『ありがとう』をキミに   作:ナイルダ

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ミナサンこんにちは。
今回以降、独自設定がバリバリ出てきます。
簡単に言うのであれば、『〝超高校級の希望〟と〝超高校級の絶望〟には特殊な能力がある』といったものです。
『EpisodeO 超高校級のキボウ』『chapter4.5 江ノ島盾子のコクハク』でも少し発動していましたが…。
兎に角、今回はこの能力について言及しております。
では、何卒。


chapter5 ラストダンスは絶望と共にⅡ

ーー苗木視点ーー

 

〝ガシャン〟

 

〝ガシャン〟

 

〝ガシャン〟

 

〝ガシャン〟

 

〝ガシャン〟

 

無機質な衝突音が、遠くの方で鳴り響いている。

しかしその音は、確実に近づいている。

 

〝ガシャン〟

 

教室の様な場所。

 

〝ガシャン〟

 

中央に設置されたベルトコンベア。

 

〝ガシャン〟

 

その行く先に待ち受ける重厚なプレス機。

 

〝ガシャン〟

 

ベルトコンベアに固定され流されていく机と椅子。

 

〝ガシャン〟

 

そして、

 

〝ガシャン〟

 

その椅子に縛り付けられた小さな少年。

 

 

彼の顔からはすでに血の気が引いており、オバケもビックリする程に青ざめている。

しかし、それも無理からぬことであろう。

それは〝万物に訪れる最大の絶望〟と、言い換えることも出来る……

 

 

 

〝死〟

 

 

 

……が、すぐそこまで迫っているのだから。

 

 

***

 

 

ーー江ノ島視点ーー

 

「結局こうなるのね…。」

 

全ては、アタシの分析が見せた未来へと収束していく。

 

「なんて味気ない…、」

 

しかし、そうはならないこともあったのだ。

 

「なんて寒々しい…、」

 

それは〝希望〟が分析の中に入り込んだとき。

〝希望〟とは、〝絶望〟と同様、完全に推し量れるものではない。

 

「なんて面白味のない…、」

 

今回もそう、アタシの分析には〝希望〟が混じっていた。

ならば、推測された未来は変わるのではないか。

 

「なんてくだらない…、」

 

否。状況が違うのだ。

この〝学園〟という要因こそが、アタシの推測をより確実なものとしているのだ。

 

「なんてつまらない…、」

 

用意された巨大な〝絶望〟が、〝希望〟の入り込む余地を限りなく狭めた。

 

「なんて……、」

 

だからこそ、未来は変わらない。

ヤツはここで死ぬ。

〝絶望〟に敗れ。

 

 

 

 

 

「絶望的なのかしらね。」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー苗木視点ーー

 

霧切さんが盗み出した鍵がどこの場所の鍵であるかを調べる為、モノクマを引きつけた翌日、ボクはどこか熱っぽさを感じていた。

そんなけだるい身体に鞭を打ち、ボクは霧切さんを捜すために学園中を走り回ったんだ。

でも、見つけることが出来なかった。

そして、そんなことは関係ないと言わんばかりに、体調はどんどん悪くなっていった。

 

もし、もしあの日…彼女を見つけることが出来ていたなら…ボクの運命は、幾分か変わっていたのだろうか。

 

ボクは、そんな意味のない妄想をしながら席に着かされる。

目の前には、黒板と教卓。

後ろには、凄まじい音を響かせるプレス機。

 

そう、〝おしおき〟だ。

 

ボクは、クロになってしまったのだ。

 

 

***

 

 

確実に、死の足音が近づいて来る。

呼吸が荒くなるのがわかる。

 

そんな、〝絶望〟という言葉が脳裏をよぎるこの状況の中、拍子抜けするような〝ピョーン〟という擬音と共に、モノクマが教卓に現れた。

 

「うぷぷ……。ずいぶんと顔色がすぐれない様だね、苗木クン!」

 

聞き慣れたはずの声が、妙に心を騒がしくさせる。

 

「しかし、残念でならないよ!

ボクとしては、ここで霧切さんがおしおきされて、キミがいかに無力であるか実感して貰いたかったのに!」

 

ボクの選択は、正しかったのか。

 

「全てを知っているにも関わらずッ!

