『ありがとう』をキミに   作:ナイルダ

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前話に引き続き、オリジナル設定を多分に含んでおります。
それと、今回の本編では既存のキャラクターに勝手に名前を付けさせて貰っています。
みなさんがそれぞれ好きな名前で脳内補完していただいて構いません。
それでは本編(閑話休題続き)です。


Episode0 世界のキボウ

ーー???視点ーー

 

私立希望ヶ峰学園の創設者にして、初代学園長を務めた〝神座出流〟。

 

彼は死の間際に、二代目学園長へと〝小さな願い事〟を語った。

 

それは、彼の力を持ってしても簡単には叶わなかった。

 

 

 

『〝超高校級の希望〟と呼ばれるに相応しい〝未来の希望〟に会いたかった。』

 

 

 

それが、神座出流が望んだ小さな願いであった……

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

時は流れ、神座出流の死後数百年が経つ。

希望ヶ峰学園は、最早知らない人はいないと言われる程に有名になっている。

神座夫妻が願ったように、〝次世代の希望〟は順調に育っていると言えた。

 

しかし、時代と共に水面下では〝とある歪な計画〟が着々と進行していた。

それこそが…〝カムクライズルプロジェクト〟であった。

 

 

〝カムクライズルプロジェクト〟

 

 

それは人工的な手術により、神座出流のような〝万能の天才〟を生み出すと言う計画である。

これは、出流が最期に残した〝願い事〟が歪な形で実現されようとしていたモノであった。

 

出流が言った〝超高校級の希望〟とは、神座ひかりの様な〝心に優しき光を持っている人間〟を指していた。

〝絶望〟の淵にいた出流を救い出し、確かな〝希望〟を与えた存在……。

そういった、他者に〝希望〟を与えることができる人間こそが〝超高校級の希望〟であると、神座出流は言った。

 

その事を、二代目学園長はしっかりと理解していた。

しかし、その話は広がって行くにつれ曲解されていく。

 

人々はこう叫んだ……

 

『〝神座出流〟のような絶対的な才能を持った人間こそが、〝超高校級の希望〟である!』

 

……と。

彼等は知らない……。

 

〝神座ひかり〟と言う存在こそが、〝世界の希望〟と呼ばれる存在を生み出したことを。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

神座出流が残した言葉の真意を知るものは、現在ではごく一部となってしまっていた。

学園長となる人間は、この事を理解していた。

しかし、少数の勢力では〝カムクライズルプロジェクト〟を阻止出来なかった。

 

この〝計画〟を知った世界中の権力者達は、例外なく計画推進の援助を行った。

〝カムクライズル〟と言う存在は、たった一人で世界を潤滑に動かせる程の影響力と能力を持っている。

それを利用して甘い蜜を啜る……それが権力者達の考えであった。

 

そんな数多の権力者達の助成を受けている〝計画〟は、希望ヶ峰学園学園長の権限を持ってしても止まることはなかった。

 

しかし、その計画を止め、神座出流の真意を叶えようとする人間がいた。

それは……

 

現希望ヶ峰学園学園長ーー〝霧切仁〟

 

……であった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー???視点ーー → ーー仁視点ーー

 

霧切仁ーー彼は今でこそ〝霧切〟を名乗っているが、昔はそうではなかった。

古くから探偵業を生業とする由緒正しき〝霧切家〟に婿入りしたのだった。

大学時代、霧切響子の母に当たる女性ーー〝霧切響香(きりぎり きょうか)〟と恋に落ち、そのまま結婚する。

その後、二人の間には無事に子供が生まれる…それが〝霧切響子〟であった。

そして、順風満帆な生活が続くはずだった……

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ある日仕事から帰ってくると、家の周りに人だかりが出来ていた。

仁の呼吸は、嫌な予感と共に速くなる。

ジットリとした嫌な汗が彼の肌を伝う。

 

そして、野次馬をかき分けた先に見たモノは……

 

 

〝黒焦げになった3人の家〟

 

 

……であった。

 

それは、後に放火殺人として処理された。

亡くなったのは、響香と犯人の2名。

この事件の暫く後、当時家に居た響子の証言により詳細は明らかになった。

 

 

