要は主人公が無双するための当て馬ですね
あと黒歌の口調に関してですが、この邂逅編では「にゃん」とか「にゃ」はつけません。
理由としては、黒歌のこれらの口調は猫魈として一人前になり、成熟した故のものと解釈したものと考えており、要は余裕の表れと考えてます。
なので、まだ未成熟の本作の黒歌はこのようになっておりますのでご了承ください。
Side ???
(さて、予想通り厄介ごとが舞い降りて来たな)
白音に助けを求められた少年は今現在身に降り掛かろとしているトラブルにどのように対処すべきか頭を働かせていた。
(このまま素顔を晒すのはよろしくないだろうな。もし僕という存在が悪魔側に露見した場合、不法侵入で大事になること請け合いだ。・・・なら、正体が露見しないように顔を隠す必要があるか・・・あー、確か以前仮面舞踏会で使った一張羅があったな、あれでいいか)
少年はこれから自身が取るべき行動を簡単に整理してから、自身にしがみついている少女を一瞥してから結界の外にいる悪魔を見た。
(この子の引きずった跡を見てここに何かあると気づいたみたいだな、だがこれは僕たちの姿が確認できているといった感じではない・・・やはり認識阻害は効いている。ならこの少女はどうして僕を認識できた?)
少年は自身をしっかりと知覚することのできた少女に疑問を感じていたが、深く考える前に事態は進行を続ける。
「爆ぜろ!!」
目の前の悪魔がこちらに手を向けて魔力を迸らせる。
その瞬間、少年は深い思考に入りかけていた意識を切り上げ、戦闘時のそれへと刹那のうちに移行させ、男の魔法式を一瞥すると、その脳裏に反射させる術式を展開させる。
すると・・・
ドォォォォォォン
悪魔の足元が爆発し、悪魔は吹き飛んでいった。
少年は一瞬で反射の術式を組んで、見事に相手の攻撃を防ぐことに成功した自身の技量に満足した。
(ふむ、久しぶりに反射魔法を組んだわけだが・・・腕は錆付いていないようだ、よしよし。なら次は・・・)
「君、これから僕はあいつと戦うけど、このままだとあそこで倒れてる君のお姉さんも巻き込んじゃうからそこのテントの所まで引っ張って隠れてな」
少年は驚いた表情を浮かべている少女にそう告げて、自身のズボンを強く握りしめている手を優しく解き・・・
少年は術式を脳裏に展開させ、亜空間にて収納している変装用の一張羅をその身に纏った。
少女は一瞬で格好が変わった少年にさらなる驚きを示していたが、直ぐに姉を思い出したのか、結界の外へと駆け出した。
「さて、これで変装はいいかな・・・いけね、仮面仮面」
少年は自身の一張羅が術式によって採寸をピッタリと合わせた上で瞬間換装できたことに満足したが、うっかり仮面を展開することを忘れていたが、すぐにそれに気づいて仮面をつけた。
そんなふうに少年がワタワタしているうちに少女はテントまで戻り、吹き飛んでいた悪魔は近くの木を支えにしながら名乗りをあげた。
「そこにいるのはわかってる。出てこい!!俺はヴォルドームスカ・バルバトスが『兵士』プレスティードだ!!今の爆破魔法は明確な敵対行為だぞ!申し開きがあるならば、大人しく姿を見せろ!!」
少年は悪魔が少年を呼んでいるので素直にその誘いを受け、結界の外へと歩き出した。
(さて、姿を晒すからには確実に殺さないとなぁ。・・・久しぶりの対人戦だ、彼には僕の錆落としに付き合ってもらうとしよう)
少年は結界の外へと出ると、目の前の悪魔は怪訝そうな表情を浮かべた。
「・・・人間のガキ、だと!?」
どうやら悪魔は自身を攻撃した敵が子供だったと理解して驚いているようだ
「あなたがどこのどなたで、何故さっきの女の子たちを追いかけているのか、なんてことは毛程も興味も沸きませんが。・・・あなたはここで僕を知ってしまった。始末させてもらいます。」
少年は悪魔にそう死刑宣告を告げると・・・
悪魔のもとへと吶喊した。。。その手に白銀の槍を2本携えて。
Side プレスティード
「始末させてもらいます」
目の前の少年は一方的にそう告げるとプレスティードへと走り出した。
その速度は確かに子供にしては速かったがプレスティードの目で捉えられない速度というわけではなかった。
