「やぐらさんの前で無様な姿は見せられないよね。」
『そうだな。』
試合会場は雲隠れの忍が出ていないのにも関わらず、熱気に包まれていた。
ボクシングを見る感覚で殺し合いを見るのに人柱力は怖がって避ける矛盾に何とも言えない気持ちになるが、それはそれ、これはこれなのだろう。
「第一試合、砂隠れの我愛羅対霧隠れのうずまきモエギの試合を開始いたします。
両者、前へ出てきて下さい!」
ステージに墨羽根で降り、我愛羅も砂で降りる。…舞台に降りると…緊張してきた。
「試合開始!」
薙刀を封印から取り出し、私がその場で一振りすると、砂の防御が〝何か〟に反応して防がれる。
風遁の飛ぶ斬撃で硬さを図ったのだが、新技は通りそうだ。
薙刀にチャクラを通し、炎が出てくると我愛羅へ向けて一気に振りかざす。
「はぁっ!」
砂に防がれ、反撃されるが…それを墨が防ぐ。
そのまま墨を足場にして叩きつけるも、避けられて地面に当たる。
ドッカーンッという音で地面が深く抉れ、当たった部分は一部ガラス化している。
…我愛羅が少し青ざめたのは気のせいだろう。
そのまま払い、砂で防がれるが砂が焦げて黒くなっている。
撃ち合いをする度に我愛羅の顔色が悪くなっていく。
汗も大量にかいている。
この熱さの攻撃を至近距離で防いでいるのだ。
…暑いだろうな。私の方へ熱が行かないようになっている分、我愛羅はかなり熱いはずだ。
このままでは決着がつかないまま我愛羅の恐怖を煽るだけなので、距離を置いて薙刀をしまう。
…かなりホッとした様子だ。戦意喪失しているようにしか見えないのは気の所為だろうか。
「木遁・
いわゆるはっぱカッターをかっこよく言っただけの牽制技。
空を覆い尽くす程のはっぱカッターが時間差で我愛羅に向かう為、砂の防御はそちらに集中する。
「墨遁・
サイのワザをぱくり、あたかも自分のワザのように墨の神獣達を繰り出していく。
サイのものより強く、墨が切れる事がない上自分で書く動作も必要ない、人柱力だからこそのワザ。
ウザイ程に時間差でやってくる舞葉乱刃と派手で高火力な鳥獣戯画に翻弄される我愛羅。
砂の防御が追いつかなくなっていく。
恐らく、普段は砂に任せっきりなため体術は苦手なのだろう。避ける事が出来ず砂の鎧を傷つけ、壊していく。
トドメと言わんばかりに拳にチャクラを溜め、
我愛羅は壁に叩きつけられ、動けない。
…もう会場がボロボロになってしまった。
「勝者、霧隠れのうずまきモエギ!」
わぁーと客席から歓声が上がる中、我愛羅の方へ行って医療忍術治療する。
我ながら人柱力相手にここまでの威力のパンチを出せるとは思わなかった。
『ゴリラか?目があった瞬間から腹パンしなかっただけマシだが…。』
牛鬼は新技の実験台となる事が決定した瞬間である。
『すまん、マジですまんかった!』
「う…あ、俺は負けたか…。治療、助かった。ありがとう。」
「いえ、もう大丈夫?」
「あぁ、医療忍術の才能もあるのだな。…流石だ。」
頭を撫でられ、気持ち良く目を細める。
やはり、前世の前世は猫だったのだろう。記憶は無いが間違いない。
観客席の白と長十郎の近くに戻り祝福を受けると、視線を感じたので振り返ると我愛羅が私達をガン見している。
咄嗟に目をそらしてしまったが、2人も気付いたらしい。
「モエギ様にホの字ですね、アレは…。」
「アレは…恋の視線です…!」
「ホの字とか恋の視線ってどういうこと?」
『気付いてねぇのか?お前が医療忍術を使ったら顔が赤くなってたぞ?』
「それで頭ポンポンですよ!?」
「モエギ様もうっとりしてたじゃ無いですか!」
「うっとりはしてない!断じてない!私はやぐ…っ!とにかくしてない。」
『お前、無意識に小悪魔してるのな。』
「無自覚ですね。」
「無警戒ですしね。」
「…?」
「「『天然って…』」」
「皆して呆れないでよ…気になるじゃない。」
いつの間にか第三試合が終わり、第四試合が始まろうとしている事に、私達は気付いていなかった。
そして、水影席からの視線にも。