赤毛の紀行家   作:水晶水

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「ダームの塔が沈黙しました。如何が致しましょうか?」

「面白い。アドルとやらが何処までやれるか見てみるとしようぞ」

「承知致しました」


第二章 失われし古代王国-最終章-
プロローグ -To Make The End of Battle-


Main Character:アドル=クリスティン

Location:エステリア上空

 

 

 

 僕は今光の球のようなものになって、ダームの塔からほとんど射出されたような勢いで空へ向かって飛んでいる。みるみるうちにエステリアが小さくなっていき、雲を突き破って雲上に出た。

 それでもまだ勢いは衰えることなく、僕はイースへ向かって飛んでいた。雲を抜けた時から見えていたが、本当に天空に大地が浮かんでいる。

 

(あれがイース……)

 

 感慨に耽っていると、あっという間にイースを飛び越して、上からイースを見下ろす形になった。色んなものが目に入るが、一番目を引くのはバギュ=バデットの側に遺棄されたサルモンの神殿と似たような造りの区域で、あそこが恐らくレアさんに言われた僕が目指すべき場所。

 

(あそこに魔王ダームが​い──────)

 

 事件の黒幕のことを考えていたら、再び引っ張られるようにイースへ向けて光球が動き出した。今度は地表に向けて一直線である。

 

(あぁ、イースの本たちに傷を癒されたのってもしかして​──────)

 

 本の不思議な力に納得したところで、僕は勢い良く地表に叩きつけられた。着地どころかもはや着弾である。

 

(傷を癒せば乱暴に扱っていいわけではないでしょうに……)

 

 イースの本の力を天空から上半身裸の翼が生えた男が勢い良く飛び込んでくるような設計にした、かつての神官たちに文句を言わねばならないような気がした。

 

 

 

Location:イース

 

 

 

 あわや惨殺死体になるところだったアドル砲事件(本人命名)が終わり、派手に着弾した際に付着した土を払いながら立ち上がると、辺り一面に草原が広がっているのが見て取れた。遠くの方に遺跡が見えるが、人里のようなものは視界には映らない。

 

(せめて自由に飛べればひとっ飛びなんですがね……)

 

 自身の翼を見ながら1つ溜め息を吐く。自分の意思で動かすことは出来ても、それは風を起こすだけで、とても飛行するといったことはできなさそうだった。そのあたりも含めて、やはりノータイムで送り出されたのはかなり痛手のように思われる。そこはレアさんも予想外だったみたいだが。

 

(使えないなら邪……いや、流石にそれは失礼がすぎますね……)

 

 ガクッと肩を落としてもう1度大きく溜め息を吐いた。

 

(せめてしまっておければいいのですが……。あ、そういえばレアさんは出したり消したりしてましたね。あれはどうやるのでしょうか)

 

「あ、あの!!」

 

 どうやったら翼を隠しておけるか悩んでいると、いつの間にか長い茶髪で碧眼の少女が隣に現れていた。その瞳は僕の顔と翼を行ったり来たりしている。

 

「もしかして、神様でしょうか?」

 

「いえ、女神の命によってイースに遣わされた者です」

 

「それなら……天使様ですね!」

 

 流石に神を自称するのは恐れ多いので、事実に基づいたそれらしい感じのことを少女に説明すると、僕は天使ということになったらしい。まあ、神の使いという意味であれば天使で間違いではないのだが。

 

「あ、翼が……」

 

 とりあえず消えるように強く念じたら翼が消えたようだ。少女の目が白黒している。

 

「すいません、この辺りに人里はありませんか?」

 

「はい、案内しましょうか? 天使様」

 

「えっと、天使ではなくアドルと呼んでもらえると助かるのですが」

 

「分かりました。アドルさんですね、よろしくお願いします。私はリリアです」

 

 そうこうしているうちに、リリアさんの案内で人里に行けることになった。何故かちらちらと顔を赤らめながらこちらを見てくるリリアさんに着いていくことにしよう。

 

(………………そういえば今裸でしたね)

 

 天空の地の風は少し肌に染みた。




 YsII -Ancient Ys Vanished The Final Chapter-始まります。

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