一撃男の異世界旅行記   作:鉋なんか

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後日談


サイタマさんは八割型登場しません。

サイタマさんの活躍が見たい方は

◆◆◆◆◆◆◆◆

まで飛ばしてください





帝都

あれからどれだけの時間が過ぎただろう。

 

 

 

六十万四千八百

 

10800

 

1 1 0 1 0 0 0

 

 

 

 

長かった。短かった。身体の一部を失う者もいた。最愛の家族を失う者もいた。職を失う者もいた。地位を失う者もいた。友を失う者もいた。持っていた強大な力を失う者もいた。倒すべきものを失う者もいた。髪を失っていた者もいた。友を失う者もいた。夫を失う者もいた。妻を失う者もいた。子を失う者もいた。土地を失う者もいた。家を失う者もいた。家財を失う者もいた。名誉を失う者もいた。

 

 

 

 

千年の歴史の中、受け継いできた物を失う者もいた。

 

 

 

 

長く短い、永遠のようで一瞬、天国のようで地獄

 

そんな、あの日々は過去のものとなった。

 

暗黒の時代に見切りをつけた人々は明るい未来へ今、歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、次はこっちの瓦礫を動かすのを手伝ってくれ」

 

「おー、わかった。ちょっと待ってろ」

 

一輪車に瓦礫乗せて運ぶおっさんは、友人の声がする方を向き、軽く返事をし、一輪車に乗せた瓦礫を指定の場所まで持って行く。

 

指定の場所に着くと、口髭の立派な爺さんが一輪車に瓦礫を乗せた俺のと同じような奴らに囲まれていた。

 

 

口髭が立派な爺さんは周りの奴らが着ている様な獣皮でできたボロではなく、貴族が冬に外に出かける時に着るような上等な毛皮のコートを羽織っている。それは爺さんが文官のお偉いさんである証のようなものだ。

 

 

その毛皮のコートはこんな寒空の下でも一歩も動かずとも暖かそうで羨ましいのだが、髪の毛が一本も生えていないその頭は寒そうだった。

 

 

 

 

何故かハゲの爺様に思いっきり睨まれた後、俺は瓦礫を昨日とは少し離れた所に運んだ。そして、先ほどよりは軽い一輪車を押しながら、着た道を戻り、先ほどのハゲ爺とは少し離れた所にあるテントへと向かう。

 

 

テントの前には5人ほど列になっていたが押しのける事はせず黙って列の後ろに並ぶ、数日前順番抜かしをしようとしたやつが酷い目にあったためここに並ぶときは行儀よくしないと行けないのだ。

 

しばらくして自分の番になった。係りの人に軽く会釈をし、違う液体の入った2つの木のカップを貰う。

 

1つは水の入ったコップで、もう1つは木のスプーンが付いた肉の入った熱々のスープ。

 

それらを左にあるトレーにのせ少し離れた所へと移る。

 

ここにはハゲジジイの所よりも多く、俺のような奴が集まり、それぞれの時を過ごしていた。熱心にスープを味わっているやつ、自分の仕事場の手伝いをしてくれそうなやつと、交友関係を作ろうとしているやつ、交代の人間が来るまで地べたに腰を下ろしカードをしているやつなどだ。

 

本来であれば俺もこいつらのようにゆっくりとしたいのだが友人が俺を呼んでいるためそれほどゆっくりしてはいられない。

 

テントから少し離れた場所にある丸太の椅子がちょうど空き、そこに腰を下ろす、そして熱々のスープを水を使いながら食道に無理矢理流し込む。

 

 

テントの方へ戻り係の人にカップを渡す。係りの人が『お代わりありますよ』と言い、もう一杯飲みたいという甘い誘惑が現れるが、友人の自分を呼ぶ声を思い起こしその甘い誘惑を丁寧に断り断ち切る。

 

熱々のスープを一気に食べたことにより額に湧き出た玉のような汗を首から垂らした手ぬぐいで拭う。

自分の一輪車を押し、係りの人へ遠巻きではあるがもう一度軽く会釈をする、そして足早に友人のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、復興作業への意欲は良好っ、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、手伝ってくれた、わんちゃんにもお肉あげるね。今日は特に頑張ってくれたからおばちゃんサービスしちゃったよ」

 

「キュー、キュー」

 

「おいおい、それはデカすぎねえか?」

 

簡易ながらも食事スペースの一角で屋台を開き肉を焼く膨よかな女性は秘伝のタレがたっぷりとかかった特製肉を犬(?)に渡す。

 

 

帝都復興作業が始まり数日し、この犬(?)が働き始めた初日こそ、その犬のような姿に戸惑う人もいたが、毎日人に混じって瓦礫を運んでいる姿が目撃され、今ではすっかりここの顔なじみとなっていた。

 

「おい、犬っころ、なんならこっちのと交換しねぇか?」

「そんな大きいの食べきらんだろ?なんならおじさんが手伝ってやる」

 

犬(?)は渡された肉を大切な我が子を守る母親のようにさっと背後に隠し、脅かすような発言をした二人をキッと睨みつける。

 

睨みつけられたちょび髭の男も角刈りの男も冗談のつもりで言ったのだが、今にも自分の腕に飛びかかってきそうな雰囲気に恐怖を抱く。

 

「冗談だよ、そんなおこんなって」

 