事件の犯人は、響香が探偵の仕事をしていた際に捕まえた容疑者の縁者であった。

完全な逆恨みにより引き起こされた事件である。

犯人は窓ガラスを割り家に侵入、持ち込んだであろう灯油を撒き、着火させる。

その後響子を捕まえるが、それを響香が救出する。

既に火が回っていた家を、響子は手に酷い火傷を負いながらもどうにか脱出。

響子の脱出を見届ける響香。

そして、もみ合いになった犯人と響香だったが、響香は刺殺され命を落とす。

犯人はそのまま自殺という形でこの事件は幕を下ろした。

 

 

仁は入院している響子の元へ向かったが、面会謝絶状態であった。

響子は心身共に酷い傷を負っていた。

そして、響香の死と響子の状態を知った〝霧切家〟は何も出来なかった仁を〝無能〟と罵り、家から追放する。

当然の如く、響子との接触も禁止される。

その際に〝霧切〟の性を改めるように言われるが、仁はこれを断固として拒否した。

そして、霧切仁はどこかへと姿を消した。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

事件の後、仁は何をするにも気力が起きなかった。

会社も辞め、帰る家も無く僅かな貯金を切り崩しながらのひもじい生活を送る。

 

仁は世界に〝絶望〟していた。

 

愛する妻を失い、最愛の娘とも引き離された。

憎むべき犯人も、もうこの世にいなかった。

無気力……正の感情も負の感情も起こらない。

最早、死を待つだけであった。

しかし、そうはならなかった。

 

仁は後にこう語る……

 

 

「貯金が底をついていよいよ最期かと思った時、私は妻の姿を見たんです。

『あぁ…、いよいよ迎えが来たのか…。』…と、思いましたね。

そして、手招きする妻の後をフラフラと付いて行きました。

何処まで行ったのかはわかりませんが、私の世界は暗転します。

目を覚ますと、そこには白い天井が…。

私は病院で寝ていたんです。」

 

仁がフラフラと歩いた先に在ったのは〝希望ヶ峰学園〟であった。

敷地内で倒れていた仁を当時の学生が発見し、彼は病院に運ばれたのだった。

 

「目を覚ました後、私は紆余曲折有りながらも当時の学園長と面会することになりました。」

 

〝霧切家〟はその家柄故に警察と強い繋がりがあった。

そして、当時の学園長も警察との繋がりがあった為に、霧切仁のことを知っていたのだった。

 

「私はその時に先代学園長から〝神座出流の小さな願い〟について聞きました。

その話を聞いて驚きましたよ…。

『あの神座出流が〝希望〟と称した人間がいたなんて』…と。

神座出流さんのことは当然知っていました。

〝世界の希望〟〝万能の天才〟…様々な名で呼ばれる程の人物ですからね。

世界に〝絶望〟していた私も思ったんです…〝超高校級の希望〟と呼ばれる存在に会ってみたいと…。」

 

その後、仁は先代学園長の下で働くことになった。

仁は悩む暇など無い程の仕事に忙殺され、〝絶望〟している場合ではなかった。

そして元々優秀であった仁はいつの間にか、次期学園長を任されるまでになっていた。

 

「学園長になるまでは激動の日々でした…。

勿論なってからも忙しい毎日ですが…。

それで…、学園長になって一段落して、自分のことを振り返ってみたんです…。

振り返ってみて…一番強く思ったことは〝響子に会いたい〟ということでした。

そこで私は決意したんです…。

〝神座出流の小さな願い事〟を叶えることができた時…響子に会いに行こうと。

まぁ…予想外なことに、響子が78期生として入学してきたんですけどね……あはは…。

特別科の選考委員会で響子の名前が挙がった時には、心臓が飛び出るかと思いましたよ…。」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

学園長になった仁は〝カムクライズルプロジェクト〟の白紙化に取りかかった。

学園長という立場もあり、大体のことは把握していた……はずだった。

仁は〝計画〟を独自に調べていく内に違和感を覚える。

どうやら、学園長にも知らされていないところで計画はかなり進んでいるようだった。

最も、これは〝計画〟を裏で援助している権力者達の差し金であったのだが…。

 

次期学園長は先代による指名で決まっていた。

そして、学園長になる条件には〝神座出流の真意〟に賛同しているという項目がある。

つまり、学園長となる人間は例外なく〝カムクライズルプロジェクト〟に反対の立場をとることになる。

 

