お久しぶりです鉋なんかです。
IS abが終わって、ショック受けて
スマホの画面が割れ、ショック受けて
プクプク始まって喜んで
ちっちゃい方の妹が出て喜んで
まぁ、めんどくさい話は後にして最新話です。
どうぞ
(力があふれる)
『ウラミガツノル』
(なんでもできる)
『ナニモデキナカッタ』
(今ならできる)
『イマナラデキル』
(やつを倒す)
『アイツヲコロス』
──────────────
XXIV
あれだけ巨大であったシコウテイザーはゆっくりと倒れた。
足をだらしなく伸ばし、腕をぷらーんとさせ下を向き猫背となった。
例えるならテーマパークに行った時の父親だ。
日曜日の朝早くから車を運転し、高速に乗る。テーマパークに着いたらチケットを購入する為に並び、乗りたくもない絶叫系アトラクションや大の大人が乗るとファンタジー感ぶち壊しなくるくると回転する乗り物に乗り、吐きそうになる。元気いっぱいな娘に手を引かれながらお城や洞窟子供の世界を行き来する。 日も沈み、暗くなってきた。早く家に帰りたいのにも関わらず、娘と妻はパレードが観たいと言って何処かへ行ってしまう。酒を飲もうにも明日の仕事は朝早く、二日酔いになるわけにもいかない、それに帰りの運転だってしなくてはならない。せめてどこか腰を降ろせる場所に座ろうとしても、自分と同じような境遇の人が既にはそこに倒れ込むように座っており、仕方がなしに地べたに座る。
見る人が見たらそう思わせるような状況だ。
サイタマはそんなシコウテイザーの姿を尻目に目の前に迫る龍を見据える。
サイタマが今まで戦ってきた龍の中では比較的小柄
腕も足も翼も尻尾もどれも細く小さい。しかしその口はサイタマを一口で飲み込んでしまいそうなほど大きく広がっていた。
上空から突如として現れ、錆びた鉄のような臭いを漂わせながら近づいてくる龍に、サイタマは軽い不快感を覚える。拳を握り、血の滴る牙を向け自分を丸呑みにしようとする龍めがけて拳を振るう。
その無慈悲な拳は生物の常識外のスピードをもって繰り出され、硬い鱗を持つ龍の身体を容易に貫いた。哀れにも襲いかかってはいけない存在に襲いかかった龍はその一瞬で物言わぬ肉の塊へと、その身を変えた
はずだった
「あ」
龍はサイタマの攻撃が当たる直前で頭を亀のように体の内側にひっこめ拳を回避すると空中でくるりと身をひるがえし、歪なまで巨大化した尾でもってサイタマを地面へと叩きつけ首元までめり込ませた。
龍は肩まで土に埋まったサイタマめがけ更に追撃するかのように思えたが、何かに気がついたのか追撃する事なく上空へと飛翔した。
その直後にサイタマの真上に巨大な氷塊が降ってきた
その氷塊は空を覆い尽くすほど巨大で、もはや氷山とよんでも過言ではないほどであった。並みの城塞なら破壊しかねない巨大な氷塊は加速し錐揉みしながらその破壊力を増し、サイタマのめり込んでいる場所へ向かって落下して行く。
サイタマは地面から這い出ると、軽く身体についた汚れをはたき落とす。先ほど龍に変な体勢で埋められたせいか脇の辺りや膝のあたりが特に汚れていて少しはたいただけでは汚れが落ちそうにないことに少しばかりのショックを受ける。
落下してくる氷塊はだんだんとその大きさを感じさせる。
汚れを落とすのを諦め、サイタマは巨大な氷山めがけて勢いよくジャンプする。周囲の地面に亀裂が走り地盤が変形し宮殿の一部が大きく傾く。それとほぼ同時に拳が氷山を貫いた。巨大な氷山は氷の塊となり氷の破片を撒き散らしながら、宮殿内部や帝都の宮殿周辺の街へととんでいった。
そして、サイタマは巨大な氷山に隠れるようにして近づいていた筒状の氷塊の中に吸い寄せられるかのようにして入って行った。
筒状の氷塊は外側には年端もいかない少女が精巧な彫刻で施されていた。少女の氷像は薄いワンピースと脚まで伸びた髪が風に揺れている様子が見事に表現され、胸の辺りで組んでいる細い指一本一本がしっかりと形取られていた。そっと目を閉じ何かを待つかのようなその表情は耳をすませば呼吸の音が聞こえるのではないか、そう錯覚してしまうほど見事であった。
「
そっと囁くような冷たい女の声が聞こえ、少女の氷像の目がぱちりと開く。美しくガラスのように透き通った目、氷像でありながらも吸い寄せられてしまいそうなほど美しいその瞳は人であればその容姿と際立って数多の男を魅了し、庇護欲を誘う事は間違いないだろう。
帝都の芸術家や幼児性愛者が見たならば己の全財産を投げ打ってでも欲しいと願うほどの逸品である事は間違いはなく。芸術家でなくともこの氷像が博物館にでも展示されれば、連日連夜、人々は列をなしこの少女の氷像を見ようとするだろう。
しかし、そんな美しい少女の氷像は容赦の無い男の拳により内側から粉砕された。
吹き飛ばされた氷片には美しい彫像の残りと人体であれば肉を容易く突き刺し骨ごと貫いてしまうのほど鋭く尖った氷の棘が無数に入り混じっていた。
「やはり、その程度では倒せないか」
巨大な氷山と氷の処女を作り出した女は実に楽しそうに笑う。
サイタマは華麗に地面に着地しようとしたが、足元にあった氷を踏みツルッと滑りコケる。
一瞬の間が空き、サイタマはその事が無かったかのようにして立ち上がるとその笑い声がした方をむき、その姿を確認した。
体の至る所が氷で覆われ、肌の所々が薄い灰色。左右非対称でどう考えても翼の役割をしていない氷の翼は右側が短く左側が歪なほど大きかった。腰よりも長く伸ばした髪は透明度が高く髪の向こうの空がが見えるほど透明で透き通っており、腰に当てていた手が様になっていた。
「なんか、あのガキを思い出すな」
サイタマはその姿を見てS級ヒーローの1人を思い出す
背丈や発育、髪型も全くもって別物であるのだが、そのポーズと常に余裕そうな態度から、ふと思い出してしまった。
『ジャマヲスルナ、コイツハ オレガコロス』
自分もろとも巨大な氷山で押し潰そうとしたエスデスに対し龍は低い唸り声を上げ、牙をむき出しギロリと睨みつける。
並みの危険種ですら逃げだしかねないその眼光は以前のエスデスであれば身震いする(もちろん武者震いである)ほどのものであったが、今のエスデスからしてみればなんの痛痒も感じさせないものであった。
しかしエスデスは龍が顔につけている ソレ に目を向け、少しばかりの興味を抱く。
「まさかあの時のフライングデスがここまで強くなるとはな、それにその顔につけているのはバルザックか?」
エスデスは目の前の龍を観察する。唸り声をあげながらこちらをギリッと睨んでいるその龍はいつだったかフライングデスの飼育場で見た、特級危険種レベルにまで強くなったというフライングデスのボスだっただろうか。
しかし、だいぶ違うな
(以前見た時よりもだいぶ小さくなっている、いや違う骨格や筋肉のつき方がフライングデスのそれと全くもって違う?)
