赤毛の紀行家   作:水晶水

21 / 68
 愉快なオブジェさん、評価ありがとうございます!


R.Tower of The Shadow of Death

Main Character:アドル=クリスティン

Location:盗賊のアジト

 

 

 

 プレシェス山を進むのも慣れたもので、短期間に何度も登り下りしたおかげで随分スムーズにバギュ=バデットまで辿り着いた。

 その後は真っ直ぐ盗賊のアジトへ向かうと、ゴーバンさんが入口まで出迎えに来ていた。

 

「ようアドル、お袋から聞いてるぜ」

 

 こちらに気づいたゴーバンさんがそう言いながらこちらへ近づいてくる。

 

「はい、今日はお願いします」

 

「まあ、俺は入口を開くだけで仕事は終わりなんだがな」

 

 僕が頭を下げると、ゴーバンさんはそう言って笑った。

 

 

 

 アジトの中を素通りし、大きな岩で塞がれた塔の入口の前まで辿り着いた。これで塔の魔物が地上に出てこないようにしているらしい。

 

「アドル、俺たちは塔から魔物が出てこないように、お前さんが侵入してすぐに入口を閉じなきゃいけねぇ。中へ入ったら最後、お前さんはその入口からこちらへ戻ってくることは出来ないが、準備はいいか?」

 

「問題ありません」

 

 ゴーバンさんの最終確認に迷わず肯定する。その姿を見てゴーバンさんはニヤリと笑い、僕の背中を叩いて送り出してくれた。

 

 

 

Location:ダームの塔

 

 

 

 ダームの塔は青い石のようなものを主として設計されているようで、外部から見る分にはどうともないが、内部に入るとそれが何だか不気味な雰囲気を漂わせていた。壁の高い所で火が焚かれているので、明るくて視界は十分に確保できそうだ。

 

 

 

「オォォォォォ!!」

 

 少し内装を眺めている間に気づかれたのか、ガッシャガッシャと鎧を鳴らして魔物が正面から走ってくる。流石に魔物の本拠地だけあって魔物の数が多いのだろう。

 

「ふっ​─────!!」

 

 魔物は手に持った剣を振り下ろしてきたが、僕は魔物の剣をクレリアの剣で真っ二つに断ち斬り、そのままそれは魔物を鎧ごと斬り捨てた。

 剣の血を払い、軽く拭いてから刀身を見てみるが、全く傷はついておらず、振るう前と同じ姿を僕に見せてくれた。どうやらクレリアは相当丈夫な金属らしい。

 そのまま魔物を斬り伏せながら入口のあった階層を長い階段を登って抜けると、ダームの塔の周囲の光景を一望出来る回廊へと出た。朝日が差し込んでクレリアの武具が光を反射する。

 道筋に沿ってダームの塔の外周を回っていると、また塔の内部に戻る入口が現れた。どうやらこうやって塔を登っていくみたいだ。

 内部に戻ると、その階層は宝物庫のようだった。折角なので相手側の戦力の低下を図るために、置いてあるものは全部奪っていくことにしよう。魔物が相手なのでまるで心は痛まない。ヒールポーションの山や禍々しい気配がする指輪も何でもかんでも全部異空間に放り込んでいく。

 

(…………人の時はこういう使い方はしないようにしましょう)

 

 人相手にこれを悪用するのは止めようと心に誓った。

 

 

 

 宝物庫の階層はあそこで行き止まりだったため、来た道を戻って来ると、先程とは別の階段を見つけた。そこから再び回廊へと抜けて進んでいくと、今度はひたすら石像が立ち並ぶだけの階層に出たので、不思議に思いつつもその階層は後にする。

 その後はしばらく特に何も無い階層を素通りしていき、入口を見張るように石像が3つ置かれた階層に辿り着いたと思ったその時、その石像が不気味な光を放ってきた。その光を浴びた瞬間、僕の意識は闇に落ちた。

 

 

 

「おや、起きられましたか」

 