この事を権力者達も知っていた。

故に、学園長に渡る情報は〝計画〟の一部や偽の情報であった。

 

 

 

霧切仁は思い出す。

 

霧切響香と過ごした学生時代を。

 

嘘を悉く見抜かれ、サプライズが全く通用しなかった彼女のことを。

 

彼女から教わった…〝探偵のイロハ〟を。

 

 

***

 

 

仁は〝計画〟を調べている内に、世界各地で怪しい金の動きが在ることを知る。

それは〝計画〟を裏で支援していた権力者達にも及んでいた。

 

(なんだ…これは…。まるで戦争でも始めようとしているかのようだ…。)

 

仁はその後も調査を続けるが、まるで目的が掴めないでいた。

 

 

 

 

 

それもその筈であった。

怪しい金の動きは、世界各地で洗脳活動を行っていた〝江ノ島盾子〟と〝戦刃むくろ〟によるものだったのだ。

江ノ島が用意周到に動いている以上、黒幕の痕跡や最終目的が明るみになるはずもなかった。

そして洗脳された人間は、来たるべき〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟に向けて動き出す。

よもや世界を転覆させる為の前準備だとは、想像できるはずもない。

 

この時、江ノ島の魔の手は世界中の権力者達にも迫っていた。

そして、とある権力者を〝絶望〟させた時…江ノ島は知ることになる。

 

〝カムクライズルプロジェクト〟……その存在を。

 

この〝計画〟を江ノ島が利用しないはずもなく、彼女は洗脳もそこそこに日本へと舞い戻ることとなった。

 

 

 

 

 

仁は結局、〝江ノ島盾子の暗躍〟について暴くことが出来なかった。

しかし、これから世界になにか…大きな災いが降りかかる予感を、確かに抱いていた。

 

そこで、仁は〝ミライ機関の前身となる組織〟を発足する。

世界で起きている異変は取り敢えず彼等に任せ、仁は〝カムクライズルプロジェクト〟の調査に本腰を入れる。

 

 

***

 

 

(どうやら、普通科で入学してきた子供達に何かをしているようだ…。)

 

希望ヶ峰学園は開設以来〝完全スカウト制〟を採用していたが、ある時を境に〝一般入試〟で入学できる〝普通科〟を設けた。

この裏には、〝計画〟に関わる表沙汰には出来ない理由が存在していた。

勿論、当時の学園長にはその事が伝えられていなかった。

 

表面上は〝特別科の生徒が普通科の生徒達と交流することで卒業後の社会適合性を高める〟という理由であったが、その実は〝非合法な実験の為の資金調達〟や〝突出した才能を持たない人間の確保〟であった。

才能の人工開花の最終目的は、〝一般人が秀でた才能を得る〟という所にある。

故に、特別科の生徒達ではなく、普通科の生徒達のデータをとる必要があった。

 

(それに、〝超高校級の生徒達〟が残していった研究成果から生み出した〝現代の科学を遙かに超えた生体アンドロイド〟…。

天才プログラマー不二咲千尋が開発したという〝アルタ―エゴを独自に進化さたAI〟の存在…。

私の知らないところでここまで〝計画〟が進んでいたとは…。)

 

 

***

 

 

仁は〝計画〟の情報を得ることは出来たが、やはり阻止するには至らない。

地団駄を踏んでいた仁だが、仲間から〝とある情報〟を聞かされる。

それは……

 

〝世界中で犯罪発生率が上昇している傾向にある〟

 

……と、いうものであった。

仁が感じていた嫌な予感は益々現実味を帯びていく。

いずれ大きな災いが降りかかる…。

それが人災なのか天災なのかはわからない。

しかし、世界が震撼する程の〝ナニカ〟が起きることは確信へと変わっていた。

 

そして、ふとした拍子に耳にした言葉が…仁の頭の中から離れずにいた。

 

 

「事件を起こした連中は自分のことを〝絶望〟だとか言ってるみたいなんですよ。」

 

「意味がわかりませんよ…。精神病を患っているとしか思えませんね…。」

 

 

ーー〝絶望〟ーー

 

 

仁は、この言葉に思うところがあった。

〝希望〟の対義語に当たる〝絶望〟という言葉…。

先代学園長に聞いた〝神座出流の話〟の中にも〝絶望〟というワードが出てきたことを、仁はなんとなく思い出す。

 

『〝光〟があれば〝陰〟があるように、〝希望〟が存在すれば〝絶望〟も存在するのか?』

 

そんな疑問が頭をよぎる。

 

(神座出流が言ったように〝超高校級の希望〟と呼べるような人間が居るとするのなら、〝超高校級の絶望〟と呼ばれるような人間も存在するのか?

