やはり俺とこのダンジョンは間違っている 作:ばーたるゃん
「...」
比較的安全そうな丘の上に、剣を持ち、やってきた。
たそがれる...というのは間違いだな。確か、意味が違ったはずだ。
面倒ごとに巻き込まれる前に退散だ。俺の武器が無いことにすぐ気づくだろうし、心配はかけないだろう。
もしかけるとしても、アレは受け取ろうとは思えない。
ベルがあそこで絶対許そうとする、だから俺はその逆をするのだ。
ベルができないことを俺がする。至極当然のことだ。他人ができないことを自身がして何が悪い?
断固拒否だ。 ――まぁ、こちらが助けられるということがあれば、ソレを解くのも容易だが。
「――で、何ですかね。」
「おおっと、気づかれてたとは。」
「そりゃまぁ。一人で居るところに何かが来たなら分かりますよ。」
「......ハチマン君。皆、テントに居るけど?」
この神は...なんとなく、嫌な予感がする。
「おやおや、そんなに警戒しないでほしいなぁ。」
「いや、しないほうが無理でしょう。 ...それで、わざわざこんなところへ、何を?」
「そりゃあ勿論、君に会いに来たんだよ。」
「...何故?」
「いやいや、君が居なかったものだからさ。」
「......それじゃあ、俺は戻る気は無いんで。 あのファミリアが居ないと気に言ってくれますか?」
「彼らもこの迷宮へは、志願してきたんだ。僕らが命令したわけでもないし、強要したわけでもない。ソレを分かってあげてほしい。」
「...まぁ、はい。」
「それじゃ、俺は行くよっ、気が向いたら戻ってきてくれよっ」
「はい。」
ま、行かないけど。神には分かってるんだろうなぁ、嘘が。
「...ん、朝か...」
明るくなっていた。特に寒くも無いこの気温では、外でも楽に寝られる。 ...モンスターに襲われることも無かったようだ。
まぁ、この階層のモンスターなら、来れば気づく。ステイタスが強化され、そういうことに敏感になっているのだ。
しかしまぁ...アレから誰もこなかったと考えると、いい場所なのかもしれない。
「...。モンスター...」
バグベアー。知識はある、ミノタウロスよりも高い俊敏なので、もし、遭遇すれば用心は必須...
「...」
階層主の際に、回復などを度外視した魔法の行使が行われた。それも、一瞬のみに期間を限定し、その分効果を増した。
それが、できるか。
イメージしろ、常に最強の自分を。――と、いうのは、大事なことだったはずだ。
イメージの力こそが、魔法の能力を左右する。
「...いや、今は使えないか。」
もしものときの為に、残しておこう。
「...確か、拠点が向こうだったな...」
そろそろ戻るとしよう。
「...って、思ってたんだがなぁ...」
そこはやはり初めての階層か。 まぁ、安全階層でよかったというべきだが。
真逆だ、これは。
「...ハァ。」
ステイタスのおかげで、精神的な疲労のみですんでいるが...これが、何も無いころだったと思うとゾッとする。
「森の中――」
そのとき、地面がパックリと、まるで、罠のように、落とし穴のように。
「――ッ!?」
なんとか両足で着地し、下にあった液体溜りについたせいで、飛沫が――
「熱っ...!?」
足が、ブーツごと少しずつ、溶かされていく。
「...っ、酸...――なッ!?」
痛み、熱を忘れるほどの衝撃――骸骨と防具、武具の群れに、思考が止まる。
「――。」
ポタリ、と肩に酸が。――そして、上を見て、再度。
「――モンスター...?」
冷静さを保て、理不尽に身をゆだねるな。今だ、今こそ、冷静になるべきときだ、未知の相手には、冷静に対処するしかないのだ。それが、命を――
「はっ...はっ...はっはっ...はは...っ」
俺には、理不尽がよく降りかかるな。
ゴライアスの件についてもそうだ。あんなもの、俺が――
「...っ。」
思考を、諦めるな。こういった熱いのは俺の性分ではない、だが、そんなことも言ってられない。余裕は無い。
考えろ比企谷八幡、ここは、斜め上も斜め下も必要ない。――考えることは、シンプルだ。
コイツを倒して、外へ出る。
「ッ!!」
しなる鞭、敵の肩口から射出されたそれを何とか回避する――が、足元に広がる酸が飛び散ってくる。さらには、今の風圧からして――
普通の状態でまともに喰らえば即死、だ。
幾らここにある盾を持ち、構え受けたとしても、腕が粉砕されるだろう。
「ッ!」
再び紙一重。骸骨が粉砕され、骨と装備の破片があたりに広がる。
「――。」
使って、出るしかない。
だが、使いどころを間違えてはいけない。アレは、格上だ。それも、俺が今まで遭遇したモンスター内最高レベルで。
敵の腹の中、というのもかなり大きい。
倒すためには――奥の手を。
