やはり俺とこのダンジョンは間違っている 作:ばーたるゃん
「...」
言うか。言うしかない。今夜だな。全員が集まるタイミングはその時しかない。......そして、言うために...逃げ道は、つぶしておこう。
「ベル。」
「んっ、あ、ど、どうしたの八幡?」
「お前らに話すことがある、今日のアイツの祝いで話すから、覚えといてくれ。」
...覚悟を決めろ、比企谷八幡。
「...ま、そんな重く考えんな。 んじゃ、ちょっと行ってくる。」
それ以上その場にいたくなくて、その場を離れた。
「...ハァ。 ...よし。」
その店に入る。
「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか。」
「ぁ、あ、いや...」
「お、八幡! こっちだ!」
そうヴェルフがこちらに声をかけた。ナイスだ。
店員が納得したように下がったので、そちらのテーブルへ。
「おまたせ、待っ...てないな。」
「乾杯はまだですから。...にしても、何をしているのですか?」
「...あー、そうだな。」
...ここで、言わなければ。
「...異世界ってモンを、信じるか?」
「異世界、ですか?」
「あぁ。」
「異世界...まぁ、わかるにはわかるな。」
「......俺が、その異世界人だっていえば...どう思う。」
「「......は?」」
ベルは、知っていたことだ。
「証拠は、今までの俺の態度で十分じゃねぇか?」
言ってて悲しくなる...常識知らずってことだしな。
「...まぁ、確かにおかしいところもありましたし...ですが、本当ですか?」
「信じられないだろうが、いったん飲み込んで聞いてほしい。」
「俺は、信じるぜ。 このことについてお前が俺たちをだます理由がない。」
「...そうか、で、お前は。」
「......まぁ、いったんは。」
「助かる。 ......それで、だ。 ......俺は、向こうの世界へ帰る方法を探している。」
「「「――。」」」
「......お前ら二人は、知ってるだろ。俺が最初、どこにいたか。」
「迷宮の、中...」
「...なるほど、それについての調査をしていた、ということですか。」
「あぁ。」
「その顔からするに、大した成果はなかったようですけど。 ......まぁ、とにかくわかりました。それで、どうしてほしいんですか。」
聞いてきた、よし、言いだしやすい空気を作ってくれたことには感謝しよう。
「俺の、向こうへ帰る方法の探索には...力が必要だ。もっと多くの情報を集める必要もある。.........俺に、協力してくれ。」
「...強くなって、情報を集める。そういうわけですね。なるほど、確かに、等級が低いところに回ってくる情報は、多くはありませんから。」
「......力を、これからも貸してほしい。もちろんただでとは言わん。だが――」
「なぁ、八幡。」
「......なん、だよ。」
「なんで、向こうに戻る方法を探すんだ。それだけ教えてくれ。」
「......うん、僕も、聞きたい。」
「確かに。理由もなしに手伝うわけにもいきませんしね。」
「.........最悪な終わりだった。忘れることもできねぇぐらい、最悪な。そして、それは俺が引き起こしたことだ。 ...戻って、けりをつける。」
「......そう、か。 ...わかった! じゃあ俺は協力するぜ、八幡!」
「うん、僕も、できることなら。」
「仕方ありませんね、どうせ、リリ達以外に頼る宛もないんでしょう?」
「......あぁ、......助かる。 あ、あと最愛の妹が悲しんでるだろうからな。戸塚にも会いたい。あ、戸塚っていうのはだな――」
正面切って感謝するのは慣れない、だからすぐ話題を切り替える。
「ハァ、あ、そういえば...八幡、お前に頼まれてたやつだが、できたぞ。」
「あ、お、おう。」
たしか...槍だ。この間手に入れた短剣とはまた別で、メインウェポンとなる。
気恥ずかしさを忘れるためにも手元の酒をあおる。
「それじゃ、これからもよろしく、八幡!」
「あぁ。 ......まぁ、煩わしかったら――」「なんだなんだァ? こんなところで集まって飲んで、立派に冒険者気取りかよ、嘘とインチキ、期待の新人様はよぉ!」
そんな声が響いた。魔法を発動し、近くにあった豆をはじく。――そしてそれは、誰の目にも映ることなく、その男の額へ。そして男は倒れた。
「...おーおー、酒に飲まれるのはこえぇな。いきなり大声出したかと思えば、卒倒なんて。」
「――、――貴様、何をしたッ!!」
突如、同じくその場で飲んでいたのであろう冒険者が声を荒げた。
「いやいや、そちらのその人は酔いつぶれたんでしょう? 冒険者が、酒場で。よくある話じゃありませんか?」
黒歴史を作ればいい、だから、矢面に立つ。
「...っ、だが、あんな勢いで倒れるのはおかしいだろう! 何をした!」
「言いがかりはやめてほしいものですね。我々は何もしていませんよ。」
後ろからリリルカの援護が入る。
「うぐ...っ。」
「...で、どうする。」
狼のような鋭い視線が、俺に刺さる。......あぁ、いやなんだがなぁ、ホントは。
と、すぐそばの席から、お仲間と思われる一人の男が立ち上がった。
「ッ、ヒュアキントス様!」
「確か、比企谷八幡だったな。 こちらの団員が迷惑をかけた。 この件は、そうだな...私がそちらの代金を払うことでチャラにはできないか。」
...謝罪の意なんて一切こもっていない謝罪だ。...思惑が外れたような。
「......あぁ、じゃあそれで手を打とう。」
見返りをもらわないのは、可笑しいだろうな。罵倒されて難癖付けられて...
「...では、別の場所で飲みなおしましょうか。」
「あぁ、そうだな。ほれ行くぞ、ベル。」
「あ、う、うん。」
「...んじゃ。」
その店を出て、歩いていく。