そう言いながら未だ機嫌が悪い犬(?)に、自分たちの肉を半分ほどちぎり渡す。そうする事によって犬(?)の機嫌が良くなるということは一緒に仕事をしている男たちにとって周知の事実であるからだ。

 

それに怒らせたままにすると、後で拗ねて自分たちの担当エリアだけ手伝ってくれなくなる。日々、山のような瓦礫を運ぶのにあたって、犬(?)の手伝いがなくなる事はここで働く人からしてみれば余りにも痛手となるのだ。

 

 

犬(?)は自分の皿の大きな肉に、男のちぎった肉が二キレのると一気に肉へとかぶりつく。先程見せていた子を守る母から打って変わり、ただただ本能の赴くままに肉を貪り食う暴食の魔獣へと変貌した。

 

 

短い手足を勢いよくぶんぶん振り回し、おばちゃん直伝のソースが口の周を汚すのを気にも留めない。一見乱暴のように見えるが繊細で、肉片が周囲へ飛び散ることはなく、犬(?)の肉へ対する執着と敬意がそこにはあった。

 

 

「コロ!人がいっぱい見てるから、そんな食べ方しないで!」

「いい食べっぷりだ、ホレわんこう、わしの分もやろう」

「いいぞ、犬もっとやれ」

 

人混みの中から現れたポニーテールの少女は犬(?)がアクロバティックに肉を食べる姿が周囲の人たちに見られているのが恥ずかしいのか赤面しながら犬(?)の首根っこを掴む。

 

しかし未だ肉を食べている犬(?)はさらりとそれを回避し、短い右手で少女に向かって『かかって来い』とジェスチャーをする。

 

頭にデフォルトの血管マークを3つほど乗せた少女はなりふり構わず必死に捕まえようとするが、しかし犬(?)は自分を捕まえようとする少女を煽りながらムーンサルトやバク転で少女の腕を回避し、さらには小さい体を生かし空中で8回転半体を捻りをやってのけ少女をおちょくり続けた。

 

 

 

何か太い管状のものが千切れる音がした。

 

 

 

見事な両足での着地に周囲からは歓声が上がり周囲から多くの肉が犬(?)めがけて投げ込まれる。犬(?)は何度もお辞儀をしながらそれらを一枚一枚口の中へ納めていく。

 

しかし10枚も食べ終わらないうちに、人の顔から般若のそれへと変貌した少女に、首輪をがっしりと掴まれどこかへと連れていかれた。

 

少し残念そうな声が人々から漏れるが犬(?)を連れて行った少女にはその声は届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食糧の配給は問題なし、ってところね」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「おら!帝国の清く正しい少年少女団!次は貧民街の瓦礫を運ぶぞ!」

 

「「「はい」」」

 

石でできた建物がほとんどない帝都貧民街へと繋がる住宅街、とは少し離れた一画で数百人規模の少年少女の元気な声が周囲に響いた。

 

 

時刻はまもなく昼の一時を過ぎる。

これは早めに昼食を取っていた作業員たちが作業を開始する為に移動し始める時間だ。

 

数百人規模の少年少女たちは全員がお揃いの白い龍を象ったヘルメットを頭につけ、男子は長袖のビシッとした学生服、女子はセーラー服だが、上着の丈は短くスカートはくるぶしと膝のちょうど真ん中辺りを隠すロングと統一された服を着ていた。

 

午前の作業のせいで至る所が汚れてはいたが彼らの服はヘルメットと同じ純白だった。

 

そして、男女の人数差や個々人の体格差、頭髪の色に差異はあれど、統一された返事はこの少年少女達が数百人規模で訓練されていた事を物語っており

 

その中の返事が数人ばかりくぐもっていても、隠し通せてしまうほどだった

 

 

「19番23番41番!お前ら少し休んでろ!」

 

しかし少年少女たちの先頭を行く男には隠し通せなかった。

 

自分の番号を呼ばれた2人の少女と1人の少年はビクッと身を震わせる。数百人の少年少女たちの視線が3人に集中し、そして彼ら3人が何故呼ばれたのを瞬時に理解した。

 

 

先ほどまでしていた軽めの力仕事からでは考えられないほどの汗を掻き、表情こそ平常を保とうとしているが時々苦痛が生じるのか、口元が歪む。

真っ直ぐと立とうとしているつもりでも足が震え、体が強風に揺れる木のようにぐらついていた。、

 

 

「わ、私は大丈夫です。まだ働けます。それにカイrじゃなかった19番も41番も今までの任務ではこれくらいでもこなしていました」

「そうです、私たちはまだ大丈夫です」

「俺もまだ大丈夫です」

 

 

男は立ち止まり身を翻すと、少年少女3人を視線だけずらし交互にじっくりと観察する。

 

3人とも強がってはいるが顔色は悪い。

 

数日前に男が彼らに施した処置は長期的な目で見れば効果があるのだか最初の数日はどうしても体調が悪くなってしまう。

 

どうするか悩んでいると3人に向かれていた視線が少しずつ男に集まりはじめた。1人2人とその数を増やし、遂には少年少女たち全員が男の方を向き、男の次の言葉を待っていた。

 

 

 

 

 

 

『 』

 

 

 

 

次の瞬間、建物の陰から音もなく数人の黒服が現れた。

 

黒服は言葉を何一つ発する事なく、顔色の悪い3人の元へ向かい、手に持った注射針を3人に打ち込む。

 