骸骨達のもとへ、たどりつくことが最優先。武器だ、武器が居る。
俺の武器では、あの本体はおろか、この壁すら、傷つければそれで融解していくだろう。
骸骨の群れの中から、一つの柄を取る。
あの攻撃を喰らって、無事な武器――つまり。
それだけの強度、それだけの武器ということだ。
「――っぜああああああぁぁぁっ!!」
少しでも強く、少しでも早く。
斧で鞭の一撃をはじく。だが、こちらも大きく後ろへはじかれる。
「ッ、はぁッ!」
そのまま後ろへ攻撃対象を向け、壁へそのまま埋め込む。
「――ッ!」
斧を手放し、回避する。
痛みで冷静に。肉の溶ける悪臭にも、足の状態にも、対処はまだ可能だ。
機会は回避。次の回避だ。
鞭がしなる。その、瞬間。
「【インガーンノ】」
集中する。
床を踏み込み、真上に居る――
そのとき。冠型の器官が発光し――
『アァァアァァァ――――――――!!!』
「~~~~~~~~~~~ッッ!?」
その、怪音波に飲まれる。ステイタスを幾ら強化しようが届く音波。それに、平衡感覚を失わされた。
そして、隙ができた身体に、鞭が迫った。
絶体絶命の一撃、Lv.2ではとても対処できるものではない。
「がっっ!?」
壁へたたきつけられる。しかし、それだけで終わらず、足に鞭が絡められる。
そして、そのまま真上、真下、真横へ。酸が出る壁へたたきつけられながら、その身体を溶かしながら、その体を崩していった。
魔法を使用して、これか。
痛み、今の状況とは裏腹に、冷静だった。
たたきつけられながらも、思考は別のばしょへ。
なぜか、それは――
魔法を再燃させる。
発動はした、だが、超微力に。ならば。
やはり、時間もそれに対応して伸びていた。
壁にたたきつけられた瞬間に、差し込まれた斧の柄ををとる。
「――っ、はあああああああぁぁっっ!!」
それを真下に押し込み、自身の体を真上、モンスター本体のいるもとへ。
そして、剣がモンスターの胸に――突き刺さることは、なかった。
跳んだ勢いのまま、突き刺すように砕けていく。そして、鍔までその刀身が砕け、モンスターの間近に。
「――。」
目が、あった――そんな気がした。
そして。
『アァァァ―――――――――ッッ!!!』
先ほどの怪音波が、この近距離で放たれる。
「――――ぁ、があああああああああああっっっっ!??? ああっ、ああああああッッ!?」
自分の声が聞こえない。そのまま、床へ落下した。
気が狂うような音波、それをあの距離で。
「ひッ、ひぃぃぃっ!!」
わからない。なにが、どうなって――
視界にあるものをとらえられない、なんだ、なんだ。
鞭が体へ。
「――ごっっ...!?」
魔法も切れた。
ヒキガヤハチマンには何ができた? 比企谷八幡には何が出来る?
3度目の生を、こんなところで無駄に終わらせるのか? 諦めるのか、疲れたのか?
「...~~...ぎ...ッ!?」
そこへ、何度も鞭が。
2、3、4、5、6、7――
背中に、熱が。
その熱は、体を伝導していった。
――8。
体を大きく縮こませ、鞭を回避――そして、下におしこみ、抜けかけていた斧の柄を、再度握る。
「――あああああああっっ!!」
背後へ迫っていた鞭を切断する。
『――』
「――はっ。」
足が灼ける。構わず、駆ける。
見知らぬドワーフの斧を担ぎ、第二陣、鞭を再び切断する。
そして、目的の場所へたどり着いた。
骸骨の群れ、その中に一本の異質な光。それは――
白銀の、短剣。
斧で迫った鞭をいなし、遠心力を利用して、投げつける。
背中の熱は、火を噴くように。
灼ける足で、床を踏みしめる。
そして、跳んだ。
斧がはじかれた。だが、それで、鞭の俺に対する対応は遅れた。
『――。』
目があった。気がした、ではなく、今度は確実に。
「どけ。」
短剣を、敵の胸へ。
「――、っ!」
モンスターは塵へ、その体を変質させ始めた。
落ちる前に、逆さまの上半身をどうにか上にのぼり、天井にナイフを突き刺す。...どうやら、この肉の壁が蓋になっているようだ。、
まぁ、そうでなければ、上に戻れないんだが、俺...
モンスターが消える前に、縦に蓋を切り開く。
「――。はッ...!」
切り込みを無理やり切り開いて、地上へ。
しばらく待っていれば消えていたのだろうが、これ以上あの酸に足をさらしたくはなかった。...それよりも、今、重要なのは...
上半身裸、靴全損、ズボンも多少...足は肉が剥き出しに、手も、焼け爛れている。
「...は...ぁ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~っ!」
生きている。
倒れる。
「...ベルみたいな、魔法の一つでもあれば違ったか。」
どうか、成長できますように...文才がつきますように...