やはり俺とこのダンジョンは間違っている 作:ばーたるゃん
「...はぁ、はぁ...っ。」
タケミカヅチファミリアのLv.2を相手に、素手で応対する。
「むんッ!!」
「ぐ...っ!」
柔道で戦って惨敗した過去を持つ俺には、当然ながらこういった武道の心得はない。ましてや、健全な精神などはぐくめるはずもない。
「――おおおおッ!!」
足と地面が別れを告げる。そして次にであったのは背中。肺の中の空気が押し出される。
「――、はぁッ...はぁ...ッ...」
地面にモロにたたき付けられ、天を仰ぐ。
「比企谷。」
「...ンだよ。」
圧倒的技能の差で俺を打ちのめしてくる大男、カシマ・桜花に、悪態をつく。
「今日はもう終わりだ。風呂に行こう。」
「...後で入る、もう少しこうさせろ。」
夕方。ここ2日間、このタケミカヅチファミリアにて『技能』を身につけるべくやってきていた。と、いうかそこで過ごしていた。早朝から取っ組み合いがある。
「...八幡殿。」
「ん...あぁ...」
俺のタケミカヅチファミリアに対しての悪感情は今回、協力してくれたことで帳消しにした...つもりだが、言った方がいいのだろうか、そういうのは。
訪ねてきたのはヤマト・命。おそらく、まだ俺に対して申し訳ないなどといった感情が残っている。 ......流石に、まずいか。
体を起こし、声を発する。
「別に、前のことを引きずるつもりはない。気にすんな。」
「...ですが...まだ、私は、恩を返せていません。」
「あれは別に、個人の責任じゃねぇだろ、どっちかっつーとあの野郎に謝らせたいところだな。」
「...」
あっれー!? ...思ったより空気が...つっらー...
「八幡殿。」
「ん...?」
「今回の戦争遊戯...私にも、協力させてください!」
協力...?
「いや、もうしてもらってるから...」
「いえ、私個人としてはまだ、何も。」
「...そもそも、協力するってことは、これ以上だと...」
「はい、改宗します。」
「――。」
ダメだ、と言いたい感情と、戦力が増えることに対する期待が起こる。
「どうか、お願いします!」
「......」
断る...それは...
「今、ヘスティアファミリアは圧倒的不利な状態にある。推薦はできない。」
「だとしても、です。」
「じゃあ、タケミカヅチ様はどうだ。許可するのか? 自分の娘も同然のお前を、危険な場にさらすことを良しとするのか。」
「...だとしても。」
「.........」
なるほど。
「...あぁ。」
もし、ベルが居なければ...こんなことはあり得なかっただろう。 俺が、認めるなど。
「わかった。」
「――、話がまとまったようでよかったよかった。」
「...見てたんすか。」
「あぁ、俺としても...ヘスティア、並びにヘスティアファミリアに協力したい。 八幡君、頼む。」
「...別に、俺に決定権はありませんよ、納得したってだけで。 ...あぁ、あとそれと。明後日の、出発前でいいすか。」
「む? あぁ。」
できるだけ悟られないように、行かねばならないのだ。敵には、俺達をできるだけ弱く表さなければいけないのだ。
「じゃあ、風呂、借りるんで。」
明後日の夕方に出発し、丸一日かけて移動する。ベルには【大双刃】を通じて連絡した。 あれほど大量の荷物を買い込む姿とロキ・ファミリアに行ったということを知っていれば、容易に把握できた。
どうにしろこの後、いったんホームへ戻らねばなるまい。
風呂場へ。
「...」
サウナ入りてぇなぁ...
