『ありがとう』をキミに   作:ナイルダ

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今回の本編では、〝あらすじ〟と〝chapter0.5の霧切と戦刃、江ノ島視点〟を振り返っていただくと読みやすいかと思います。


chapter2 ~あの時、あの場所で~

ーー戦刃視点ーー

 

彼女は現在〝人が入れそうな程の大きなカバン〟を背負い、モノクマが通るために作られた狭い通路を匍匐前進で進んでいた。

 

 

(今回の動機付けでの標的は不二咲君と大和田君。

でも、この2人は危ういところがある…。

盾子ちゃんが調べた過去と今までの生活を照らし合わせると…大和田君は間違いなく危険だ…。

私でもその事は理解できる。

なら、盾子ちゃんだって理解しているはずだ…。

なのに、盾子ちゃんは2人の人形を用意していない…。

もし…、万が一のことがあったなら…どうするつもりなの…?)

 

 

彼女は、最愛の妹がどのようなシナリオを描いているのか理解できないでいた。

いや、理解はしていただろう。

しかし姉として妹の幸せを願う戦刃は、頭に浮かぶ最悪のシナリオを理解したくなかった。

故に彼女は行動する。

最悪のシナリオを避けるべく、一歩一歩前進していく。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

(ふぅ…。ようやく着いた。…確認できるのは大和田君だけ…。間に合ってよかった…。)

 

戦刃は2階の男子更衣室に到着していた。

いつ、何が起きてもいいように万全の体制を整え、不二咲が来るのを待つ。

そして、暫くすると不二咲が更衣室に現れる。

 

(不二咲君も来たみたいだね…。何も起きなければいいのだけど…。)

 

しかし、戦刃の願いはむなしくも崩れてしまう。

不二咲が秘密を打ち明けたことにより、大和田のまとう空気が一変する。

そして大和田がダンベルを振り上げたその刹那、どこからともなく現れた戦刃が瞬く間に大和田を気絶させる。

戦刃の急な登場に驚いている不二咲。

そんな不二咲に構うことなく自らがすべきことを行っていく戦刃。

 

「い、戦刃さん!?ど、どうしてここに…!」

 

「そんなこと、今はどうでもいい…。

図書室に十神君がいるから静かに1階に降りて、正面玄関から学園の外に出て。」

 

「ど、どうしてぇ…?」

 

「不二咲君はここで脱落。大和田君に殺されてね…。」

 

戦刃の言葉に驚いた表情をする不二咲。

何も喋らない不二咲に、戦刃は急ぐように促す。

 

「事情は後で話すし…、たぶん…学級裁判でハッキリすると思う。

だから今は、私の言うことを聞いて欲しい…。」

 

そして、不二咲は戸惑いながらも学園を後にした。

その間戦刃は、〝持ってきたカバン〟から『精巧に作られた不二咲の人形』を取り出す。

これは〝元超高校級の人形作家〟に戦刃が別口で発注していたモノだった。

江ノ島のシナリオを見て大和田の危険性を感じ取った戦刃は、今回のようなことが起きるのではないかと予測しており、万が一の為に人形を用意していた。

しかし、江ノ島のシナリオで学園側が用意した人形とは別口な為、戦刃は『不二咲の人形』しか入手することが出来なかった。

戦刃はテキパキと、人形を死体に見えるように手を加えていく。

暫くして死体が完成すると、モノクマが現れる。

 

 

「あーあ…、何してくれちゃってんのさ…。」

 

「ねえ…盾子ちゃん…。私がこうしてなかったら…、どうなっていたと思う…?」

 

「さぁ…?不二咲クンは死んじゃったんじゃない?大和田クンに殺されてね…うぷぷ…。」

 

「…あのまま死んじゃってたら、もう後戻り出来なくなってたんだよ…。」

 

「別にいいじゃん…、〝計画〟が前倒しになるだけだし…!うぷぷぷぷ…。」

 

「……。」

 

 

江ノ島の返答に、戦刃は言葉を返せなかった。

 

 

(そうじゃないよ…盾子ちゃん…。

これは綺麗事かも知れない…、でも…!

