連載小説『東方魂恋録』の裏話です。
時系列や設定などがリンクしたり共通したりしています。
魂恋録を見たことを前提として書いておりますので、ご注意を。

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どうも、狼々です!
この小説を見てくださっている方は、恐らくほんの僅かでしょう。
被お気に入りユーザー50人記念ということで、活動報告で取った意見を参考に、魂恋録の裏話を書くことになりました。
今ではもう、60人近くいってしまったのですが(´・ω・`)
いや、めでたいというか、嬉しいことではあるんですがね(*´ω`*)

もし魂恋録が面白かった、という方でこの作品を見てくださるのならば。
私としても、嬉しい限りです。

時系列は、時雨戦の前の十一月です。

では、裏話どうぞ!


サプライズ

 秋は過ぎ、赤々と色付いた紅葉が懐かしい。

 もう冬に入ってしまった十一月。

 

 窓縁を綺麗になぞる水滴が、ほんの少しだけ見られる季節。

 俺は今年があと二ヶ月ほどで終わるという事実に、心を奪われていた。

 

 しかし、そんな暇はないのかもしれない。

 叢雲を撃破したはいいものの、次の二人が危ういところだ。

 実際、手がかりも何もない、ノーヒントの状態で戦闘を迎えなければならない。

 偵察のしようもなく、こちらとしては一方的に索敵されるのみだろう。

 

 そんな確実に不利を掴まされている環境に、底知れぬ不安を浴びていた。

 

「……ん?」

 

 今日は修行は休み、と三人が一斉に言い出したのだ。

 どうにもそこからおかしいとは思っていたのだが、何だか様子が変だ。

 

 ――廊下から俺の後ろへ足音を消して忍び寄る、妖夢と言っても。

 

「はいよ、捕まえた」 

「ひゃいぃ。捕まっちゃいました。えへへぇ」

 

 相変わらず、頬ずりを始める妖夢。

 猫のようで、可愛いにもほどがある。

 本当に猫だと思ってときどき顎の下を撫でると、喜んでしまう妖夢もいる。

 

 ……可愛いよなぁ。

 ということで、今日もしてみようか。

 顎の下の白い柔肌を、優しく撫でる。

 

 目を細めながら、一層に体をくっつける妖夢。

 何とも気持ちが良さそうなので、俺としても嬉しい限りだ。

 

「はふぅ~……」

「で、皆で何を企んでいるのか教えてもらおうか」

 

 その質問をした瞬間に、妖夢が目を逸した。

 あれだけ気持ち良さ気だったのにも関わらず、だ。

 

 そして挙句には、俺の手の中から逃げ出そうとしている。

 ここまでくると、尚の事妖夢が猫のように思えてくる。

 

「待て。ほれほれ、気持ちいいだろ~」

「あ、あぅう~……に、逃げるのです!」

 

 追撃でさらに顎の下を撫でるが、腕の中から逃げられてしまった。

 これではっきりした。絶対に、何かを企てていることが。

 

 そうやって、妖夢が白玉楼から出ていくのが見えた。

 さすがに置いていかれるのも、寂しいものだ。

 物音が他に全く聞こえない辺り、翔や幽々子も出かけているのだろう。

 

 翔は珍しくもなんともない。

 代わりに買い物に行くときだってある。

 ただ、あの幽々子が外に出るとは思い難い。

 幽々子が人里などを周る姿……だめだ、どうにも想像できない。

 

「おい栞。お前も何も言わないってことは、何かあるんだろ」

「何もないよ? あっても言わないけどね」

「あ~もう……つけてみるか」

 

 彼女に少し遅れて、飛んだ軌跡を追う。

 特にこちらを不信に思って振り返られることもなく、妖夢が飛行を止めて行き着くのを見届けた。

 赤を基調とした、大きな館。

 少し離れたところに湖のある、大きな大きな館。

 

「紅魔館……?」

 