エスデスは昔、生きたまま解剖したフライングデスの体の構造を思い出し、記憶の中のそれと目の前にいる龍を見比べる。フライングデスにはない箇所に筋肉はあり、明らかに骨や関節の数が増えていた。それによく見てみると爪の鋭さや鱗の硬度が帝具の材料を思わせるほどであった。
フライングデスが鉄の鎧なら目の前のコイツはオリハルコンか、不意にそんな言葉が口から出た。
少し間が空き、エスデスが龍の事をじっくりと観察していると今度は龍が口を開いた
『ヤツハ、オレガコロス、ソレガアイツラヘノタムケニナル』
ジャマヲスルナラオマエカラコロス、その言葉を聞き、エスデスは獣のような笑みを浮かべる。そして目の前にいる龍と下で何かを探している男を交互に見る。
顔に右手をあて悩む姿は彼氏に買ってもらう誕生日プレゼントを決めかねている年相応の女性であるが、その人からかけ離れた姿からは、どちらの獲物の方が美味いのか考えている捕食者のそれに近かった。
「ふむ」
ほんの数秒、戦闘の最中であれば自分の首が飛びかねない時間の中エスデスは少しの迷いはあったものの自分の中でどうするかを決めた。
「今のお前と殺し合うのも面白そうだ。しかし、生憎だが私は強いやつと戦いたくてだな、今更トカゲなんぞを相手にしている暇はないのだ」
そう言うと顔に当てていた手を前に出し パチンと軽く指を弾く
するとエスデスと龍の丁度中間の位置に以前のエスデスと同じ姿をした氷の氷像が三体出現した。
「
エスデスはそう言うと、龍に向けていた視線を男に向け、そして男めがけて一気に急降下する。
エスデスが行った途端、氷人形は動き出し腰の部分に持っていたサーベルを抜き、龍へと突き刺す。
しかし、龍の異常なまでに膨らんだ右腕により氷でできたとは思えないほど鋭利なサーベルは砕かれてしまった。氷人形は次の動作のためいっきに距離をとるが、一瞬のうちに距離を縮めた龍の巨大な顎門により粉々に噛み砕かれる。
『ジカンカセギニモナラン』
バリボリといった心地よい咀嚼音を立て、氷を噛み砕きながら龍はそう呟き、口の中に残っていた氷を飲み込む。そしてその小さな翼をたたみ、エスデスの後を追うように男めがけ下降していった。
──────────────
帝都から南に少し離れた所
荒れ果てところどころひび割れた水気のない大地と帝都からここまでのびている少し整備されていると言えなくもない街道以外は何もない場所。
そんな場所に帝都から避難してきた大勢の人々は集まっていた。
人々は帝都警備隊指示のもと秩序だって行動し、今は一時的にここら一帯にテントを張り、少しの間だけ帝都から避難していた。
ずっと歩き続けた人々が健康な人間だけであればもっと遠くまで避難できた。だが、老人や怪我人を優先的に避難させたため、あまり遠くまでは移動できなかった。それでも警備隊が予想していたのよりずっと遠くまで避難できた。
朝早くから叩き起こされた者たちの足取りは遅く、苛立ちを覚えながら警備隊に対して愚痴を零す。
避難している間に店に泥棒が入ると困るからという理由で店の商品を馬車いっぱいに乗せる商人や、その商人を見て家に忘れ物を取りに行く住民たちで道が混雑する。
警備隊が指示を出したのにも関わらずロクに聞かない住民たちのせいで道はさらに混雑し、避難しようとする人間と家に忘れ物を取りに行く人間が肩がぶつかったや足がぶつかったで揉め事を起こし、後ろから押した、押してないで揉め事を引き起こす、人混みに乗じてスリが現れ避難勧告が出て30分経っても避難は一向に進んでいなかったのだ。
大勢の住民たちが避難勧告に危機感を持っていなかった。
しかし、帝都北側で起こった爆発音や遠くからでもわかる天空に舞う人影が出現してから事態は急変し、人々が我先にと避難した結果、当初予定していたのよりも遠くまで避難できた。
そして現在、帝都警備隊は
「怪我人はいませんかー」
「暖かい飲み物あります」
「まだマントが渡っていない人はいませんかー」
「体調のすぐれない方は赤い旗の立っているテントまで来てください。医療班がしっかりとした手当をします」
「おらっ、新人ども23番テントに毛布と食料運べ!」
「「「はい」」」
その多くが休みなく働いており、それぞれ割り振られた仕事をしていた。
主な仕事は物資の配達で百を軽く超えるテント───勿論自分たちが運び建てた────に物資を届けていた。その物資と言うのも、とある人間が、道を塞ぎ避難を妨げた商人から無理やり買い叩いたものをここまでは運びこんだもので軽く数万着あった。買い叩かれた商人は涙目であったが、とてつもなく美味い葡萄酒を貰った為なんとも言えない表情をしていた。
買い叩いた本人は
「いいかてめぇら!おそらくこの戦いは数日で終わる!帝国が勝つか!あの男が勝つか!そんなもん知ったこっちゃねぇ!だがなこんな状況だと強姦や火事場泥棒の被害者になるやつが必ず出る!これはなんとしても避けなければならねぇ!いいか!てめぇら近衛兵はそれを未然に防ぐためパトロールだ!必ず最低3人で行動しろ!変なやつがいたら止める奴!応援を呼ぶ奴!周囲を警戒する奴!仕事を分担しろ!応援には今配っている玉を使え!地面に叩きつけると煙が出る仕組みになっている!応援を見た奴はすぐに現場に向かえ!わかったら返事!わからなくても返事!」