仮に…、仮にだ…。

今世界中で起こっている事態が〝超高校級の絶望〟と呼ばれる存在の仕業だとしたら…。)

 

仁は思いつく限りの〝最悪のシナリオ〟を想定し、現状を俯瞰する。

そして……

 

 

(一刻も早く〝超高校級の希望〟を捜し出さなければ…ッ!!)

 

 

霧切仁は、仕事を信頼できる部下に任せ学園を飛び出した。

 

 

 

 

 

この直感にも等しき決断は、結果として世界を救うに至るのであった。

しかし、霧切仁の不在が〝計画〟の進行を早めることになってしまったのもまた、事実である。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

仁は〝とある家〟が見える公園で一服していた。

その家の表札には……

 

 

〝苗木〟

 

 

……の文字が書かれていた。

 

仁はこの家の家族構成を調べ上げていた。

〝とある情報〟を頼りにたどり着いたこの家は、世界中からたった一人の人間を見つけるという不可能に限りなく近い事象を成功させる〝最後の砦〟とも呼べるような場所であった。

 

仁は、手元にある自らが調べた資料を改めて見直す。

 

(〝苗木家〟…。

父親、母親と息子、娘の四人家族。

両親は共働きで、父親である〝苗木勝(なえぎ まさる)〟はサラリーマン。

母親である〝苗木みゆき〟はパート業と主婦業。

子供達二人は〝苗木誠〟と〝苗木こまる〟。

どちらもこれと言った突出した才能は持ち合わせていない。

両親も子供達も…一見、ごく一般的な中流家庭であるが…。

この母親……

 

 

 

 

 

旧姓は〝神座〟

 

 

 

 

 

〝神座みゆき〟という名前だったのだ。)

 

 

***

 

 

(日本人なら誰もが知っている程の名家である〝神座家〟のお嬢様がなぜこのような場所いるのか…。

……どうやら抑圧された生活に耐えかね家出をしたらしい。

そして現在の夫と出会い、家の方には何も言わずに無断で結婚…。

なんともまぁロマンチックである。

極めつけに新婚旅行の写真を家に送りつけて、神座の縁者を一人残らず凍り付かせたたそうな…。

しかし彼女…、〝神座家〟の捜索を完全にかいくぐるとは…。

流石は〝超高校級の非凡〟として〝希望ヶ峰学園への招待状〟を受け取っていただけはあるようだ…。)

 

 

 

 

 

以前は〝神座みゆき〟であったが、苗木の母である〝苗木みゆき〟は希望ヶ峰学園への招待状が届く程の人物であり、〝神座出流の生まれ変わり〟と呼ばれる程のスペックを持っている。

神座の縁者によれば、非公式な記録ながらも様々な日本記録や世界記録を叩き出しているらしい。

希望ヶ峰学園へは、中学を卒業すると共に行方をくらませた為に入学していない。

色々なことを含め、このことは苗木家の中では夫である苗木勝だけが知っており、子供達二人は母の生い立ちを知らない。

その為、苗木とこまるは〝何故母親の実家には帰省しないのか〟と疑問に思っている。

一方、神座の家でも色々と妥協し〝とにかく顔を見せろ〟と言っているようであるが、彼女にその気は無いそうだ。

仕方なく〝苗木家の住所が書いてない年賀状〟を毎年送っているようではあるが…。

 

 

 

そんな神座家の力を持ってしても未だに位置を特定できていない彼女の居場所を仁が捜し出せたのは、ほんの〝偶然〟であった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

〝超高校級の希望〟を捜し出すにはどうしたらいいのか。

〝超高校級の希望〟というあやふやな存在とは、一体どういう人物なのか。

仁はこのようにして考えを広げていく。

そして……

 

〝世界の希望〟と呼ばれていた〝神座出流〟の子孫

 

……その人物に話を聞くことにした。

 

