『ありがとう』をキミに   作:ナイルダ

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ミナサンこんにちは。
今回も独自設定だらけです。
あのキャラのことも言及しておりますので…。
一応注意喚起しておきます。


chapter5(裏) 人工キボウ

ーー???視点ーー

 

〝カムクライズルプロジェクト〟

 

それは人工的な手術により、神座出流のような〝万能の天才〟を生み出すという計画である。

そして、この計画は〝私立希望ヶ峰学園〟にて、実際に行われていた。

しかし、成就することはなかった。

被験体である〝日向創〟に〝カムクライズル〟の人格と能力が発現し、計画を最終段階に移すその直前に〝江ノ島盾子〟によって乗っ取られたのである。

 

では…その〝最終段階〟とは?

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「そう…〝人の精神に干渉する力〟を、アタシたちは持っているのよ。」

 

「必要な情報は音だけ。

アタシ達の口から発せられる音に、〝パワー〟を混ぜる。

そして生まれてくる言葉は、世に言う〝言霊〟ってやつね。

でも、それは正しくない。

何故なら、アタシたちの言葉は人の心を打ち抜く。

誰かが決めた尺度で言うところの、〝良くも悪くも〟……ね。」

 

 

「故に、アタシはこの〝パワー〟を、〝言弾〟と呼ぶのよ。」

 

 

 

 

 

学園内を撮影するために設置されたモニターとスピーカーにより、処刑中の情報が外部へと流れる。

すると……

 

「うわあああぁぁぁッ!!!」

 

何処からか絶叫が聞こえる。

 

「う、うううぅぅぅッ!」

 

何処からか呻き声が聞こえる。

 

同時多発的に、不調を訴える者が現れた。

現場は、一瞬にして異常な雰囲気に包まれる。

しかし、それらの人物の共通点は明白である。

それは……

 

〝モニターの映像を注視し、江ノ島と苗木の会話を聞いていた〟

 

……ということ。

そう、江ノ島盾子が放つ〝絶望の言弾〟は、映像越し…スピーカー越しでさえ、いとも容易く人の精神を蝕んだ。

 

 

 

「音声を切るんだッ!早くッ!」

 

ミライ機関の職員達が次々と蹲っていく中、霧切仁の声が響く。

その数秒後、ミライ機関の職員の一人が音声を途切れさせることに成功する。

しかし、被害はあまりにも甚大であった。

 

「な、何が起こってるんですか!?」

 

そんな悲惨な状況の中、舞園が驚いたように目を見開いた。

他の78期生達も、ほとんど同様の反応である。

 

ミライ機関の職員のほぼ全員が大なり小なり不調を訴える中、彼等は正気を保っていた。

処刑中、苗木に語りかける江ノ島は確かに、なにか〝異様なオーラ〟を放っていた。

78期生達もそれを感じ取りはしたが、心身に異常を来すことはなかった。

 

最も、それは〝超高校級の希望〟である苗木誠と近しく、〝希望の言弾〟の影響を少なからず受けていたためであった。

 

そんな78期生の面々は、あたふたと職員達の介抱に向かう。

しかし別の場所にも、身体を震わせながら蹲る人影があるのであった。

 

 

 

 

 

77期生達である。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「う、うぅ……。」

 

ーー小泉真昼が、呻く

 

「……ち、くしょうッ!」

 

ーー九頭竜冬彦が、歯がみする

 

「あ、あぁ……。」

 

ーー花村輝々が、崩れ落ちる

 

「む、無理っス……。」

 

ーー澪田唯吹が、諦める

 

「わ、ワシは……。」

 

ーー弐大猫丸が、後ずさる

 

「な、なめんじゃ……ねぇ……。」

 

ーー終里赤音が、臆する

 

「くっ……。」

 

ーー辺古山ペコが、恐怖する

 

「もうやめてよぉ……。」

 

ーー西園寺日寄子が、涙する

 

「こ、困りましたわ……。」

 

--ソニア・ネヴァーマインドが、俯く

 

「暗黒が……、迫り来るッ……。」

 

ーー田中眼蛇夢が、焦る

 

「なんで、こんなッ……。」

 

ーー左右田和一が、震える

 

「ぼ、ぼくは……。」

 