霧切さんの求める答えになんの意味もないと知りながらッ!」

 

誰かに未来を託す判断に、後悔はないか。

 

「あんな形だけの裁判に踊らされてッ!」

 

この自問自答の先に、答えはあるのか。

 

「滑稽だよッ!」

 

答えがあったとして、その答えに納得出来るか。

 

「本当にッ!」

 

あれ……

 

「私様の今までの労力が、こんなあっけなく終わりを迎えるだなんてッ!」

 

何でボク……

 

「なんて絶望的なのッ!」

 

 

 

こんなにも冷静なんだろう。

 

 

 

***

 

 

端的に言うのであれば、それは〝超高校級の希望〟の能力である。

光が強ければ強い程、影は濃くなる。

逆に考えるのならば、影が濃い程、光は強いと言えよう。

だからこそ、江ノ島盾子が作り出した巨大な〝絶望〟は、苗木誠の〝希望〟を、言ってしまえば〝精神〟を、急激に成長させているのだ。

 

 

***

 

 

恐怖が薄れていく。

 

さっきまで聞こえていたプレス機の音が小さくなっていく。

 

目の前で文句を言い散らかしているモノクマが、江ノ島さんの姿に重なっていく。

 

これは映画撮影なんかじゃない。

 

これから、本当に死んでしまうのだろう。

 

でも、頭が冴え渡っている。

 

ああ、こういうことだったのか。

 

江ノ島さんが前に、ボクのことを〝狂ってる〟と言ったのは。

 

 

***

 

 

ーー江ノ島視点ーー

 

先程から黙り込んでいる画面越しのアイツを見て、確信した……

 

「やっと、私様と対等になれたわね。

最も、今さら感がハンパないけど…。」

 

 

〝超高校級の希望〟が、覚醒したのだと。

 

 

「ねえ、苗木。」

 

名前を呼んでみる。

 

「ここであんたが死ぬことに、どれ程の意味があると思う?」

 

画面越しに、目が合う。

 

「〝超高校級の希望〟が、〝超高校級の絶望〟に敗北することで世界がどうなるか、考えたことある?」

 

その瞳に、〝絶望〟はない。

 

 

***

 

 

〝超高校級〟

 

この世界において、この言葉は重大な意味を持つ。

状況にもよるが、〝私立希望ヶ峰学園〟、並びにそのOBたちの多くが所属する〝ミライ機関〟は、一国の最高権力者をも従えさせるほどの力を有する、超特権的な存在である。

その〝私立希望ヶ峰学園〟に認められた者のみが、〝超高校級〟と名乗ることが許される。

伊達や酔狂で名乗ることなど出来ないのだ。

 

例えば、〝超高校級のアイドル〟

 

彼女の出演するステージは、常に満員御礼である。

チケットは毎度の如く秒で完売。

ライブでは、あまりの盛り上がりに失神するファンが多く発生する。

これらは、海外においても同様である。国内だけの人気ではない。

さらに、彼女のSNSアカウントのフォロワーは、数千万人に及ぶ。

また、動画サイトに彼女の歌が投稿されれば、一週間以内に1000万再生を余裕で超えるだろう。

 

例えば、〝超高校級の幸運〟

 

本物の幸運の持ち主。

限度はあれど、願えば、叶う。望めば、手に入る。

大袈裟に言うのであれば、世界の事象に干渉する力。

それを持つ。

 

このように…〝超高校級〟を名乗る人物達は、規格外である。

否、規格外でなければならない。

目に見える能力、一定の時間をかけ観測出来る能力。

どちらにせよ、彼等は自らを〝超高校級〟たらしめる〝力〟を持っている。

ならば……

 

 

 

〝超高校級の希望〟とは?

〝超高校級の絶望〟とは?

 

 

 

〝超高校級のアイドル〟の様に、目に見える能力ではない。

〝超高校級の幸運〟の様に、時間をかければ観測出来る能力でもない。

 

しかし、〝私立希望ヶ峰学園〟は、苗木誠と江ノ島盾子を〝そう〟呼ぶのだ。

 

 

***

 

 

ーー苗木視点ーー

 

「ボクが死ぬ意味?」

 

演技を止め、モノクマ越しに苗木へと語りかける江ノ島。

彼女の胸中は、誰にもわからないであろう。

 

「アンタにも心当たりがあるだろうけどさ、アタシ達には〝ある能力〟があるのよ。」

 

「……。」

 

「いい?〝超高校級〟という肩書きは特別なの。

そして、〝超高校級の希望〟と〝超高校級の絶望〟は特別であると認められた。

そう、アタシ達を〝超高校級〟たらしめる特別な〝能力〟がある。

アタシはそれを〝パワー〟を呼ぶわッ!

