執務室の扉を開けた長門はそれ以上こちらに近づくこともなく、その場で俺に声をかけてきた。
「失礼する。提督、加賀をお借りしてもよろしいだろうか」
「あぁ。だが……私には聞かせられぬ話か」
「……気を悪くしたのなら申し訳無い」
どうやら加賀に用があったらしい。
すでに報告も終わっていたので、加賀だけではなく全員出て行ってもよかったのだが、どうやら俺には聞かせられない話らしい。
だが俺の聡明な頭脳と慧眼の前では、長門の考えなど全てお見通しなのだった。
先ほど、大淀から聞いていた。
今夜は俺の歓迎会を開く予定なのだと。
ところが俺が大淀を遠征に出してしまったので、代わりに長門が仕切っているといったところだろう。
そりゃあ、今日の主役である俺の前で、歓迎会の段取りを話し合う奴はいない。
何らかのサプライズが用意されていると考えるのが妥当だろう。
フフフ、長門め、不器用な奴だ。俺の前に現れては感づかれて当然ではないか。
しかし今夜の事を考えると、胸が熱いな。夜戦だよ夜戦! 早く、や・せ・ん!
「フッ……別に構わん。むしろ当然の事だろう。加賀、行ってくれ」
「了解しました」
加賀は俺に小さく頭を下げて、長門と一緒に退室した。
一緒に他の全員も退室して良いと促そうかと思ったのだが、そこで気が付いたのだ。
目の前には、生の翔鶴姉。生パンツが見えている。
『艦娘型録』で目に焼き付けたそれが今目の前にあるという貴重な機会を無駄にするわけには行かないだろう。
しかし理由も無くここに立っていてもらうのも不自然すぎる。
特に、翔鶴姉に関しては、あの瑞鶴が目ざとく俺を監視してくるだろう。
何とかしてそれらしい理由を作らねば。
「……そうだ、明石。お前は泊地修理という能力を持っていたな」
「はい。あっ、そうですね。赤城さんと翔鶴さんの足部艤装の損傷くらいは治せますよ。もう少し損傷の規模が大きいと無理でしたが」
「そうか。話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。見せてはくれないか」
「はいっ! 勿論です!」
俺は立ち上がり、明石と共に赤城、翔鶴姉の下へと歩み出した。
跪いた明石が大きく息を吐き、「工作艦明石、参ります」と言うと同時に、その背に艤装が現れる。
隣に立っていた俺の股間に勢いよくクレーンがめり込んだ。
おごォォォオオッ⁉ 直撃や! そこは俺のタマタマ、タマタマやで‼ 気にしといてや!
一瞬白目を剥いてしまったが何とか堪えた。
「あっ、クレーンにあまり触ったら危ないですよ?」
「い、いや……大丈夫だ、問題ない」
くそっ、こっちの台詞だ。俺のクレーンが危ねぇんだよ。赤城達だけでなく、提督も少し修理した方がいいみたいですね。
泊地修理の見学にかこつけて翔鶴姉の生パンツと生足を思う存分見学する作戦に利用してなかったら怒鳴り散らしていたところだ。
「すいません、明石さん。いつもお世話になります」
「よろしくお願いしますね」
「最大五人まで同時に修理できます。今回は二人同時に行いますが、まずは損傷の少ない赤城さんからメインでいきますね」
「うむ」
翔鶴姉は後のお楽しみにしておこう。俺は赤城の艤装に注目する。
それに、艤装やら、艦娘の仕組みについても、それはそれで興味があるのだ。
もちろん翔鶴姉の生パンツと生足に一番興味があります。
明石が艤装のレバーのような部分を握り、何やら操作すると、クレーンが赤城と翔鶴姉の足部の艤装に接続された。
機械音が鳴り響き、明石の艤装が光り出す。その光は、クレーンを通じて赤城と翔鶴姉に流れていく。
俺は思わず、その不思議な光景に見惚れてしまった。
「どういう仕組みだ?」
「ご存じの通り、私達の艤装は資材、つまりエネルギーで構成されています。通常、艤装が損傷した場合は入渠、つまり資材を補給する事で妖精さんが修復してくれますが、私は自身のエネルギーを直接受け渡す事ができるんです」
「それが明石の唯一無二の能力、泊地修理というわけか」
「えへへ、その通りです」
