全然話が進みませんが…。
ーー苗木視点ーー
朝を伝える校内放送により、苗木は寝ぼけ眼をこすりながらもどうにか起き上がる。
(朝、か…。窓が封鎖されてるからなんだか調子が狂うな…。それにしても、一人目の犠牲者とその後に行われる何かしらのイベントが終わるまでの間、本当にみんなとここで共同生活をするとは…。)
(取り敢えず…、江ノ島さんに指示されて誰かがアクションを起こすってことなのかな?ボクの台本には詳しく書かれていなかったし。)
(まあ、先のことはまだいいか。舞園さんを誘って朝食でもとろうかな。)
ひとまず朝食をとるために舞園の部屋に向かう苗木。
そしてインターフォンを押し、待つこと数秒…舞園は出てきた。
「あ、苗木君。ちょうどよかった!実はお願いしたいことがあるんです…。」
「お願いしたいことって…?」
「護身用の武器を探しに行こうと思っていたんですが、一緒に探してもらえませんか?」
「…もちろんいいよ。」
(護身用か…。確かに、実際にこんな環境下だったらそういう考えも出てくるか…。確か体育館前のショーウインドウに使えそうな物があったような…。)
「体育館前のホールですね。行きましょう!」
「えっ、声に出てた?」
「エスパーですから…。冗談です。ただの勘です。」
(どうして舞園さんにはボクが何を考えてるか分かってしまうのだろうか…。そんなに表情に出てたり、単純な思考回路だったりするのかな?)
舞園がエスパーを発動できるのは、苗木だけである。
それは舞園が苗木をストーk…もとい、観察を続けた成果に他ならなかった。
(ふぅ…、体育館前のホールに来たわけだけど、77期生の先輩方が用意した小道具があるな…。なんだかここに似つかわしくない物まで置いてあるけど…。うーん、使えそうなのはこの模擬刀くらいか…。)
ショーウインドウを見渡し、模擬刀をとろうとした苗木だが、
「うわ…!ちょっと触っただけなのに、金箔の塗装が…。」
「すぐに汚れてしまいますね。護身用にはちょっと…。」
「ないよりはマシだけど…。」
「でしたら、苗木君が持って帰ったらどうですか?今のお部屋は飾り気がありませんし。」
「じゃあ、そうしようかな。」
「それがいいと思います。ここにはもう…護身用になりそうな物はありませんね…。」
「すぐには必要ないと思うよ…。それに、そうなったとしても、ボクが守るからさ…。」
苗木はとっさに口から出た言葉を思い出し赤面する。
一方で舞園は優しい笑みを浮かべ、苗木に感謝を告げた。
「苗木君が味方になってくれるのなら、もう大丈夫ですね!じゃあ、武器探しはやめにして…うーんと、少しお話でもしていきましょうか。」
「うん、いいよ。今後のこととかでも話す?」
「そうですね……、唐突ですけれど…、苗木君には〝夢〟とか…ありますか?」
「夢…か。うーん、舞園さんは?」
「私ですか?私は…私の夢は…、幼い頃からアイドルに憧れていたんです…ーーーーー」
舞園は自らの夢を語った。
心の支えとでも呼ぶべき、幼き頃からの夢を……。
*****
ーー舞園視点ーー
(一日目が終わり、二日目の撮影が始まりました。実際に泊まり込むなんて、なかなかリアルを追求しますね!嫌いじゃありません。それより、今日から〝江ノ島さんの台本〟通りに進めていかなければなりません。本当に泊まり込んでいる以上、私の失敗はみなさんへの迷惑となってしまいます。)
(まずは、『苗木の部屋に体育館前にある模擬刀を設置する』……これをやらなければなりませんね。そうしなければならない理由は、台本を読み進めていけばわかります。苗木君に罪をなすりつけるための演技をするのはとても辛いことです…。ですが、私はどうしてもやり遂げなければならないんですっ!苗木君との未来のためにっ!!)
***
(無事に体育館前のホールに誘導出来ました。どうやら模擬刀も持って帰ってくれるみたいですね…。ここまでは問題ありません…。)
(うーん…。暫くはすることがありませんし、苗木君と少しお話でもしましょうか…ーーー。)
(そういえば、苗木君とは色々なお話をしましたけど、私がアイドルになろうとした切っ掛けについては話してませんでしたね…。今思えば、苗木君は私に気を遣ってこの話をしないでいてくれたのかもしれません…。)
(苗木君は優し過ぎます。もっとたちが悪いのは、私をはじめとして周りのみなさんに助けを求めないことですっ!!何度も何度も頼ってほしいって言っているのにっ!!)
