やはり俺とこのダンジョンは間違っている   作:ばーたるゃん

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休暇終了

「――きろ。」

「...」

「おきろーッ!!」

「――っ!?」

「...まったく。夕方になっても帰ってこないと思ったら。」

「...............あぁ。」

 気づくのに遅れた。

 ...夕方。 ここに来たのは朝だったはず。

「...」

 なるほど、と。体力の限界がきて眠れなくなることがあるが、体力がついて眠ることが出来るようになった...ステイタスも捨てたものじゃない。

「うん。...おつかれ。」

「......ナンスか、気持ち悪い。」

「きもッ...いやまぁいいさ。照れ隠しってことは分かってるんだぜぇ?」

「......いやそんな訳。」

 よしここから退散するとしよう。嘘は見抜かれる...いや待て、気持ち悪いってのはマジだったはずだが。

「嘘探知レーダー壊れてません...?」

「残念完璧さ。まぁ、サボってたことについては何も言わないよ。僕もよくサボるし...それに、頑張ってくれたしね。」

「......アイツらがやったことでしょう。スパイに魔剣に助っ人に足止めまで。」

 俺が出来たことと言えば、テロ行為。あの戦力差でなければ批判の的だったろう。

「ま、君がそう思ってそういうなら、そういうことにしておこう。それでも、ありがとう。...ボクたちの居場所を守ってくれて。」

「...」

 ありがとう、か。

「......感謝ってのは、俺以外の奴にくれてやってください。」

「感謝は嫌いかい?」

「......まぁ。あ。感謝じゃなく、お疲れって言葉なら。」

 いつでもどこでも使える言葉だと思う。例えば、何かを代わりにしてもらった時...いやそんなときないけど、まぁ、ありがとうでもお疲れ様でも通じる。

「? そうかい、それじゃあ、お疲れ様。」

「......」

 こう、正面から言われますとあれですね...恥ずかしい。イヤホント自分から提案しておいてなんですけどね。 でもまぁ、これで若干緩和された気がする。うん、気休め。余計なことはいうもんじゃない。

 けぷけぷと咳払いをし、立ち上がる。

「んじゃ、荷物持って戻るんで。」

「あぁ、そうしよう!」

 ......そりゃそうか。

「あ、いえ、ちょっと寄り道していくんで。」

「それじゃあボクも付き合うよ。」

 さぁ、どう撒くか。嘘をついても意味がない。なら...

「このあと、用事があるんで。」

 用事は、荷物を置きに行くこと。嘘は言ってない、どうだ。

「ん...そうなのかい? ......いや待て、それじゃあ聞くけど、ボクが起こさなかったらどうするつもりだったんだい、その用事。」

「...」

「さぁ観念しろ。何、とって食うわけじゃないんだ。」

「......うす。」

 嘘が通じないとは、これ誠か。嘘を嘘と見抜いたうえで押さえつける。

 ステイタスを使えばそれは振り切れるが、そんなことは、中学生が考えるここでコイツをぶん殴ってやればなー程度の浅知恵と変わりない。実行できないことは考えるモノじゃありません。いや、一杯考えるけどね。教室にテロリストが現れたらとか。...まぁ、その妄想でも僕は端っこに居たんですけど。

「いいかい、八幡君。」

「?」

「何か悩みがあるなら、相談してくれていいんだぜ。...なんたって神様なんだからね! お、ジャガ丸くんだ、買ってこうぜ!」

「ん、うす。」

 カバンの中から金を取り出して、屋台に走っていく。

「......」

 そうして、声を賭けられている姿が見える。

「よう! ヘスティア・ファミリア! あの戦争遊戯、面白かったぜ!」

「...っす。」

「これ持ってけ!」

「期待してるぜ!」

 と、俺にも声をかける人が多い。獣人とかも多いので、目が腐っていることはあまり気にされていないのかもしれない、というよりも、ここには俺の悪行が伝わっていないこと、悪いうわさがないことが原因か。

「...おや。いろいろ荷物が増えたみたいじゃないか。」

 腕にいっぱい持たされたのは果物や野菜、パンもある。

 ここ最近、そんな人気を受けてしまうので大通りは通らないようにしていた。無論普段からしているが。

「さ、帰ろうじゃないか。」

 帰り道にも、多くのものが。応援していたというより、やはり面白かったから、と。

「ただいまー。」

 館は改築中なので、今は仮住まい。一時的とはいえそこそこいいところで暮らしている。

「......」

 果報は結局、寝ていても来ていない。なら、着実に力をつけるしかない。ここまで、短期間でステイタスをあげてこられたのは、死ぬほどの経験を経たからだろう。だが、本当は嫌だ。

 腕も実は超痛かったし、幻肢痛みたいなものも感じていた。あんなのはもう嫌だ。激痛に耐える度胸はもうない。

「おかえり、八幡!」

「ん、お、おう。」

 ...まぁ、これからファミリアに人が増えるのなら、一人で行動することも増える。

「...あ。」

 なるほど。 違う目的を見出せば、俺は力をつけなくてもいい。別に俺がやる必要はないんだ。

 だが、目的。それこそが支えになっていた。

「...?どうかした?」

「あぁ、いや。」

 手段のために目的を変える。

 