ーー偽十神が、動揺する

 

「うえぇぇんッ……。」

 

ーー罪木蜜柑が、怯える

 

「はぁ……、はぁ……。」

 

ーー狛枝凪斗が、冷や汗を流す

 

 

 

77期生達は思い出す。

 

「そんな……」

 

閉ざされていたはずの記憶を。

 

「ボクは……」

 

忘れさせられていた記憶を。

 

「いや……ボク達は……」

 

〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟の始りの日、

 

「〝絶望〟だった……。」

 

江ノ島盾子によって与えられた傷を……

 

「あははははははははははははははははははははは!」

 

思い出す。

 

 

 

 

 

〝絶望の言弾〟によって穿たれた傷口。

それは、いつの間にか治療されていた。

しかし今、再び疼き出す。

塞がれたはずの傷口が、開いていく。

 

心が、壊れていく。

 

 

 

 

 

「みんな、大丈夫だよ……。」

 

そんな…〝絶望〟が伝染し共鳴する中、優しい声が響く。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

〝神座出流〟

 

私立希望ヶ峰学園の創設者にして〝世界の希望〟〝万能の天才〟と呼ばれた人物。

誰よりも優れ、勝っていた。

しかし、そんな人物であっても抗えないものは存在していた。

 

それは〝老い〟だ。

 

どれ程の力を持とうと、いずれは消えていく。

世界を潤滑に動かす存在は、永遠ではない。

 

だったら、永遠の存在にしてしまえばいい。

 

 

 

〝現代の科学を遙かに超えた生体アンドロイド〟

 

ーー朽ちる事なき完全な肉体

 

〝アルタ―エゴを独自に進化さたAI〟

 

ーー従順なるカムクライズルの精神

 

 

 

そう…〝カムクライズルプロジェクト〟の最終段階とは……

 

日向創に発現した〝カムクライズル〟の人格を〝AI〟にコピーし、命令に忠実になるように調整。

そしてその〝AI〟を、超高校級の生徒達が残した技術で開発した〝生体アンドロイド〟へと移植する。

 

……と、いうものであった。

 

〝死〟をも超越した存在の完成こそが、計画の完遂だったのだ。

 

最も、江ノ島盾子により完遂することなくこの計画は凍結されたのだが…。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

〝希望プログラム〟

 

それは、端的に言うのであれば〝治療薬〟と言えよう。

〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟を契機として明るみになった〝超高校級の絶望〟という存在。

そして、その〝超高校級の絶望〟が持つ能力によって精神に与えられたダメージが、自然に治癒することはなかった。

〝絶望〟と化した暴徒達は、今なお隔離されている。

その〝絶望〟に対する治療薬こそが、〝希望プログラム〟である。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「みんな、大丈夫だよ……。」

 

優しい声が、異様な空気を打ち消していく。

 

「大丈夫。」

 

狂気に呑まれかけていた77期生達は、その声の主の方へと振り向いた。

 

「絶対に大丈夫……。」

 

何の根拠もない。

しかし、その声に安らぎを覚えずにはいられない。

 

「みんな、手を繋ごうよ。ほら……」

 

 

 

差し出された手を、小泉真昼が握る。

 

「なんか、暖かい…。はい、九頭竜。」

 

反対の手で、九頭竜冬彦と。

 

「なんでオレが…。……ほらよ。」

 

そして、その繋がりは広がっていく。

 

「ぼくのを握ってくれるのかい?九頭竜くん…。」

 

ーー花村耀々へと

 

「なんでこんなキメーのと手を繋がなきゃなんないっスか!」

 

ーー澪田唯吹へと

 

「ワシとしたことが、大切なことを忘れておった…。」

 

ーー弐大猫丸へと

 

「なんか腹減ってきたぞ…。」

 

ーー終里赤音へと

 

「そうであった。私達は一人じゃない…。」

 

ーー辺古山ペコへと

 

「こんなに暖かいんだね…。」

 

ーー西園寺日寄子へと

 

「確かに、いいものですわ…。」

 

ーーソニア・ネヴァーマインドへと

 

「今こそ、夜明けの時ッ!」

 

ーー田中眼蛇夢へと

 