なるほど。
入渠、というのも、『クソ提督でもわかるやさしい鎮守府運営』に書いてあったが、いわゆる艤装の損傷を修復する事らしい。
ついさっきまで『
艤装の修復というのは、工廠に沢山いた妖精さんたちが行うのだろうか。
オータムクラウド先生の作品内では、入渠というのは風呂に入ったり食事したりと、羽を伸ばしているようにしか見えなかったが。
気になったので、俺は明石に訊ねたのだった。
「入渠というと、工廠にいた妖精たちが行うのか?」
「はい。資材、つまりエネルギーを破損した艤装に直接供給し、修理してくれます。そしてもう一つは、艦娘自身が英気を養う事で、艦娘自身の傷を癒し、時間をかけて艤装を修復する事ができます」
「英気を養う、とは」
「お風呂に浸かって身体を休めるのが一番ですかね。ここのお湯には豊富に資材が含まれていて、肌からエネルギーを吸収できるんです。それに、広いお風呂で足を伸ばして肩まで浸かれば、疲れも飛んでいっちゃいますしね!」
「ふむ。お前達の言う補給と入渠はどう違うのだ」
「あー、私達艦娘は戦闘行為によって、弾薬や燃料などの資材を消費します。これを再び身体に取り入れるのが『補給』です。一方で、戦闘行為によって艤装や艦載機、そして私達の身体が損傷した時に、それを再構成する為の資材を取り入れるのが『入渠』だと思ってもらえれば良いかと」
「なるほどな。ちなみに、お前達は資材さえあれば飯を食わずとも行動できるのか」
「あはは、食事は大事です。何といいますか、艦娘は基本的には人間と変わらなくて、その部分の活動には食事や睡眠が必要なのだと思っています。そして、プラスアルファで艦娘としての性能を発揮する為には、資材が必要といったような考え方なのかなと」
「ふむ。資材の枯渇した艦娘は人間と変わらぬとは聞いていたが……」
「そうですね。たとえ資源の補給が満タンでも、お腹が空いていたり睡眠不足だったりすると、結局は十分なパフォーマンスが出せないのだと思います。そういう意味では、今の私も万全ではありませんが……」
「何っ、寝不足か。そう言えば目の下にクマがあるな」
「い、いえ、多分これからは大丈夫だと思います」
そう言って顔を背けてしまった明石の言葉を思い返し、俺は一人で納得した。
なるほど、そういう事だったのか。
オータムクラウド先生の作品は間違っていなかった。
こんな細かい部分まで描写するとは、オータムクラウド先生凄すぎだろう。一体何者なのだ。
つまり、腹が減っては戦は出来ぬ、の言葉通りというわけだ。
資材、エネルギーが不足した艦娘はただの人間と変わらない。
深海棲艦と戦うには、艦娘達を飢えさせてはいけない、疲労を溜めさせてはいけないという事だろう。
艦娘としての資材の補給と共に、人間としての食事や睡眠をしっかり取らせる。
なるほど、至極当たり前の事ではあるが、これはなかなか重要な事なのかもしれない。
人間が疲労回復する時と変わらない。
よく食べて、よく休み、よく眠る。英気を養い、気が身体に満ち足りる事で、万全の状態となるわけだ。
やはり艦娘も人間も変わらないという事だ。俺が艦娘に欲情するのも致し方無し。
そう言えば、明石がさっきやっていた通り、艤装はその意思で出し入れできるようだが……。
俺はもう一つ、気になっていた事を訊ねたのだった。
「ちなみに、お前達の纏っているその装束は、何なのだ?」
「あっ、これはですね、艤装とは違いますけど、似たようなものです。私達のエネルギーから作られているバリア的な装甲というか。ちょっとやそっとの砲弾なら防ぎますよ」
「これが損傷した場合はどうなるのだ」
「こちらは妖精さんに修理してもらうまでもなく、先ほどお話しした通り、艦娘が英気を養うかエネルギーを補給する事で、自動的に修復されますね。ほら、こんな感じに」
明石が掌で示したものを見れば、先ほどまで薄い桃色のパンツが見えていたはずの翔鶴姉の袴は、綺麗に修復されていたのだった。
なるほどな。綻び一つ無い。いい仕事してますねぇ。グッジョブ。
じゃねェーーーーッ!