「「「「ハッ!」」」」
「医療班!報告しろ!」
「ハッ!怪我人1253名、その内擦り傷かすり傷等の軽傷者907名、打撲捻挫等の負傷者254名、骨折 刀傷等の重傷者79名、意識不明の重体13名であります」
「意識不明の者はもってこい!私が直々に診る!患者の容体に合わせてゆっくりでもいいから持ってこい!」
「「「ハッ!」」」
「お忙しいところがすいません、帝都から傷だらけの兵士たちがおよそ10万人、どんどん数を増やしながらこちらに向かってきます」
「健康な体の奴らを全員集めろ!4番テントと8番テントの倉庫に数日分の食糧の備蓄がある!そこを解放し兵士へ配る!私も重症患者と内部のクソ野郎共を一掃したらそちらへ向かう!私がそちらへ着く前に兵士たちに温かい食べ物を配れるようにしておけ!」
「ハッ!了解しました」
そう言って走り去って行く警備隊の1人を尻目に一息着く、どうせ数秒後には自分は移動しなくてはならないのだ
声を張り上げ怒鳴り散らし、警備隊と近衛兵と健康な人間を使い即席の部隊をつくり、的確で正確な指示を出し、物資の分配や各テントでの問題やトラブルがないか目を光らせる。
ところどころ汚れた燕尾服の埃を払うと胸ポケットから30センチほどの竹櫛を取り出し、白髪一本ない自慢の真っ黒なオールバックの髪を整える。
誰しも慌ただしく動いてる中、その瞬間だけ男は1人その場から切り離される。
「で!帝都の中はどうなってた!」
髪を整えながら、何か返事があるのを待つかのように呟く
『………』
「は!あいつが負けた!つうことは!」
少しの間が空き自分のすることが増えた事に心の中でため息を吐き、仕方がないと割り切る。
男の仕事にはそんな事よくあるからだ。
『……………』
また少しの間が空き、近くで見なければわからないほどでしかないが肩を落とす。
男の仕事にはそんな事rx
「わーったよ!こっちは近くの森に!暖をとるための薪と食料になる危険種を狩りに行かねぇといけねぇから!」
『……』
「は!そりゃ!どう言うことだ!って!おい!」
竹櫛を握りもう一度握り締め何かを確認する、しかし竹櫛は持ち主の思い通りにならず、軽く舌打ちされる。
男の仕事にはry
「ったく!ふざけやがって!」
整え終えた髪を軽くなで胸ポケットに竹櫛を仕舞い込み、今度は目に見えるほど深いため息をついた。
男のry
──────────────
一瞬の出来事であった
世界が氷に包まれたのだ
サイタマが崩壊した宮殿の方から降ってきたチェインシャツと皮のズボンを全裸でいるよりはマシだろうと思い、着ていた最中であった。
遥か上空から降り立ったエスデスは地面に着地すると同時にその身に新しく宿った力の一部を解放する。
背中にある左右非対称の翼が白く強烈な光りを放ち、エスデスの体は更に強烈な冷気に包まれた。
エスデスは体に纏っている冷気をその掌に集める。空気を凍らせるほどの冷気は止まる事は知らず掌に収まりきらないほどの大きさとなった。数時間前のエスデスの内包していた力の数十倍はあるであろうそれを躊躇する事なく上空へと打ち上げる。打ち上げられた冷気の塊は帝都の遥か上空で弾け飛び、内包していた力を一瞬で解放させた。
そして今所々穴が空き壊れかけていた宮殿も内部まで氷漬けになり、崩落していた壁も落下途中の壁の破片も空中で静止し、その動きを止めた。宮殿を囲うようにして存在していた巨大な城壁も下からてっぺんに至るまで全て凍っており最初よりも分厚く巨大な氷の壁を作り上げていた。
常に人の身を凍てつかせる強烈な吹雪がおこり、日の光を遮る分厚い雲の中から人を容易く押しつぶしてしまいそうなほど巨大な雹が無作為に落ちてくる。あちらこちらで落ちてくる巨大な雹は凍りついた地面や帝都の凍りついた建物を破壊していく。
破壊された箇所には雹がその場にとどまり歪な氷の水晶を作り上げる。
「素晴らしい」
エスデスは自然とそんな言葉を漏らしてしまう。
彼女がそう漏らしてしまうほど、この出来事は素晴らしいのだ
帝都上空を厚い雲で覆い、猛吹雪を巻き起こす自分の力 いや帝都だけでなく恐らく帝国、いや近隣諸国にまでこの猛烈な吹雪は影響を与えるだろう。
しかし、これだけの事をしても未だに力が溢れてくるそんな自分が手に入れた力の強大さを差し置いて、彼女は素晴らしいと漏らした
勿論、芸術のセンスがあまりない彼女が帝都の凍りついた様子や至る所にできた氷の水晶を見て素晴らしいと思っているわけでもない。
目の前の男
寒さに震えながらも
自分に立ち向かうこの男
上空を飛翔する龍
一撃で氷人形を倒し
殺しにかかる龍の
そう
素晴らしいのだ
これほどまでに強い相手と戦える
その事実が彼女に素晴らしいと思わせるのだ。
数時間前、彼女は何も出来ずに終わった。
ブドーを倒したほどの強者
楽しみで楽しみで仕方がなかった
どうやって戦う?どうやって攻めよう?何か帝具を使っているのか?使っているとしたら時間制限があるのか?倒した後は?どうやって屈服させようか?いや、どんな拷問にかけようか?どんな命乞いを聞かせてくれるのか?