首にブスリと注射針が差し込まれた3人はその場は倒れ伏す。

痙攣し、涙を流し、言葉にもならない単語をもらし、砕けた石畳の上に水溜りを作る。立ち上がろうにも手に力が入らないのかずるりと滑り足は産まれたての子鹿のようにプルプルと震え自力で起き上がれるそぶりはない。

 

『連れて行け』

 

冷たい情のない言葉が寒空の下周囲に響く、倒れ伏した3人は大きめの布をかけられどこかへ運ばれていった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな幻想をこの場にいる少年少女らは感じとった。

 

今の上司であるこの男が言った『休め』という言葉の意味が前の上司たちが発していた言葉の意味と同じであればこの3人は何処かへ連れていかれるだろう。

 

 

 

そして残された彼らはまた働けと言われるのだ

 

 

 

 

少しの間が空き、男が軽く息を吸い、言葉を発す

 

 

「よーしお前ら!丁度いい時間だから!ここで昼休憩にする!お前たち3人もここで昼飯にしろ!」

 

 

緊迫していた、空気の中その言葉は響く。

 

誰もが息を飲み一言も聴き漏らせまいとしている中で、その言葉を直ぐに理解する事が出来たものは彼らの中には1人もいなかった。

 

 

 

 

男は本当は午前中にもっと仕事を片付けたかったのだがと喉にでかかった言葉を押し殺し、胸ポケットから青いガラス玉をいくつか取り出し地面へと叩きつける。

 

 

もくもくと煙が立ちこめ、煙の中から木製の長椅子やテーブルがいくつも姿を見せた。

 

 

「初日だから早めに飯にする!あとお前ら三人は飯食って少し昼寝したらこっちに合流しろ!少し寝ただけでも体力は回復する!わかったら返事!わからなくても俺が言ったことには返事!わかったな!」

 

そう言われた3人は胸を安心をしたのか一瞬間が空いたが他のメンバー同様に元気な返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「72型『薬物中毒者』正常化129名、一定基準を満たしているようですね。報告したら、次のところに行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

少年少女たちの明るい食前の言葉に耳を傾けながら男は着ていたエプロンを脱ぎ適当な瓦礫のうえに腰を落とす。そして胸ポケットから板切れを取り出しそこに新たに刻まれた文字を満足げに眺める。

 

 

 

 

72型『薬物中毒者』を『正常』に戻しました。

薬物廃人正常化 72型の資格を取得しました。薬物廃人正常化の資格を合計124獲得、残り26で1年の休暇が得られます。

大勢の人間の命を救いました。只今の合計5007256人。

5000000人を超えたことにより、次の仕事先を選べる権利、優先度8を取得しました。90%の確率で次の仕事先が選べます。

戒めの部屋への鍵が付与されました、次の仕事先へ行く前に必ず立ち寄ってください。

 

 

 

 

満足げにそれを眺める笑顔には少しのやるせなさが隠れていた。

 

 

 

 

帝国の闇に深く染まり全身が薬物に蝕まれ、体の内部がボロボロになっている彼らに対し、男ができることは数少なかった。

本来であれば霊山に生える神仙の薬草を使い、浄化の魔法でもって毒物と化した血肉を清め、時を巻き戻す禁術でもって体を壊れる前の物へと戻したかった。

 

 

しかしそれらは禁じられている。

 

 

その世界に未だ無い技術はその世界に混乱を生む。

 

まったくもって別世界の技術を持つものはその世界の権力者や、また違った別世界のものの関心を引く。

多くの次元侵略者が異世界の技術を使い自由気ままな生活を送る中、数年後また違った世界からの訪問者やその世界の深奥に存在するものによりその作り上げたものが破壊されるなどよくあることだ。

 

ある程度のことであれば許されるがこの世界に存在しない物質やエネルギーをさも当たり前のように使えば目立つ。目立てば他のものの目を引くことになる。

 

下手をすれば、どこぞの破壊神や権利の女神のような理不尽と正面から衝突しなければならなくなるのだ。男からしてみれば最も嫌いなあの女に頭を下げるのと同じくらい、勘弁してもらいたい事だ。

 

それに先程使った家具玉も、コロとかいう犬?帝具?がいなければ使用禁止だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、禁じられていない方法を選んだ。

 

 

体の中の要らないものを排出し、足りないものを作りだす

 

 

至極単純な事だ。

 

 

最初に男が行った治療は大量に血を抜くという方法だった。

 

毒素を含んだ血を生命活動ができるギリギリまで抜く、ただそれだけで少年少女たちの体調は少し良くなった。全身を蝕む毒が体内から大量に放出されたのだから当たり前ではある。

 

次に男が行ったのは少年少女たちから取り出した毒素をほどほどに中和する栄養素を鑑みて摂取できる食材をこの世界から探し、少年少女たちの体調に合わせて微細な調合をする事だった。

 

幸いな事に宮殿の食料庫には今は亡き大臣の忘れ形見ともいえる食材が大量に眠っていた為、調合は簡単に終わった。

未だ転生者がいるかもしれないこの世界で他の国の食材を見て回るのはあまりにも目立ち過ぎると考えていた男からしてみれば嬉しい誤算だった。

 

 

そして今、現在進行形で行なっているのが体調の回復である。

 

大量の血液を失った体は必然的に新しい血液を作り出す。その為にも普段よりも多くの食べ物を必要とした。

 