希望ヶ峰学園の学園長ということもあり、〝神座家の当主〟とは割とすぐに会うことが出来た。

しかし、「次期当主はどちらに?」と尋ねた途端に閉め出されてしまう。

神座家の家系図を見ると、〝みゆき〟という名前を最期に途絶えていた。

仁は〝神座みゆき〟が生きてこそいるが、会うことは出来ないと判断した。

 

 

***

 

 

しかし、ここで完全に手詰まりとなってしまう。

勢いよく学園を飛び出したはいいが、いきなり途方に暮れることとなる。

次の手を考える為に適当な公園で一服していた仁だが、そんな彼に話しかける人物がいた。

 

「貴方って…、もしかして霧切仁さん…ですか?」

 

声をかけられ顔を上げる仁。

そこには、〝深緑色のコートを羽織った白髪の美少年〟がいた。

 

「そうだけれど…君は?」

 

「やっぱりそうだ!希望ヶ峰学園の学園長を務めていますよね!」

 

仁が返事をすると、少年は興奮気味に声を上げた。

 

「ボクはなんて運がいいんだッ!

〝偶々気が向いた〟からここに来てみたけれど…、世界中の〝希望〟が集う場所の長に会うことが出来るなんてッ!」

 

あまりの変わりように仁は反応に困る。

 

「それで、希望ヶ峰学園の学園長さんがこんな場所で何をしているんですか?

何か考え事をしているように見えたけど…。」

 

仁は少年の様子が落ち着いたことに一安心する。

しかし、今は子供に構っている暇はない。

仁は少年の話に適当に合わせる。

 

「あぁ、少し困ったことになっていてね…。

人捜しをしているんだけど、中々手がかりが少なくて。

どうしたものかと思案中なんだよ。」

 

仁がそう言うと、少年は何か考えている素振りを見せる。

そして何か思いついたのか、再び口を開く。

 

「今、スマートフォンとかタブレットとか…、インターネットに接続できる物を持っていますか?」

 

仁は少年の思考が読めずに少し躊躇ったが、内ポケットからスマートフォンを取り出した。

 

「何をすると言うんだい?」

 

「地図のアプリか何かを開いてもらえますか?」

 

仁は取り敢えず、少年の要求通りに地図を開く。

 

「できたけど…、これで何をするのかな?」

 

「ちょっと貸してもらっても…?」

 

仁は私物を出会ったばかりの人物に渡すことに躊躇いを覚えたが、それでも少年にスマートフォンを手渡す。

 

すると、少年は目を閉じ、画面を適当に操作し始めた。

しかし次の瞬間、突風が公園を駆け抜けた。

目を閉じていた少年は転んでしまう。

 

「いてっ!」

 

その拍子に、スマホは少年の手を離れ宙を舞う。

仁はそれをどうにかキャッチすることに成功した。

そして画面の中央には、どこかの住宅地の〝ある一点〟が表示されていた。

 

 

そう、その場所こそが捜していた人物、〝神座みゆき〟の居場所……苗木家であった。

 

 

「…この場所がどうかしたのかい?」

 

仁は少年の行動に意味を見出せずにいた。

仁の最もな疑問に、少年は答える。

 

「ここに貴方の捜している人が居ると思うんだけどね…。

あはは…ボクのゴミみたいな才能でも、ひょっとしたら希望ヶ峰学園 学園長の…延いては〝希望〟の為の踏み台になれるかなって思ったんだけど…、そんな考えは烏滸がましかったよね…。」

 

急に卑屈になり始めた少年に、仁は慌てる。

 

「ま、まぁ…ありがとう。

どうせ見当が付いていないからね、そこに行ってみるよ。」

 

仁がそう答えると、少年は再び笑顔になる。

 

「ボクは〝希望〟の踏み台になれただけでも満足さ。

やっぱりボクは〝運がいい〟。」

 

そう言い残し、少年は仁に手を振りながら嬉しそうに去って行った。

取り残された仁は、未だ呆然としていた。

 

「何だったんだ、本当に…。

まあでも…どうせ行く当ても無い…。

気分転換がてらに尋ねてみるとしよう。」

 

 

 

 

 

仁は、名前も言わずに去って行ったこの少年に77期生の入学式で再会した時、体育館中に響き渡る大きな声を上げた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