そんな事ばかり考えて、珍しく一夜明かしてしまったほどだった。
目の前で三獣士がやられた
それも一撃で
三人とも別々の方角から奇襲をかけた、しかしその奇襲はまるで効かなかった。
ダイダラのベルヴァークを人差し指と中指だけで止め
リヴァの水龍を拳で吹き飛ばし
ニャウの背後からの奇襲はまるで最初から効かないのを分かっていたのか敢えて受けていた
ニャウが吹き飛ばされるかされないかの時、私はいつのまにか男に対してハーゲルシュプルングを放っていた、少し力み過ぎたせいかいつもの倍くらいの大きさにしてしまった。しかし、この男ならなんとかするだろう。
数秒たって少しばかり不安が走った、いささかやり過ぎてしまったか?まさかこれで終わりではないのか?そんな不安がよぎった。しかしそんな不安はハーゲルシュプルングが帰ってきた事で、かき消された。
(そうか投げ返してきたか)
放った時よりも早く、音を置き去りにするかのような速さで近づいてくる。
ギリギリの所で回避する。
楽しかった、どんな危険種や強者であれど私が全力を出せば容易くその命が失われる、あの大技を壊すでも回避でもなくまさか投げ返してくるとは。単騎で帝都へ乗り込んでくる気概といいこちらの予想を遥かに上回る戦い方、どんなやつなのか実に気になった。
一瞬目、男と目があった
戦いの最中であるのにもかかわらず、その目は敵を認識する目ではなく、ただそこにエスデスがいるという事実を認識しただけ
能面のような目だった。
面白い
その顔を変えてやろう
この場は戦場である、にも関わらずその油断しきった目
それが貴様の命取りであった事を後悔するがよい
普段の数倍、いや数十倍数百倍規模のヴァイスシュナーベルを男を基準に扇状に展開する。数百本ずつ0.1秒のタイムラグを作り1秒に千本それを数十秒、右足を狙うもの、左足を狙うもの、肩を狙うもの、胴を狙うもの、頭を狙うもの、右腕を狙うもの、左腕を狙うもの 別々に狙いを定める。そして放つ。
陸上の生物というものは基本、体の一部分が大きく損傷すると体の動きが鈍くなる。例えば動物、どんなに強い肉食獣でも足を一本でも失おうと、自ら餌をとることのできない弱者へと成り下がってしまう。
兵士だって同じだ、戦いの最中怪我をする事はよくある、だから兵士たちは怪我をしたら直ぐに後ろに下がるのだ。勝てる戦いでも下手に手負いで前に出ると取り返しのつかない大怪我を負うからだ。
目を失えば戦闘で相手との距離感を失い、視野が狭くなり、肩を斬りつけられれば、下手すると一生腕が動かなくなる。腕が無くなれば、走って逃げる事も上手くいかなくなるし、足が無くなれば、そもそも逃げる事すら叶わなくなる。
そんな当たり前の事は十分理解しているし知っている
だから、敢えてバラバラに狙いを定める
無論、相手が回避する事を予測していつでも軌道修正を行えるようにしておく。
(おそらく回避に徹すると思うが…)
エスデスは氷の剣に体の至る所をズタボロに斬り刻まれた男の姿を幻視する。
1秒 たったそれだけの時間で千発もの氷の剣が男へ向かう
しかし
体の至る所を狙った氷の剣は男によって全て回避された。
戦士のように後ろに後退するわけでもなく 暗殺者のように身を低くして横に逃げるでもない、かといって身を翻すようにして避けたわけでもないし、空高く跳躍し地面から遥か上空へ飛び上がったわけでもなかった。
ただ単純に回避しただけである。
0.1秒ごとに100本もの氷の剣が男の体の至る所に狙いを定めて放たれる。初撃を回避しようにも0.1秒後には男の動きに合わせて軌道修正された氷の剣が再び飛んでくるというのにも関わらず。
前に一歩踏み出したと思えば近づいてくる氷の剣を紙一重でかわし、手をパッと上にあげ回避し、足を軽く内股にして回避し、顔を少し傾けて回避する。
その動きは酔っ払ったおっさんのそれに似ていて予測が難しく、エスデスが今まで戦ってきた武術家や武道家、暗殺者とも全く異なっていた。
そして男の能面のような顔は少しずつ変わっていく
やめろその顔はやめろ
(ここは戦場だ、私はお前の敵だ)
段々と距離を詰めてくる男 その呆れたような顔が段々と近づき苛立ちが募る
男との間に巨大な氷の壁を作り上げ、先ほどの数倍の力を込めたハーゲルシュプルングを壁の向こうに落とす。
そして目の前にある自分が作った氷の壁を壊し、ちょうど拳を振り上げた男に自ら近づく。地面を凍らせ、摩擦係数を減らし、異常なまでの速さで滑るように距離を詰める
(私は全力を尽くしている。なのになんだその貴様の顔は)
こちらに一切気付くそぶりのない男をその周囲の地面もろとも凍らせる
どうせ直ぐに氷を砕いて出てくるだろう、だがそれでもいい。
(貴様がその顔をやめ、私と全力で戦うのなら)
そう思っていた
そしてエスデスは敗北した
「いや、あの時戦いにすらなっていなかった」
何も無い虚空を見つめてポツリと呟く。
数時間前の事にも関わらず、遠い記憶の出来事であるかのように思い出す。あの時、男が氷を打ち砕いた後、確かにサーベルを抜いた、それまでは覚えている。
しかしあの一瞬だけ、私ですら追いつかないほどの速さで何かをされた。
そう、あの時、私は負けたのだ
完璧なまでの敗北
「しかし、そんな事などどうだっていい」
この世の中強いものが勝つのが当たり前
弱者は淘汰され、強者のみが生き残る
今はこいつと全力で戦いたい
「だが…」
──────────────
ブドー大将軍が力を溜めていたため時、帝都の上空は分厚い積乱雲で覆われていた。しかしブドーがその積乱雲の力を使った事とサイタマとシコウテイザーとの戦いで発生した膨大な爆風が分厚く巨大な積乱雲を吹き飛ばし霧散させ、帝都上空は晴れていた。
しかし、エスデスが自分のエネルギーを使って天候を猛吹雪へと変化させる
そしてもうひとつ、自分の半径数キロ圏内を弾丸のスコールや砲弾の飛び交う、この世の地獄である戦争の最前線を雹により再現した
今や帝都は人の住むことの叶わない極寒の地と化した。
「力がさらにみなぎるな」
エスデスは自身の手をグーパーさせてその力を確認するかのようなそぶりを見せる。今までであればこれほどの大技を一度でも放てばその場で倒れ伏していただろう、にも関わらず一切の疲れが感じない。それどころか未だ尚力が増しているのを感じていた。
それもそのはずである、エスデスは吹雪を起こし、無意識に自分の身体の至る所に生えている氷の皮膚と同じ性質でできた巨大な雹を地面にぶつける事で上空で増幅された冷気のエネルギを効率よく循環させ増幅させ利用しているのだ。
