リリア フォレティアさん、leafさん、評価ありがとうございます!
8/18 誤字報告ありがとうございます。修正致しました。
Main Character:アドル=クリスティン
Location:ダームの塔
「ラーバさん、これがロッドでしょうか?」
「おお、これじゃこれじゃ」
鏡の間まで戻ってきてロッドをラーバさんに手渡すと、それを受け取ったラーバさんは鏡の前でそれをかざした。すると鏡に波紋が生まれ、ラーバさんはその中へ飛び込んでいった。その様子に驚きつつも、僕達はラーバさんに倣って鏡の中へ飛び込んだ。
飛び込んだ先は先程とは完全に違った場所だった。まるで神殿での転移みたいだなと思いながら、1人でずんずん進んでいくラーバさんの後を追いかける。どうやら道は完全に覚えているらしい。
「あそこがラドの塔じゃ」
あっという間に鏡の間を抜けて、僕達は次の階層へ辿り着いた。魔物は僕とドギさんで処理しながら進み、今はダームの塔から突き出したような形で存在するラドの塔が目の前に見える渡り廊下まで来ている。平時なら素直にここから見える絶景に感動できただろうが、今はそれを楽しむ余裕は4人とも持ち合わせていなかった。日が沈みかけた水平線を一瞥して、僕らはラドの塔へと急ぐ。
Location:ラドの塔
ラドの塔の中に入ると、塔全体が監獄になっているような印象を受けた。酷く薄暗く、生者の気配を感じさせない塔を登っていくと、恐らく最上階と思われる階の突き当たりに1つ扉が設置されていた。
「アドルさん、そこを開くにはイーヴィルリングと呼ばれる指輪が必要よ」
扉を開けようとしてみたが、どうやっても開かずに途方に暮れていると、中から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
「この声……もしかしてレアさんですか?」
「ええ、2日ぶりねアドルさん。それはそれとして、髑髏があしらってある禍々しい指輪を拾ってない?」
記憶を探ってみると、宝物庫を漁った時にそんなものを拾ったような気がする。それを異空間から取り出して扉に近づけると、先ほどまで何をしても開かなかった扉が、まるで主人を迎えるかのように独りでに開いた。
中に入ると、窓際の椅子に座っているレアさんが微笑んでくる。捕まったのに余裕がすぎるような気がしなくもない。
「レアさん、どうしてここへ?」
「アドルさんに渡したい物があってわざと魔物に捕まったのよ」
少し理解し難い言葉がレアさんの口から飛び出してくる。
「ず、随分肝の据わった姉ちゃんだな……」
ドギさんが引き攣った顔でそう口にすると、後ろの2人も同じような顔をして頷いていた。その言葉には全面的に同意であるが。
「あまり無茶なことはしないでくださいね……」
「大丈夫よ、助けてくれるって信じてたもの」
自信たっぷりな顔でそう言われると、こちらとしても口を噤むしかなくなるので、この件についての追求は1つため息を吐くことで終わりにした。
「それで、渡したい物とは?」
「はい、これよ」
軽い調子で水色のレンズのモノクルのような物を手渡してきた。このタイミングでオシャレアイテムを渡してくるような人ではないので、マスクオブアイズのような何かしらのマジックアイテムだと推測する。
「新しくイースの本を手に入れたでしょう? それをかけて読んでみて」
言われるがまま、まずは異空間から黄色のイースの本を取り出して読んでみると、驚いたことに僕でも読むことができた。約3名今の光景に驚いているが、僕はそれに構わず本を読み進める。
我々は遂にサルモンの神殿まで追い詰められた。
巨大な魔物が手下を従えて迫ってくる。
時が欲しい。
災いの狂気から逃れても、分断された民たちは悲しみの日々を送らねばならないだろう。
しかし、時の可能性は救世主の望みも映し出す。
いつの日か、共に暮らせる日が来ることを信じて、プレシェスに最後の望みを委ねる。
これが黒い真珠を我々が使う最後の仕事になるだろう。
メサの章と題打たれた本にはだいたいそんなことが書かれていた。恐らくイース滅亡寸前の出来事が書かれているのだろう。黒い真珠とやらが何かは分からないが、何か大事なものなのは間違いない。必要になる時がくるかもしれないので頭の片隅に置いておくことにする。
メサの章をレアさんに預けて次に黄緑色の本を取り出すと、ルタさんから声が上がった。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、アドルさんが何故ジェンマの章をお持ちなのでしょう……?」
なるほど、ルタさんのご先祖様が書いた本だったようだ。それなら驚くのも無理はない。
「僕はイースの本を探しにダームの塔まで来たんです。これもロッドを取りに行った時に回収したんですが」
「なるほど……魔物の手に渡ってしまっていたのですね。道理でいくら探しても見つからないはずです」
合点がいった、という風な顔で顎に手をやってルタさんはそれきり黙り込んだ。とりあえず続きを読むとしよう。
あいつが魔物を引き連れて迫ってくる。
人々がその恐怖に怯える中、女神が我々の前から姿を消した。
それ以来、女神の姿を見た者はいなかった。
我々は女神に見捨てられたのだろうか。
いや、そんなことはありえない。
そうだ、我が家系に伝わる聖なるアミュレットがある。
透き通るような青い金属でできた女神から託された品だ。
これには魔物が仕掛けた呪いを打ち破る力がある。
これでしばらく時間が稼げるはずだ。
本に時々出てくるあいつとは何なのだろう。文脈から察するに魔物を統べる者という解釈でいいのだろうか。消えた女神とアミュレットとやらも気になるが、どうにもこれ以上本から得られる情報はなさそうだった。
「ルタさん、聖なるアミュレットという言葉に何か心当たりはありませんか?」
「アミュレットですか?もしかすると……」
心当たりがあったようで、ルタさんは懐から複雑な模様が組まれたお守りのような物を取り出した。記述の通り透き通るような青色だ。
「あら、それは……」
「レアさん?」
「それがあれば恐らく塔の頂上に掛けられた呪いを打ち破ることが出来ると思うわ」
「これにそんな力が……」
レアさんの言葉にルタさんはまじまじとアミュレットを見つめる。
しかし、イースの本が読めるようになるモノクルを持っていたり、アミュレットに見せた反応だったり、レアさんはレアさんで謎が多いなとふと思う。
「今更で悪いんだけどよ、結局姉ちゃんは何者なんだ? アドルとは知り合いみたいだが」
僕が思考に耽っていると、ドギさんがそんなことを口にする。レアさんの方を見てみると、何か思いついたような悪い笑顔を浮かべていた。
「詩人のレア、と名乗りたいところだけど……そうね、ここまで来たのなら遅かれ早かれ知ることになると思うし、教えておきましょうか」
レアさんはそう言うと、椅子から立ち上がって窓の前に立つ。一瞬強く風が吹いたかと思うと、月明かりに照らされて見惚れてしまうような笑顔を浮かべたレアさんの背中から、2枚の光り輝く純白の翼が生えていた。
「イースの女神、その片割れのレアよ」
女神が賜った品ということは、ブルーアミュレットは青エメラス製だったりするんですかね。