男が少年少女達へ振る舞う料理は肉料理が殆どである。

 

その肉に男が調合した調味料、スパイス、薬膳をふんだんに混ぜ込んだ。

 

未だ体内に残る薬物の成分を全て出すために薬膳を使い発刊作用や利尿作用を促す。新たな体を作る動物性タンパク質となる肉に合わせた味付けをする。

 

本来は苦く、若い少年少女が好んで食べないような薬膳を彼らの好物である肉類、汗を掻くことで必然と欲しくなる塩、食欲をそそるビネガーでバランスよく摂取させる。

 

肉だけでは必然的に足りないものはスープや付け合わせを作り補えるようにする。

 

しかし、薬の影響でボロボロになった少年少女達の体を治すために、体を薬膳が万全の状態で機能するように間接的に調節するだけではダメなのだ。

 

一度全身の細胞を殺さなければならないのだ。

 

古い体から新しい体になる為には細胞の分裂を活発化させ新しい質の良い細胞を作る、毒に侵された血液を捨て新しい新鮮な血液を生み出す。ボロボロになった神経細胞を作り変える。

 

 

 

 

 

 

幸いな事にこの技術はある程度デメリットがあるため完成されていない。たとえ原理を聞かれてもある程度の常識や代謝に対する知識、食材に対する知識や栄養学、若い世代のもつ新陳代謝の良さを知っていれば理解できるものだからだ。

 

 

魔術や魔法的な洗脳や催眠、体内環境の変化ならばこの世界で行って良い行動では男に出来ることは何1つなかったが、この世界にはそういった文化の発展があまり盛んではなかったのだ。

 

 

 

最後は少年少女達にかけられた帝国を裏切ってはいけないという暗示を解除するのだが、これは時間が解決してくれる。それに暗示が帝国のために働く意欲になるので解くのは後々でいい。

 

 

 

 

 

「あの、」

 

男はニヤけた顔をやめ普段のいつもの顔へと戻し、自分の元へやってきた少女へ目を向ける。

 

「どうした⁉︎なんか苦手なもんでもあったか!」

 

「あつ、いえ、そのどの料理も私たちが今まで食べたことのあるどんな料理よりも美味しいです、みんなも美味しいっていってます」

 

あの…その…と、人差し指をぐるぐるさせる少女は言葉が出ないのか、やっぱりなんでもないですと言って顔を赤らめながら自分の席へと戻って行った。

 

「ナニヤッテンノ」「ナニヤッテンダヨミカー」「ムリダヨハズカシイヨ」「タカガコッチニキテイッショニタベマセンカ?ッテキクダケデショ」「ナラアンタキキニイケバイイデショ!」「イヤヨ、ワタシハズカシイモノ」「オトメカ!」「ジャァイッショニイイニイコウヨ」「ムリムリハズカシイ」「アンタガツレテッテクレルナラカンガエルケド」「アアワカッタヨ!ツレテッテヤルヨ!」「アンタダレ?」

 

 

男は黙って立ち上がると少女たちの会話の中に入った異物を無理矢理つまみ出し、異物が持ってきた手紙を奪い取る。

 

「これを読めと⁉︎」

 

異物は黙って頷くと切れ味の良さそうな触覚をグルングルン回転させながらどこかへ走り去って行った。

 

少女達は心配そうにこちらを見つめてくる、が男は大丈夫だと手で合図を送る、そしてどこかから聞こえてくる急ブレーキ音を聞き流しながら手紙を開け、それと同時にため息を吐く。

 

手紙には男が最も嫌いな女からの報告書の請求(ラブ・コール)だった。

 

 

 

 

 

「どうやらみょんな人から手紙を受け取ってしまったらしいですね。まぁそれと私の仕事には関係はないですから良しとしますか、……あと性格に少し難あり…っと」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

帝都 宮殿跡地

 

 

 

そこには自分の体の数十倍はあろう巨大な瓦礫を前に立ち止まる、黒い鎧の男がいた。

 

「よっいしょっと、」

 

鎧姿の男は瓦礫の下の方に指を食い込ませると一息で楽々と持ち上げる。そして人並みならざる速さでもって移動し巨大な瓦礫を開けた空き地へと運ぶ。

 

空き地は元は帝国で一番広くて有名な公園で石造りの立派な時計塔があったらしいのだが今ではその姿を見る影もなくただただ広い広場となり鎧の男が瓦礫を運ぶスペースとなっていた。

宮殿にある大量の瓦礫を近くのテントへ運び、そこで砕く。砕かれた瓦礫は職人や専門の人たちが更に細かくし街道の整備へと使うらしい。

 

 

 

鎧姿の男は更に二時間ほど宮殿と広場を行ったり来たりを繰り返した後に足を止めた。一陣の風が吹き鎧姿の男のが立っていた場所には1人の青年が立っていた。

黒潮を思わせる濃い青色の髪色に錨のマークがついたマフラーと先程までは持っていなかった片刃のカーブがついた剣を持っていた。

 

 

 

「ウェイブさん、お疲れ様です」

 

「、つ!?……あっ、どうも」

 

「あ、これタオルです。汗かいてると思ったので持ってきました」

 

「あ、ありがとう…ございます」

 

ウェイブと呼ばれた青年は自分のためにタオルを持ってきてくれた少女に礼を言い、タオルを受け取り、顔を拭く。

 