「これだけあればできるか」
『爆・嵐・焔』
エスデスは一時、思考を停止させ回避運動をとる。そして先ほどまで自分がいた場所では自分の起こした吹雪を一時的にであるが空白にするほど巨大な爆発が起こり、炎の柱が姿を見せ、その熱波を暴風が周囲へばらまいていた。倒れ伏したとはいえ巨大なシコウテイザーよりも巨大な炎の柱は極寒の世界に一瞬ではあるが灼熱の地獄を顕現させた。
『雷・腐・氷』
「あー、またスボンが燃えた」
そんな声が聞こえた気がするが無視して、今度は氷の壁を作りその攻撃を回避する。しかし、氷の壁は雷と紫色の液体を纏った氷の塊により砕かれる、そして紫色の液体がエスデスの皮膚にほんの少しばかし付着した。
エスデスはその部位を手刀で切り落とし、その部分を凍らせ止血する。切り落とされた部位は落下と共に液体が付着した箇所から紫色の液体が付着した範囲が広がり、地面につく前に蒸気となって消えた。
エスデスは攻撃が飛んできた方を軽く睨みつける。そこには小柄な龍が猛吹雪の中、巨大な雹をその身に受けながらホバリングしている様子が見れた。
「うっわめちゃくちゃ吹雪いてきたな」
自分の身体のサイズに合わないチェインシャツを着ているおかげか下半身が微妙に隠れているサイタマの呑気な声は目の前の獲物を目前としたエスデスには届かず。エスデスは不敵な笑みを浮かべ力をふるう。
「『氷鬼兵』、『百戦錬磨 冬将軍』『凍死ヲ招ク悪魔』」
一際強力な吹雪がエスデスの半径百メートル辺りに吹き荒れる。あまりにも強力な吹雪であったため龍はほんの少しだけよろめき、サイタマは顔にはりついた雪を手で払うことになった。
一際強い吹雪が周囲に溶け込むとそこには100を超える影があった。姿かたちに差異はあれど、どれも異形で並みの危険種を上回る力を内蔵させている。今のエスデスには数段劣るが生身の人間なら触れただけで身体の芯まで凍らせるほどの強烈な冷気を放っていた。
「これならどうだ?」
吹雪でかき消えるほどの声でエスデスはそう呟いた。
──────────────
「3番テント!薪が足りないとの報告です」
「7番テント吹雪により飛ばされました」
「22番34番37番テント、薪が足りません」
「食料庫に保管していた備蓄の食料が凍りかけてます」
「吹雪で凍傷になりかけているもの、未だ増加中です!」
次々と警備隊や近衛兵、医療隊から上がってくる嫌な報告に頭を抱えながら男は耳を傾けていた。
「やばいな!」
突然天候が変わったかと思うと強烈な吹雪が起こった。
強烈な吹雪はまるで改ニがきて、やったーと思っていたが、未だ地味で芋臭いと言われ、何処ぞのTに憤りをぶつけているかのような、すさまじさを感じさせる。
先ほど近くの森林で木々を伐採して薪を作ったがこの吹雪のせいで殆どが吹き飛ばされるか雪に埋もれた。近衛兵や警備隊の面々に吹き飛ばされた薪を拾いに行かせるにも掘り起こそうにもこれだけの吹雪の中だと寒さで身体が動かなくなる。
(警備隊の装備なら持って五分!近衛兵なら30分!一般人なら1分!持たないか)
吐く息ですら瞬時に凍るこの世界でどうすればいいのか。
「最善を尽くす!」
男は動き出した、帝都から避難して来た百数万人の命を救うために
仕方がない
男の仕事にはそんな事よくあるからだ。
──────────────
全身が蒼く身の丈7メートルはあろう鬼は凶悪な笑みを浮かべながら、丸太のように太い腕でサイタマの顔面にパンチを入れる。腕よりも更に太い足の踏み込みは足下にはられた氷に蜘蛛の巣のような亀裂を走らせた。血管浮き出るほど鍛え抜かれた腕は筋肉の膨張によりその大きさを数倍にまで膨れ上がらせていた。そして、音速をゆうに超えるその拳は真っ直ぐにサイタマの顔に決まる。
樹齢数百歳の大樹ですら一撃で粉微塵にし破片を数百メートル先へ吹き飛ばすその一撃はまるで引き寄せられるかのようにサイタマの顔に決まったのだが、サイタマのお返しの一撃により鬼は吹き飛ばされた。
血飛沫は飛ばない、代わりに周囲を強烈な冷気の奔流が巻き起こる。
鬼は自分が怪我を負った事を認識し、距離をとり警戒する。
そして次の行動を移す事なくその場に倒れ伏した。
本来であれば後ろに下がり同族たちに敵の強さを伝える手筈になっていたのだがサイタマの拳を受けた鬼は胸より下半身は無事であったが上半身は吹き飛んでいたため同族に敵のヤバさを口頭で伝えることはできなかった。
しかし、死んだ鬼は敵の強さを伝える事はできた。
鬼たちの身体には生き血のような真っ赤な刺繍が彫られており、召喚された三種類の中でいちばん数が多く50体ほど。角の形や数、髪型て多少の個性は見受けられる。
先ほど男に殴りかかったのは左腕の二の腕の部分にしか刺繍はなかった。それはこの鬼たちが身体の刺繍の数で個々の力関係を表しているからである。強い鬼であればあるほど刺繍は全身にあり、その数を増やす。先ほどの鬼はこの50体の中ででは格段に弱い個体であった
それでも一体が特級の危険種を優に超えるを有している。
同族が死んだ事により鬼たちは瞬時に思考を切り替える。
鬼たちは全身に力を込めて、臨戦態勢をとる。
生き血のような真っ赤な刺繍が赤く発光し、角が更に太く長くなる。爪は伸び、牙は剥き出しになり髪は逆立つ。
少しの間が空き、空気がシーンと静まり返る。そして鬼たちはサイタマのかかってこいよ、という言葉と共に一斉に動き出す。
鬼たちの戦いは始まった。
鬼よりは数が少ないが帝国では見かけない甲冑を身に纏う集団がいた。帝都よりも東に位置し、周囲を海に囲まれた国で見られるという甲冑、鎧兜は氷で作られていた。そんな鎧兜の集団は空を飛ぶ龍目掛けて幾度となく氷の刀で斬撃を放っていた。
一閃 刀が鞘から抜かれた瞬間、氷の斬撃が飛ぶ。
鎧兜の数はたった10、しかしその飛ぶ氷の斬撃は上空を飛翔する龍の行動を制限するのには十分だった。
「ナンドモナンドモチマチマトウザッデェ」
氷でできた鬼の集団に吹き飛ばされたサイタマを気にとめる暇もなく、龍は目の前に迫る数百の氷の斬撃を身を捻り翻しながら回避する。そして10いる鎧兜の1つに向けて爆のブレスを放つ。バスケットボールほどの大きさのそれは鎧兜たちからしてみれば余りにもお粗末なブレスではあるがその内蔵するエネルギー量は膨大だった。5メートルはあろう巨大な雹はブレスに近づくにつれその巨体を溶かし最後には水蒸気となって吹雪の中に消えた。ブレスの周囲だけ極寒の吹雪が掻き消される様は鎧兜たちが恐怖し身じろぐには充分だった。