盾子ちゃんはまだ人を殺してはいない…。

約半年前に起きた〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟。

確かに、この事件の元凶は盾子ちゃんだ…。

この事件で数万人の死傷者が出た。

でも…、盾子ちゃんの指示通りだったなら、あの事件は起きなかったんだ…。

あの事件は……

 

〝希望ヶ峰学園、普通科生徒達の集団自殺の報道〟

 

……を皮切りに起きるシナリオだった。

でも、そのシナリオは苗木君のおかげで崩れた。

集団自殺が起きなかったから、あの事件も起こらないはずだった。

あれは盾子ちゃんの指示を無視した奴らが勝手に起こしたことだ…。

綺麗事だってわかってる…!

だけど、盾子ちゃんはまだ人を殺してないッ!

だから盾子ちゃん…、盾子ちゃんを人殺しになんてさせない…!

それにね…盾子ちゃん…、後戻り出来なくなるのは〝計画〟の事じゃないんだよ…。

 

戻れなくなるのは〝盾子ちゃんの心〟。

 

幼き日に苗木君から貰った〝小さな光〟…。

その〝光〟が今も盾子ちゃんの心の奥で小さく輝き続けていることを私は知っている…。

人を殺しちゃったら、この光は消えてしまうから…。

だから…私が守るよ…!

盾子ちゃんの未来は…決して、〝絶望〟だけじゃないから…ッ!)

 

 

モノクマも消え、その場に残された戦刃は気持ちを切り替える。

そして成すべき事のために、再び移動を始めた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー不二咲視点ーー

 

戦刃の指示に従い学園の外へとやってきた不二咲を迎えたのは、舞園と桑田だった。

 

「あっ!舞園さんに桑田君!ボクは一体どうなったの?」

 

変わらぬ様子で質問する不二咲に、桑田は神妙な顔つきのまま次の言葉を発せずにいた。

若干混乱している不二咲は桑田の態度がわからずに小首をかしげる。

そんな中、舞園が真剣な顔つきで不二咲に言う……

 

「不二咲さん…いえ、不二咲君。」

 

「…ッ!」

 

舞園の言葉に、先程の大和田とのやりとりが聞かれていたことを察する不二咲。

 

「な、泣かないでください!私達は別に怒っていませんよ!」

 

泣き出してしまった不二咲に、流石の舞園も動揺する。

 

 

***

 

 

暫くして落ち着きを取り戻した不二咲は、勇気を出し2人に自分のことを打ち明ける。

その間2人は、黙って不二咲の話に耳を傾けていた。

 

「…そうだったんですか…。」

 

話を聞き終わった舞園は、不二咲に自分のことを語り始める。

 

「生きていれば、人間誰しも辛いことの1つや2つありますよ…。

私だってそうです!

人と関わりを持つ程、トラブルやストレスは大きくなります。

それに立ち向かうのか、逃げるのか…、対処の仕方は人それぞれです。

勘違いしないで欲しいんですけど、私は逃げることに反対というわけではありません…。

不二咲君と方法は違えど、私も…辛い現実から逃げていた時期がありましたから…。

だから不二咲君…、不二咲君の辛さは不二咲君にしかわかりません…。

でも、辛いことがあるのはみんな同じこと。

ですから、1人で抱えきれないことがあったなら…私達を頼ってください!

だって…〝仲間〟なんですからッ!」

「あッ!そうだ!聞いてくださいよ!この前なんて…ーーーーー」

 

 

 

舞園の話を聞き、大分落ち着いた様子の不二咲。

彼女の愚痴を聞いている内に、すかっり元気になったようだ。

そんな愚痴に巻き添えをくらった桑田は、若干疲れた様子を見せながらも不二咲に話しかける。

 

「不二咲…、オレは舞園ちゃんみたいに気の利いた事は言えねーけどよ…、不二咲は不二咲だと思うぜ!

それに、騙してた…なんてこと言うなよな…。

誰だって言いたくねーことくらいあるっつーの!

