赤毛の紀行家   作:水晶水

20 / 68
 親しくなった相手にはだいぶ気安いアドルくん。あとフィーナさん視点の話もちょっと書いてみたいなって。


Q.フィーナの告白

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ゼピック村

 

 

 

 結局あの後、フィーナさんの細身の腕から発揮されたとは思えないほどの力から逃れることが出来ず、大人しく同衾することになった。緊張して眠れないかと思ったが、フィーナさんの温もりを意識しているうちに意外とすんなり眠りにつくことが出来た。ちなみにフィーナさんはとてもいい匂いがした。

 疲れもしっかりとれたので、今はフィーナさんを起こさないようにこっそりベッドから抜け出して、外で軽く身体を動かしている。

 

「アドル、朝餉の時間だよ」

 

「はい、すぐ行きます」

 

 早起きしてきた村の人たちに声をかけられながら、しばらく銀の剣で素振りをしていると、ジェバさんが家から出てきてそう言ってきた。

 汚れを落としてから家に戻ると、既に2人とも椅子に座っていたので、僕もすぐに席に着いて朝食を食べ始めた。

 

 

 

「アドルさん、少しいいですか?」

 

 朝食を終えて、早速プレシェス山に入ろうとしたところでフィーナさんが声をかけてきた。

 

「構いませんよ」

 

 振り返ってフィーナさんの方を見ると、昨日の一件のせいか彼女の顔は朱がかかっているみたいだ。僕はフィーナさんに連れられて、登山口から逸れた林へ移動した。

 

 

 

 ある程度のところまで進むと、フィーナさんがこちらへ向き直ってきた。顔の赤みはまだ少し残っているが、何か決意を秘めたような表情をしている。

 フィーナさんは胸の前で両手を祈るように組んで、1つ深呼吸をする。そしてその青い瞳から迷いの色が消えた。

 

「アドルさん、あなたがダームの塔に行ってしまう前にどうしても伝えておきたいことがあるんです」

 

 1歩、僕とフィーナさんの距離が縮まる。

 

「こんな時に言うことじゃないかもしれませんが、今日ここで言わないと後悔する気がして」

 

 更に1歩距離が縮まって、触れ合う寸前まで近づいた。

 

「アドルさん、私、フィーナはあなたのことを愛しています」

 

 分かってたと思いますけどね、と少し恥ずかしそうにフィーナさんが笑った。確かに、あそこまで言動で示されて気づかないほど鈍感ではない。

 

「本当にこんな大事な時にごめんなさい。でも、この気持ちに気づいてからは止まれなくて……」

 

「フィーナさん……」

 

「ご返事は!ご返事は全てが終わってからでいいんです。私、待ってますから、どうか……」

 

 僕の声を遮って一瞬不安そうな顔をしてから、それを消してフィーナさんは僕にそう言って笑いかけてきた。

 

「帰る場所も、帰りを待ってくれてる人もいるんです。前の約束もありますし、絶対、絶対に帰ってきます。返事、待っていてください」

 

「…………はい!」

 

 花が咲いたような笑顔をフィーナさんが向けてくる。恐らく、何と答えるつもりかはバレてしまっているだろう。だが、こういうのはしっかり自分の口で伝えるのが大事なのだ。

 

「では、行ってきますねフィーナさん」

 

「はい、行ってらっしゃいアドルさん」

 

 帰らなければならない理由が増え、更に決意を固くして僕はフィーナさんに見送られてダームの塔へ出発した。




 女神様たちがにやにやしながら見てそうだなと思いながら書いてました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。