赤毛の紀行家   作:水晶水

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 原作でもかなり苦労させられたヴァジュリオン。蝙蝠にゴリゴリ削られるHPバー。


M.召喚翼魔ヴァジュリオン

Main Character:アドル=クリスティン

Location:ラスティン廃坑

 

 魔物が大きく腕を振りかぶり、勢いよく振り下ろしてくる。地面を軽々と砕く攻撃をバックステップで避けるが、大ムカデ以上の膂力から放たれる一撃、あれを食らうのは不味そうだ。

 再び繰り出される振り下ろしを今度はサイドステップで避け、隙を見せた横っ腹に踏み込んで逆袈裟斬りを放つ。驚くほど易々と刃が入り、傷を負わせた​────かのように思えたが、斬られた箇所を起点にして魔物は全身を再び無数の蝙蝠に戻し飛散させた。

 攻撃するためとはいえ近づきすぎた。視界が全て蝙蝠で埋め尽くされてしまう。

 

(いけないっ​……!!)

 

 僕は咄嗟に長剣から手を離し、異空間から1.5メライほどの棒​────六尺棒を取り出し、勢いよく振り回し、回転させて群がる蝙蝠を打ち払う。何とか脱出出来たが、流石に無傷とはいかなかった。身体のあちこちを噛まれたせいで多少の失血感がある。

 

(斬るのがダメなのでしょうか? 打撃が通ればいいですが……)

 

 再び巨体を構成した魔物を睨みながら、六尺棒を握る手に力が入る。相手が血を奪ってくる以上長期戦になるのはよろしくない。試せることから試して出来るだけ早く決着をつける必要がありそうだ。

 

 今度はこちらから仕掛けるために強く地を踏んで魔物へ向かって駆け出した。迎撃するために横薙ぎに魔物の剛腕が振るわれるが、走る勢いのまま六尺棒を地面に突き立て、棒高跳びの要領でこれを大きく上へ回避し、相手の頭上に飛び上がり、空中で回転をかけて魔物の頭に渾身の一撃を叩き込んだ。鈍い打撃音と魔物の呻き声が室内に反響する。

 今度は確かな手応えを感じて、眩暈を起こして後ろへよろめく蝙蝠男に突きのラッシュを仕掛けると、堪らず身体を蝙蝠に戻してこれを避けようとしてきた。

 それを見てから先ほどと同じ轍を踏まないように素早くバックステップで囲まれる前にその場を離脱し、風切り音を鳴らしながら六尺棒を高速回転させて、噛みつこうと飛んでくる蝙蝠たちを弾き飛ばす。

 前方からの蝙蝠を対処していると背後から半分ほどの大きさで構成された魔物が襲いかかってきた。多分半分の蝙蝠を迂回させたのだろう。

 

「ぜあぁぁぁっ!!」

 

 攻撃が飛んでくる前に身を捻って遠心力を加えた一撃を胴体に叩き込み、それが決定打になったのか、そいつはその場に灰を残して消滅した。

 しかし、更に背後で魔物の巨体が構成された。今度は何故か半分の大きさではない。

 

(なっ……! 上半身だけを!!?)

 

 六尺棒を全力で振り抜いた姿勢、つまり隙を晒した状態の僕ではこの一撃を避けることはできない。横薙ぎに振るわれる腕を見て、僕は何とか銀の盾を身体と魔物の剛腕の間に挟み込み、直撃を逃れることしかできなかった。

 

「ぐっ……!!」

 

 小石を弾くかのような勢いで魔物に吹き飛ばされ、受け身をとることも出来ずに地面に落下し、そのままゴロゴロと地面を転がされた。幸い骨は折れていないが、身体の芯にダメージが残っている。傷口からも血が噴き出し、かなり深刻だ。

 六尺棒を杖にして何とか立ち上がり、気持ちを奮い立たせて棒をしっかりと構える。魔物の方も消耗して人型を維持出来ないのか、ボロボロと崩れるように蝙蝠の群れへと戻っていく。数も最初と比べると随分と減らしたようだ。

 

(これが最後の打ち合いになればいいですが……)

 

 そんな思考が伝わったのか、手負いの蝙蝠たちは一斉に僕へと襲いかかってきた。

僕もこれに応戦し、六尺棒を回転させて蝙蝠を打ち払っていく。

 噛まれた側から振り払い、確実に1匹1匹灰に変えていって、最後の方は雄叫びを上げ、残った力を振り絞りながら六尺棒を振り回した。

 

 

 

 全ての蝙蝠を灰にした時、僕の身体は全身血塗れだった。終わったことに気がついて、血を吐くように大きく息を吐き、その場に膝から崩れ落ちる。

 震える腕でヒールポーションを取り出して頭から被り、何とか傷だけは塞ぐが、失った血はすぐには戻りそうにない。きっと今の僕の顔は色を失っていることだろう。血を失ったせいで酸素が回らずに頭がボーッとする。

 思考が危うい状態で、僕の身体はイースの本を求めて無意識に立ち上がり、六尺棒を杖にして移動を始めていた。

 

 入口とは違う方の扉があった場所を通り過ぎると、中には神殿の時と同じように銀製品の山が築かれていた。しかし、何かに呼ばれるように僕はそれを素通りし、奥へと歩を進める。

 更にもう1つ扉を潜ると、その部屋には神殿とは違って祭壇もイースの本も見当たらず、代わりに翼の生えた2柱の女神の像が鎮座していた。神殿で見た像とは違った意匠をしている。

 導かれるようにして女神像の前まで辿り着き、そこでとうとう体力の限界を迎えて、僕は前方に倒れ伏した。

 

《傷つき倒れし私たちの同胞よ》

 

 頭に直接声が響いてくる。何となく目の前の女神像が語りかけているのだと理解した。

 

《ダームが解き放たれてしまった以上、もはや私たちの役目が果たされることはありません。故に、私たちに残された力をあなたに託します。これでどうか​──────》

 

 女神像がそう言った次の瞬間、僕の身体を温かい光が包み込んだ。懐かしいような感じが心地よく、その気持ちよさに身を委ねて僕の意識はそのまま闇に落ちた。




 ボス戦では活躍しにくい基本装備(長剣)くん。

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