舞園は苗木に出会い、自らが変わる前までの自分の気持ちを語った。
苗木と深く関わる前の、荒んだ時期のことを話していた。
江ノ島は舞園に台本にはない別の指示も出していた。
それは『苗木との中学時代の記憶がまるまる抜けている』というモノであった。
それは、江ノ島が苗木の〝希望の伝染の特徴〟を理解していたがための処置であった。
苗木は人の心にひたすら優しく寄り添い続ける。
いつだって優しいが、間違ったことをすれば怒りもする。
本当に真摯に寄り添い続け、荒れた心を溶かしていく。
そうすることで苗木は人に〝希望〟を与えていた。
舞園を筆頭に、78期生の7人はこうして〝苗木誠〟に影響を与えられていた。
江ノ島はそれを理解し、最も苗木に影響を受け、強い〝希望〟を有している舞園を、自らの計画から排除した。
しかし、苗木に影響を受けた数名は最後まで残るようにも計算をしていた。
適当な理由の裏側には、れっきとした計算が成されていたようである。
舞園は思考を巡らせる。
もしも苗木と深く関わる事なくアイドルを続け、突然異様な場所に閉じ込められていたのなら…、と。
(私が苗木君と出会ってなければ、きっと〝自分の存在〟や〝居場所〟に依存したままだったんでしょう…。そしてここに閉じ込められたのなら…、私はここいる誰かを殺してまで……〝卒業〟しようとしたんでしょうか。)
舞園は心の中で、改めて苗木に感謝した。
(苗木君…、私をあの〝絶望〟から救い出してくれて、本当にありがとう…。)
*****
ーー苗木視点ーー
(舞園さんの夢の話はとてもリアルに感じた。きっと本心なのだろう…。手に入れた仲間を、登り詰めた場所を…、必死になって叶えた夢が壊れてしまうことを…、恐れている。)
(こういう状況になったのなら、ボクは何を真っ先に考えるんだろう…。やっぱり家族の事……なのかな。)
その後、2人は食堂に移動し食事をとった後に解散した。
(模擬刀を飾ってみたけど…、違和感しか無い…。)
模擬刀を部屋に置いた苗木は一通り校舎を探索し、その後舞園と中学時代の話をしながら特に何も無い二日目を終了した。
三日目も同様に、何も起きることは無かった。
(暇つぶしになるような物が無い中で一日過ごすのって、意外と大変だなぁ…。明日こそ何か動きがあればいいけど…。)
苗木はこれから起こる展開を予想出来るはずもなく、安らかに眠りについた。
*****
ーー江ノ島視点ーー
(さて、そろそろ始めようか…。苗木…、あんたの絶望した表情を拝めるの、楽しみにしてるから…。うぷぷぷぷ。)
*****
ーー苗木視点ーー
四日目の朝、石丸によって78期生全員が食堂に集められた。
それは親睦を深める意味合いと、ここ数日の成果報告を行うことが目的であった。
一同が黒幕の推測やこれからの事を話していると、そこに……
「…アハハハハハハハハッ!!外からの助けなんかあてにしてんの?」
いつものごとく唐突にモノクマが現れる。
「警察なんかあてにするより、ここから出たいならさぁ…、殺しちゃえばいいじゃーん!」
「それにしてもオマエラ、ゆとり世代の割にはガッツあるんだね…。ボクはもう飽き飽きだっていうのにさッ!!」
「…そうだった!!ボクとしたことが大切なことを忘れていたよ。場所も人も環境も何もかも必要な物は揃ってるのに、どうして殺人が起きないのかと思ったら…、〝動機〟が必要だったね!!」
モノクマは言いたい事だけを言い、「見せたい物がある」と言い残して食堂を去って行った。
その後、苗木と舞園の捜索により、視聴覚室に全員の名前が書かれたDVDが見つかった。
舞園が他の生徒達を呼びに行く間に、苗木は自分の名前が書いてあるDVDを箱から取り出し、再生する。
(これは…、江ノ島さんが用意した物なのか?)
苗木がDVDを再生すると、そこには……
(えっ…、お父さんとお母さん、それにこまるまで…。)
苗木は久しぶりに見る自分の家族に頬を緩ませる…が、映像が暗転した次の瞬間…、そこに映っていたのは荒れ果てた部屋であった。
苗木は言葉を失う。
そして、モニターからモノクマの声が流れ出す。
「希望ヶ峰学園に入学した苗木誠クン…。どうやらご家族のみなさんの身に何かあったようですね?では、ここで問題です。いったいご家族には何があったのでしょうかっ!?……正解は〝卒業〟の後で!」
(こんなの…、悪ふざけにしたってやり過ぎだ!)
