Main Character:アドル=クリスティン
Location:ダームの塔最上階
「お、のれ……ここ、まで、か…………」
怨嗟の声を吐き、ダルク=ファクトは身につけていたものを残して灰となって消えた。元は人間だったとはいえ、魔に堕ちた以上その性質は魔物のものとなってしまっていたらしい。
ファクトが消えたことで僕の腹の傷を塞いでいた彼の腕も消滅し、栓が無くなったことでもはや穴となったそれから鮮血が溢れだした。身体の力が抜けて右方向に身体が流れ、扉が消滅するのを横目で見ながら、ダルク=ファクトの遺物の横に僕は仰向けで倒れた。疲労と怪我のせいでもう指1本動かせそうにない。痛みはもう麻痺してしまった。
空を見上げると少しずつ明るくなっているようだった。どうやら朝を迎えたらしい。
「アドル!!!」
意識が遠くなっていく中、ドギさんが僕の元に駆けつけて上半身を軽く抱き起こす。その顔は悲壮な表情を貼り付けていた。
「倒し、ましたよ……」
「ああすげぇよ! よくやった! だから今は喋るな!」
ドギさんに声をかけられながら、僕はかすかに何かを身体に浴びる感覚を感知した。恐らくヒールポーションを傷にかけているのだろう。だが、流石にそれでは間に合わない。
もうダメかと思われたその時、ダルク=ファクトが着ていたローブが輝き出した。ローブが独りでに浮かび上がり、ズレて地面に落ちて、僕の眼前に光り輝くイースの本が現れた。それに呼応するように異空間から勝手に5冊のイースの本が飛び出してきて、それらは僕の周りを回転し始めた。
本から溢れ出た光が僕の身体を包んだかと思うと、その光が僕の傷をみるみるうちに癒し始めた。驚くほどの速さで傷が塞がっていき、程なくして僕の身体は少しの疲労感を残して無傷の状態へと戻った。
(これは廃坑の時と同じ……?)
あの時と同じ温かな光にその場の全員が目を白黒させていると、ローブの中から出てきた黒い装丁の本が僕の手に自然と収まった。読めということだろうか。不思議に思いつつも、僕はモノクルを取り出してその本を読み始める。
再びあいつが現れた時のために、イースを結集した力をこの本に封じ込めておく。
6冊を手にした者にその力は与えられ、その者こそ、平和に導く指導者となるだろう。
だが、この書を目にする者はもう1度よく考えてほしい。
力を行使する者はその力に敗れる。
心を置き忘れた繁栄がどれだけ虚しいものかを。
元凶を追求する者は何を悪と定めるだろうか。
美しい宝玉の金属も聖なる心があってのものだ。
6冊の本を手に入れた者に力が与えられる。魔物を利用して本を集めさせていたのはこれが理由であろう。先程の癒しの力だけでも凄まじい力であると理解できるだけに、揃えられる前に奪還できて本当に良かったと思う。
ファクトの章を読み終えて考え込んでいると、イースの本の光が僕の中に全て吸収されたと思った直後に、何やら背中に違和を感じ、鎧と衣服を取り去った。
「アドルさん……やはり……」
レアさんの口から漏れ出た言葉と皆の視線が僕のやや後方に向かっていることに気が付き、同様に後ろを向いてみると、レアさんが見せたのと同じような純白の翼が僕の背中から生えていた。
頭が疑問符で埋め尽くされる。男衆も同じようで、口をあんぐりと開けて固まっているようだ。唯一事情を知っているであろうレアさんも何やら考え込んでいるようで、この場が沈黙で支配される。
(レアさんは救世主としてイースを救ってもらう、と言っていましたが、これはつまり……女神と同じ姿の者としてイースを平和に導け、ということなのでしょうか?)
何故翼が生えてきたのかを自分なりに考察する。女神と同じ姿をしていれば、救いの象徴として非常に分かりやすいのであろう。恐らく。
ところで、依然として光り続ける身体が少しずつ浮かび上がっているような気がするのだが大丈夫だろうか。
「レ、レアさん、イースって空にあるんでしたよね?」
「え? あ、ええ、そうよ」
嫌な予感がしてレアさんに1つ質問を飛ばすと、急に話しかけられて驚きながらも答えを返してくれた。
「……翼が生えたことと、今まさに少しずつその空に近づいていってることってそれに関係ありますかね?」
「………………ごめんなさい、こんなに急だとは私も思ってなかったです」
(あっ、これダメなやつですね)
レアさんの間を置いた本気の謝罪にこの後起きることを理解してしまった。
「……あ、後で私も追いかけるから、一先ずアドルさんもイースに着いたらサルモンの神殿を目指してね!」
「せめて1回帰りたかっ──────」
いっそ清々しいほど開き直ってサムズアップしてくるレアさんに文句を言う前に、僕の身体は朝焼けの空へ浮かび上がっ────否、射出された。
アドル砲発射しました。