Main Character:アドル=クリスティン
Location:サルモンの神殿
魔物が猛スピードで一直線に突進してくる。僕は焦らず右方向へ走り出してこれを避けると、魔物は風切り音を立てながら壁へと突っ込んでいった。
ゴガンッと激しい勢いのまま激突した壁を破砕し、ぐねぐねと身体を動かして壁から抜けようとしている。
「せいっ────!?」
これを好機と捉え、僕は隙だらけの魔物の身体に渾身の力で剣を振り下ろしたが、剣は魔物を切り裂くことはなく、甲高い金属音を鳴らしながら剣を弾き返してきた。
そこに自由になった魔物がぐるりと方向転換し、その禍々しい口で噛み付こうと襲いかかってくるが、横っ面に剣を叩きつけることで何とか軌道上から外れて逃れることが出来た。
(硬い上に素早いときますか。あの甲殻は流石に
擦れ違った際に付けられた切り傷に一瞬顔を歪めるが、通り過ぎていく大ムカデの赤々とした甲殻に目をやり思考する。斬ることが出来ないなら────叩き潰すだけである。
異空間に長剣をしまい込み、無手の状態で魔物を見据える。猛然と迫ってくる魔物をギリギリまで引き付けたところで、僕はその場で回転し、その勢いのまま異空間から引き抜いた身の丈ほどもある大剣を横薙ぎに叩きつけた。先ほどよりも大きな金属音がホールに響き渡り、魔物は殴られた箇所の甲殻を大きく凹ませながら突進の勢いを横に流されて転倒した。無防備に柔らかそうな腹が晒される。
「今度こそ!」
大剣をしまい込んで一気に距離を詰め、再び引き抜いた大剣を走る勢いを利用した振り下ろしの一撃で以て大ムカデの頭を叩き潰そうとするが、すんでのところで避けられてしまい、その一撃は頭ではなく魔物の腹に直撃した。
外見の通り腹は柔らかいらしく、身体の半ば辺りから魔物の身体は切断され、大ムカデは緑色の体液を撒き散らしながら僕と距離をとる。
流石は虫型の魔物といったところだろうか。身体の欠損程度ではそこまで動きのパフォーマンスは落ちないらしい。怒り狂ったようにより一層ギチギチと音を鳴らしながら再び僕を粉砕せんと突撃をかましてきた。
また避けられると厄介なので、今度はタイミングを合わせて掬い上げるようにして虫頭に一撃を叩き込むと、切断されて軽くなった魔物の身体は面白いように弾かれて綺麗にひっくり返った。起き上がろうと足を必死に動かしているが、僕は大剣を置いて思い切り跳躍し、大ムカデの真上を位置取り、足元に引き戻した大剣を掴み取って、魔物の頭めがけて全質量を乗せた下突きをお見舞いした。
ぶつりと音を立てて頭が落ち、やがて動かなくなった大ムカデは灰になって消えた。
何もいなくなったホールのど真ん中で大きく息を吐きながら尻餅をつくようにして僕は座り込んだ。地面に深々と突き刺さった大剣が何となく愉快である。
(何とか軽傷で倒せましたが……これは後を考えると怖いですね……)
先程の戦闘を思い返し、まだ他にもあんなのがいるのかと思うと、想定よりも油断ならない状態であると少々ゾッとする。しかし、止まるという選択肢がない以上ここで怖気づいてもいられない。後の強敵に思いを馳せ、気を引き締めながら僕は奥に進むべく立ち上がった。
「これは……」
ホールの扉の中に入った後、僕は感嘆のあまり思わず声が漏れた。部屋のそこら中に銀製品が溢れ返っていたからだ。
(ということは、銀製品を盗んだのは魔物たち……?しかし、何故そのような……)
明らかに魔物達にとって価値があるとは思えない銀製品の山々を目の前にし、新たに疑問が噴出する。盗むだけ盗まれて放置されている銀は魔物達にとってどういう役割を持つのだろうか。
しかし、考えても分からないことは分からないので、疑問は頭の片隅で覚えておくことにして、一先ずこれらを村人やゴーバンさんたちに返すべく、いそいそと風呂敷にひとまとめにして異空間に収納し始めた。
銀製品の山を片付けていると、その奥から更にもう1枚の扉が現れた。回収を終えてからそこを奥に進むと、中には大きな祭壇とそれに祀られた水色を基調とした豪奢な飾りが施してある本が目に入った。
(これがイースの本……)
神秘的な雰囲気を放つ本を手に取り、パラパラと捲って読んでみるが、何が書いてあるかは全く分からなかった。所謂古代言語というやつだろうか。読めないのは仕方が無いので、これも傷つけないように異空間にしまい込み、やることを終えたので神殿を出ることにした。
裏話ですが、ここのアドルさんは最初から基本3種(長剣、大剣、細剣)といくつかの武器の扱いを既に学んでいます。だいたいお父さん仕込みですが、細剣だけはある人に教わってから習得してます(イース全シリーズやってる人はこれまでの話から予測がつくと思いますが)。