赤毛の紀行家   作:水晶水

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 メインヒロイン登場回です。


G:囚われの少女

Main Character:アドル=クリスティン

Location:サルモンの神殿

 

 

 

「こんな所に人が!?」

 

 あまりに予想外すぎて思わず敵地のど真ん中で叫んでしまった。はっとして口を塞いで周りに警戒してみたが、もうこの階層の魔物は全部倒してしまったのか、こちらに向かってくる気配は感知できなかった。

 再び牢屋に向き直り、中の人を観察してみたが、遠目では生死の判断もできないので、思い切って中に入ってみることにする。

 

(鍵がかかってる……取りに行くのも手間ですし破壊しますか)

 

 剣の柄に手をかけ、姿勢を整えてから大きく1度深呼吸をする。頭の中から雑念を取り払い、ただひたすらに斬る対象のみに意識を集中させ、僕は一呼吸で渾身の力を込めて剣を振り抜いた。

 一瞬遅れてカランと切り裂かれた錠が地面に落ちる音が響き、僕は急いで鉄格子を開放する。老朽化が激しいのか、耳障りな金属音が鳴るが、僕はそれに構わず乱暴にそれを開け放った。

 急ぎ足で少女の元に駆けつけ、容態を確認するために軽く彼女の身体を抱き起こす。

 

(顔色は悪いですが……良かった、まだ息はあるようですね)

 

 長い間捕まっていたのか、身体も衣服もボロボロだ。青く長い髪もかなり傷んでしまっているように見える。

 息があることに一先ず安心したが、かといってゆっくりしていていいわけでもないので、僕は本の探索を一時中断し、少女の救出を優先させることにした。

 

「ん……姉……さん…………?」

 

 少女をどうやって運び出そうか思案していると、彼女は掠れた声でそう口にし、ゆっくりと瞼を開いた。髪色と同じ青色が僕の視線と交わる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あら……あなたは……?」

 

 少女の青い瞳に光が戻り、彼女は意識を覚醒させた。僕の存在に驚いているようにも見受けられる。牢屋に閉じ込められていたことを考えると当然と言えば当然であるが。

 

「あなたを助けに来ました。一先ずこれを」

 

「ありがとう…」

 

 水の入った皮袋を手渡し、それを受け取った少女はゆっくりと喉を潤し始めた。よほど喉が渇いていたのか、彼女は皮袋の中身の半分ほどを一気に飲み干すと、再び礼を言って皮袋を僕に返却した。

 

「色々聞きたいこともあるでしょうが、その前にここを出ましょう」

 

「分かりました。……あの、恥ずかしながら手を貸してもらえると……」

 

「ええ、無理はなさらないで下さい」

 

 そう言って、僕は少女の身体を横抱きで担ぎ上げた。流石にこんな状態の人を歩かせるような真似はしない。

 彼女の顔に赤みが差したが、多少の恥ずかしさは少しの間目を瞑っていただけるとありがたい。

 

 

 

Location:ゼピック村

 

 

 

 先に魔物を蹴散らしておいたおかげで、ゼピック村に戻るまでに戦闘になるようなことはなかった。

 神殿に囚われていたので、ジェバさんならこの少女のことも知っているかもしれないと考え至り、今はジェバさんの家にお邪魔している。結局知り合いではないそうだが、一先ずここで看病することになり、ようやく一息ついたところだ。

 

「まさか神殿に捕まってた人がいるとはね」

 

「僕も驚きました」

 

 解放されて緊張の糸が途切れたのか、すっかり眠ってしまった少女の安らかな寝顔を横目に見ながら、ジェバさんと僕はそう言葉にする。

 

「とりあえず、この子はうちで面倒見ることにするよ」

 

「そう言ってくださると助かります」

 

「何、1人増えるぐらい別に構いやしないよ」

 

 頭を下げる僕にジェバさんはそう言ってくれた。実際問題どうしようかと帰還中に悩んでいたので、流れですぐに決まったのは本当に助かった。

 

「アドル、今日はあんたも泊まっていきなさい。日も落ちたし、今日は疲れただろう」

 

「すいません、お世話になります」

 

 神殿を出た時はまだ昼と言える時間帯だったが、看病やら何やらしているうちにすっかり日が暮れてしまった。

 1つ大きな戦闘もあったし、疲れているのは事実だ。なので、ここは素直に従っておくことにする。

 その後は食事をご馳走になり、部屋の隅の方で毛布にくるまってぐっすり眠ることが出来た。

 

 

 

 翌朝、朝食の前ぐらいに少女が目を覚ました。なので、まずは朝食を食べてから現状の確認を行うことになった。

 

「ずっと前からあそこに閉じ込められていて……その前のことは……自分がフィーナという名前であること以外、何も思い出せないんです……」

 

「姉さん、と口にしていましたが、それは?」

 

 僕の言葉にフィーナさんはキョトンとした顔をする。まるで心当たりがないようだ。目覚めてすぐの夢と現の狭間で無意識に口にしたのかもしれない。

 

「姉さん……分かりません……でも、不思議としっくりくる感じがあるような気がします」

 

 姉さんという言葉を噛み締めるように口にするフィーナさん。記憶が無くても身体が覚えているのだろうか。

 

「あの、話が逸れて申し訳ないのですが、あなたの名前は?」

 

「これは失礼を。僕はアドル=クリスティンといいます」

 

「アドルさん……何故かは分かりませんが、あなたからはとても懐かしい気配を感じます。そんなあなたが私を助けてくれたのは運命だったのかもしれませんね」

 

 ニコリと微笑んでから改めてフィーナさんが頭を下げてくる。フィーナさんのような美人からそんなことを言われると、満更でもない気はしてくる。

 懐かしい気配というのも分からないし、フィーナさんと僕は面識は無かったはずだが、この際それは僕の中では考えることではなくなってしまった。

 

「とりあえず、無事で何よりでした」

 

「ふふふ」

 

 その後は特に得られる情報もなく、雑談することで時間が流れていった。ここまで人と話したのはガルマンに滞在していた時以来だ。

 楽しい時間が過ぎていくが、いつまでもこうしている訳にはいかない。まだやることが残っているので、話もそこそこに僕は再び神殿に行くことにした。

 

「あそこにはたくさんの魔物がいます。アドルさん、どうかお怪我のないように」

 

「はい、気をつけて行ってきます」

 

 フィーナさんとジェバさんに見送られながら僕は出発した。地下1階の探索は終えたので、着いたら早速地下2階に降りることにしよう。僕は頭を日常から冒険に切り替え、足早に神殿へと向かった。




 PSP版だとあることをするとフィーナさんの身長とスリーサイズを測れるんですよね。ちなみに私はフィーナさんと身長が全く一緒です。

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