湧き水の源泉のように噴き出る汗はとどまることを知らず、少女から受け取った真っ白なタオルはあっという間に色を変えた。マフラーを外し上着を脱ぐ、そして体を一通り拭く。

 

そしてもう一度顔を拭く

 

「……っツ」

 

 

顔を拭く手が一瞬止まりあの時の記憶が蘇る。

 

 

何度も体が吹き飛ばされるほどの爆風をその身に受け何度も壁に激突し、いつ死んでもおかしくない状態だった。

 

巨大な氷の槍が何度も地面に深く突き刺さり、山脈のような氷が帝都を覆う、氷山が夕立のように降り注ぎ、地震を彷彿とさせる衝撃が途切れる事なく地面に響く。

 

壊れたオルゴールのような鳴り止まらない女性の笑い声

 

 

 

 

 

心臓が壊れんばかり躍動し、拭いたはずの汗が再び湧き出てくる。胃の中の何かが溢れそうになり、視界がぼやける、耳鳴りがやり止まない。体が異常なまでに震えだす。胸が痛くなり頭がクラクラし 膝がガクガクする横隔膜が痙攣を起こす。タオルを持つ手が力をなくなり。膝が地面に落ちる。巨大な恐怖に身を包まれて目の前が真っ白になる。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

そしてその言葉で現実に戻った。

 

心臓は元の心拍数に戻り、汗はひき

 

胃は腹が減った何か寄越せと言うかのように ぐぅ~ となる

 

震えていたはずの体は元に戻り

 

胸も頭も膝も元に戻っていた。

 

 

そして、先程まで見ていた記憶は遥か昔の出来事のように靄がかかり、思い出せなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ウェイブくーん」

 

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえ少年はその方を見る。声のする方からは胸に大きな三つの傷痕を残す巨体の男性がその巨大な手に似合わないほど小さな弁当の包みを持ちながら向かっていた。

 

「あ、ボルスさん」

 

青年は男の方に向かって走り出す。

 

「いやー探してたんだよ、待ち合わせのテントにいつまで経っても来ないから瓦礫にでも挟まれて出れなくなってたんじゃないかって」

 

「…あはははは、すいませんちょっと仕事に集中しすぎちゃって」

 

「でも凄いんだってねウェイブくん、今日の午前中だけで2日分の瓦礫を運んだんでしょ、みんな凄いって言ってたよ」

 

「あれ?そうなんですか。あーでも、そう言ってもらえると なんか照れるな」

 

「でもしっかりと休みを取らないと皆んなに心配かけちゃうよ。ウェイブくんの担当の広場の人も休まな過ぎだって、心配してたし」

 

「心配してくれるのは嬉しいんですけど…、その、皆んなが働いてると思うと俺だけ休もうって気になれなくて」

 

「それでも休まなくちゃダメだよ、休みを取ってしっかりと体調管理を整える。これも仕事の一つなんだから」

 

「はい、って、ボルスさん、その手に持ってるのって、この前言ってた奥さんの手作り弁当ですか?」

 

「うんそうなの、あとウェイブくんの分もあるから一緒に食べよう」

 

「いいんですか?」

 

暗い顔をしていた青年の顔は明るくなり、マスクを被った男の笑い声は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トラウマを抱えてしまった者への対処は完了している。しかし直接戦闘へ巻き込まれていた青年への配慮は足りていない模様。まだまだですね、写真は……撮る価値ないですかね」

 

 

 

 

 

◆◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇

 

 

 

 

「では、第三者である私から見た感じを述べさせてもらいます。

まずは他の国々について。東西南北特に問題が起こる様子はないでしょう。強いて言えば西の異民族と国交を開くといいでしょう。例の巨大兵器の所為で攻め込もうとしていた軍は壊滅しちゃいましたし、まともな戦力がないので、多少こちら側が有利な停戦条約でも進んで飲み込んでくれます」

 

「北はもう壊滅しちゃってるみたいだぜ」

 

「南は旨味がないので暫く無視でいいと思いますよ」

 

「東側も海賊がいなくなったので安全です」

 

「帝国領内のゴミもあらかた掃除し終わっているのようなので暫くは国民も安全に暮らせますね」

 

「次に食糧なのですが、地方に身を隠していた文官や元大臣、革命軍に席を置いていた人材が大臣の死亡と帝都の壊滅的な状況を知り復興の為に隠し持っていた備蓄米や麦を運びにきているのですが…冬という時期もあってか、どう考えても足りないみたいです。ですからこのまま、危険種退治兼食糧調達を続けて下さい」

 

 

「冬の間は主食や肉だけで栄養バランスは少々偏るかもしれませんが、春先にジフノラ樹海のマツ科の木の根に生える薬草を採取してくれれば、おっけーです。この世界において豊富なビタミンとミネラルを含み、雑草のように取っても取っても生えてくるようなので冬場に偏った食生活をした人たちへ食べさせれば体調が良くなります」

 

 

「食糧問題に基づき、男女の距離を遠ざけることも進めるぜ。今、子供が増えると大量に食糧を消費しちまうから、ここ数年は民衆に労働を促し、性欲を他の形で発散させて、出来るだけ子作りをさせないようにしたほうがいいぜ」

 

 

「最後に帝都の復興を急いでいる文官の人材が石造りの建物を建設したがってるから、それを遅らせちゃって。この土地の地質調査をやったら数ヶ月後に大きな地震が起きるみたいだから」

