Main Character:アドル=クリスティン
Location:ラドの塔
「と言っても、今はほとんどその力はないんだけどね」
純白の翼がまるで幻だったかのように消える。しかし、足元には翼を広げた時に落ちた羽が何枚か残っていて、先程の光景が真実であることを語っていた。
3人の方を見ると皆目を見開いて驚いていた。僕も驚いてはいるが、心のどこかでそうかもしれないという気持ちがあったので、そこまで衝撃的ではなかった。
今回の件やイースの本に関わりがあったり、ロダの樹のことをまるで長年見てきたかのような言葉を発したりしていたことで薄々感づいていたのだろう。しかし、レアさんが女神ということは……。
「ひょっとして、フィーナさんも……?」
「ええ、あの子もそう」
思わぬところでイースの2柱の女神の謎が解けた。でも、僕の心は何故だか今までよりも親近感が増したような気がした。
「お2人は何故今エステリアに?」
「……長い間、あるものを封印していたんだけどね、その封印が打ち破られて、その時に私達も地上に解き放たれたのよ」
「あるもの、とは?」
「イースの本にあいつと書かれていた存在、魔王ダーム」
イースの本に出てきたあいつの正体がレアさんの口から語られる。ダームの塔と同じ名前をもった、恐らくエステリアに災いを齎さんとする者の名。
「復活した魔物から逃げる途中でフィーナと離れ離れになってしまって、それで私は詩人として今回の事件を解決してくれる人をサラに協力してもらって探していたの」
人と話す機会も多い職業だと思わない? とレアさんがウィンクを飛ばしてくる。
「イースの本を集めてもらっていたのは、アドルさん、あなたに今も存在するイースを救ってもらうため。恐らく今、イースはダームによって支配されているはず」
「イースは滅びたのではないのですか?」
「いえ、イースは今もなおここより遥か上空に存在し続けているわ。プレシェス山に大きな穴が空いていたでしょう?あれはイースが空へと浮かんでいった跡なのよ」
メサの章にあった、プレシェスに最後の望みを委ねるという一節が頭をよぎっていった。魔物をどうにかするために大地ごとイースの地を切り離したということだろうか。
「イースの本を6冊集めた勇者がイースを救う救世主としてイースの地に足を踏み入れることになる。黙っていたことに関しては本当にごめんなさい。でも私たちにはあなたしか頼れる人がいなくて……」
「構いませんよ。世界の危機にじっとしていられるほど我慢強い方でもないですし、自分で勝手に行っていたかもしれません」
本のネタにもなりそうですしね、と付け加えると、レアさんは下げていた頭を上げて微笑んでくれた。話はまだ終わらない。
「最後のイースの本はダームの塔の頂上にいるダルク=ファクトという男が持っているはずよ。神官ファクトの血を継ぐ者で、その身を魔に堕としてしまった人」
レアさんが何かを憂うような表情をする。遠くの何かを思い出しているような感じだ。
「恐らく彼はエステリアを支配するつもりで、後に地上に降りてくるダームと共に世界を支配する算段だったのでしょう。アドルさん、ダルク=ファクトを打ち倒して最後の本を」
「分かりました」
レアさんの願いに力強く頷く。旅の予定が少し延びたが、それはそれで良い。
「ん? 話は終わったか?」
「ええ、もう大丈夫よ」
あまり話を聞いていなさそうな様子だったドギさんが身体を解しながら話しかけてくる。
「アドルくん、行き先は最上階でいいんじゃな?」
「はい、お願いします」
今の言葉で何気にラーバさんがダームの塔全域の構造を覚えていることが明らかになった。いったいどれだけの間塔にいるのだろうか。
「レアさん、あなたも」
ラドの塔を出発しようとしたら、レアさんが残ろうとしているのが目に入る。
「…………そうね、やっぱり私も着いていきましょう。アドルさん、エスコートはお願いできる?」
「仰せのままに」
お姫様を演じるように片手を優雅に伸ばすレアさんに対し、こちらも芝居がかった台詞を吐きながらレアさんの手を取る。少し笑いあった後に、僕はレアさんの手を引いて走り出した。
Wで双子の女神の正体が分かるってことに何となく運命を感じなくもないです(ただの偶然)。ちなみに既にエピローグまで書き終えました。