やっと、街にたどり着いた。
地図はあったものの街にたどり着くまで3日もかかった。
確かに時間はかかったが無事にたどり着いた。
そこまでは良かった。
問題はたどり着いてからだ。
たどり着いたはいいもののお金も何も持っていない俺はどうしていいのか分からずに立ち尽くした。
勿論親切な人が助けてくれるわけでもない。
3日も飲まず食わずだった俺は露店に並べてあったりんごに手を出した。
〈つい〉とはこういう物なのだろう。
しかしここは日本ではない。
品物を手に取っていい物を選ぶと言う習慣が無いのだろうか?
いや、身なりのきちんとした人が選んでいるのは問題が無いのだろう。
ここまでの旅で足はフラフラ。何回もこけることがあった俺の服はエンデルに貰った服ももうボロボロの泥だらけ、見た目は浮浪児だったのだろう。
「泥棒!」
そう店主が叫んだ。
それに反応した俺は走って逃げ出した。
別に盗むつもりなんてなかった。しかしそんなのは通用しない。
路地を曲がった所で襟を引っ張ってこかされ、罵声を浴びせられながら蹴られた。
しばらく蹴られた後、店主はこかされた時に転がったりんごを拾い店へと帰って行った。
蹴られている最中、通る人は見てみないふりをして通り過ぎ、今はゴミでも見るような目で見て通り過ぎる。
(俺は、好きでこんな所に来たわけじゃ無い!)
日本では特別幸せと言うわけではなかった。
普通の学生で、特別美人ではなかったけど気の合う彼女がいて、休みの日はバイトで稼いだお金で彼女や友達と遊びに行く。
普通の日本人だった。
それなのにいきなりこんな所に放り出されて……
……錬金術
不意に浮かんだのはその言葉だった。
自分の頭に詰め込まれた錬金術の知識。
今まで日本人としての常識にとらわれていたがこの世界に放り込まれたのだから使っても問題無いはずだ。
なぜか、エンデル夫妻宅の時の様にならない自信があった。
いや、ああなって周りを巻き込んでも自分を見捨てた人がどうなろうと知ったことではないと思ったのかもしれない。
むくりと膝立ちで立ち上がるとパンッ! と両手を合わせた。
そして近くに落ちていた石ころに手を乗せる。
パチリと一瞬錬成反応による光が上がり、石ころは金へと変わった。
その金を手に握り近くにあった飲食店のなかに入る。
すると現れた男性店員は俺の姿を見て顔を顰めて見下した様な目を向けてきた。
糊付けされたワイシャツをピシッと決めていることから敷居の高い店なのだろう。
俺は握った金を見せる。
すると店員は俺の顔横まで顔を近づけると耳元で「一回外に出て裏に来な」と言って裏に引っ込んで行った。
俺が外に出て裏へ行くと店員はパンとスープを出してくれた。
夢中になって胃に詰め込んだ。おかわりも出してくれたし、腹一杯になるまで食べた。
食べ終わると金を求められたので金を渡す。
お釣りが来ると待っていると店員は見下した目でこう言った。
「うちの店は高級店だからスープとパンでこれ一つもらう。まあ盗んだもんだろ? 軍に突き出さないでやるからおとなしく帰りな」
そう笑って扉を閉めた。
足元を見られた。いや、ただ見下した人間に取る態度があれだっただけだろう。
高級な料理を食べられた訳ではないが腹は膨れた。
金はまた錬成すればいいだけの話だ。
しかし7歳位のこの体で何処かに泊まるとかはできるのだろうか?
まあ金を渡せばなんとかなるか。
そんな事を考えながら大通りを歩いている時だった。
いきなり銃を向けられた。
人数は2人。
見ると警察の様な青い服をきている。
「錬成陣を描こうとするなよ? 通報を受けた。金を錬成したそうだな? 一緒に来てもらおう」
「しかしこんなガキが錬金術ですか? しかも……」
1人がゴミでも見るような目で見てくる。
「子供でも才能があったという事だろう。 一応手錠をかけるぞ」
いきなりの事に何もできない俺に手錠がかけられる。
そして俺は連行されるのだった。