 

 

「なので、宮殿や貴族の屋敷を中心とした巨大な瓦礫となったものの除去を優先し初夏を迎えてから本格的な建物の建設を始めてください。下手に建物を建てると地震で崩壊します」

 

 

「もしどうしても石で何かを作りたいと言う人がいたら、建物ではなく道路や街道の整備をさせましょう、材料となる瓦礫は有り余っていますし、地震が起きるまでの時間稼ぎにはなるはずです」

 

「あと、例の帝具使いの少年なのですが、あの2人の戦いを見てトラウマが残ってしまったようです。恐らく時間が解決してくれると思いますが、帝都にいると思い出す可能性がありますし…あの力は瓦礫運びよりも食糧調達を兼ねた危険種狩りの方が向いてます。これからの事を考えると早急に配置換えを行った方が賢明かと」

 

 

男は止まった時の中、影から聞こえる声に耳を傾ける。

 

淡々と代わる代わる聞こえる少女たちの声に不満を感じながらもこれからどうするのか考え決め決定づける。

 

少女たちの声が聞こえなくなり男が質問する時間になった。

影の中の少女たちの説明でこの世界に関してはある程度の予定を立てられたのでよしとする。

 

そして唯一の心配の種について問いを投げかけた。

 

 

 

「ところでレイのあいつはどうなった‼︎この世界にまだいるのか!」

 

 

「その件についてなんですが……まずい事になりました」

 

 

「まずい事…!?」

 

 

「それが………」

 

 

 

 

 

 

影の中の少女の予想外の返答に対し、込み上げてくる歓喜と友人に対する同情心が湧く。

 

男は胸ポケットからビッシリと文字の書かれた紙を取り出し影の上に置く。少女たちの気配が消え止まっていた時が動き出す。

 

 

 

そこには何の痕跡も残らず、誰も目を向けていなかった。

 

 

 

「帰ったら奴に一杯奢ってやるか!」

 

そんな言葉が寒空の帝都に響いた。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある世界

 

 

 

 

そこでは2つの国が戦いの火蓋を散そうとしていた。

 

 

 

 

 

一方は巨大な木造船を何百隻も持ち、質の良い金属の鎧をその身に纏った数百万の兵使い、一騎当千の力を持つ赤毛の戦闘民族の兵団を操る。

この世界の有史以来、最も「強く大きな国」であり続けている国。

 

 

 

そしてもう一方は数十万人の命を極少数の魔導師が守り管理し導く国。

轟々と燃え盛る炎を、全てを攫い無に帰す水を、星々の瞬きの如き閃光を、天を裂くほどの雷を、巨大な木々を薙ぎ倒す風を、人の精神に最たる影響を及ぼす音を、万物に等しく影響を与え及ぼす力を、全ての生き物の根源たる生命を、それら全てを自由自在操りし存在たる

 

魔導師が統べる国。

 

 

 

 

 

 

双方、強大な力を持ち、互いにぶつかり合えば無傷ではすまない。

 

 

 

 

 

開戦の狼煙は既に上がり戦と、多大な犠牲は避けられないものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

 

 

 

「一体どうしたというのだ!?既にマグノシュタットと開戦をして数十分!なぜ大レームの兵士が一歩も前に進む事が出来ない!?」

 

「槍を下ろすな、この岩の壁を超えろ!」

 

 

強大な国の兵士たちは驚愕した

 

目の前に現れたのは数十メートルは下らない巨大な壁

 

城壁の如く分厚い壁は、まるで地面をそのままエグリひっくり返したのではないかと、感じさせるほどの存在感を放ち、レーム兵の侵入を拒んでいた。

 

 

 

 

 

 

空から1つなにかが落ちてきた。

 

ただただ重力に任せてそれは落ちてきた。「強く強大な国」と「魔導の国」が互いに睨みをきかせていた丁度中間に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつはいったいなんなんだ!?」

 

「もう一度だ!もう一度雷魔法をあてろ!」

 

「もっと魔導師の人数を増やせ‼︎威力を増大させるんだ!」

 

「無理です!私を含め多くの魔導師の杖が奴によって壊されました、杖なしでこれ以上の威力の魔法を撃てば我々の身がもちません」

 

 

 

 

 

魔導師が統べる国の魔導師たちは驚愕していた。

 

目の前の1人の人間に対してこちらの魔法が一切通じない事に。

 

 

我々の前に現れたのは1人の杖を持たないただの人間(ゴイ)

 

それが何故だ⁉︎?何故我々の魔法を喰らい平然としているのだ⁉︎

 

 

 

 

 

 

 

 

天から落ちてきたそれは開戦して暫くして動き出した。

 

「強く強大な国」の兵士たちが「魔導の国」へと向かう時、動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モガメット様、第一次防御結界が破られました!」

 

「狼狽えるでない。敵はまだ内部に侵入していない、今直ぐに破損した部分を再生すればよい。それと防御結界を再生させたのち、前線の魔導師たちには敵の兵士が近づかない限り結界の中から出ないように伝えなさい、杖が壊された者には新しく杖の代わりになるような物を渡しなさい」

 

魔導師たちは自らの魔法が効かない相手に戸惑っていた。

 