現代の技術を用いた観測機器で尚、計測することの出来ない〝パワー〟。

非科学的、しかし確かに存在している。

そしてそれを、〝この学園〟も認めた。

そう……

 

 

 

〝人の精神に干渉する力〟

 

 

 

……を、アタシ達は持っているのよ。」

 

 

***

 

 

確かに、心当たりはある。

〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟以降、ボクは学園長の指示により〝希望プログラム〟というものの制作に協力していたのだ。

 

〝希望プログラム〟

 

ボクもよく知らない。

特段なにかをしたわけでもない。

心理学的な問題に対するボクの考え方を解析しただけ。

たったそれだけだ。

あとは…そう、〝ある人工知能〟と会話をしたかな。

 

その時、ボクは確かに学園長から聞いたんだ。

 

「苗木君。まだ無自覚だろうけど、君には〝ある能力〟がある。

〝それ〟は、誰にでもマネできる様なものではない。

君にしか…いや、〝君達〟にしか出来ないことだ。」

 

 

「苗木君と、江ノ島君……。

2人の言葉には、目には見えない〝パワー〟が宿っている。」

 

 

***

 

 

「催眠だとか、洗脳だとか…そんなチャチなもんじゃないッ!

アタシ達は人の精神に干渉し、枷を外すことが出来るッ!

いつの間にか染みついた常識ッ!

いつの間にか従っている道徳ッ!

目には見えない鎖で雁字搦めにされた人の心をッ!

アタシ達は解き放てるのよッ!!」

 

江ノ島は興奮気味に語り出す。

 

「必要な情報は音だけ。

アタシ達の口から発せられる音に〝パワー〟を混ぜる。

そして生まれてくる言葉は、世に言う〝言霊〟ってやつね。

でも、それは正しくない。

何故なら、アタシ達の言葉は人の心を打ち抜く。

誰かが決めた尺度で言うところの、〝良くも悪くも〟…ね。」

 

 

「故に、アタシはこの〝パワー〟を〝言弾(コトダマ)〟と呼ぶのよ。」

 

 

「長く語っちゃったけどさ……

まあ、何が言いたいのかと言えば……

アタシの〝絶望〟を中和出来るのは、この世界でアンタ一人だけ。

つまり、アタシの振りまく〝絶望〟は、もう誰にも止められないってこと。」

 

 

 

 

 

「サヨナラ。我が愛しのライバルよ。」

 

 

 

 

 

苗木は、ただひたすらにモノクマの瞳を…その奥にいる江ノ島盾子の存在を見ていた。

窮地を脱する打開策はない。

しかし、諦めの感情もない。

 

〝超高校級の希望〟のみが至る境地。

 

その場所に、彼はいた。

 

10m…

 

 

 

 

5m…

 

 

2m…

 

プレス機が、近づいてくる。

 

苗木はただ〝絶望〟のない、〝希望〟の宿った瞳で、江ノ島盾子を睨み続けた。

 

そしてついに、その時は来た。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー江ノ島視点ーー

 

アタシは今、確かに興奮している。

 

性的な興奮、絶頂ってヤツ。

 

まあ、普段はこんな事にはならないんだけどね。

 

アタシの興奮は〝絶望〟と比例してるから。

 

アタシが絶頂するほどの〝絶望〟なんて、そうそう起こりえないから。

 

でも今、確かに目の前で起きた。

 

苗木がプレス機の真下に来たとき、モニターに一瞬だけ不二咲の顔が映し出された。

 

アルターエゴだ。

 

ネットワークに侵入したときに、ウイルスを仕込んでいたのだ。

 

そして、そのウイルスがプレス機を停止させ…苗木を生かした。

 

 

 

「完璧に整えられていたはずの〝絶望〟が……

完全に見通したはずの未来が……

裏切られ、壊されていくッ!

なにもかもが思い通りの、退屈という名の〝絶望〟がアタシを襲うはずだったのにッ!

ヤツの〝希望〟が、未来を変えてみせたッ!

今のこの感情を表現する言葉が見つからないッ!」

 

しかし、それを敢えて言葉にするのならば……

 

「ああ、なんて……」

 

 

 

 

 

「なんて……ッ」

 

 

 

 

 

「なんて……ッッ!」

 

 

 

 

 

「絶望的なのッッッ!!!」

 

 

 

 

 

chapter5 END




以下ウサミファイルより抜粋

・〝超高校級の希望〟が覚醒する。

・〝言弾〟とは、〝超高校級の希望〟並びに〝超高校級の絶望〟のみが使うことが出来る能力である。それを端的に言うのであれば、『人の精神に影響を与えることの出来る力』である。現在詳細は不明

・学園は〝希望プログラム〟なるモノを制作している。現在詳細は非公開

・苗木の処刑はアルターエゴの介入により失敗に終わる。

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