しかし爆発し高温を周囲に撒き散らすそのブレスは身体が雪の結晶の形をした半透明の生物によってかき消された。
成人男性ほどの大きさの結晶型の生物はブレスを受ける瞬間、前方に向けて体を高速で回転させながら冥府の冷気を放つ、そしてその体に直撃する頃にはブレスの威力は弱まってしまう。しかしそれでもブレスの威力は強く食らった結晶型の生物は力なく落下する。だが、どのような原理かわからないが、いつのまにか元の大きさとなって戻ってくるのだ。
1匹に狙いを定め襲いかかろうにも他の39匹がそれぞれ盾になり、その間に鎧兜が氷の斬撃を飛ばしてくる。それを回避しているとまた40匹となり再び攻撃してくる。
「ウゼェウゼェ、オレハテメェラナンカアイテシテルヒマハネェンダヨ」
決め手に欠ける攻撃が続きイライラが募る。
体をバキリボキリと鳴らし龍は体を更に小さくし、結晶型の生物の半分ほどの大きさになる。無理矢理体を小さくさせているせいか龍の身体の至る所に内出血の跡や体に収まりきらない骨が皮膚を突き破りそうなほどに持ち上げている箇所が見られる。
翼だけを巨大化させ地面に向けて急降下する。
向かってくる結晶型の生物は当たると強烈な爆発を巻き起こす体当たりを繰り出してくるが。
「オソイッ」
龍の落下するスピードは結晶型の生物が龍に当たるのよりも早く、数千メートルの高さにいた龍は一瞬で地面へとたどり着く。しかし龍は鎧兜の氷の斬撃は何度か受けてしまい翼の殆どが凍りついた。
「クライヤガレ、爆・嵐・焔、雷・腐・氷」
距離をとりつつも斬撃を放ってくる鎧兜に向かい、爆・嵐・焔を放つ。回避行動をとった鎧兜たちだったが落下の途中に放っていた特殊音波をモロに浴びていたであろう三体は動きが鈍く爆発の中にその身を呑まれ消えた。巨大な炎の柱により上空にいた結晶型の生物も5匹ほど溶けてなくなり、再生する様子はない。どうやら完全にその体を維持できなくなると体は溶けて無くなるらしい。龍はそうだと決定づけた。
雷・腐・氷は近くまで迫っていた結晶型の生物に放ったが最初の一匹が殆どの威力を抑えてしまい、毒が飛び散った9体と合わせて10体しか倒せなかった。
体を元の大きさに戻しながら翼に血を送り体温を温めつつ翼の氷を溶かす。体温的に数百度を超えているはずなのだが未だに降る吹雪や冷気を放つ氷塊のせいか翼の氷の溶ける速度は遅かった。
その間にも結晶型の生物が焔の柱の周りを囲み冷気を放ちながら焔の柱を弱めていた。鎧兜はこちらが攻撃するまで攻撃を仕掛けてこないのかじっとしていた。
「コノママジャダメカ」
猛吹雪の中、龍はポツリと呟く。
悪天候でも視界は良好であるが吹雪のせいで体力がガンガン奪われる。常に巨大な雹が降り、一体一体がRPGの氷エリアの隠しボスクラスの敵と消耗戦をしていたら
なら、チート使ってでも勝ちに行くしかねぇな。
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「おやおや、珍しいね。あんたが針治療をするなんて」「普段使ってる肉料理わ?」「中位回復使わないの?」「こおりなおし ぐらい常備してるでしょ?」「あー、死人出した?ほーうこくしょ、ほうこくしよ!」「エリクサー使わんの?」「バケツとコーラないの?使えんなぁ」「気を使えば楽勝だろw」「ここいら一帯焼けばあったかくなるのに」「なんだっけ?せんびーんずだったら一発じゃない?」「うわぁ、あの針1本一億じゃなかったけ…」「さけもっちぇこーいげははは」「もう呑むなや」「ヒヨコ饅頭食べたい」「中身はもちろん」「こし餡(粒餡)」「「あぁぁあ⁉︎」」「やるか、戦争?」「上等だオラァ」
燕尾服の男は自身が展開した多重結界の外から中へ入ってきた少女たちへ目を向ける。全員が全員同じ顔で浅葱色の髪、同じ服装。華奢な腕は力を込めてひねれば折れてしまいそうなほど細い。
しかしその腕には2人ずつ少女たちよりも大きな人間が乗せられていた。年は少女たちよりも少し大きい十代後半くらいの少年少女で黒い学生服に龍を象りひび割れたヘルメットをつけていた。
「この子たちクスリで頭イかれてるし体内ボロボロだけど国への忠誠心強イから復興に役立つと思イます」「くる途中、暴れてめんどかった」「ヘルメットwわれてるーw」「結界幾つ張ったの?なんか寒さまで塞がれてる」「多分、私たちクラス100人で1つの結界破壊できれば優秀クラスだよ」「お味噌汁飲みたい」「わたしワカメと豆腐」「ジャガイモ…」「生卵とポン酢あと重油」「で?怪我人何人?もし必要なら手伝うよ」「本体は先に戻りました」「そのバンジの実わたしのだけど?」「じゃあそのマゴの実返してくれる?」
口々に思い思いの事を言っている少女たちの持っている患者を受け取り重要な話だけを聞く。余計な事や馬鹿みたいな事を言っているやつは患者を受け取ったあともう一度結界を張り侵入拒否に設定する。
「それで!あと何人来る予定だ!」
「そうね、帝具使いの何人か転生者のフライングデスに食べられちゃったけど、後10万くらい?」
「全く!この人で普通の人間はキャパオーバーだ!」
燕尾服の男は胸ポケットから鉄櫛を取り出し前髪を少し整える。その顔には疲労が見え、顔には汗が滲んでいた。
「普通の人間相手は疲れるの?それとも今回みたいなのは苦手?」「今日これからどうする?」「取り敢えず帰る手続き取って帰る」「交代のメンツよんどけよ」「メロン食べたい」「ドライ栗マンゴウかけ極楽米、ポイズンポテトと真鯉昆布(左脇腹町産)の味噌汁、あと空飛ぶキャベツのおひたしデザートは間宮のアイス」「あ、ごめんこれから私次の仕事あるから」「そっか、じゃあ残念」「まぁ仕方ないな」「なんやて」
男は溜息を吐き出し目の前にいる少女以外の話の通じなさそうな少女たち100000人をいっぺんに結界の外に追い出す。外で「入れろー」「味噌汁」「漬物」「鼻毛真拳究極奥義」「スーパー」とう騒ぎながら結界をボコスカ殴っている少女たちを無視して目の前の少女だけに目を向ける。
「どっちもだよ!」
そう言って男は少しの休憩を終え、再び作業に移った。
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「やはり、戦いはこうでなくてはな」
そう言ったエスデスは閉じていた目を開きボロボロの龍を見つめる。翼はどこもかしこも穴あきで他の場所は殆ど凍っていた。鱗は剥がれ落ち、体の至る所に血の氷を作っていた。爪も全てひび割れているか欠けているかで無傷の場所を探す方が難しかった。
