレア先生を見かけたらこの手紙を渡しておいてくれないかい?」
バノアさんはそう言って、僕に1枚の手紙を渡してきた。
「私はあの子を残して探し回るわけにはいかないからね。会うことがあったらでいいから、頭の片隅に留めておいてくれないかい?」
「分かりました」
病気で大切な人を失うのはとても辛い。それを知っていたから、僕はバノアさんの依頼を迷わず承った。
「湿っぽい話をしてすまないね。もう神殿に向かうのかい?」
「いえ、もう少しゆっくりしてから村を出ようと思います」
「そう、なら村をゆっくり見て回るといいよ。ここはいいところだからね」
バノアさんに送り出されてから、僕はランスの村の中心で村人に囲まれていた。ニコニコしているリリアさんがその輪の中にいたので、本当に翼のことを村中に伝えて回ったのだろう。
結局大衆の圧力に負け、翼を見せることになったが、その後の村人たちの盛り上がりようが凄かった。そのうちの何人かが天使様がイースを救ってくださると言っていたので、今のところ女神の使いとしての威厳はあるみたいだ。
「皆大変だ!!」
ランスの人たちがようやく落ち着き始めた頃、慌てた様子の男が広場に走り込んできた。何やら手紙を持っているようだ。
「どうしたのレノアさん」
「リ、リリア、実は兄貴の鳩がさっき飛んできてこんな手紙を……」
薬草を取りに洞窟へ入った私は落盤に遭い、壁の中に閉じ込められてしまった。誰かこの手紙を受け取ったなら助けに来て欲しい。
男が持ってきた手紙はついさっきバノアさんが言っていたフレアさんからの手紙だったようだ。
「落盤……ってことはフレアさんは廃坑に?」
「ああ、何日も前に廃坑に行ったっきり戻ってきてないから多分……」
それを聞いて村人たちがざわつき始める。聞こえてくる声から魔物という言葉があったので大体のことを察した。そして予想通り、村の人たちの視線がこちらへ向けられる。
「アドルさん……」
「分かりました、これでも女神の使いです。魔物を相手取るなら適任でしょう」
不安気なリリアさんの声に僕は一瞬の迷いもなく返事をした。人の命がかかっているのを無視出来るはずもない。
「ではすいません、入口まででいいのでどなたか案内を」
「こ、こっちだ赤毛の兄ちゃん!」
僕の呼び掛けに手紙を持ってきたレノアさんが応える。村人たちに見送られて、僕たちは廃坑へと走り出した。
少し早いですが、第三章-セルセタの樹海-はどのバージョンで進めようかなと悩んでいる今日この頃。