将来の夢はマダオ。 作:ら!
廊下の角を右に曲がる。幸い、この学校の校舎の地図は頭に入っている。階段をかけのぼり、一気に加速する。やつらは×たまを手にしていた。
「やむを得ん!......戦略的撤退だ!!」
そう判断し、ものつくり部の部室に駆け込んだ。
春日は、黒いサングラスをかけた小学生の群れから逃げていた。まさにリアル逃走中である。
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「数が多すぎる......!」
春日は部長とかかれた席にもたれかかる。
KASUGAなる人物の手によって、五年星組のみならず、学校全体が春日を捕まえようと躍起になっていた。みんなの記憶から《久我春日》は消去されていた。
「...アイツ、何者だ?何で、ぼくが忘れられているんだ?」
「......×キャラの暴走だな、こりゃ。それも最悪の。」
銀時が冷静に状況を分析していた。たしかにあの老林とかいうしゅごキャラの額にはバッテン印があった。銀時とて、春日のしゅごキャラ。持ち主の危機的状況を打破するべく、おやつの一件は保留とした。
自分の記憶が消去され、忘れられるというのは、なかなかつらい。春日の意識がぷつりとなくなった。最後にみたのは、銀時が焦ったように手をのばす姿だった。
よみがえる春日の記憶。それは走馬灯のように一気に頭に流れてきた。この記憶をみるのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。
こじゃれたカフェにいつのまにか春日はいた。自身の体は透けていて、まわりに認識されていないようだ。ピアノのBGMが流れる。店員が、食後のモンブランを運び終えたときだった。
「夕べはお楽しみでしたね。」
にこやかに話すのは誰だっただろう。
「なぁにが、お楽しみだよ。なんでピンクベストなんて着なきゃいけねーんだよ。」
「ほら、貴方、春日っていうじゃないですか。だったら一度くらい、いいでしょ。」
(あれは、昔の.........ぼく?
かすが?ちがう、ぼくは、はるひだ。)
場面がかわる。
独特の機械音で編集された音がきこえる。
『もう衝撃的でしたよ。一体、何があったのか。あいさつもしてたし、変わったことは見当たらないけど』
交差点のビルの大きな画面。電気量販店の最新型の液晶テレビ。ニュース番組のインタビューなのか、アナウンサーとコメンテーターが映った。
(.........何だっけ?
どうしてたっけ?
ぼくは、
なんで、生まれ変わったんだ?.........)
また、場面がかわる。さっきのカフェで話してた誰かだ。
「......どうして!」
涙を流し、嗚咽混じりの声を絞り出す。
「どうして、約束したじゃない!
いっしょにドラ⚪エやろうって!
.........戻ってきてよ、ねぇ!!」
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ハッと気づいたときは、肩にタオルケットがかけられていた。
「知らない天井だ。」
目覚めて第一声がこれである。
「あら、やっと起きたのね」
「おっはよー!春日っち」
「久我、久しぶりだな!」
「久我くん、大丈夫?」
「ひとり走り回ってバカじゃん?」
春日の前にガーディアンが揃っていた。様子から察するにここはロイヤルガーデンなのだろう。
「......おまえら、ぼくがわかるのか...?」
「あったり前って言いたいところだけど、実は忘れてた!」
「そこの銀時がおれたちの口にダークマターだっけ?......それを食べたらおまえのこと思いだしたってわけだ」
空海が皿を指差す。テーブルを見ると、黒い物体が皿に盛り付けられていた。
「ぼくらはガーディアン。生徒の困ったときは助ける、正義の味方さ」
「.....あたしは、スゥのことであんたに助けてもらったし、ね。」
ぼそぼそと「素直に心配したって言えばいいのに」「でも、あむちゃん意地っぱりだからね」「あむちゃん、照れてるですぅ」ラン、ミキ、スゥの言いたい放題に「うるさい!あんたたち」とあむが吠える。
ちらりと銀時を見ると頭をがしがしと右手でかいていた。
「ったく、心配させんじゃねーよコノヤロー」
「さて、久我くん。ここからは貴方だけじゃないわ。ガーディアンにお任せあれ」
普段は寒気のするなでしこの笑顔がきょうはなんだかちがうような気がする。頼もしくみえる。
「......なんかジャリジャリする」
「貴方の口にダークマターを入れたら目が覚めたのよ。」
前言撤回。やっぱりコイツ女狐だ。油断ならない。口の中がジャリジャリ言う。
ダークマター、恐ろしい子......!