「って、訳なんで。」
「あぁ、わかった。 これは感謝してもしきれないな...」
「えぇ。」
「...ともかく、明後日の夕方、二人を改宗させて、その翌日、報告する、と。」
「えぇ。頼みます。」
ギリギリになって、こちらの手札を見せる。これで――、確実に相手は、切り札だと認識する。もしくは悪あがきか。勝負ごとは、瀬戸際を攻めるほど強い。
「...で、勝った際の条件はどうしますか。」
「もちろん、全財産没収、そしてオラリオ追放さあの野郎!」
「...じゃあ、そこにファミリア解散も含めといてください。」
これで、とりあえずは良し。
「んじゃ、戻るんで。」
「あぁ、がんばっておいで。」
「んじゃ、世話になりました。」
「あぁ、勝ってこい、八幡君、命。」
「はい!」「うす。」
「おい、比企谷。」
「あ? ンだよ...」
「勝ったら、鍛錬の続きだ。」
「絶対嫌なんだが。なんでテメェと。」
「俺だって、性根の曲がった奴と鍛錬するのはごめんだ。」
「なら、終わらせればちょうどいい。」
「だがな、お前ほど性根の曲がった奴がのさばっているのはさらに耐えられん。」
「あぁそうかい。で?」
「武というものをたたきこむ。」
「おお、それはいい。ぜひ来るといい、八幡君。」
「......あぁ、んじゃまぁ、前向きに検討します。」
「よし、行ってきたまえ!」
「...」
馬車へ乗り込んだそこには、ヘスティアファミリアの3人、そして助っ人の仮面のエルフが一人。
「...」
こちらの世界の馬車は、というか元の世界の馬車がどうなのかは知らないが、結構腰に来そうだ。
このメンツなら、別に会話に気を配る必要もなさそうだと思いませんか? まぁ、僕は思いませんけど。
「...」
妙に視線が集まるから、居心地が悪い。
「なぁ、八幡。今回の作戦、確認しとかねぇか?」
「...あ、あー、そうだな。 ...今回の戦いで、時間はかけられない。短期決戦に出る。」
魔石灯を引っ張ってきて、手元を照らす。
「攻め入るのはベルとヴェルフの二人、リリルカにはその手引きをさせる。...リューさん、にはそれへの注意を引き受けてもらいます。」
名前をどう呼べばいいか知らねぇよ...まぁ、一時の恥ずかしさなら後でいくらでも後悔できる。これで通そう。
「...で、ヤマトは北から中庭へ侵入して...魔法の発動だ。」
これは暗に、自分ごと魔法の中へ行って足止めしろ、ということでもある。既に土下座して許可をとっているだけあり、話はそのまま進む。
「魔剣は全部で3つ、...リューさんに2つ、俺に一つだ。」
俺がやることはいくつかあるが、まず一つ目、かく乱。そのために買い集めさせたのが火炎石、俺が持つ魔剣の属性は炎、まぁ、爆弾を持つのと変わらない。
少量で火力を爆発的に高めるそれを詰め込んだ袋が今回の俺の武器となる。このために準備できたのは4個。
二つ目、不具合の埋め合わせ。 作戦が完全に実行できるように起こりうる事象を限定させる。つまりはイレギュラーの排除だ。一人の行動により形勢は立て直される可能性がいつだってある。なにせこちらはたった数人なのだ。
三つ目、ベルの援護。敵はLv.3だが、そんなLv差を埋める秘策が俺にはある。魔法もその一つだ。
いくつか、といってもこの三つだ。これを、目立たないようにやってのける必要がある。ボマーでアサシンで腐れ目で、属性もりもりで行きたいと思いますってね。
「俺は全体のサポートに回る。」
いわゆるサポーターだ。それが、俺の役回り。
「...と、まぁこんなとこだが。」
「リリ殿にこの情報は?」
「大方は伝えてある。変更についてはこちらから話を通しておくから心配はいらない。」
向こうについてからはこの地図との実物との照らし合わせだ。少しぐらいなら見れるだろう。
「...もう他にはないな?」
地図をたたむ。
「...じゃあ、つくまでは自由で。」
とはいえ馬車の中だ、できることなどそうない。俺の場合は寝る。
「...来たぞ。」
「あぁ。」
「――、お待たせ。」
そこには、4人の冒険者が。
「これで全員そろった。いよいよ明日だ。」
「あぁ。 ...ベル、勝利のカギは、お前だ。」
この戦いは、もうかなり前から始まっている。
「ヒュアキントス! ヘ、ヘスティアファミリアに改宗したやつが居る!」
「改宗...フン、第一級冒険者でも用意したのか?」
「い、いや...3人いるけど、うち二人はLv.2、もう一人はLv.1だって...」
「なら、大きく選挙区は変わらないだろう。」
「あ、助っ人のほうも。オイラも聞いた話なんだけど、酒場の店員だってさ。」
「...クッ、アッハッハッハッハッハ! 愚かだな! 実に愚かだ! あの男がいればそうはならなかったろうに!」
そう、あの男はソーマファミリアの手によっていまだ監禁されている。ここでそれを確認しておこう。
「あの男は、アイツはどうなった。」
「都市で見かけたって情報もないし、ここにも来てないよ。あの腐れ目野郎には妥当さ。」
「やはり、つまらない戦いになりそうだな。」
「あぁ、でもヒュアキントス、油断はしないほうが...」
「案ずるなルアン、たかが数人に何ができる。 ヒュアキントス様も気が知れんな...こんな有利な戦いの場まで設けるとは。」
案外、すぐに白旗を上げて降参してくるかもしれない。むしろしてこないのは、戦力を読む力もないということ。
「...にしても、なぜあんな木っ端ごときを...」
次回
『戦争遊戯』