将来の夢はマダオ。 作:ら!
「よぉ。ヒーローってモンは遅れて登場するにかぎるだろ」
ヘラリと片手をあげた春日の姿が月夜に照らされた。ニヒルに口角をあげ、いつもの死んだ魚のような目は少し好戦的にまっすぐ見据えている。緊張した場の空気に似合わず、どこか余裕がある。
けれども、×たまの群れは春日の登場を待たない。×たまは春日たちに遅いかかかる。
「久我くん......!」
気がついた者たちは春日へと視線を向ける。
月の光りのせいか、輝いてみえ----
「あ、あの久我くん。......刺さってます」
訂正、輝いてみえたのは気のせいだ。
「え?何言ってんだ、日奈森。これはアレだよ、アレ。お洒落だよ、コノヤロー」
春日の額には、×たまの、たまごの破片が突き刺さり、どくどくと赤い液体が流れていた。つまり、簡単にいうと、春日は×たまの群れを避けきれなかった。
「どうみても、刺さってるよ!?久我くん!大丈夫!?」
「なぁに、言ってんだ。これはお洒落だっってんだろ。な?」
あむが心配するなか、軽い口調で、春日はほしな歌唄に問いかける。
「......私が放った×たまを避けるなんて......」
「えぇぇぇぇぇーーーー!!フォローしたぁぁ!!?敵に、しかもほしな歌唄にフォローされてるぅぅぅぅ!!」
「これくらい大したことねーよ。」
「久我くん、めちゃくちゃ血が出てるじゃん!!何平然としちゃってんの!!?大したことありすぎるよぉぉー!!」
「血?こりゃケチャップだ、日奈森。ハロウィン意識して仮装してんだよ。ドンキに行って買ってきたんだ。
だからお前もコスプレしてんだろ?」
春日の現在の格好は、警官の衣装を着ていた。ところどころの赤い部分をみるとハロウィンにみえなくもない。
「まさかのケチャップぅぅ!!これはキャラなりだから!!ハロウィン関係ないから!!!」
あむの突っ込みがさえ渡った夜であった。
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「久我くん!来てくれたんだね!」
「もお!遅すぎだよー、春日っち!!」
「......べつにヒーローなんて、よんでないけど」
「クイーン、そんなこと言わずに。これで戦局は一気にこちらのものです!」
「あみのこと、その、......あ、ありがと。...」
「あむちゃん、こんなときに意地っぱりと人見知り発動しちゃって......」
「それがあむちゃんらしいですぅ~」
場が少し賑やかになった。歌唄もあむの妹、あみとふれあい、自身のおさなき夢を思い出した。
「歌唄ちゃん、おうた、歌って!あみ、歌唄ちゃんみたいになるの!!」
自分は何のために歌いたいのか。その答えを見つけた歌唄。エルが離れて、イルも離れて、×ダイヤもあむのもとへ行ってしまったいま、あみの言葉は歌唄の心に深く刺さった。
「......ゆめの、つぼみ......ひらく」
歌唄のうたはもう×たまを引き出すものではなくなった。
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「海里も、歌唄も、ガーディアンにやられて、何やってんのよ!......いい?あなたたち。このような×たまで作ったおねだりCDがうまくいったら、.........」
ヘリコプターの中で歌唄のマネージャーであり、海里の姉、三条ゆかりがよからぬことを企んでいる。