赤毛の紀行家   作:水晶水

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 六尺棒は便宜上そう呼んでいるだけで、実際はただの六尺ほどの長さ(1.5メライ、1.8m)の棒です。私自身が棒術をやっているわけではないので、正確には分かっていませんが、その表記でもあまり問題はないかなと判断した次第です。
 あと、ちゃんと確認したはずなのに何故か前話のラスト部分の文章が無くなってたので修正しておきました。


N.お食事会

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ラスティン廃坑

 

 

 

 温かい夢から目覚め、身体を起こす。何かとても大切なことを聞いたような気もしたが、残念ながら朦朧とした意識の中での記憶は朧気にしか残っていなかった。

 その場で立ち上がってみると、眠る前までの身体の重さが嘘のように消えていて、まるで健康体そのものだ。首を傾げつつも、まあ悪いことではないのでとりあえず良しとした。

 視線をぐるりと回してみると、眠りに就く前にはあったはずの女神像は跡形もなく消えていて、その代わりに足元に深い青色のイースの本と、拳大の真っ赤なゴツゴツとした物が落ちていた。更に頭に疑問符が飛び交うが、やはり考えても分かることではなかったので、疑問は地中の彼方に置いていくことにする。

 一先ずはやれることをやろうと部屋を1つ戻り、恒例の銀製品の回収を始めた。煤で汚れた銀を綺麗にしながら次々に異空間に放り込んでいく。銀製品の山からハーモニカも発掘された。レアさんが言っていた銀のハーモニカもやはりここにあったようだ。

 

 

 

Location:城塞都市ミネア

 

 

 

 蝙蝠男を倒した影響か、廃坑から魔物の姿が消えており、帰りはとても楽に帰ることが出来た。

 外に出ると時間はちょうどお昼頃で、自分がほぼ1日眠っていたことを今更ながら理解する。レアさんには日が変わる前には戻ってくると伝えていたので、心配かけているかもしれない。

 

「あ、アドルさん戻って……」

 

 ミネアの北門を潜ったところで、レアさんと鉢合わせた。何故か僕を見て固まっているが、わざわざ門で待ってくれていたみたいだ。

 

「はい、ただいま戻り……どうしました?」

 

「………」

 

「レアさん?」

 

「キャ​ァァァァァァ!!!」

 

 フリーズ状態から復帰したレアさんから悲鳴が上がる。何事かと周りの人も集まってきた。

 その後、焦った様子のレアさんがその場で僕のボディチェックを始め、終いにはその場でボロボロの衣服を素手で引き裂かれて血の跡が残る身体を隈無く触診されることになった。そういえば衣服も身体も血濡れのまま放置していたことを今更ながら思い出した。というか、レアさん力強すぎません?

 

 

 

「もう! びっくりしたじゃない!」

 

「あはは……申し訳ないです……」

 

 あの後、結局無問題であることが判明し、先の騒動は幕を下ろすことになる。ちょうど人が集まっていたので、廃坑の魔物を排除してきたことの報告と、取り返してきた銀製品の返却を行なった。ミネア市民や炭坑夫たちから感謝され、ボロボロになった服の替えをもらったり、鍛冶屋の主人から取り返してきた銀製のブレストアーマーを譲り受けたりして、今はレアさんと酒場に食事に来ていた。

 

「でも、ホントに大丈夫なの?」

 

「ええ、健康体そのものですよ」

 

 腕を広げて無傷であることをアピールする。

 

「あ、そういえばハーモニカも見つかりましたよ」

 

「あら、ありがとう」

 

 広げていた腕をウエストポーチの中に入れ、ハーモニカを取り出してレアさんに渡すと、彼女はそれを大事そうに胸に抱いた。

 

「じゃあ、お礼に1曲」

 

 そう言うと、レアさんは酒場のステージに上がっていき、ハーモニカを吹き始めた。ハーモニカの独特な音色が酒場を支配する。先程までお祭り騒ぎだった酒場がシンと静まり返り、その場にいる全員がレアさんの演奏に聴き惚れていた。

 しばらくして演奏が終わると、酒場が爆発したかのような拍手が響き渡る。

 

「どうだった?」

 

「思わず聴き入ってしまうぐらいには素晴らしかったです」

 

「ふふ、ありがとう」

 

 僕は聴衆の声に手を振りながら戻ってきたレアさんに素直に思ったことを口にした。僕の貧相な感性では上手く表現出来ないが、村を出て各地を渡り歩いてきた中で会った誰よりも素晴らしい演奏だったことは確かだ。

 

 

 

「そういえばレアさん、これが何かご存知ないですか?」

 

 腹具合もほどほどになってきたところで、僕は廃坑の奥でイースの本と一緒に置かれていた謎の物体をレアさんに見せてみることにした。エステリア独自の物なら何か知っているかもしれない。

 

「これはロダの種ね。果実の方はこれでもかってぐらい美味しいんだけど、こっちはこっちで美味しいわよ」

 

「ロダっていうと、あの?」

 

「ええ、あそこまで成長するには何百年とかかるけど、あの樹の種であることは間違いないわ」

 

 そんな物が何故あんな所にあったのかという気持ちはあったが、食べると美味しいと聞いて少し興味が出てきた。割って中身を食べるのだろうか。

 

「食べると不思議な力が身につくって話もあるぐらいだし、食べてみたら?」

 

「不思議な力?」

 

「植物の声が聴けるようになるって噂があるのよ」

 

「……割って食べればいいんでしょうか?」

 

「ええ、中身を食べちゃって」

 

 レアさんの言う通りに種の殻を割って中身を出してみると、中から真っ赤で光沢があるものが出てきた。それを口に放り込むと、噛んだ瞬間口の中で濃厚な甘い香りが弾けた。

瑞々しい果汁のようなものも溢れ出してきて、種なのにまるで果肉のようだ。

 

「どう? 美味しいでしょ?」

 

「はい、美味しいです。果物みたいですねこれ」

 

 目が覚めるような美味しさに少々動揺しつつも、僕はレアさんにそう返した。これは病みつきになってしまいそうである。

 

 

 

 それから雑談しながら残った料理を食べ、酒場に人が溢れるぐらい集まり始めたぐらいの時に僕らは外に出た。もう日が落ちて辺りはもうすっかり暗くなっていた。

 

「そうだ、アドルさん」

 

 お別れしようとしたところで、レアさんが思い出したかのように声をかけてくる。

 

「どうしました?」

 

「明日、ロダの樹の下に行ってみて」

 

「ロダの樹にですか?」

 

「きっと、あなたを導いてくれるはずよ」

 

 それじゃあね、と言葉を残して、レアさんは雑踏の中に消えていった。ロダの樹の声を聞いてこいということだろうか。

 最後の最後に謎が残ったが、行ってみれば分かるか、と思い直して、僕は明日に向けてしっかり休むために宿屋へ向かった。




 イースメモリアルブックが届きました。

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