「――はっ?」

 そんな風に考えていた時期が、私にもありました。

 見える限りの冒険者たちが、前庭から出ていく姿が見える。

「......」

 一体何が、とは思いつつ、サボタージュをかます。

 騒ぎになってはいるが、人手が足りない訳じゃない。 そう思いつつ去っていく人々を見てみると、こちらを見つけたのか見つけていたのかキッ、と睨まれる。 ......確か、アポロン・ファミリアの連中だ。

 いそいそと相手の視界から外れ、荷物を持ち上げる。

 すべての財産を差し押さえたので、団員の私物...まぁ、本当に必要なものを除いて、すべて残っている。故にそれの持ち出しをさせられている。

「ふぅ。」

 いい汗かいてるなー、と思いつつ、いろいろとものを見ていく。ヒトの私物をあさるようで気分はよくないが、必要なものはやはり見つかる。バックパックだったり魔石灯、ドロップアイテムも見つかる。武器防具に用いようとしてため込んでいたりしたのだろうか。

 ある程度区切りがついたところで、一階に不要なものをまとめて降ろす。階段のすぐそばに降ろし、働いてますよ、とアピールだけして上へ戻る。見張りが来ないので存分にサボタージュを堪能しよう。

「八幡殿!」

「うお...っ。」

「こんなところにいらしたのですね。夕餉の時間ですよ。」

「夕餉て...」

「それと...お話しすることが。」

 

 

「...借金。」

「えぇ、それも2億ヴァリスです。...だというのに。」

「...」

 神ヘファイストスへの借金だという。

「......」

 2億かぁ、と実感がわかない数値に恐れおののいていると。

「お前は知ってたのか?」

「まさか。――で、どうする、経済顧問。」

 小人族の少女へ目線をちらと向けてそっと外す。

「えぇ...今日のことで新しい団員も無し、ましてや、支払いを考えてのことを考えると...」

「迷宮か。」

「はい。...それに、ファミリアの等級の件もあります。」

 等級、というと...まぁ、何かしらあるのだろう。ギルド、すなわち政府に属する機関である以上、何らかの働きが期待されている。当然のことだ。

「あ、あの~......な、なんだい? その、等級って。」

「.........は?」

 は? はないでしょう?

「......はぁ。この際です。いろいろと説明しましょう。まずは...そうですね、今話題になった、等級について。」

 別に口をはさむ理由もないので聞いていた。簡単に言えば、上がれば上がるほど、治める税も増える。

「へぇ。...え。マジかい?」

「えぇ、マジです。」

 マジらしい。負担が増えると思うとイヤになる。

 話の最中に少しずつ移動して端へ、そしてそのままその場から去ろうとする。話に夢中で気づいていない..ということを望むが、無論不可能だ。ヴェルフがこちらを見ている。

「悪い、ちょっと席を外す。」

 そう言ってこっちに来る。いや来るなよ...席を外すな、聞け、話を。

 できるだけ音を立てずに2階へ移動する。すると、やはりといってもいいだろう、後ろから赤髪の青年が。

「お前、今暇か? 暇だろ?」

「いいや、やることいっぱいだぜ、忙しすぎて手が回らないね。だから抜けて来た。............で、なんだ。」

 このまま聞かずに逃げるつもりだったが、ついてくるので振り切れず、おとなしく話を聞く。

「いやまぁ、武器だ。お前、今回の戦争遊戯じゃまともに武器を使わなかっただろ。」

「ん、あぁ。」

 真っ向勝負なんてやってられない。

「剣だナイフだと手を変えてきても、しっくりこない。」

 そりゃそうだ。そんなもの、触れる機会はなかった。

「だろうな。...刃物に恐れを感じているフシがある。心当たりは。」

「ある。」

 実のところ向けるのも向けられるのも、扱うのすら怖い。それでよく今までやってこれたものだ。

「で、まぁ俺も考えたんだが...こう、手元が狂うのが嫌なら、槍だ。」

「槍?」

 もちろんだがまともに使ったことはない。

「そうだ。お前は根本から俺やベルたちとは違う。本来、冒険者なんてやるタチじゃないんじゃないか? どっちかというと......そうだな、ギルドで働いてるほうが多分あってる。」

「ギルドか...」

 公務員に近い、というかまさしくそうだろう。

「そうだな。事務仕事の方が性に合ってる。なんなら合いすぎて逆にやらないレベル。」

「案外、まともに働くんじゃねぇか。...と。そう、話は戻すが槍だ。」

「槍っつっても、俺は素人だ。ペーペーだ。青二才でなんなら子供のほうがうまく扱える。」

「その通りだ。だが、そうやって先延ばしにしても意味ねぇだろ? やるなら早いうちだ。」

 槍というからには、突き刺す、というが...

「まともに当てられる気はしないけどな。」

「...ハハッ、勘違いしてるな? 槍と言っても、突き刺すだけじゃない。要するに柄の長い剣だ。斬ることもできれば叩くこともできる。むしろ、使い方としてはこちらが主だ。槍の形にもいろいろあってな――」

「あぁ、もういい。わかった。形になったらくれ。」

「よし、それじゃあ俺の工房に行くぞ。それかどうする? 今からさっきのとこに戻って話を聞くか?」

 天秤にかけて、これからの重要な案件を考える。

「よしわかった、武器だ。」

 わざわざあの場を離れたのだ。気づかれていないわけは無いが、追ってこないなら戻ることもしない。

 残念かな、もう、戦わないという手段はとれなくなってしまった。

 




 次回。「歓楽街」

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