そこそこ有名な理系大学に通い就職も内定をもらい、友達達と意気揚々と卒業旅行に繰り出した。
初海外で馬鹿騒ぎして飛行機に乗り、そこそこの英会話で無難に楽しく観光し、これが終わって日本に帰れば卒業して、働き出してしばらくしたら彼女と結婚して、裕福でもなく貧乏でもない普通のごく一般的な生活を送るんだと思っていた。
なのに今の状況はこうだ。
旅行先、現地の病院の廊下。
病室に入りきらない怪我人達と一緒に寝かされている怪我でボロボロの自分を見下ろしていると言う奇妙な体験。
これは俗に言う幽体離脱だろうか? それとも目の前の自分はもう死んでいるのだろうか?
友人達と観光中、爆発音と共にビルが崩れた。
降り注ぐ瓦礫に打たれ骨は折れ至る所から出血。
助けを呼ぶ余裕すらなく痛さで叫ぼうにも出てくるのは呻き声。
その内に意識が無くなり気が付けば今の状況。傷だらけで虫の息かそれとも死んでいる自分を見下ろしている。
周りの医者や看護師の言葉ではテロに巻き込まれたようだ。
日本のテレビで最近何処かで自爆テロが起こったと言うニュースは見た。
それはそもそも別の国だし自分には関係のない話だと思っていた。
いや、実際に起こった今でもこう自分や他の被害者が血みどろになって横たわる惨状は何処か現実感がなく他人事のようだ。
生きているか死んでいるか分からない自分を見ても何処か冷めた目で見れるのもそのせいだろう。
ああ、でも……
日本人としての習慣だろうか?
目の前で消えていく命に手を合わせる。
両手を握り合わせ自分の生死を神に祈るのではない。
手のひらと手のひらを合わせ他人の魂が迷わないように冥福を祈る。
その瞬間、突然現れた石造りの門のなかから手を引かれその門をくぐる。
ああ、自分はついに死んだのかな? 門の向こうは天国か? 地獄か?
青年が考えていたのはそんな事だった。
☆★☆★
目を覚ましたのは砂漠の真ん中だった。
照りつける太陽、見渡す限りの砂漠。
そこに一人放り出された状況は絶望的で叫んでも助けは無く、何処か命の危機を感じさせた。
あの血みどろの惨状の中にいても何処か現実味がなかったのは体の感覚がもう無く、まして外からテレビでも観るように自分を見ていたせいだろう。
今は照りつける太陽は熱く、五体満足の感覚がある。
ひとしきり助けを呼んだ後、ここが地獄か? と考えたが鼻で笑って歩き始める。
想像していた地獄にしては優しく、天国にしては厳しすぎる。
行くあても無く砂漠を歩くのは止まって死ぬよりはオアシスなり人なりを探した方が良いと思ったから。
こういう時に止まって助けを待つ方が賢いのか否かは知らないが待って助けが来る保証はない。
登山中の遭難では無く自分でも訳がわからない砂漠に放り込まれたのだ。
ニュースで流れて捜索隊が探しているかもわからないのだから。
☆★
もうどれだけ歩いただろうか?
自分がこれだけ歩き続けられることに驚いた。
1日2日では無く、もう一週間位歩いただろうか?
不思議と腹も減らないし喉も乾かないのは本当にここが死後の世界だからか?
そんな事を考えていると砂漠が終わり、安堵した俺は倒れた。
誰かが駆け寄ってきて話しかけて来るのが分かる。
助かった。
そう思った俺は意識を手放した。
★☆
目を覚ました俺は助けてくれたイギリス人っぽいのに日本語を話す男の家でご飯をご馳走になっていた。
食べながら聞いたのは男の名がエンデル・ハウワー、その隣の女性がマリアと言う見た目50歳位の夫婦と言うこと。
パンにかぶりつき、スプーンを使わずにスープを飲み、全く行儀の良いとは言えない俺にそう話してくれた。
一週間とか砂漠を歩いたとか言ったが嘘だ。そんなに人が飲まず食わずで行動できる訳が無い。
もしかしたら1日経っていなかったかもしれない。
食べられるだけ食べた俺に夫婦は疲れているだろうからと寝ることを勧めてくれた。話は明日でいいからと。
案内された部屋に入りドアを閉めたところで夫婦の会話が聞こえてきた。
「あなた、あの子はやっぱり……」
「ああ、シン国から逃げて来たのだろうな」
「あんなに小さいのに砂漠を越えて……」
「それだけ辛かったと言う事だろう。着替えさせる時に肩甲骨のあたりに痣があった。秘匿の錬成陣かと思ったがあれは焼印だろう」
「それって……」
「奴隷印だろうな。あの子の髪色はアメストリス人の物だし、シン国はまだそのような事をしているのか! マリア、あの子の面倒は私達が見よう。錬金術士よ大衆のためにあれだ」
言葉を無くすマリアに憤るエンデル。
その言葉の所々が俺にはわからなかった。
まずシン国とアメストリス人。これは国と人種だろうがそんな国も人種も知らない。まず俺を見て言うなら日本とは言わ無くても生勢中国、韓国、アジア人だろう。
それに奴隷? いつの時代の話だ? 今の世の中そんな事をしている国があれば差別だの何だので問題が起こるだろう。
極め付けは錬成陣だ。
これはファンタジーな物語に出てくる代物で魔法陣のような物だろう? 石を金に変えたりとか? バカバカしい。
あの夫婦は変な宗教でもやっているのか?
そう思いながらふと隣を見た時、姿見に映った自分を見て俺は絶句した。
そこに移るのは金髪に赤と金のオッドアイ。身長から見て年齢は6歳か7歳のこどもが写っていた。
フラフラと鏡に向かい、自分の顔や体をまじまじと見る。
(何だこれ⁈)
自分の持ち物が無いか探るが何も無く、偶然机の上にあった本を開いた。
そしてその中に描かれた丸に字を書き込んだ物を見た瞬間に頭の中に門をくぐった時の事が、その時に得た情報が溢れ出した。
「うわぁぁぁああ‼︎」
俺の叫び声を聞いてエンデルとマリアが部屋に入ってきた。
そしてその状況を見て絶句した。
机は粉々に弾け飛び、壁からは用途の無い階段がせり出し、本棚は光を帯びている。
「これは錬成反応!」
「あな_____」
マリアの声は最後まで続かなかった。
本棚が杭へと変わり2人心臓を体の至る所を貫いたのだ。
全ての知識を思い出し、自分の現状を思い出した俺の周りには、家とは言え無くなった物とその錬成のなかでボロボロになり息絶えた夫婦が倒れていた。
ああ、俺って転生? したのか?
自分を助けたばっかりに死んでしまった夫婦を見て、申し訳ないと思い手を合わせ、その場を去る。
マンガや小説のような転生という状況に陥った自分がこれからどうすればいいのか分からずにとりあえず瓦礫のなかで見つけた地図を頼りに近くにある街へと向かった。
思いつきで書いたので続けるかも未定。
気づいたら消えてるかもです。
それでもよければコメントなど、お待ちしています?