「おい田中ッ!そこ代われッ!」

 

ーー左右田和一へと

 

「俺としたことが、十神の名に泥を塗るところだったな…。」

 

ーー偽十神へと

 

「わ、私なんかと…。…えへへ。」

 

ーー罪木蜜柑へと

 

 

〝希望〟は繋がり、伝染する。

 

 

「あぁ……。なんて素晴らしいんだろうね……。

〝絶望〟を超えた先に在る〝希望〟が、こんなにも美しいだなんて。

ところで、ボクなんかもキミ達の輪に入ってもいいのかな?」

 

「もちろんだよ。」

 

始りと終わりが繋がれば、輪となる。

一人一人繋がってきた線が、円になる。

しかし、狛枝はもう片方の手を繋ごうとはしなかった。

それは、その場にいた全員の意思。

手を繋いだ15人は、少し離れたところにいた人物を見やる。

 

「今こうしていられるのは、キミのおかげだからね…日向クン。」

 

「狛枝、お前…。」

 

〝超高校級〟の肩書きを持たない彼。

しかし、彼は間違いなく77期生の一員であった。

 

「いいのか…?」

 

どこか嬉しそうに、日向は狛枝と手を繋ぐ。

そして、もう片方の手を……

 

 

 

 

 

〝七海千秋〟と繋いだ。

 

 

 

 

 

〝絶望〟など、そこにはない。

そこにはただ…〝希望〟が溢れていた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

誰かが言った……

 

『絶望は毒である』

 

……と。そして……

 

『希望は、その毒の治療薬である』

 

……とも、その人物は言った。

 

 

 

私、七海千秋は〝治療薬〟である。

絶望に犯された人達から〝毒〟を取り除くための…〝治療薬〟なのだ。

 

私は……人間ではない。

 

カムクライズルプロジェクトの為に用意された〝生体アンドロイド〟。

その技術を流用して作られた身体。

 

〝超高校級の希望〟の能力を解析するべく始まった〝希望プログラム〟。

そして、その成果から生まれた〝苗木誠〟の精神力や思考回路を模したAI。

それこそが私の人格の基板。

そう……

 

 

 

 

 

私は〝人工的に作られた希望〟なのだ。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

ーー???視点ーー → ーー七海視点ーー

 

私の記憶は病院から始まった。

 

男女で分かれた2つの大部屋。

 

それぞれの部屋に7人づつ。

 

私は、黒服の人達に言われるがままに、その14人と来る日も来る日も雑談をした。

 

最初の内は、全然話がかみ合わなかった。

 

意味不明なことばかりを永遠と呟いていた。

 

しかし、根気強く過ごしている内に、彼等の目に少しだけ光が宿るようになった。

 

 

***

 

 

病院で彼等と会い、何ヶ月も経った。

 

その頃には、14人全員が普通に会話をし、笑顔を見せていた。

 

彼等は、何故自分たちが病院で過ごしているのかを不思議に思っていたようだった。

 

 

 

私は、みんなの記憶に蓋をした。

〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟の始りの日、江ノ島盾子による〝絶望の言弾〟で出来てしまった心の傷。

私は時間をかけ〝それ〟を治療した。

そして……

 

 

 

〝江ノ島盾子は危険である〟

 

 

 

彼等はそんな記憶だけを残し、退院していった。

 

 

***

 

 

次の日、私は学校に行った。

 

まるで、以前からそうであったかのように。

 

14組の机と椅子から15組へと替わった教室。

 

私がいるという変化に気付かない15人。

 

どこか不安そうな顔で交流を続ける日向くん。

 

それでも、時間は流れていった。

 

穏やかな時間が、流れていたんだ。

 

 

 

しかし、事態は急変した。

 

江ノ島さんが、77期生の教室にやって来たのだ。

 

たぶん、私の短い人生の中で最も緊張した瞬間だったと思う。

 

でも良かった。

 

彼女が〝言弾〟を使うことはなかったから。

 

 

 

私はあくまで〝治療薬〟だ。

 

江ノ島盾子によって直接与えられた〝猛毒〟に対抗する力はない。

 

では、何故私は14人の治療に成功したのか。

 

それはひとえに日向くんのおかげだ。

 

