やはり俺とこのダンジョンは間違っている 作:ばーたるゃん
「...ようやく時間が...」
拘束時間が長すぎる......
ようやく服装もまともなものを入手した。
街は騒々しいので、ドロップアイテム等を回収されつくした、階層主との戦場へ来ていた。
「安全な場所に行きたいが、騒々しい場所にもいたくない。優先するなら後者が上。ぼっちの習性...」
抜き身であった短剣も、簡易的にだが鞘に収めることができた。今ももちろん携帯している。
迷宮に、こんな場所があったとは。 ...今更ながら、驚きだ。
「......ロキ・ファミリアも地上へ引き返したし、帰りは俺等だけ、か。」
戻れるかどうか......まぁ、明日になるんだ。保険もできる。十分可能だろう。というか、ここまでこれたんだから、帰れる。
おそらくLv.2より上が二人はいると見た。
「...で、なんすか?」
「いやぁ、君とは是非話してみたいと思ってさ。」
「俺なんかと話してもつまらないですよ。」
「まぁまぁ、俺もあそこにいづらかったんだ、ご一緒させてくれよ。」
「......」
ここを譲る...というのもできないだろう。
「分かりました。」
...そうだな。
「君は、まだ許せないかい?」
「許せないなんて言ってたこと、忘れましたね。どうでもよくなりましたよ、そんなこと。」
ベルを守ったあいつを見て...
「.........まぁ、相容れることはないでしょうがね。」
「フム...そうかい。」
俺のような人間とは相いれない存在、そう思うね。
「よし...聞きたいことも聞けたし戻るかな。そっちから聞きたいことはないかい?」
「......じゃあ。 ......ベルに、何を求めてるんですか?」
「...英雄、かな?」
「......そうすか。」
英雄ねぇ...
「あぁ、そういえば。 俺の名はヘルメス。誓約に関しては、俺の領分でね。」
「貸し借りもそのうちに入る、って感じですか。」
「そうだね。じゃあ。」
ヘルメス...聞いたことはあるが、なるほど。
そうしてしばらく...
「ハチマン様。街へ戻られてはどうですか? 多少は落ち着きましたよ。」
「そうか。んじゃ......おい、お前ひとりでここへ?」
「まさか。ハチマン様のために私がそんな危険を冒すとお思いですか?」
「...お前か。」
「あぁ。」
ヴェルフを護衛として連れてきていたようだ。ま、そりゃそうだよな...
「ここで何してたんだ。」
「何、いろいろ考え事をしてただけだ。」
立ち上がる。
「ところで、その武器はどうしたんだ?」
「報酬ってとこだな。」
あの怪物のから開放した報酬? ...ま、こういっておけばいいよな。
「いろいろあったんだよ。」
翌日。
「それじゃ、コレから地上へ向かうけど、ベル君、桜花君。体は大丈夫だね?」
「「はい!」」
ベルが大丈夫そうなら、何も言うまい。まぁ、俺は特に何もしてないしな。
「...」
それはそれとして。先ほどから視線がいたい。何? 俺のこと好きなの? まぁそれはないとして...マジ気になる。
しかしまぁ、スルースキルもこの際身につけよう。それがいい。
迷宮へ進んでいく。
「...」
今日に限らず思うことだが、遠距離への攻撃ができると便利だな。そういった魔法が発現すればいいんだが...
...まぁ、言ってても仕方がない。
中衛を務めているが、全くと言っていいほど出番はない。
「ハチマン様!」
「へいへい。」
時折上などから出てきたモンスターや、倒し洩らしのとどめを刺す程度だ。武器の性能に助けられている。
中層のモンスターとはいえ、冷静に対処すれば、一体一体は大した敵じゃない。俺にも対処可能だ。
「...」
常に周りを警戒しつつ、ついていっている。
「...あ?」
前方で何かあったようだ。
「......温泉じゃねぇか。」
そういやそんなところ、もうずっと行っていない。家族旅行ぐらいでしか行かない。...それも最後に行ったのはいつだったか...
「おお、スゲェもんだな...少し行ってみようぜ、ハチマン。」
こういう洞窟温泉ってのは、まぁ、すごいいいと思いますね。ロマンがあるというか、ね?