監視カメラの向こうにいる江ノ島に怒鳴ろうとしたその時、他の生徒たちを連れた舞園が視聴覚室に入ってくる。
顔色の悪い苗木に声をかける生徒達。
その後、見覚えの無いダンボール箱から自分の名前が書いてあるDVDを取り出し、次々に再生していく。
映像を見た生徒達の顔色が変わるのに、時間はかからなかった。
「これがモノクマの言っていた〝動機〟ね…。ここから出たいという気持ちを煽っている…。」
霧切やセレスなどは冷静に状況を判断していた。
苗木も気持ちの整理をつけ、どうにか冷静になる。
映像を見終わった生徒達が様々な反応を示す中、苗木は舞園に声をかける。
「…舞園…さん?」
彼女の反応は無く、苗木が肩に手を置いた瞬間……、
「やめてッ!!」
舞園は苗木の手を振りほどき、どこかへ走り去っていった。
*****
ーー舞園視点ーー
(いよいよ四日目ですね…。ここからは絶対に失敗してはいけません!)
(今日中にはモノクマさんが〝動機〟をみんなに見せるみたいですが…、いつそのイベントが発生するか分からない以上、気を緩めてはいけませんね…。では、改めて今日の段取りを確認しておきましょうか。)
(まず、モノクマさんのお話で〝動機〟の存在をみなさんが把握します。その後私は『動機の発見が滞るようなら、全員を視聴覚室まで誘導する』、これを実行します。そして次は、『DVDを見た後に怯えた反応をしてその場を立ち去る』、取り敢えずはここまででよさそうですね…。そして次の勝負は夜時間です…!)
段取りの確認を終えた舞園は、石丸の呼びかけに応じ食堂へと向かった。
***
(こんな映像…。私は大丈夫ですが…、みんなは…。)
舞園は他の生徒達を見渡すが、大半の生徒は顔色が優れていないように見えた。
(ここまでする必要はあったんでしょうか…?……考えるのは後です。私のするべき事をしましょう!)
舞園は頭を切り換え、江ノ島の台本通りに進めていく。
***
(適当な教室に入ってしまいましたが、どうしましょうか…。この後も怯えた振りをしなくてはいけないみたいですし…。)
しばし考え込んでいると、息を切らせた苗木が入ってくる。
(苗木君…。私のこと、走ってまで捜してくれたんですね。ごめんなさい…全部演技なんです…。)
苗木は本気で心配していた。
それを察した舞園に少しの罪悪感が襲う。
「ま、舞園さん…、大丈夫…?」
「大丈夫…な訳ないじゃないですか…。なんで私たちがこんな目にッ!どうしてこんなに酷いことをッ!今すぐここから出してよッ!!」
「落ち着いて!舞園さん!」
「気持ちはわかるけど…、とにかく冷静になって。これは……、」
〝これは映画撮影である〟そう言おうとした苗木であったが、急に舌が痺れてそれ以上言葉を発することが出来なかった。
「……冷静でなんかいられませんッ!だって……ッ!」
どうにか喋れるようになった苗木は、仕方なく設定に沿って舞園をなだめる。
「助けが来なくても、ボクがここからキミを出してみせる!」
そう言い放った苗木の胸に、舞園は顔をうずめる。
「どうしてこんなことに…。殺すとか殺されるとか…もう耐えられないッ!」
暫くして落ち着きを取り戻した舞園は、涙を拭きながら苗木にお願いをする。
「苗木君だけは…何があっても…、私の味方でいてください…。」
「…当たり前だッ!ボクはいつまでも舞園さんの味方だよッ!!」
その後、いい雰囲気の2人だったが、モノクマに邪魔をされ教室を後にした。
舞園を部屋まで送り届けた苗木は舞園の無事を他の生徒達に伝え、そのまま自分の部屋に帰っていった。
(やっぱり苗木君は優しいですね…。自分だって酷い映像を見せられたはずなのに…。)
(…先に謝っておきますね…。ごめんなさい…苗木君…、これから何が起きようと…決して〝絶望〟しないでください。私は信じていますよ…苗木君はとても強い人ですからっ!)
そして舞園は再び今後のシナリオを確認し始めたーーーーー。
*****
ーー苗木視点ーー
苗木は部屋に戻り先程までのことを考えていた。
(冷静なはずの舞園さんが凄く取り乱してた…。それに、これが映画撮影だってことを言おうとしたら急に喋れなくなった…。設定を無視した発言はするなってことか。江ノ島さんがこれから何をしようとしているのかまったく予想が付かない…。それにさっきの舞園さん…、あれは演技なのか?正直ボクには判断できない。くそっ!どうすれば……。)
思考の海に沈み、いつの間にか眠りについていた苗木であったが、インターフォンの音が彼を現実へと引き戻す。
(……眠ってたのか。もう夜時間が近いけど、誰だろう…?)