明石お前何してくれてんの⁉ 工作艦だからって、何の工作してんの⁉
俺が入渠や補給の仕組みに夢中になってる間に、俺の桃色海域を綺麗さっぱり侵略しやがった。まさに裏工作ってか。やかましいわ。
くそっ、俺の知的好奇心が、恥的好奇心を上回ったとでもいうのか。馬鹿な。俺に限りそんな事は無いと思っていたが……俺も人の子という事か。
「提督は勉強熱心なんじゃねぇ」
駆逐艦も有りだ。
私はそう判断せざるを得ないのだった。
浦風が俺と明石のやり取りを眺めていてか、微笑みながらそう言った。
「えぇ。机上の知識だけでなく、必要とあらば部下に教えを乞い、積極的に実学を身に着けようとするその姿勢……浜風、感服しました!」
「以前の司令とはどうやら違うようだな。この磯風も認めてやろうではないか」
「いよっ、提督、あっぱれ!」
浜風、磯風、谷風にも褒められた。
う、うむ。その通りだ。
俺は翔鶴姉と赤城の泊地修理がてら色々学びたかったのだ。そういう事にしよう。
まぁ、いざとなれば『艦娘型録』でいつでも翔鶴姉は待っていてくれる。パンツは逃げない。
軽く咳払いをして俺が席に戻った所で、執務室に長門と加賀が戻ってくる。
長門は、今度は俺の目の前まで直接歩み寄り、単刀直入に言ったのだった。
「待たせてしまって大変申し訳ない。早速本題に入るが、今後の予定をお聞かせ願いたいのだが」
「今後の予定か……ふむ」
こいつ、不器用すぎるだろ……。
これでは歓迎会に誘おうとしているのがバレバレだ。
さっきまで俺は疲れたから早く寝ようと思っていたが、歓迎会となればもちろん話は別だ。
フフフ、むしろ今夜は眠れない。
俺はなるべく、歓迎会の事を気にしていないように振舞いながら、答えた。
「特に予定は無いな」
長門は一瞬、戸惑ったような表情を浮かべた。
え? 何? 予定あった方がいいの?
エッ。もしかして、俺が予定あるから歓迎会は開かなくてもいいって言って、中止になるのを期待してたとか。
マ、マサカァ。
一瞬、俺は冷や汗をかいたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
加賀が長門の肩を叩き、俺に歩み寄ってきた。
「つまり、全ての準備や段取りは、私達の判断に任せるという事でよろしかったでしょうか」
その通りだ。というか主役の俺に手伝わせる馬鹿がどこにいる。
何だ? もしかして提督は艦娘の指示役だから、自分の歓迎会の指示もするのが鎮守府では普通なのか? 何だそれは。
よくわからんが、とにかく加賀は歓迎会の幹事なのだろうか。長門に呼び出されていたという事は、そうなのだろう。
準備も段取りも俺が指示をする気は無い。迎え入れる側がする事だ。
しかし加賀は随分大人しくなったな。俺を睨みつけていた青鬼の目つきはどこへ消えた。
あれだけ言ったのに、まださっきの失敗を気にしているのか……仕方ない。今日のMVPだしな。褒めて、励ましてやろう。
「ほう……流石だな。私の考えている事が理解できているとは」
「いえ、このくらい……なんともないわ」
お前ホントしおらしくなったな。
今まで失敗らしい失敗した事なかったのだろうか。赤城も翔鶴姉もそんなに負傷していないのにこの落ち込みようは。
歓迎会にまでこのテンションだと気が滅入る。何とか気持ちを切り替えてほしいものである。
「それでは提督、これから艦娘全員に召集をかけ、話し合いを行いたいと思いますので。失礼します」
「うむ。期待しているぞ」
楽しい歓迎会になるように期待を込めて、俺は加賀にそう言ったのだった。
◆◆◆
艦娘が全員出ていき、一人きりになった執務室で、俺は大きく息を吐いた。
つ、疲れた……一日中演技するというのがこんなにも体力を消費する事だとは。
妹達から見て、俺は上手く本性を隠す事が出来ていただろうか。
内心は全然自重できていなかったと自負しているが、清潔感など身だしなみはどうか。
久しぶりに仕事らしい仕事をした。人と接するという事自体がかなり久しぶりな事もあり、楽しくもあったがそれ以上に疲れてしまった。
もうこのまま眠ってしまいたいくらいだ。
しかし、俺の求めていたシチュエーションはここからが本番だ。
俺が主役の歓迎会である。