「おおっと、それなら――、みんなの分の、水着があるぜ!」
...このヘルメスという神は、未来予知でもできるんだろうか。
「あー...」
端っこのほうでくつろぐ。ぼっちにはここらがお似合いだ。
あいつらにもここなら見つからないだろう。それで探される羽目になったらもはやお笑いだな。そういえばかくれんぼってさ、見つかってないのにいつのまにか終わってたこと、あるよね。僕は一回だけありました。その後は誘ってすらもらえなかったです。
...風呂好きがいたようだし、10分程度はここに居られる。そう考えると疲れを取るには十分だ。
「...」
「か、神様ー!?」
聞こえてきた声に、温泉から出る。
「ヘスティアさんっ!? ......っ!」
お湯が、変色していった。
「......罠?」
いや、冷静に考えればそうだ。冒険者だけに得な場所などありえず、こんな場所が、見つかってないわけがなかった。
先ほどの声がどこから聞こえたのか、反響でわかりづらい。
「...」
しかし、ひとついえることは...あいつは、問題の中心によく居る。だから、この変色が始まってきたほうに居るはずだ。
変色した湯に入る――が、特に異常はない。それならば問題ない。
足首までしかつからないので、気にすることもないだろう。毒ならばわかりやすく効き目があるはずだ。色で現れるならそのはずだ。多分そう。部分的にそう。
「うおっ...? おいベル、退け!」
「ハチマンっ!?」
「らぁッ!!」
奥にいた巨大なアンコウのような敵の脳天に、短剣を突き刺す。
「......チッ。」
倒せてない。
引き抜き、ベルの隣へ。
「...おい、ベ――」
ベルのとなりに、ほぼ裸の――
「何も見てません、おいベルチャージしろ。」
『グガァァアアアアアアアアアアアアッ!!』
俺の魔法ではなく、ベルの魔法でとどめを刺したほうがいい。俺の魔法を使ってしまうのは、危険だ。
「ヘスティアさんを連れて後ろへ引け! 時間を――、がぁっ!?」
触手に足を取られた。
「ハチマンっ!」
引き寄せられ、口の中へ。
「...っ、溜めてろ!」
口が閉じられ、暗闇に。
「...っ、はぁッ!!」
喉の奥から伸びてくる触手を切りつけ、そのまま口内にナイフを突き刺す。体に触手がまとわりついてくる。
「......ッ...!」
無視して、口を上下に押し広げていく。
「.........ッ、ベル―ッ!!」
名前を呼ぶと同時に口を開けさせる。
「――【ファイアボルト】!!」
炎雷が、すぐ横をかすめて口の中へ。
背後からの爆発で、外へ。
「がぁッ! ...っ。」
酸の中へ飛ばされたが、すぐさま体勢を立て直す。
「やったか!?」
...あ、それ言ったらダメな奴だろヘスティアさん。
モンスターは...生きていた。
「ベルッ、ハチマン!」
「! ヴェルフ!」
「これを使えッ!」
そういって飛んできたのは大剣だ。すぐ隣に突き刺さる。こっわ。
「俺に、かよッ!!」
短剣を鞘にしまい、大剣の柄を取る。
モンスターが、口を広げてこちらへ突進してきた。
「......っ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
あと数Mというところで、踏み込み、飛びあがった。
「っしゃあああッ!!」
真上から、脳天の傷に大剣を差し込む。
『――――。』
弾けるように、塵になった。
「ッ、とうぉッ!?」
突き刺した大剣と共に落下し、水しぶきを上げ水の中へ。
「大丈夫か、お前ら!」
「...はぁ、何とか...な。」
「おいハチマン、早くこれ着ろ、あいつらが来ちまう...ッて、ヘスティア様!?」
「ベル、これをヘスティアさんに。」
着換えを受け取って、俺は奥へ。
「......ハァ、お前が気づいててくれて、助かった。」
「まぁ、ホントはベルにお前のを渡そうと思ってたんだがな。お前はここにいねぇと思ったから。」
「...ひでぇなおい。」
「仕方ねぇだろ、お前のやつがつかみやすい場所にあったんだ。」
「...まぁ、結果としちゃ正解だ。とっととこの場所から離れるぞ。」
「申し訳ございませんッ、私が言い出したせいで...っ!」
「別に損だけじゃなかった。なぁ? ハチマン?」
「...まぁな。」
べ、別に裸見れちゃったとかそういう得じゃなくてね? うん。ハチマン幼女趣味ナイ。
「まぁ、みんなこう言ってることだしさ。この後の帰路で頑張ってくれれば皆それで十分だろう。」
「あぁ、気に病むことはないよ、命君。」
「ハイッ、奮闘したいと思います!」