赤毛の紀行家   作:水晶水

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 個人的な意見なんですけど、アドルさんのヒロインはフィーナ様ってことは絶対に譲れないと思うんですよね。


K.ミネアへの帰還

Main Character:アドル=クリスティン

Location:城塞都市ミネア

 

 

 

 翌朝、出発直前にフィーナさんと鉢合わせ、お互いに顔を真っ赤に染めながら挨拶し合うという一幕があったが、それ以外は特に何事もなく、ゼピック村を出発することが出来た。双方酔っていたとはいえ、大胆なことをしてしまったなあと、ぼんやりと思考する。

 

「赤毛の剣士…もしや、あなたがアドルさんですか?」

 

 イースの本のことを報告しようとサラさんの家の前まで来たところで、何やら焦った様子の男に話しかけられた。頭に疑問符を浮かべながら応対したが、どうやらサラさんから手紙を預かっているらしい。

 本人の家の前で渡されるのも変な話だが、読んでみればそれも分かるか、と1人で納得して受け取った僕が宛名になっている手紙に目を通してみる。

 申し訳ありませんアドルさん。この手紙があなたの手に渡っているということは、ミネアに私の姿はないことになるでしょう。

 アドルさんにイースの本について依頼した後、私は自身が魔物の手によって殺される未来を見ました。あなたが手紙を読んでいる今、私の生死はともかくとして、少なくともこの騒動の間に私とアドルさんが会うことはありません。

 臆病な私を許してください。イースの本についてはミネアにいるレアという名の詩人に後を託しました。

 逃げ出した私が言えることではありませんが、健闘を祈ります。どうかご無事で。

 なるほど、命の危機に晒されているというのなら流石に責めることは出来ない。乗りかかった船であるし、任された仕事を放り出すわけにもいかないので、サラさんの無事を祈ってこちらはこちらでやれることをしよう。

 

「すいません、詩人のレアという方をご存知でしょうか?」

 

「へ? ああ、レアさんなら多分北の市壁の上にいると思うけど。最近は何だか元気が無いみたいで北の方ばかり眺めてるらしいよ」

 

 元気が無いのは気になるが、一先ずその詩人に会いにいかなければ進展もなさそうなので、僕は男に一礼してから北の市壁へ向かった。

 

 

 

 話の通り、北の市壁を登ると北の方を眺めるそれらしき人が目に入った。確かに遠目から見ても元気がないように見える。

 

「あなたがレアさんでしょうか?」

 

「あなた​​は────っ!?」

 

 赤茶色のローブを着た女性に声をかけると、フード越しで表情はよく見えないが、酷く驚かれたことは何となく分かった。

 そこまで驚くようなものはないと思うが、何となく居心地が悪く、自分の服装などに異変がないか確かめてしまう。

 

「あ、い、いえ、何でもないんです、ごめんなさい」

 

「それなら大丈夫ですが……とりあえず落ち着きましょう」

 

 未だに動揺した様子のレアさんを宥める。レアさんも数回深呼吸をしてようやく落ち着いたようだ。

 

「先程は失礼を。私は詩人のレアです」

 

「僕はアドルと​いい────フィーナさん?」

 

 フードを取って自己紹介をしてくるレアさんの顔を見て、今度は僕が驚くことになった。レアさんとフィーナさんがまるで双子の姉妹かのようにそっくりだったのだ。

 

(まさか、フィーナさんが口にしていた姉さんというのは……)

 

「フィーナを知っているの!?」

 

 そこまで考えたところで、レアさんが凄い勢いで肩に掴みかかって僕を揺さぶり始めた。

 

「レアさん、おち、落ち着いて……!!」

 

「え、あ、ご、ごめんなさい……」

 

 僕の言葉にハッとした顔をしてレアさんは肩を掴んでいた手を離した。淑女らしからぬ行動をしてしまったからか、少し顔を赤らめて俯いている。

 

「その様子だとレアさんはフィーナさんをご存知で?」

 

「…………妹なの」

 

 ポツリと絞り出すようにレアさんはそう口にする。

 

「随分前に魔物に攫われてしまって……多分もう生きて会うことは……」

 

「生きてますよ?」

 

「…………へ?」

 

「今はゼピック村のジェバさんという方の所でお世話になってます」

 

「…………ホントに?」

 

「ええ、元気にしてますよ」

 

「良かったぁ…………」

 

 心の底から安堵したという風に、レアさんは自身の胸に手をやりながら、その場で膝から崩れ落ちた。死んでいたと思っていた妹が生きていたのだ、無理もない。

 

「今は記憶を無くされていますが、あなたのことは少し覚えているみたいでしたよ。会いに行かれたら記憶が戻るきっかけになると思いますが」

 

「記憶が……いえ、今すぐ行きたいと言いたいところだけど、会うのはこの騒動が治まってからにしたいと思います」

 

「分かりました。ではそのように」

 

 今にも走り出しそうなのを我慢しているように見えるが、こう言うならあまりそっち方向に刺激するのもよろしくないだろう。僕はレアさんの手を引いて助け起こしながらそんなことを考えた。

 

「醜態ばかり見せて恥ずかしい限りですが、そろそろ本題に入りましょうか」

 

「はい、サラさんの手紙であなたに後を託したとありましたが」

 

「ええ、サラから確かにこれをあなたに渡すようにと預かっているわ」

 

 レアさんはそう言って、ローブの袖から神殿で見つけたのとは色が違う、赤色の本を取り出して僕に手渡してきた。…………ローブのどこにしまっていたのだろうか。

 

「サラはこれをサラの叔母に読んでもらうように、とも言っていたわね」

 

「そうですね、僕では読めない文字みたいですし」

 

 世界を渡り歩く紀行家見習いではあるが、流石に推定古代言語の習得まではカバーできていない。

 

「一応、これで伝えることは伝えたけど……」

 

「どうかしましたか?」

 

「良ければでいいんだけど、その、私の盗まれたハーモニカを取り返して欲しいの」

 

「それは構いませんが……どういった物を誰からでしょう?」

 

「盗まれたのは銀製のハーモニカで、犯人は多分盗賊だと思うのだけれど……」

 

 どこかで似たような話を聞いた気がする。具体的にはゼピック村で。

 

(また魔物の仕業でしょうか……? 神殿ではハーモニカは見なかったですし、そうなると廃坑に……?)

 

 どうやらミネアにも銀を強奪する魔物の手が伸びていたらしい。そういうことなら、サラさんがミネアから離れたのは正解だったのかもしれない。

 

「分かりました、本探しの片手間になるとは思いますが」

 

「ええ、それで大丈夫よ。お願いね」

 

 これで3冊目のイースの本を探す準備を終えたので、翌朝までに英気を養って行くことにしよう。

 

「ところでアドルさん、一緒に食事でもどうかしら?」

 

「構いませんが……フィーナさんの話ですか?」

 

「ええ、仲良くしてるみたいだし色々聞いてみようかなって」

 

 そう言いながら、レアさんは最初見た時とは打って変わって、見るからに上機嫌な様子で市壁を降りていった。……………英気は養えないかもしれない。

 




 少しシスコン気味のレア様。

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