まっ、今度男子だけで何か食いに行こーぜッ!」

 

桑田の言葉を聞き、不二咲はまたしても泣き出してしまう。

 

「あっ!桑田君が不二咲君を泣かせました!」

 

「ち、違うよ舞園ちゃん!お、おい!不二咲!オレは別にひでーこと言ってねーぞ!」

 

「な~かせた、な~かせた~。せ~んせいに言ってやろ~。」

 

「ま、舞園ちゃん!?」

 

2人の会話を聞いている不二咲は、泣きながらも可愛らしい笑顔を咲かせていた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー戦刃視点ーー

 

学級裁判は佳境を迎えていた。

その頃、戦刃は処刑が行われる場所に先回りしていた。

 

(このセットから、なんとなく何が起きるのかは予想が出来る…。)

 

戦刃は江ノ島が用意した鉄格子やバイクに、大和田が救出しやすくなるように細工を施していく。

 

 

 

そして、ついに処刑が始まる。

 

 

 

勢いよくバイクが球状の鉄格子に突入し、回転を始める。

暫くして鉄格子が発光を始めた瞬間に、戦刃は誰にも見えない位置から鉄格子の中へと侵入する。

あらかじめ細工をしていた為難なく成功。

そして、回転しているバイクも〝超高校級の軍人〟の動体視力と運動神経を遺憾なく発揮し、容易にその動きを停止させた。

手足の拘束を解き、気絶している大和田を背負った戦刃は、鉄格子の中にバイクだけを残し学園の外へと移動を始めた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

現在、学園の外では78期生達が不二咲や大和田を中心に談笑していた。

そこへ、江ノ島が現れる。

 

「やーやー諸君。今回も迫真の演技だったねぇ…!」

 

「テメェ…江ノ島!俺はマジで不二咲を殺しちまったと思ったんだぞッ!」

 

「おいおい…、これは映画撮影だぜ?何マジになってんだよ…。」

 

「…ッ!」

 

江ノ島は一瞬だけ戦刃を見やり、言葉を続ける。

戦刃もまた、江ノ島と視線が重なる。

 

「今回は撮影の中で秘密を暴いて、クラスメイトの友情を深めようってシナリオだったわけ!

現に不二咲も大和田も、心につっかえてたモノが取れたんじゃねーの?

あとついでに腐川も。」

 

江ノ島の言葉のほとんどが嘘だと見抜けたのは、恐らく戦刃だけであろう。

それ程までに、江ノ島の演技は完璧であった…。

 

「今回殺人は起きない予定だったのに、どっかの誰かさんがアドリブを始めたせいで面倒臭くなったんですけど~。」

 

「…くッ!」

 

大和田はこれ以上江ノ島に反論出来なくなる。

そして、今度は苗木が質問をぶつける。

 

「江ノ島さんは不二咲クンの人形を用意してないって言ってなかった?」

 

「苗木~、人の話はちゃんと聞けよなぁ~。

アタシ〝は〟用意してないのであって、お姉ちゃんがあらかじめ用意してたってわけ。まっ、学園側にも知らせてない完全サプライズ!

スタッフの慌てた表情を思い出すと笑えてくるんですけど…うぷぷ!」

 

江ノ島の戯けた雰囲気に流され、その場は再び穏やかな雰囲気へと戻っていく。

 

 

 

人の輪から外れた静かな場所で戦刃は考える。

 

(盾子ちゃん…。

私は盾子ちゃんの計画に力を貸すことを惜しまないよ…。

その〝計画〟の行き着く先は〝絶望〟なのかもしれない…。

でも…、私はその計画の中に…確かな〝希望〟を見いだしたからこそ、力を貸しているんだよ…。

私じゃ盾子ちゃんを絶望から救ってあげることが出来ない…。

だから苗木君…結局頼っちゃう事になるけど…、どうか盾子ちゃんを救ってあげてね…。)

 

戦刃は少し哀しそうな表情を浮かべ、その場を後にした。

 

 

 

 

 

クラスメイトの絆がより深まり、chapter2の撮影は終了したーーー。

 

 

 

 

 




ーーウサミよりーー

ミナサン!こんにちはでちゅ!
江ノ島さんが何を考えているのか、あちしにもよくわからないでちゅ…。
でちゅが、希望を捨ててはいけないんでちゅ!
それではお仕事をしていきまちゅよ!


以下ウサミファイルより抜粋

・不二咲千尋の人形は戦刃によって用意されたモノである。

・江ノ島と戦刃はなにやら計画を立てている模様。

・78期生の絆が深まる。

・人類史上最大最悪の絶望的事件は江ノ島の想定を外れて引き起こされている。


それではミナサン!また今度も会いに来てくだちゃいね!

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