部下である艦娘たちは必然的に俺に挨拶をしに来る事になり、挨拶がてら酒を勧める事も出来る。
近年パワハラとアルハラ、おまけにセクハラが騒がれているので、もちろん俺も露骨な事はするつもりは無い。
ただ、艦娘たちもわかっているだろう。上司に注がれた酒は、飲み干さねば失礼だと。
体質的に酒に弱い艦娘がいるかは定かではないが、それはもうしょうがない。そういう者には無理に酒は勧めず、逆に俺が酒の力を借りて積極的にスキンシップに励もうではないか。
もちろん酒が入れば隙も生まれやすい。まさに酒池肉林というわけである。
駆逐艦達は未成年に見えるからジュースにしておこう。見た目が未成年の艦娘は二十時には提督命令で部屋に帰らせ、そこから先は大人の時間だ。
何だか先ほどからの浦風達の態度を見ていると、案外俺は信頼されているような気がするしな。
ちょっとくらいお触りしたところで、浦風なら甘いボイスで「こぉら、どこ触っとるんじゃ!」と言うくらいで許してくれそうだ。
い、いや、浦風は駆逐艦。浦風は駆逐艦。俺のハーレムギリギリ対象外。
そう考えると、浦風はともかく、龍驤が何を言ったのかは知らないが千歳お姉や千代田も俺の事を信頼してくれたような感じだったし。
これは、もしかして今夜、いけるのではないだろうか。
俺も酒に酔ったふりをすれば、先ほどまでは難しかったスキンシップも許されやすいだろう。
酒の勢いで、先ほどまでのように勇気を振り絞る必要も無いと思われる。
次の日に何か言われても、「酔っていて記憶にございません」の一言で逃げられる。
たとえ翔鶴姉の格納庫をまさぐろうとも、飛行甲板を撫でまわそうとも、酔っていて記憶にございません。
おぉ、俄然楽しみになってきたではないか。
先ほどまで眠りたかったのが嘘のように目がギンギンに冴えてきた。もちろん股間もギンギンである。
それにしても、大淀達は一体何をしているのだ。
俺は机の上に海図を開き、考える。うーむ。駄目だ何もわからん。
どこかで道草を食っているんじゃないだろうな。
全員揃わねば歓迎会も興が削がれるというものだ。
全員揃わねば、と言えば、先ほど執務室の前の廊下を通っていた駆逐艦達のものであろう会話が聞こえてきた。
扉越しだったのであまり聞こえなかったのだが、どうやらこの鎮守府近くに敵艦隊が現れたらしい。
当然、迎撃に向かわねばならないが、そうなると、その者達は歓迎会には参加できなくなる。
まぁ、この鎮守府近海に現れる深海棲艦など雑魚しかいないという事は、ここ一か月の報告書からよくわかっている。
軽巡洋艦は全員まだ帰ってきていないから、適当な駆逐艦を六隻ほど出撃させればいいだろう。潜水艦でもいい。
それ以上のメンバーのほとんどは俺のハーレム対象内だ。一人たりとも歓迎会に欠ける事は許されない。
俺はふと、昔の事を思い出す。
俺がニートになる前の事。
俺がまだ社会人にすらなる前の事。
そう、まだ学生だった頃、バイト先で嫌いだった上司主催の飲み会がよく開かれていたのだ。
俺はその度に、無理やりシフトを交代してもらったり用事を作って、なるべく飲み会に参加しないようにしていたのだった。
飲み会に参加しなかったのは家庭の事情というのもあるが、嫌いな上司と仕事以外で顔を合わせ、酒を注いだりご機嫌を伺うのは、はっきり言って金と時間の無駄だと思ったからだ。
昔はただの学生で、社会人を経てニートになった俺が提督か。
そしていずれは艦娘ハーレムの王か。
随分と出世したものだ。
そんな事を考えていると、執務室の扉が開いた。
先頭に立ち、大勢の艦娘を引き連れているのは長門だ。
うむ。どうやら俺を歓迎する準備が整ったらしい。
同時に、敵艦隊の対応をする面子についても話し合ってはいるのだろう。
まるでクリスマスの日のシフト調整みたいに、皆で醜く押し付け合っていたのだろうか。
俺の楽しい歓迎会の最中に敵艦隊を迎撃しなければならない可哀そうな子には申し訳ないが、これも仕事だ。頑張りたまえ。
さぁ、素敵なパーティしましょ!
俺は最大級のキメ顔で、長門に言ったのだった。
「長門、準備は整ったか」
「はっ! 敵艦五隻が鎮守府正面海域へと侵入! これより現在鎮守府内に待機する艦娘全員、総戦力を持って、これの迎撃に向かいます!」
…………エッ?