プレスティードは自身を先程襲った爆発魔法が少年が行ったものではないだろうと即座にあたりをつけ、結界内に少年の仲間がいるのだろうと推測した。
人間の魔法使いはそもそも悪魔などの超常の存在から教えを受けて、それを人間が扱いやすくアレンジしたものが人間の扱う魔法である。そして基本的に未熟な魔法使いは杖やタリスマンなどの触媒がなければ満足に魔法を扱えないのが常である。
よって、プレスティードはこの少年が魔法使いではないと確信し、他にも仲間がいるはずだと見当をつけたのだ。
さらにプレスティードは突撃してきた少年が素手であることから前衛職であると察し、即座に対応しようとしたところ、驚愕した。
何故ならば・・・
突然中空から槍が2振り出現し、少年の手の中に収まっていたからだ。
「なにっ!!?」
プレスティードは咄嗟に少年の槍による1突きを躱し、すれ違い、振り向きざまに少年に向けて爆破魔法を放とうとした。が・・・
「ぐぉっ!!?」
少年は振り返ることなくもう片方の槍の石突きの部分でプレスティードの腹に当てたのだ。
プレスティードは思わぬ攻撃に吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がりながら、少年から距離を取りつつ、爆破魔法をデタラメに放った。
少年の目の前の空間に閃光が奔り、爆発した瞬間・・・
少年はその爆発ごと槍で切り払った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
プレスティードはその光景を前に思考ができなくなった。
そして・・・・・・
パンっ 、ビュンッ!
ドシュッ!!
という音がプレスティードの耳が捉えると・・・
「ぐああああぁぁっ!!!?な、にぃい!!?」
彼の左肩に長い槍が突き刺さっていた。
いや、それは槍ではなかった。それは槍のように太く、長い矢だった。
何故解ったのか。それは離れた位置に立つ少年の手に赤塗りの弓とプレスティードの肩に生えているものと同じものを弓に番え、こちらに矢の先端を向けて構えていたからだ。
そして・・・その矢はプレスティードへと放たれた。
パンッ、ビュンッ!
矢がプレスティードの顔面へと飛び、彼の眼は余りの早さにそれを視認することが出来ず・・・
ガキンッ
と金属と金属が思い切りぶつかったような大きな音がプレスティードの耳へと入っていった。
「ぐぅぅっ!!なん、という威力!!?」
プレスティードの目の前に剣を少年に向けて構えたバルディアが立っていた。
どうやらプレスティードに迫っていた槍のような矢はバルディアの剣が弾いたようだ。
「やれやれ、随分と時間がかかっていると思い、来てみれば。なかなか面白い人間がいたものですね」
バルディアは矢を弾いた際に手を麻痺らせたのか、片手を軽く振りながらそう呟いていた。
「ふむ、増援か・・・シッ!!」
少年は新たに矢を番えると上空に向けて放った。
「なっ!?きゃああぁぁぁぁああ!!」
「ナターリア!!?」
「だ、大丈夫、怪我はしてないわ。でも・・・私の防御魔法をこうも容易く突破するなんて・・・」
「・・・プレスティード、ナターリア、どうやらこの少年はかなりの使い手のようだ。気をぬくな、全員で仕掛けるぞ!!」
Side 黒歌
「くっ・・・う、あ・・し、ろね」
「姉様!!」
どうやら私は崖から落ちた後もまだどうにか生きているようだ。
・・・でも、もう私は・・・
じきに白音を残して死んでしまうだろう。
「ご、めんね・・・しろね・・・・・わたし、は、もう、だ、めみたい」
「そんな!?ダメです姉様!!諦めないで!!すぐに助けを呼んで来ます!!だから・・・だから・・・」
「じぶん、のからだ、だもん・・・もた、ないの、は・・わかっ、てる・・んっ、くっ」
「いや・・・いや・・・ねえさま、をおい、てなんて・・いけません」
「しろ、ね」
ああ、だめだ。このまま私が白音に諭し続けても埒があかないだろう。こんなことをしていればいずれあの悪魔たちが白音を捕まえてしまう。それは駄目だ。それだけは許容できない。だが、どうすればいい?どうしたら今のこのどうしようもない現状を打開できる?