苗木くんから〝希望の言弾〟を受け取った日向くんが、〝猛毒〟を少しだけ中和してくれたのだ。

 

だからこそ、私でも治療できた。

 

私の〝言弾〟は、苗木くんの劣化コピーに過ぎないから。

 

 

 

でも、それでいいの。

 

〝猛毒〟に対する〝特効薬〟はこの世界でただ一人、苗木くんだけ。

 

だからこそ、彼は〝超高校級の希望〟なのだ。

 

そう、私が江ノ島さんに勝つ必要はない。

 

〝治療薬〟にも、出来ることはあるのだから。

 

 

 

そして、78期生主演の映画撮影が幕を開けた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー仁視点ーー

 

「まったく……、恐れ入ったよ。

〝絶望の言弾〟……。

モノクマのスピーカーと校内の音声を拾うスピーカー…。

この二重のフィルターを、こうも易々と貫通してくるとは。」

 

78期生の介抱により復調した職員と、依然として〝言弾〟の影響を受ける職員が混在する中、霧切仁は音声の切れたモニターを注視し続けた。

画面にはモノクマと苗木が映っている。

 

俯く苗木と、それを観察するモノクマ。

すると次の瞬間、苗木は顔を上げモノクマを睨み付けた。

 

この時、江ノ島と同じくして、仁もまた〝超高校級の希望〟が覚醒したことを悟った。

そして、それと同時に仁は…半べそをかきながらも必死にタイピングを続ける不二咲へと目を向けた。

 

彼ーー不二咲千尋は江ノ島による占拠から現在に至るまで、学園のシステムを取り返すためのハッキングを試みていた。

しかし、〝超高校級のプログラマー〟の技術を持ってしても、未だにそれは叶わずにいた。

 

そんな彼は……

 

「ぼくが…、ぼくが弱いからッ!苗木くんがッ!」

 

己の未熟を呪っていた。

しかし、そんなことは関係ないと言わんばかりに、画面越しのベルトコンベアは苗木を〝死〟へと誘う。

 

 

 

〝絶望〟

 

 

 

この言葉が脳裏を埋め尽くさんとした時、凶報が届いた。

慌てた様子で駆け込んできたミライ機関の職員は……

 

「が、学園長ッ!」

 

最悪の報告を始めた。

 

「指示により調べておりました学園OB達の所在地ですが……

2名を除き、確認が取れました。

その、2名は……」

 

この時、最悪の推測が仁の脳裏をよぎった。

そして、不二咲の能力を持ってしても学園のシステムを奪い返すことが出来ない理由を…彼は悟った。

 

「〝元超高校級のハッカー〟。

そして、〝元超高校級のシステムエンジニア〟。

両名とも…およそ一週間程前より行方をくらませている、とのことです。」

 

報告を受け、仁は頭を抱えた。

同系統の才能がぶつかり合ったとき、その勝敗は些細なことで変わりうる。

本来ならば。

だからこそ、勝ち筋が完全に見えなくなることはない。

しかし、不二咲の焦り方と職員からの報告。

この2つのことから、仁の推測は確信へと変わった。

 

「その2人は江ノ島盾子(絶望)側……。

ソフトウェアに関する天才2人が共闘しているとなると……」

 

仁は奥歯を噛み締める。

 

「苗木君の処刑を止める術は……」

 

無力感が、押し寄せる。

 

 

 

「……ない。」

 

 

 

小さな少年が、ベルトコンベアによって運ばれていく。

彼等は、ただそれを眺めることしか出来なかった。

 

 

 




以下ウサミファイルより抜粋

・〝カムクライズルプロジェクト〟の最終目標は『死を超越したカムクライズルの誕生』であった。

・77期生が〝絶望の言弾〟の影響を受ける。ミライ機関の職員も同様であった。

・〝希望プログラム〟とは、〝絶望〟が伝染している人物に対して行われる精神治療の呼称である。

・〝七海千秋〟は超高校級達の技術の粋を集め作られた〝人工の希望〟である。故に、人間と定義することは難しいとの意見が大半である。現在詳細は非公開

・〝元超高校級のシステムエンジニア〟、〝元超高校級のハッカー〟は江ノ島盾子の味方をしている模様。

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