「その体で生きているとは、流石だ。今から殺すのが惜しいくらいにな」
あれから結晶型の生物40匹と氷の鎧兜を額から生やした第三の目から放つ熱光線で弱体化させ、毒と雷と焔と爆風を含めたブレスで跡形も無く吹き飛ばした。そして人の目では捕らえきれないほど細い鬣を器用に使い、自分の体の傷を修復させた。
そして万全の状態となった龍はエスデスに挑んだ。
六色のブレスを使い分け
鼻腔に闘争心を煽る匂いのする体液を分泌させ
翼から真空の刃を放ち
額の第三の目で五視を操り
筋肉と神経と鬣を使い自分の体を改造し
声帯を駆使し
顔の一部を埋める仮面で潜在能力を引き出し
龍である自分自身を操り
勇猛果敢に挑んだ。
しかし、エスデスには勝てなかった。
幾千幾万幾億と言った氷の刃は龍の体を少しずつ削り
防御の為に造られた氷塊は龍の歯牙を物ともせず
地面や空中から突如として現れる数百メートルはある氷の柱は龍の飛行疎外し
凍てつくオーラは龍の体力を確実に奪って行った。
満身創痍の龍に対してエスデスは無傷だ。そして今もなおこの寒さのお陰で力を増幅させていた。しかし、絶望的なまでに力の差を感じさせるエスデスに対し、龍の目は未だ自分が勝つという絶対の自信があった。
「いい目だ。あの男のような死んだ目ではない、覚悟を決めた戦士の目であり、龍として戦いに飢えた目。そして最愛のものを失った悲しい目だ」
「ハハハハハ、アノエスデス将グンニ、そコマでホメテ貰えるトは、光栄だ」
背中に巨大な雹を受け龍は血反吐を口から吐いた。エスデスと戦う前であれば見ずに回避も可能で当たったとしてもなんの痛痒も感じなかったが、自分の持てる力をほぼ全て出し切ったこの状態では回避はできなかった。
吐いた瞬間凍り口の周りで血が固まった。唸り声をあげ猛吹雪に晒され今にも消えてしまいそうな意識の中、龍はエスデスを睨み続ける。最期の時まで生に執着する一匹の龍、最期の最期まで諦めの悪い、1人の戦士。
万全の状態であれば恐らく今の自分とも同等に戦えていたであろう。恐らくこの世界最後の生物。
この龍を殺しこれからどうするか、そんなことが脳裏に浮かぶが今はいい。ここまで私を楽しませてくれたのだ、極寒の吹雪の中凍えて死ぬのではなく、私自らトドメをさしてやろう。
蹌踉めきながらも決して倒れない姿にエスデスは感心し、自らの手でとどめをさす為に一歩前へと踏み出す。
「」
龍が微かに口を開き何かを呟いた。
その瞬間エスデスは見失うはずのない龍の姿を見失い、自分の胸から突き出たナニカに目を奪われた。
「帝具シャンバラ…アニメでも漫画でもクソ野郎のあいつの帝具を使うのは嫌だったがまあ仕方ないだろ。これでアンタを殺せるのなら…サイタマも殺せるだろう」
完璧な形で決まった背後からの不意打ちに思わず笑みがこぼれる。
ワンパンマンではタツマキという超能力者やボロスやガロウといった化け物がいたがこの女は所詮人間。アカメが斬るの世界においてボロス並みの超速再生はいなかった、唯一、姉さんがエスデスに右胸を刺されて生き残っていたがあれはライオネルの奥の手に回復能力があったからだ。
「これで終わりだ」
一息つき、一気に傷口を広げにかかる。
しかし、少しも動かない。
さらに奥深くに突き刺そうとしても、冷たいナニカが押し返そうとしてくる。残った力全てを振り絞り傷口を広げようとするが
「私に触れるということがどういう事かわかっているのか?」
その言葉を最後まで聞き終わる事なく、龍は凍りついた。
血の一滴から骨の髄まで、丁寧に丁重に凍らされた。
「ふんっ」
エスデスは胸に力を込め、背中の突き刺さっている龍の部分を折る。少しばかし硬かったが折れないほど硬くはなかった。胸の部分に刺さったままのものを手前に一気に引っこ抜く、痛みはあったがエスデス自身短い間ではあったが龍との戦いの楽しさが痛みを上回っていたため痛みを感じる事はなかった。
最初から自分が相手をすればよかった。
龍を倒した事により先ほど浮かんだ考えがより鮮明に浮かび上がった。
この龍は強かった。
私の冷気に耐え、いくつものブレスを吐き、体の骨格を一時的にではあるが変形させ最適化させ羅刹四鬼を彷彿とさせる戦い方をしていた。これだけの強者、これからまた会えるだろうか?
今の自分であれば、ブドーを倒すことなど容易いことだ。シコウテイザーも凍りつかせるのにものの数分もかからない。それに自らの力で異界の住人を呼び出し使役することも可能となった。
そして
エスデスは自身の胸部を見る
先ほどぽっかりと空いていたはずの穴は既に塞がりそこには強大な力を手に入れた代わりに灰色となった肌が見えていた。
灰色の肌を見て改めて自分の体を確認する。
背中には左右非対称な氷の結晶のような翼があり左側が長くそして右側が短い。肌は殆どが灰色だが関節などのところどころは氷の結晶で覆われていた。蒼かった髪は白く、いやほぼ透明な白になっていた。
そしてようやく自分の服に気がついた。
「これは…少しきついな」
エスデスは女性として背も高く、服も大きめだったがパワーアップしたせいか体の形が人間のそれとは異なる形となり従来まで着ていた服が色々とまずい状態となっていた。
本来であれば仕立て屋に行き自分に合った服を新しく新調して貰うのだが、帝都にいた人間は恐らくみな死んだだろう。
仕立て屋も、呉服屋も、床屋も酒屋も大人も子供も老人も幼女も貴族も貧民も軍人も警備隊も学生もみな死んだ。
もはや帝都周辺に生きとし生きるもの全てが凍り死に絶えただろう。
恐らくあの男も
「実に惜しい事をした、だが仕方がない。弱かった私がさらに強くなった。強くなった私に周囲がついてこれなくなり、あの男もまたついてこれなかった。ただそれだけのことだ」
龍ほどではないにしろ、今の私とならきっと面白い戦いができただろう。7割とはいかないが5割くらいの力なら…。
終わってしまった事を気にしながらも氷で服を作る。以前と同じような軍服をアレンジしたものだが氷で作ったせいか少しひんやりとして気持ちがよかった。
「しかしこれからどうするか」
エスデスは考える。帝国の首都である程度が氷で覆われた死の街となってしまった以上誰1人としていないこの街に居ても意味がない。帝国が無くなり他の国が領土を求めて攻めてくるかもしれない。そう考えるがこんな氷で覆われた国を誰が欲しがるのか?そう考えた途端なんだかやる気がなくなってしまった。
ろくな兵力も無いであろう南にあると噂される革命軍の本拠地を叩くか?