(・・も、う意識が・・・だめよ、黒歌。白音が逃げるのを・・見るまでは眼を、閉じては・・ん?)
黒歌がなけなしの気力を振り絞って意識を繋げ、白音の説得を続けよとした時、彼女の耳にあまり聞きなれない音が聞こえてくる。それはなんだったか・・・・・・そうだ、それは両親と暮らしていた時にテレビの時代劇かなにかで聞いた剣と剣を打ち合わせるような、そんな音が・・・
黒歌が涙で濡れる白音の顔から視線を外し、音の方向へと向けるとそこには・・・・・
黒づくめの小さな誰かがその手に自身よりも遥かに大きな剣を両手で持って、3人の悪魔と戦っている姿があった。
(・・・よ、くわかんないけ、ど・・・たすけて、くれるの・・・?)
黒歌は途切れつつある意識の中でその誰かが白音を救ってくれることを祈りながら・・・瞳を閉じた。
「いやああああああぁぁあぁ!!!」
最期に最愛の家族の慟哭を子守唄にして・・・・・
Side ???
「セイッ!!」
ギンッ、ズザザザザッ
悪魔の剣士の剣と僕の剣を思い切り打ち合わせ、その衝突の反動でお互い距離を取った。その直後に剣から手投げ斧へと武器を瞬間換装し、横にいた爆発使いの悪魔に投擲した。
爆発使いの悪魔は僕に手を向けていたが、自身に迫る斧から身を守るために斧に爆発魔法を放った。
爆発によってその悪魔が僕を一瞬見失ったことを確認した僕は弓を換装させ、眉間に向けて矢を放つ、が・・・女悪魔の氷の魔法によってできた氷壁を半分程まで貫通して矢は停止した。
「良く連携が取れていますね。良いですよ」
「「「はぁ、はぁ、はぁ」」」
3人の悪魔は体力をかなり消耗しているのか、肩で息をしていた。
・・・そろそろこちらも決着が着きそうだ。
「さて、あの黒いお姉さんはもう逝ったみたいなので・・もうお開きにしましょうか」
僕はそう言って両手に槍を展開させると・・・突如あたりが暗くなった、気がした。
そして上を見てみると・・・・・・巨大な何かが僕に向かって落ちて来ていた。
ズゥゥゥゥゥウウウン
辺りに重い音が木霊して、大地が震えた。
「ナイスです、メーヴィ!」
悪魔の剣士は落ちて来た何かに声をかけて、近寄ろうとするが・・・その何かは血飛沫を上げながら地面を転がった。
「いやぁ、びっくりしました。まさか空から女の子ならぬ、空から怪物とは」
「・・・」
僕は槍に付着した血を振り払いながらそう呟いた。
どうやら剣士は絶句しているようだ。
・・・そんな隙を晒してると・・死ぬぜ?
ドシュッ
「ゴフッ!?」
僕は剣士の喉に槍を突き刺して、カバのいる方へと先程と同じように投げ飛ばした。
(あと2人だな)
「・・・・あ、り、えねぇ・・・・てめぇは、てめぇはただの人間のガキじゃ、なかったのかよ・・・」
「? こんな場所にただの人間がいるわけないでしょう?」
「あ、あなたからは魔法使いの気配も、神器の気配も感じないわ!!ただの人間の子供のはずよ!!なのに・・なのにぃ!!!」
「・・・あぁ、なるほどそうでしたね」
悪魔たちがどうして僕を見て普通の人間の子供だと勘違いしているのか謎でしたが、そういえば気配を誤魔化す指輪をつけてたんでしたね。
僕の魔力量はあまりにも膨大で、ただ居るだけ、それだけで世界が軋みをあげてしまうから。
だからこの指輪をわざわざ作ってはめていたんでした。
・・・まったく箱庭だったらこんなことしなくても良かったというのに。
「あなたがたが理解する必要のないことです。ではさようなら」
そうして僕は震えてもはや抵抗のできない彼らの命を摘み取りました。