 橙がかった斜陽に照らされたそれは、一層と赤々しく輝く。

 怪しげな雰囲気を醸し出す大館には、電気がどの窓からも漏れ出していない。

 

 住んでいた経験を持つ俺から言わせると、おかしい。

 この時間になっても灯りがないのは、どうにも不自然だ。

 

 妖夢が扉の先へと、背中を消した。

 それを合図に、数秒の間を空けてから、ゆっくりと扉を開いて侵入。

 霊力を抑えて、悟られないようにする。妖夢ほどとなると、この館の距離ではすぐに気付いてしまうだろう。

 

 ……やっていることが思い切り犯罪なことは置いておいて。

 

 妖夢が暗がりの廊下を通って、迷わず一つの部屋に入った。

 ここまで広く、部屋数の多い紅魔館で、迷いなく一つの部屋に入るのは、やはり何かがある。

 先程までと同じように、音を立てないように、静かにドアを開けて入り込んだその瞬間。

 

 

 

 ――突然に部屋の灯りが点いて、()()()()()()が聞こえた。

 続いて、微かな煙と火薬のにおい。

 間違いなく、この音とにおいはクラッカーだ。

 

 対して俺は、瞳に光が飛び込んだ反動から動けない。

 目の前が白く発光していて、視覚が潰されていた。

 しかし、残った聴覚から入り込んだ、音の――いや、()()()()情報は。

 

「「「天、()()()()()()()()()()!」」」

「……はあ?」

 

 他でもない、お祝いの言葉だった。

 紅魔館の皆は勿論のこと、霊夢や魔理沙、部屋に入った妖夢や翔、幽々子もいた。

 紛れもなく、彼ら彼女らからの、祝福。

 

「いっやあ、天の驚いた顔は最高だねぇ」

「あ~、翔、俺の誕生日教えただろ。言った覚えがないからな」

「正解。皆に知らせたら、快くお祝いしてくれるってさ。よかったね?」

 

 正直、俺はこういう大勢が自分のために祝ってもらうことに慣れていない。

 特に、今日のような誕生日は。

 外の世界では、自分の誕生日も他の日も、何か特に変化があるわけでもなかったのだから。

 

 実のところを言うと、自分自身でさえ、今日が自分の誕生日だということを忘れてしまっていたのだ。

 

「で、企画提案者は?」

「勿論、妖夢ちゃん。いやぁ、いい彼女を持ったよねえ、天は」

「そう言う栞も、いつ聞いたんだよ」

「天君が寝ていて、栞ちゃんが起きていたときです」

「ってことは、つけさせたのもわざとかよ……」

 

 栞が一言も止めようとしなかったことにも、納得がいく。

 そうなると、妖夢も俺の存在に気付いてこの部屋に誘導していた、と。

 

 全て、手の平の上で踊らされていたわけだ。

 

「あんたのために皆集まったんだからね? それと……ほら妖夢。早く渡しちゃいなさい?」

「は、はい……天君。あまり高価なものではないのですが」

 

 そう前置きしながら、俺のある物を手渡す。

 霊夢に促されながら恥ずかしそうに頬を染める妖夢は、やはり可愛かった。

 

 そのある物は……眼鏡だった。

 赤いフレームの、シャープな形の眼鏡。

 ただ、一つだけ普通の眼鏡とは違う部分があった。

 

「眼鏡、それも伊達メガネか?」

「はい。天君は外の世界で勉学に特に励んでいたと言っていましたので、視力が低くなったときに、と。どのレンズを選んだらいいかは、さすがにわかりませんでした」

「なるほど。皆、ありがとうな」

 

 俺のお礼に、皆は優しく微笑んでくれる。

 せっかくだからと、眼鏡を付けることを異様に推された。

 新鮮な感覚に身を包ませながらも、眼鏡をかける。

 