 目が覚めると、頭に羽飾りをつけた茶髪の男が覗き込んでいた。

 

「ここは……?」

 

「ダームの塔の地下牢のようですね」

 

「地下牢……そうでした、僕は気を失って……」

 

 僕の呟きに律儀に反応して男がここが何処か教えてくれた。僕は気を失う直前のことを思い出して大きく溜息を吐く。

 ふと、自分の身体が軽いことに気がついて視線を落とすと、クレリアの装備が全て奪われてしまっていることに気がついた。少し考えた後、男が目の前にいるが気にせずに装備を呼び戻しておくことにする。

 クレリアの武具が手元にあるイメージをすると、身体が輝き出して自分が捕まる前の姿に戻った。

 

「それは…まさか魔法……?」

 

 予想通り、男は驚愕を顔に貼り付ける。少し驚きすぎなような気もするが。

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はルタ=ジェンマという者です」

 

「僕はアドル=クリスティンといいます」

 

 僕がルタさんの方へ向くと、彼は居住まいを正して一礼しながら自身の名を名乗った。僕もルタさんに倣い名乗り返す。

 

「それで、アドルさん、あなたが今使ったのは魔法なのでしょうか?」

 

「すいません、実はこれが何なのかは自分でも分かってないんです」

 

 そもそも、この世界に魔法の概念が存在していたということを今初めて知った。今まで意図的に人には見せないようにしてきたため、この力がこの世界ではどういうものになるのか考えたことはなかったなとぼんやりと思う。

 

「そうですか……。しかし、もしかするとアドルさんは神官の子孫なのかもしれませんね」

 

「神官? イースを統治していたというあの?」

 

「はい。女神の加護を受けていた6人の神官はそれぞれが異なった魔法を使えたと言い伝えられています。かく言う私もその神官の子孫なのですが、血を継いでいてもこの時代で魔法を使える者はいないと言われていたので」

 

 なるほど、過剰に驚いていたのはそういう理由があったようだ。

 

「先祖返りみたいなものかもしれませんね」

 

「ええ、あなたからは女神様の気配を強く感じますし、本当にそうなのかもしれません」

 

 それは多分本当に外の世界の女神から力を授かったからだと思います、とは流石に口にできずに飲み込んだ。

 

 話も一段落したところでちょうど牢屋の前を何かが横切った。奇襲に備えてルタさんを庇うように立つと、牢屋の壁が轟音を立てて崩れ去る。そして、壁に空いた穴の向こうから筋骨隆々の青髪の青年が現れた。

 

「おう、若いの、助けに来てやったぜ」

 

 ガラガラと瓦礫を踏み越えながら青年が近づいてくる。

 

「俺はドギってんだ、お前さんは?」

 

「アドルといいます」

 

「おう、アドルだな。アドル、ここは何が起きるか分からないところだ。ここを登っていくつもりなら、ラーバという老人を探して塔について聞いてみるといい。ついでにこいつを届けてやってくれ。奥の人も早く逃げろよ」

 

 自己紹介を終えるとドギさんは口早に情報を伝え、僕に何かの偶像を渡すとさっさとどこかへ行ってしまった。

 しかし、気絶させられた部屋までで人を見かけたことはない。どうしたものか。

 

「アドルさん、そのご老人なら心当たりがあります。私も連れて行ってくれませんか?」

 

「そういうことならお願いします、ルタさん」

 

 虱潰しに捜索しようかと考えていると、ルタさんからそう提案される。断る理由もないので、僕はルタさんの同行を受け入れた。

 

「ルタさん、何か扱える武器はありますか?」

 

「そうですね…杖のような物なら人並みには扱えるかと」

 

 そういうことならと、僕は異空間から六尺棒を取り出してルタさんに手渡す。少し驚かれたが、ルタさんはそれを受け取って、ラーバさんの所へ案内を始めた。




 WINGを使うと いしのなかにいる 状態になって死ぬと噂のダームの塔編です。Zまでで終われる気がしないけどモーマンタイ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。