フラフラと扉まで進み返事をしたが、扉の向こうの相手がわかると苗木の頭はすぐに覚醒する。
「ごめんなさい…こんな夜遅くに…。」
「ど、どうしたのこんな時間に…。何かあったの…?」
「少し変なことがあって…。」
そう言った舞園の体は小刻みに震えていた。
そして、青ざめた顔の彼女は何があったのかを説明した。
「さっき…部屋にいたら…、急に部屋のドアがガタガタと揺れて…。誰かが無理矢理ドアを開けようとしているんじゃないかって…!」
(そんな…。いくらあの映像が酷い内容だったとしても、これはあくまで映画撮影だ…。取り乱したとしても誰かを殺そうとする人なんていないと思うけど…。でも…舞園さんは確かに震えている。どうにかしてあげなくちゃ…!)
「じゃ、じゃあさ…、今晩はボクの部屋に泊まれば?そうすれば怖くないでしょ?」
「えっ?」
「校則では他の人の個室で寝てはいけない、なんて書いてなかったし…。」
「苗木君と2人で…ですか?」
若干顔を赤らめながら聞き返す舞園に、苗木は慌てて言い直す。
「あっ!ご、ごめんッ!やましい気持ちなんて全然無くって!!」
「いえ…私も嫌という訳では無くて…。…あの…、もしよかったら、一晩だけ部屋を交換してくれませんか?」
その後、苗木はシャワールームのドアの開閉方法だけを伝え、お互いの部屋の鍵を交換し舞園の部屋へ向かった。
舞園の部屋に入った苗木は夜時間を告げる校内放送と共に、舞園が使っていたベッドへ横たわる。
(こんなことが舞園さんのファンに知られでもしたら…、それこそボク…殺されるんじゃ…。)
先程までの舞園とのやりとりをすっかり忘れてしまった苗木は、ほのかにいい匂いのするベッドに雑念を抱きつつも、なんとか寝むりにつくのであった。
***
朝を伝える校内放送で目を覚ました苗木。
昨日の石丸の提案により、朝食は全員でとることを約束していた。
そのため苗木は食堂へと向かう。
そして食堂には、規則正しい生活を送っている生徒が既に数名いた。
その後、多少遅れて少し時間にルーズな生徒達が入ってくる。
さらにその後、他人のことを気にしたい生徒達が食堂へと顔を見せた。
しかし……、
「まだ、揃っていないようだな…?」
(あれ…?舞園さんならもう食堂に来ていてもおかしくないのに…。)
そこに十神が顔を出す。
「…どうかしたのか?」
「おぅ、十神…。オメェ、舞園を見なかったか?」
「俺は部屋からここに一直線にきた…。知らんな…。」
普段の彼女ならば、もうとっくに来ているはずだという会話が飛び交う。
苗木は昨日の舞園の様子を思い返す。
(舞園さん…。何だか嫌な予感がする…。)
「ボ、ボク…ちょと様子を見てくるよッ…!」
苗木はすぐに食堂を飛び出し、舞園がいるであろう部屋に向かう。
鍵のかかっていない扉を開け部屋の様子を見る苗木。
そこにはーーー荒れ果てた景色が広がっていた。
「な、なんだよ…これ…ッ!?」
動揺しながらも部屋の中を見渡す苗木。
しかし舞園の姿は見つからない。
そして苗木はシャワールームの中を覗き込む。
そこには……、
『腹部を包丁で刺され、血まみれで横たわる〝舞園さやか〟』
……が確かに確認できた。
(な、なんだよこれ…。う、嘘だろ…。こ、こんなのってーーーーー)
苗木は、自分も気づかぬうちに悲鳴を上げていた。
そして苗木の意識は、ここで途切れた。
ーーウサミよりーー
ミナサン、こんにちはでちゅ!
なんだか怪しい雰囲気になってきまちたね。
それでもあちしはあちしの役目を果たちまちゅよ!
以下ウサミファイルより抜粋
・舞園は完全に江ノ島のシナリオ通りに動いている模様。
・江ノ島は意図的に舞園を第1の犠牲者に仕立てた模様。
・舞園は苗木により強い〝希望〟を持っている。
・モノクマによる〝動機付け〟が行われる。
・〝舞園さやか〟の死体は本物?
苗木くんが〝超高校級の希望〟と呼ばれるのは、その精神力とか心の在り方によるものなんでちゅね!決してあらゆる才能を持っているから〝超高校級の希望〟と呼ばれるわけではないんでちゅ!
それではミナサン、また今度も会いに来てくだちゃいね!