Main Character:アドル=クリスティン
Location:ゼピック村
「ふふふ、似合ってますね」
「僕には過ぎた代物のような気がしますが」
「そんなことありませんよ」
村の人とゴーバンさんたちに銀製品を返した後、感謝の証として銀製の盾を譲ってもらった僕は、ひと休みするためにジェバさんの家まで来ていた。
今はフィーナさんが新しく盾を装備した僕の姿を見て、微笑んでくるが、何というか、市販の物から一気に格上げされたせいで物凄い身の丈の合わなさを感じているところである。
「今夜は村総出でアドルへの感謝を込めて祭りをするそうじゃ。お前さんはしっかり身体を休めておきなさい」
さっきまでイースの本を読んでいたジェバさんがいつの間にかこちらの方へ来ていた。
「祭りですか?」
「みんなで騒いで食べるだけじゃがな」
そういうことをするのは故郷の村以来だ。少し楽しみになってきた。
「しっかり楽しむためにまずはしっかり休んでくださいね。怪我もなさってるんですから」
フィーナさんは目尻を下げながらそう言って、僕の腕に巻かれてある包帯を優しく撫でた。この包帯は大ムカデに切られた傷を村に帰ってきた時に気づかれてフィーナさんに巻かれたものだ。血相変えて医療箱を取りに行った時は何事かと思ったが、それだけ心配してくれていたということだろう。幸い毒を持っていたわけでもないので、大事には至ってない。
「ええ、疲労も溜まってますし少し横になります」
そう言って昨夜寝ていた床まで行こうとして立ち上がるのと同時に、フィーナさんが僕の服の裾をきゅっとつまんで引き止めてくる。
「フィーナさん?」
「しっかり休んでくださいって言ったばかりじゃないですか」
私怒ってます、という風な表情をして、フィーナさんは僕をベッドの方へ連れていったかと思うと、ベッドの上に座った彼女は僕の顔を満面の笑みで見上げながら自身の膝をポンポンと叩いた。…………美人の膝枕の誘惑には勝てなかった。
「時間になったら起こしますからね」
「お願いします……」
柔らかいふとももに頭を預けると、フィーナさんが髪を梳くようにして頭を撫でてきた。心地よい感触と疲労のせいも相まって、僕の意識はすぐに闇に落ちた。
「アドルさん」
身体を揺さぶられて、頭上から声が降ってくる。ゆっくりと上体を起こし、身体を解してから外を見てみると、もう既に日が暮れていた。
「おはようございます、フィーナさん」
「はい、おはようございます」
寝ぼけ眼を擦りながらゆっくりと立ち上がりフラフラと外へ行こうとすると、フィーナに誘導されて水場まで連れていかれた。
顔を洗って頭をスッキリさせて今度こそ向かおうとするが、主役がそれではカッコがつきませんよと言われ、寝癖を直されている。この身体になって感じたことがない母の温もりを感じたような気がした。
「これで完璧ですね!行きましょうかアドルさん」
「お手数かけて申し訳ありません」
「いえ、これぐらいさせてください」
身嗜みを整えてようやく外に出ると、村人たちが大きな火を囲んで料理を食べたり作ったりしているのが目に見えた。もう既に始まっているようだ。
フィーナさんと並んで火の方に向かうと、村人たちがこちらに気づいて声をかけながら手を振ってきた。手を振って応えると満足そうにして再び各々の作業に戻っていった。
「おお、アドル殿、此度は本当に助かりました」
「お力になれてよかったです」
どうしようかと辺りに視線を向けていたら、僕に銀の鈴の回収を依頼してきた村長さんがニコニコしながらこちらにやって来た。銀製品を村に返した後、こっそり銀の鈴を返した時に物凄い勢いで感謝されたのは記憶に新しい。あれからすっかり元気になったようで、顔色も良く実に健康的だ。
村長とは二、三言会話を交わしてから別れて、それからは殺到する村人たちに圧倒されていた。フィーナさんはジェバさんと共に離れたところに避難したので無事だ。
やんややんやと感謝攻めと質問攻めにあい、へろへろになったところでようやく解放され一息つく。
家の壁に背を預け腰を落としながら、今は村人たちが渡してきた料理を食べている。山で狩った魔獣の肉と村で採れた野菜を豪快に火にかけた簡単なものだが、素材が良いためかそれだけでも十分に美味しかった。ちなみに魔獣の肉は猪肉のような味がした。
料理に舌鼓を打つのもそこそこに、村の大人たちはお酒を飲んでいた。明日は朝一番にミネアへ帰還するつもりだが、主役が飲まないのも空気的にアレなので、とりあえず1杯だけいただくことにした。口上を上げ、一気に飲み干して盃を掲げると、そこかしこから歓声が上がり、祭りの盛り上がりはピークを迎えた。
「少し風に当たりに行きませんか?」
「ええ、お供いたしましょう」
度が強いお酒だったのか、前世以来のお酒に顔を赤くしていると、同じく顔を赤くしたフィーナさんがこちらにやって来た。
フィーナさんの先導で湖の桟橋まで来ると、フィーナさんが僕の手を繋いできた。お酒と祭りの熱に浮かされているのだろうか。
「アドルさん、私、記憶が無くなってからずっと不安でした」
手を握る強さが僅かに強くなる。
「でも、アドルさんに助けられてからはジェバさんや村の人たちにも良くしてもらって、今日もこんなに楽しく騒いで、そう考えると神殿で捕まってたのも悪くなかったのかもしれないなって」
フィーナさんが赤らめた顔でニコリと微笑む。月明かりで照らされたそれはとても魅力的に思えた。
「アドルさんはこれからも危険な所に行くことになりますが、私はもっとこの幸せに浸っていたいんです。だから、怪我をしないのは無理かもしれませんが、どうか、どうか無事に帰ってきてください」
ぎゅっと身体を寄せられて、瞳に不安の色を滲ませながらフィーナさんは僕の目を見つめてくる。
「我が儘なお願いなのは分かっています。それでも私はアドルさんにまたこうして寄り添いたい。こうしていると記憶が無い不安も全部吹き飛んでくれるから」
「フィーナさん……」
「懐かしい気配がするお方、アドルさん、私の願いを聞き届けてもらえますか?」
顔と顔との距離がだんだんと縮まっていく。お互いの酒気を纏った吐息が混ざり合うような気がした。
「分かりました、僕はちゃんとフィーナさんの所に帰ってきます。厳しい戦いになるとは思いますが、絶対に戻ってきます」
「アドルさん……」
それから、どちらからともなく影と影が重なり合う。村の外れで交わした約束を月だけが見ていた。
イチャラブシーンとR-18シーンの描写に定評がある有翼人です。