否、帝国が滅んだ以上、革命軍を相手にする意味がない。それに、たった数万足らずの人間が今の自分を見てまともに立ち向かってこれるのだろうか?
「虚しいな、圧倒的な強さは」
氷で椅子を作り座る。そして未だ降り積もる雪と彼方此方で建物を破壊する雹の音に耳を傾けながら厚く覆われた雲を眺める。
「何やってんだ、お前?」
不意に後ろから声をかけられた。くぐもってはいたが聞き覚えのある声、氷鬼兵を向かわせた男だ。恐らく全ての氷鬼兵をやっと倒しここまで来たのだろう。
それに油断していたとはいえここまで距離を詰められるとは、やはりこの男は只者ではない。そう思いながらエスデスは椅子から立ち上がり男の方を見る。
「プッ」
男は氷鬼兵が腰に巻着付けていた獣皮を防寒具として全身に巻きつけていた。明らかふざけているとしか思えない姿にエスデスはつい笑ってしまう。
その笑顔は普段敵に見せる狂気染みた笑顔ではなく、彼女が部下たちにしか見せる事のない心からの笑いだった。
「いや、何笑ってんだよ」
当然笑い出した目の前の女に若干不機嫌になりつつもサイタマはツッコミを入れる。エスデスは一通り笑ったのか目に浮かんだ涙を拭うと言葉を続けた。
「いや、すまないなその格好が何とも面白くてだな、つい笑ってしまったのだ」
「そんなにおかしいか?この格好」
エスデスはつい本音で話してしまう。目の前の男を煽り挑発し自分と敵対させる事は簡単だろう。しかし、目の前の男ではどんなに頑張っても今の自分には勝つ事は不可能だ。
サイタマはエスデスの内心を知るよしもなく、己の格好を見回す。確かに獣の皮を何重にも体に巻きつけ縛りあげたため一般人の観点からしてみればダサいが、一般人ではないサイタマからしてみればいいファッションだとは思えたのだ。
「ところでお前はなぜ、帝国に喧嘩を売ったのだ?」
「いや、俺が先に質問したんだけど!」
エスデスの質問に対しサイタマはツッコミを入れる、そして暫くかみ合っているのかかみ合っていないのかよくわからない会話が2人の間で続いた。殆どがサイタマのツッコミだったが。
「私はこれからどうすればいいのだろうな?」
「しるか、そんなもん。自分で考えろ」
「貴様がこれから何をするんだと聞いておいて、その返答はないだろ」
「しらねぇもんはしらねぇよ。とりあえず今はこの都市の氷と空から降ってくるアレと雲をなんとかしろ、この国ほんとに誰も住めなくなるぞ」
「別に私はこのままで構わんからな、この状況を変える事はしない」
サイタマの問いに対しエスデスは迷い無く答えた、それが彼女からしてみれば当たり前の事であるかのように答えた。
「は?」
サイタマはエスデスの返答につい聞き返す。こいつ馬鹿なの?獣皮を顔にまで巻きつけているせいか顔はよく見えないが明らかに変人を見るような目でエスデスを見ていた。
「吹雪に対して生命力が強ければ生き残る者もいるだろう、弱者は死んでいくだろうが」
「淘汰を乗り越えた者と戦うのも楽しみだ。強くなってそうだ」
お前はどうだ?エスデスがそう言い終わる前にサイタマの姿はその場から姿を消した。それと同時に巨大な地震が起き、帝都中に張られていた氷に地震の衝撃で亀裂が走った。
そして、吹雪が止み。帝都の上空を覆っていた巨大な雪雲は荒れ狂う爆風により霧散した。
─────────────────────
空を見上げると太陽が見えた。
冬の季節である今は日の入りが早い、が未だ沈み切らない太陽が少し西に傾き始めていることから今が2時頃であることをエスデスは理解した。
「眩しいな」
巨大で分厚い雪雲に覆われた帝都は太陽の光を全て遮っていた、そのため突如として現れた太陽が余計に眩しく見えるのだ。
いや、それだけではない。
見つけた、これからどうすればいいのか。
その後のことなどどうでもいい、また考えればいい。
今、私がするべきこと。
エスデスは無意識に片手に溜めていた冷気の渦を更に圧縮し、未だ上空にいるサイタマめがけ放つ。
それ1つだけで小さな集落に住む全ての物が凍りつくほど凶悪な冷気を内蔵している。人間に当たれば細胞どころか原子レベルで活動を停止する事を彷彿とさせるそれは確かにサイタマに命中したが、あらぬ方向へと吹き飛ばされてしまった。
満面の笑みを浮かべる、エスデスの目には先ほど抱えていた不安は無かった。
「礼を言わせてもらうぞサイタマ、私はこれから何をするか決まったぞ」
無傷である事など当たり前だ、あれくらいで死なれては楽しくないではないか。
翼に力を込め飛び立ち、未だ落下中のサイタマを蹴り落とす。
大量の水蒸気が帝都の上空に広がり、空気に溶けるようにして消えた。そして地面には未だダメージを受けた様子がないサイタマのすがたが見えた。
そうだな、私はこれから
「私はこれからお前を殺す」
龍 本名 田中 アキラ
転生者
年齢 1歳とちょっと。
使用する帝具
アブゾデック
イレイストーン
龍を使役する帝具
※原作14巻で帝国側は龍の危険種しか操っていなかった為恐らくは龍を使役する帝具ではないかと推測。
シャムシール
シャンバラ
スペクテッド
ダイリーガー
パーフェクター
バルザック
フェロモネア
ヘヴィープレッシャー
色々と書いていたらわんさかアイデアが出てきた、しかしことごとくサイタマに効かなかった。本来であればエスデスとサイタマと龍とで三つ巴の戦いとなっていたはずなのですが、私が次の作品を書きたい欲により短めとなってしまいました。
帝具の同時使用に驚異的な回復能力、体を自由自在にいじくり回し限界をぶち壊し食べれば食べるほど強くなったり体の体毛が自由自在になったり、口から色々出したり。なろう系にいそうだけど、ねぇ?
次回、決着
誤字脱字等がございましたら感想等で是非お願いします。