 笑う者もいれば、似合っていると言う者もいる。

 可愛すぎる、というのが皆の本音だろうか。

 俺に赤が、あまり合うとは自分でも思っていなかった。

 一番合うとなれば――

 

「これ、伊達なんだろ? ……ほら」

 

 眼鏡を外して、そのままそれを妖夢にかける。

 白い肌に、赤が映える。

 大きく丸い瞳と俺の瞳と比べると、やはり妖夢の方が似合っていて、可愛い。

 

「ん、やっぱ可愛い。これ、俺が視力低くなるまで預かっていてくれ」

「わ、わかりました。大切に保存します。……可愛い、かぁ」

 

 妙に嬉しそうに、眼鏡を付けたり外したり。

 もうこの時点で、誰に向けてのプレゼントかが危うくなってきているが、可愛いのでよし。

 

「はいはい、ケーキ出すわよ。何のために私が丹精込めて作ったか、わからなくなるわ」

「ほら、咲夜のケーキよ! ありがたくいただくことね!」

 

 相変わらず、致命的な穴のあるカリスマ。

 これでは最早、本物の幼女だ。

 ……いや、レミリアが今までに何回誕生日を迎えたのだろうと考えると、そうも言えなくなった。

 

 ただ、レミリアが咲夜のケーキに喜ぶ姿を想像すると、不思議と和んでしまう。

 

 綺麗なホールケーキが、大きな銀色のワゴンに載せて運ばれる。

 白く甘そうな、ショートケーキのホール。

 

 因みにだが、このショートは短いの「short」ではなく、さくさくした、という意味の「short」だ。

 案外有名な話だが、ホールケーキで『ショート』と使うことには違和感を覚える人は多いだろう。

 

「じゃ、ろうそく立てるわよ」

「い、いいよ、子供じゃあるまいし」

「いいじゃない。ただ息を吹きかけるだけだから、呼吸と同じだぜ!」

「決め台詞っぽく言っているけど、そうでもないからな、魔理沙」

「で、あんた何歳なの?」

「え~っと……あぁ? 俺、何歳なんだ?」

「知らないから聞いてるんでしょ……」

 

 取り敢えず、適当に十本程を立てた咲夜。

 俺が一から数え始めてから、もう面倒だと言わんばかりに立てていった。

 彼女から少し霊夢に似たような性格も見えて、思わず笑みを漏らしてしまう。

 

 そして、部屋の灯りは消され、火の点いたろうそくだけが光を放っている。

 例の歌を、皆から送られる。

 

「ハッピーバースデー、トゥーユー!」

 

 最後の掛け声が終わって、俺がろうそくの炎を一息に消す。

 再び暗闇が戻って、拍手の次に、部屋の灯りも元に。

 

 暗闇から明けると、既にケーキは人数分に等分されていた。

 彼女の能力が成す技には、いつ見ても驚かされる。

 

 各々がケーキに手を付け始めた頃に。

 皆に聞こえるように、大きな声で、俺は言った。

 

「皆、ありがとう!」




ありがとうございました!

実はこの誕生日回をこの日に投稿したのは、私の誕生日が、7月26日だからなんです。
オリキャラやこの作品内での幻想郷の皆に祝ってもらう気分になりながら書きました。

そして、本編が完結した直後、Twitterでアンケートを取ったんですよ。
その内容が、魂恋録の二期を作るかどうか、というものです。

そんなに希望する人はいないだろう、と高をくくっていたところを、首元からやられまして。
希望者が回答者の……8割くらいいきましたかね?
一応、ネタとかはある程度あるので、もしもで取ったらこうなりました(´・ω・`)

もしかしたらですが、いつかですが……二期、書くことになるかも、しれませんね。
可能性は低いかと思われますが(´;ω;`)
ともかく、次回作は変わらず文ちゃんの作品になります。
もう三話分は書き終わっているのですよね、これが(`・ω・´)キリッ

長くなりましたが、ではでは!


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