魔導師たちの魔法はことごとく回避されていたのだ、無駄に地面をえぐり土埃をたて自ら視界を狭めている。そのせいでまた1人2人とボルグを破られ杖を破壊される魔導師がふえた。

 

 

 

「かしこまりました」

 

「ふむ、どうやらレームとも煌とも違った敵がまぎれこんでいるようじゃのぉ」

 

 

 

 

 

それは風よりも疾く

音を置き去りにし

圧倒的な力を持って、戦場を駆け巡った

 

 

 

 

 

「イレーヌ様、モガメット様からの発射許可がいただけました。これでいつでも巨大魔法道具発射が可能です」」

 

「!そうか!なら、いますg『ズドオォォォン』なぁああ!?」

 

「嘘だろぉお⁉︎」

 

「巨大魔法道具崩れるぞぉお、周辺にいるものは避難しろ!!」

 

「そんな、バカなあの距離からいったいなにをしたというのだ!?」

 

 

数百メートルはありそうな巨大な兵器がその存在感から戦場を支配した。

 

 

 

 

しかしそれも一瞬だった。

 

 

 

 

 

 

巨大な地面の壁の方から2つか3つ石が飛んだのだ、直径が7センチ行くか行かないかくらいの岩といってもいいほどの大きさの石。

 

それが誰の目にも止まらず一直線に向かい、その巨大魔法道具を破壊したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「団長、先陣切った兵士たちが丸裸でこっちに飛んできてます!」

 

「何を言ってるのだ、魔導師でないレームの兵士が飛ぶわけないのだ」

 

「いやだって、ほら」

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

その姿は見えなかった

 

正しくいうのであれば、見続けられなかった。

 

例えるなら、人が太陽を見続けるようなものだ

 

 

見ることはできる、しかし見続けることはできない。

 

 

 

 

 

 

 

壁を超えた兵士たちを待っていたのは拳という名の洗礼だった。

 

梯子を使い壁を超え、地面におり立つ。

 

そして金属鎧の丁度ど真ん中に衝撃が走る。

 

鎧にヒビが入ったことに気がつく前に意識は刈り取られるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ここから前線までかなりの距離があるな」

 

「あそこ、少し地面が盛り上がってるとこ、あそこから飛んで来てる」

 

「レームの魔導師は人を飛ばす事もできるのか…」

 

「いや、違うでしょ」

 

「これはどう考えても、殴られてこちらに吹き飛ばされてるのだ」

 

「もしかしたら、ファナリスに会えるかもしれねぇなぁ」

 

 

 

「どうやら我々の出番は思った以上に早く来そうだ」

 

 

 

 

 

魔導師の大半の杖がおられ、再び第一次防御結界が破られた。

 

マグノシュタットの兵士たちはもはや動けなくなっていた。自分の国の守護神たる魔導師たちがことごとく杖を奪われ敗走している様を目の前で見せつけられているのだ。

 

 

もはや戦う意志など微塵もない。

 

 

それでもまだ隊列を維持し、自分の手にある魔法道具を握り男のにむけて構えているのは日頃の訓練の賜物だ。

 

 

目の前の男に巨大な雷が落ちる。

 

 

誰かが言った『やった、魔導師様が帰ってきてくれた』『杖を再び握ってくれた』『やった、これで勝てる』『やった!流石魔導師様だ』

 

炎の柱が立ち上がり、酸の雨が降り注いだ、巨大な地面の塊が宙に浮き、勢いよく地面に落ち、大地を震わせるほど巨大な爆音が響いた。

 

「魔導師様万歳」「魔導師様万歳」「魔導師様万歳」「魔導師様万歳」「魔導師万歳」「魔導師様万歳」「また、きたのかよ」「魔導師様万歳」「魔導師様万歳」「魔導師様万歳」「魔導師様万歳」「⁉︎」

 

巨大な地面が落ちた場所から少し離れた所に風にたなびくマントが見えた、しかし次の瞬間には地面から現れた巨大な人食い植物により飲み込まれた。

 

 

兵士たちはみな願った、頼む出てこないでくれと。誰にともなく願った。未だ咀嚼する巨大な唇のような人食い植物の花弁があの男の手によってもう2度と開かないことを。

 

強く願った。

 

 

 

兵士たちの願いは叶った ゴックン、と言った音と共に男は丸呑みにされた。そしてもう2度とその花弁は開くことはなく、人食い植物の茎に当たる所に巨大な穴が空き

 

 

 

そこから男は姿を現した。

 

 

 

 

兵士たちは狂乱し、武器を捨て、一目散に逃げ出した。

 

 

 

 

逃げ出す兵士たちの姿をあっけにとられていた魔導師たちは再び杖を壊され敗走することとなったのはいうまでもない、

 

 

 

 

 

 

ヒーローとはなんだろう

 

 

正義の味方とはなんだろう

 

 

勇者とは英雄とはなんだろう

 

 

 

 

 

 

 

マグノシュタットの兵士たちは全て敗走し、前線にはレームの兵士だけになった。その兵士たちもたったいまをもって全員錐揉みしながら空高く飛んで行った。

 

 

また、レームの火薬兵器を大量に乗せた気球は男がジャンプした際拳を振るい生み出された爆風により海への方へと押し返された。

 

 

 

 

 

もはや戦いも終わった、そう思われた時、男が生み出した地面の壁にヒビがはいり。

 