こうして、仁は〝神座みゆき〟の所在を特定するに至ったのだ。

本人であると確証するにはかなりの時間を要したが、仁はどうにか〝超高校級の希望〟を発見するための糸口を掴むことに成功した。

仁は〝苗木誠〟と〝苗木こまる〟を中心に調査を続ける。

すると、そこで彼は目撃する……

 

 

〝苗木誠〟が特別科の選考委員会で名前の挙がっている〝舞園さやか〟と接触したことを。

 

 

そして、舞園さやかが彼と親しそうになってからというものの、彼女は〝アイドル〟として様々な偉業を打ち立てていった。

〝苗木誠〟と接触する前ですら選考委員会で名前が挙がる程の活躍を見せていた彼女は、彼との接触後、更なる勢いでアイドルの頂点に登り詰め、その座を不動の物としたのだ。

 

 

 

 

 

秀でた才を持つ者に〝希望〟を与え、更なる昇華を促す。

それはまさに、〝神座ひかりが持っていた才能〟だった。

 

 

 

 

 

仁は確信する。

〝神座〟の血を引き、〝超高校級〟と呼ばれるべき人間に〝希望〟を与える存在。

彼ーー〝苗木誠〟こそが〝超高校級の希望〟と呼ぶに相応しいと。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

それから約1年後、苗木家には1枚の招待状が届く。

 

『  苗木誠様 

   貴方を〝超高校級の幸運〟とし、希望ヶ峰学園特別科への入学を許可します。』

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

仁は〝計画〟が進行しているまっ最中に、〝超高校級の希望〟として苗木を希望ヶ峰学園に入学させることが出来なかった。

それ故に、抽選で選ばれるはずの〝超高校級の幸運〟の枠に苗木をねじ込んだのだった。

 

 

 

 

 

苗木誠はただの〝偶然〟で希望ヶ峰学園に来たのではなかった。

彼は選ばれるべくして選ばれたーー

 

 

 

 

 

〝超高校級の希望〟

 

 

 

 

 

ーーそのものであった。

 

 

 

 

 




ーーウサミよりーー

今回あちしの仕事はないでちゅが、今後の話に続くようなワードがいくつか出てきまちたよ!
それでは、天の声さんが出張してきてくれたのでバトンタッチしまちゅね!


ーー以下ウサミに代わり天の声ーー


今回の話ではオリジナル設定をかなり設けましたので、今回の話が合わないと思った方はこれ以降読んでいただくことをあまりお勧めしません。

さて、当小説では、〝苗木君が実は神座出流の子孫であった〟と、いう設定になっております。
主人公が、伝説の人物の血を継いでいた…。
ありがちな設定ではありますが、超ハイスペックである江ノ島に一般人出身の人間が勝てるのか?と思ったので、こういった設定にさせて頂きました。
こまるについては詳しく考えておりません…。
問題の苗木母ですが、彼女は〝出流のスペック〟を殆ど引き継ぎながらも、〝ひかりの前向きさ〟も引き継いでいるというチートキャラとなっております。

名前の件ですが、
霧切母は〝響子〟の〝響〟を借り、そこに一文字加えて良さそうな名前にしました。
特に深い意味はないです。

苗木父と苗木母は声を担当した声優さんから名前をお借りしました。
苗木家の男子は、漢字一文字。
神座家の女子は、平仮名三文字という共通点も作りました。
故に苗木父は漢字一文字となっております。

キャラクターの名前を考えるのって難しいですよね…。
新しい作品を作り出す方々、オリジナルキャラを沢山使っている方々を尊敬します!

最後に2点ほど脳内補完して欲しいのですが…

・当二次小説では『予備学科』を『普通科』と表記しております。
特に深い意味はありません。

・神座出流が生きていた時代の文明レベルと、苗木君達の時代の文明レベルの差がどれほどかよく分かりませんでした。
原作には数百年前には存在していたと書かれていたような…。
1年ごとに生徒を集めたとしても78年。
2年に一回ごとに集めたとして約150年。
豊作の時代もあったでしょうし、不作の時代もあったでしょう。
といった具合で、出流が存命だった時代と苗木君の時代とでは余り差がありません。コレに関しては深く考えないよう、何卒よろしくお願いします…。


それではこの辺で。また次回、お会いしましょう。


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