え? 何だと? 今、何て言った? 敵艦五隻に対して、ぜ、全員だと⁉
それは何のサプライズだ。サプライズの方向性を間違えてはいないだろうか。
ど、どういう事だ。ありえんだろうそんな事は。袋叩きにも程がある。
鎮守府近海には雑魚しかいない。
あまりにも不自然ではないか。
ま、まさか、過去に俺がそうしていたように、俺が主役の歓迎会に参加したくなくて、不自然とわかっていながら全員が敵艦の迎撃に志望したとでも――!
俺がそうだったように、仕事以外で顔を合わせるのは時間の無駄だと――!
長門お前、何いい顔してるんだ。お前幹事だろう。何を率先して敵艦の迎撃を仕切っているのだ。お前が仕切るのはそっちじゃない!
加賀、赤城、お前らさっきの誓いはどこへ消えた。俺に刺さってんぞ、必殺の矢が! 俺を必ず殺すつもりだったのか、一航戦!
千歳お姉、千代田……私達が嫌っているのは提督には内緒よって事だったのか……! 私達が嫌っている事は提督には黙っていて下さいねって事だったのか!
浦風、お前もか! 先ほどまでの俺への笑顔は嘘で、裏ではほくそ笑んでいたとでもいうのか。先ほどまで俺が対応していたのは浦風ならぬ裏風だったとでもいうのか!
浜風、先ほどの感服は何処へ!
磯風、認めてくれたんじゃなかったのか! 何だそのドヤ顔は!
龍驤、谷風……ペチャパイだけどいい奴だと思っていたのに!
瑞鶴……は分かってたけど! 俺の事信用してないの分かってたけど!
翔鶴姉、俺の、翔鶴姉……! 俺の……パンツ……! 俺の……生きがい……!
明石、お前……お前だけは信じていたのに……!
皆……皆、俺の歓迎会参加拒否⁉
「全員……全員だと?」
俺は衝撃のあまり、そう漏らしてしまった。
そんな俺に、長門は微笑み、こう言ったのだった。
「あぁ。これが提督の人望だと言うことだ」
ウォォォォォォオオァァァアアアア‼‼
俺は心の中で叫んだ。
長門お前いい加減にしろよ……! 何をいい顔で微笑んでんだ……! 男だろうと大人だろうと傷ついたら普通に泣くんだぞ……! あと数秒で泣くぞ俺は……!
確かに俺は着任初日にしてしょうもない事ばかり考えていたし、初っ端から出撃大失敗しちゃったけど……俺に何か落ち度でも……⁉
ま、まさかあの視線も、思考も、全てバレていたとでもいうのか……!
妹達の言う通りだったとは……見られている側は完全にわかると……!
俺が何気なく声をかけたり、間違いだらけの指揮を出したり、あるいは視線を向けたりするたびに、皆はこう思っていたのか。
声をかけた時には――。
『提督……お前ちょっと、ウザい!』
『うわっ、キモッ! なんか、ヌメヌメするぅ⁉』
『……何? 気が散るんだけど。何がしたいの?』
間違いだらけの指揮を出した時には――。
『チッ、なんて指揮……あっ、いえ、なんでもありませーん、うふふっ』
『ったく……どんな采配してんのよ……本っ当に迷惑だわ!』
『なにそれ⁉ 意味分かんない』
視線を向けた時には――。
『こっち見んな! このクソ提督!』
『こんの……変態野郎が!』
『見ないで、見ないでぇーっ!』
死ねる。
普段から妹に似たような言葉を投げつけられ、鍛え上げられていたはずの俺のメンタル装甲は容易く粉砕された。
肉親からの言葉と他人からの言葉で、こうも破壊力が違うとは。
真面目そうに敬礼していた時、俺に笑顔を向けてくれていた時、皆は心の中で……!
この嫌われっぷりは尋常じゃねェ……! マジパナイ……!
ま、まさかの人望ゼロとは想像していなかった。そしてこの後も永遠のゼロのままなのだろう。全米が泣いた。
これではハーレムどころではない……終わった。俺の提督生活は、僅か一日で終わりを告げた。
ついに待ちに待った夜戦だと胸を躍らせていた俺だったが、まさか本当に艦娘達が夜戦の方を優先するとは思ってもいなかった。
素敵なパーティどころの話ではない。参加者は俺一人。
俺はもうやけくそになって、机を両手で叩きつけ、全員に向かって叫んだのだった。
「――全員出撃! 我が鎮守府の全身全霊を持って、敵艦隊を撃破せよ!」
「了解ッ!」
勢いよく全員が出て行った後の、独りぼっちになった執務室で、俺は久しぶりに声を上げて泣いた。凹む。