そこから赤毛の金属鎧の集団が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

人を殺す事により、未然に人の死を防ぐ者たちがいた

 

人が死んだ事により、人はこれを悪という。

 

 

 

1人の少女を守る為、大国に1人立ち向かうものがいた

 

人が少女を守った事により、国はこれを悪という。

 

 

 

人の大切なものを奪う事により、哀しみに明け暮れたものがいた

 

人が全てを捨て復讐の道に走った事により、悪となった。

 

 

 

人が仲間を集め、日々戦いを挑むものたちがいた

 

人は彼らが悪の組織と名乗るから、彼らを悪という。

 

 

大勢の人の命を救う、1人の少女の命を救う、自分という大切で尊く、かけがえのない存在を救う、これらに大差などあるのだろうか。

 

 

 

 

「ぅぁあ゛あ゛あ゛あ゛」

「おぼぉはぁ」

「「くらぁぇえ」」

「「ゔぇおぁが」」

「はっ!」「やっ!」

「「ガハッ」」

 

 

赤毛の戦士たちは全力で戦った。

 

自分の持てる全ての力を余すことなく使っていた。

 

しかし、なのに、でも

 

「よっ、はっ、ほっ、」

 

拳が一発胴に入っただけで、前線で戦っていた兵士たちと同じ末路を辿った。唯一違うと点を挙げるとすれば

 

 

「ちくしょおおおお、テメェ顔覚えたからなぁ‼︎次会ったら絶ってエぶっっつぶす」

「くやしぃい」

「ムカつく」

「今のナシナシナシナシ‼︎全力じゃなかった!」

「もっかいしょうぶしろ!」

「ふざけるんじゃないのだ‼︎ファナリス兵団がこんな簡単に負けていいはずがないのだ⁉︎」

 

 

殴られても意識を無くさず、空高く飛びながらも恨み言を言えるくらいだろう。

 

 

 

 

 

もう一度問おう

 

 

 

 

ヒーローとはなんだろう

 

 

 

 

正義の味方とはなんだろう

 

 

 

 

勇者とは英雄とはなんだろう

 

 

 

 

 

 

一夜明け、マグノシュタットから黒い影がいくつか南の空へと飛び立った。

 

 

黒い影が向かった先は『強く強大な国でも』『魔導師の国』でもないこの世界で『最も広く広大な国』の兵士たちのもと

 

 

そこで黒い影は暴虐の限りを尽くそうとしたが

 

「胃が痛い中、わざわざご足労ありがとうございますよぉっと」

 

何匹かが紫色の何かに蝕まれ、再生することもなく、その姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃マグノシュタットでは

 

「よいしょっと」

 

1人の男が地面から湧き出す、巨大な黒い影の源泉に足を運び、飛び出してきたそれらを全て吹き飛ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、もう魔力がなくなったのか」

 

「ガッ、あっ脚が」

 

「魔装が、もうとけちまうっ‼︎」

 

 

 

1時間ほど時計の針は進み、西方の空 そこに1つの穴が空いた。

 

厚く黒い雲の中から空く穴は、そこだけ別の次元であるかのように思わせるほど黒く、闇に包まれていた。

 

その穴から今この地に悪意の化身が降り立とうとしていた。

彼の手は触れたもののすべてから命の素を奪いとる。

人を、鳥を、獣を、蟲を、魚を、草を、木を、森を、山を、川を、滝を、谷を、丘を、湖を、海を、空を、音を、火を、水を、雷を、風を、 力を、命を、奪いとる。

 

悪意の化身はこの地に降り立つ為の楔をこの地に打ち付けた。

 

自分と似通った性質を持つもの

数多の手を駆使し、この世の全てを奪いとるもの。

 

それは依り代、悪意の化身がこの地に落とした悪意の子。

 

 

 

 

 

 

『ああっ、なんとも嘆かわしいことよ‼︎その程度の力では「依り代」は倒せるわけがないもの…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それらに明確な答えなどない

 

あるはずもない

 

ましてや誰かが知る由もない

 

 

 

 

 

 

 

「!おいあんた、あんたは下がってろ…‼︎」

 

「、なっ!?あんた!死ぬ気⁈」

 

「…おじさん!無茶だ‼︎」

 

 

 

 

 

 

だがしかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ!「依り代」が⁈』

 

『まっ、まさか…』

 

『「アルマトラン」の時でさえ72人がかりだったものをたった一人で…』

 

 

 

 

幾人もの王が、炎を、空間を、圧力を、暴風を、水を、操り立ち向かい

 

 

幾万の命を奪い なおかつこの世界に生命の存続を許そうとしない存在を

 

 

たった一人で屠った男は

 

 

 

 

 

 

「あんたいったい」

『あいつはいったい』

「おじさんはいったい」

 

 

 

 

 

 

 

 

この時ばかりは、

 

 

 

 

 

 

 

「おれか?おれはヒーローをやっているものだ」

 

 

 

 

 

 

 

紛う事なき、ヒーローだった





ワンパンマンが更新されるたびに『あっ、書こう』と思うがことごとく途中で指が止まってしまう、鉋なんかです。

書いては消して書いては消して、そうこうしているうちに平成最後のコミケがはじまって。
大変ですね。

雪や寒さ、寒気等の冬将軍に負けないよう皆さま頑張ってください。



これからは、もっとストーリがあるものを書いてみたい。

まぁ、私の文章力では無理かもしれませんが。


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