将来の夢はマダオ。 作:ら!
聖夜学園の校区内にある、とある公園のベンチに二階堂悠はひとり、暇そうにしていた。
「......あーあ。これからどうしよっか」
彼はエンブリオ計画に失敗し、イースターにリストラを宣告された。
そんな彼の様子に小さな影が近づいた。
「おじちゃん、どうしてここに座っているの?」
純粋なこどもの問いに彼は答えた。
「一時のテンションに身を任せたからだよ。
人生は長いから、後先考えずに行動しちゃいけないよ。」
と言ったが
「ばいばい、まるでダメなおっさん。
略してマダオ。
......あ!おねーちゃーん!」
こどもは姉をみつけ、去っていった。
「......はは、まったく最近のこどもは...
アレ、おかしいな。
前が霞んでみえないや。」
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......『マダオ』
いまのぼくにはお似合いの言葉だ。
少し前まではイースターの幹部として出世街道まっしぐらだった。もののはずみでしゅごキャラを連れ去り、ぶっ飛ばされてから、地位も仕事も、自信も失い、妙なツレを手に入れた。ツレと言えるのかわからないが、しゅごキャラなのにどこか自分と同年代の近さを感じる。
ツレは、ぼくにグラサンを取れと言う。でないと仕事の面接が受からないと。いやいや、ぼくはグラサンなんてかけてない。これはどうみてもメガネだ。......そうだよね?そうだといってほしい。
そう反論したら、ツレは諭すように言い出した。そしてぼくのメガネをとり、グラサンにかえた。
わかった、ぼくがかけているのはひとまずグラサンとしよう。
こうして、ぼくのメガネへのこだわりをヤツは崩した。
「二階堂さんよぉ、信念持ってまっすぐ生きるのも結構だが、一ぺん手放して曲がってみるのも手なんじゃねーの?曲がっているうちに、絶対譲れない一本の芯みてーなもんも、見えてくんじゃねーか?」
とうとうぼくは、グラサンを取って、無事タクシー運転手に合格した。あれ、ほんとぼくなにやってるんだろう。
人を運ぶ仕事をしていると、どいつもこいつもちゃんと「目的地」がある。
だが、ぼくは目的地《夢》を見失った。目的地《夢》へたどり着くための道に迷った。
そんなとき、ぼくのタクシーに乗り込んできたのが、ぼくと同じ目的地のないようにみえるしゅごキャラ、銀時だった。ちょっとキミ、タクシー代ちゃんと払えるのかい?
タイミング悪く、銀時がいる時に拾った客が、傲慢な態度の元上司だ。
元上司をイースター本社に運ぶ途中、タイミング悪く、産気づいた妊婦に出会ってしまった。
「おまえらのような下等な人間のガキが一人や二人どうなろうと、知ったことではない!本社へ向かえ!!!」
そう騒ぐ元上司を、ぼくはつい、ぶっ飛ばして、産気づいた妊婦をタクシーに乗せた。
銀時は言う。
「二階堂さんよぉ、アンタやっぱグラサンの方か似合ってんな。」
だから、ぼくがかけているのはメガネだって言ってるじゃないか。
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ある日の公園で、ぼくはまたあのこどもに出会った。
でも今度のぼくは違う。
仕事をなくしてここに居る理由。
「自分の芯を通したからだよ」
胸を張って、そう言い切れる。
不器用なりにぼくらしく生きようと、ぼくは決めた。
「不器用って言葉使えばカッコつくと思ってんじゃねーよ、マダオ」
いまの声は舌足らずのこどもではない。となりをみると、懐かしい顔をみた。
「きみ、ここにいたらマダオになるぞ。
ほら、きみをさがしている人が呼んでる」
「あみー!どこにいるのー!帰るよー」
「あ!おねーちゃーん!まってー!」
こどもが去っていく。
「......久しぶりだね、
久我くん。」
ふらりと久我春日は二階堂をみた。
「おぅ。......思ってたより元気そうだな」
「それで、ぼくに何か用かい?」
すると、春日は二階堂に茶封筒を投げ渡した。あわてて、受け取ろうとした二階堂は足をひっかけ転んだ。
「おいおい......
ところで、ぼくが創ったものつくり部の顧問サンはここで何しているんだ。」
「ぼくはもう、教師じゃ......」
「おまえ、知ってるだろ?顧問がいないと部として認めねーってガーディアンが言うんだよ。」
二階堂は茶封筒の封をあけた。
〔聖夜学園教員採用要項〕とかかれている。
「どうするかはおまえ次第だ。
......銀時が世話になったな。ありがとよ」
片手をあげ、春日は立ち去った。