鉄兜提督がブラック鎮守府に着任しました   作:幻在

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期待していないとでも思ったか

「あの、司令官・・・・・」

「なんだ?」

食堂にて、朝潮の使った食器を洗う提督の横で、朝潮が尋ねる。

「どうやったら、不知火さんに勝てるのでしょうか?」

「・・・・・」

食器を洗い終え、ゴム手袋を外す提督。

「不知火の戦い方の特徴は?」

「え、あ、と、一言で言って、その場で策を弄するタイプでしょうか・・?作戦の立案などは勿論、射撃技術も高いですし、何より、敵の行動を予測するのが得意です。大抵は、すぐに倒してしまうんです。作戦時間に限りがあるから、という理由だったと思います」

「そうか、ならばお前はどうする?」

「え?」

「不知火相手に、お前はどう動くのかと聞いている」

食堂の席にて向かい合う提督と朝潮。

「えっと・・・・・開幕速攻でしょうか?」

「相手もそうならそうするのが一番だろうな。だがその場合、出鼻をくじかれる可能性が五分だ。それも、相手の練度が高いのなら、そのバランスは大きく崩れる。まず間違いなくこちらがやられるだろうな」

「ダメじゃないですか!?」

机を叩く。

「だが、策が無い訳じゃ無い」

「え?」

立ち上がる提督。

「来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

鎮守府正面の沖にて。

不知火と朝潮が向かい合う。

「二人ともー、準備は良い?」

そういうのは隼鷹の姉艦にあたる艦娘、飛鷹だ。

「はい!」

「いつでもいけます」

それぞれの返事を聞き、飛鷹はギャラはともかく、今回の演習の説明をする。

「今回の演習は、決闘形式で執り行います。砲弾は実弾。先に相手を轟沈とみなした方の勝ちよ。轟沈の成否は私たちが飛ばした艦載機で確認するわ。言っておくけど、贔屓なんてしないからね」

「当たり前だろう」

「提督は口を挟まないでくれる?」

「分かった」

ジト目で見られるも特に動揺した様子もない提督。

「提督、分かっていますよね?この戦いが終わったら、すぐに死んでもらいますから」

「それは不知火が勝ったらだろう。この戦いの終わりでどっちが立っているか。それで結果が変わる」

大淀の言葉に、そう言い返す提督。

「まさか、貴方は朝潮が不知火に勝てるとでもおもっているんですか?」

「ああ」

肯定する提督。

それに若干、驚いた様になる大淀だったが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。

「では、そんな世迷い事を間違ったものにしてあげますよ」

「ふん」

「あーはいはい、火花散らしてないでさっさと始めますよ」

飛鷹がうんざりした様子で無線機に向かって言う。

「それじゃ、演習開始(Let,s Go ahead)!」

 

 

 

駆逐艦は射程が、その主砲の威力故に短い。

ならばどうするか?

「ッ!」

開幕速攻で距離を詰める。

朝潮は、航行速度をフルにし、不知火に接近を図る。

それは不知火も同じだ。

船は、止まっている状態での回避行動は効率が悪い。

すぐにその場から動けない事。そして、方向を転換して進む事が出来ないからだ。

真っ直ぐに正面から向かい合う二人。

それぞれの射程に入った所で、不知火が先に仕掛ける。

「ッ!」

流石に速い。

構えてから射撃するまでの過程、その全てが短すぎる。

真っ直ぐ飛んでくるそれを朝潮は曲がって回避する。

すぐに進路を戻し、再突撃する。

連続で発砲する不知火。

それをどうにか回避する朝潮。

「・・・・・」

そこで不知火は違和感を持つ。

朝潮が発砲してこないのだ。

発砲すれば、一時的にも不知火の連続砲撃を鈍らせる事が可能な筈だ。

だが、朝潮は発砲してこない。

そこで一つの結論、そして二つの可能性を出す。

結論は接近してでの戦闘、二つの可能性は雷撃による一撃必殺、あるいは主砲を使っての近接格闘。

だが、それは愚策というもの。

(不知火に対して、わざわざ私の土俵に入り込むなど!)

身構える不知火。

一方、朝潮の方では。

(ここだ・・・・ッ!!)

ぐっと姿勢を低くする。

左手の発射管に魚雷を装填する。

(司令官の指示は・・・・・短期決戦!)

昨日、提督から言われた戦術。

それは、回避からの一撃必殺の魚雷を叩き込む事。

駆逐艦、軽巡洋艦の最強兵装、魚雷。

その威力は、部位によっては戦艦さえも沈める事も可能な威力を誇る。

それを、超至近距離で放つ。回避は、不可避。

速力を挙げる。

チャンスは一度。

主砲の狙いを定める不知火。

距離、十メートル。

「沈め」

不知火が引金を引く。

砲弾が発射される。

「こッこだァ!」

瞬間、朝潮の姿が消える。

「な!?」

砲弾が空を切り、飛んでいく。

だが、すぐさま朝潮が()()()()()()()()()を悟る。

そう、朝潮は、思いっきり体を投げ出していた。

水面すれすれで、まるでホームベースに飛びかかるかのように、体を投げ出していた。

完全に虚を突く行動だ。

 

提督が言った。

『お前たちは『艦』という概念に囚われている』

どういう事かと聞き返す。

『お前たちは、艤装の扱い方を、艦としての記憶から学んでいる。だが、疑問に思わなかったか?何故『人』の姿として生まれ変わったのか』

息を飲む。

『来い。それなりの体の動かし方を教えてやる』

 

 

 

「喰らえぇぇぇええ!!!」

魚雷を放つ。

もはや、こんな所で回避など不可能。

どう転舵しようと、避ける事は叶わない。

勝利を確信する朝潮。

 

 

 

 

 

だが、不知火は、()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「な・・・・・」

「まさか貴方が()()に辿り着くとは思いませんでした。まあ、あの司令の入れ知恵でしょうが」

背中に重い衝撃。

「がっはぁ・・・!?」

水面に叩き着けられ、まるで氷の上を滑る様に滑る。

踏まれた、というか蹴られたという事実に、気付くのが遅れた。

「私たちは、『艦』でありながら『人』として生まれ付いた『艦娘』。()()に至ってないと思いましたか?」

「そん・・・な・・・・」

かなりの衝撃だったらしく、肺の中の空気が吐き出されている。

不知火の主砲が朝潮の方向に向く。

それを確認した朝潮の動きは、速いものだった。

水面を転がる。

直後に先ほどまで朝潮がいた海面に水柱があがる。

(立ち上がらないと・・・・ッ!)

すぐさま立ち上がろうとする朝潮。

だが、上体を起こそうとした途端、顔面に、不知火の膝蹴りが突き刺さる。

「悪あがきのつもりですか?」

仰け反った所へ腹にパンチが刺さり、体が折れ曲がる。

意識が遠のく。

だが、倒れない。

そこへ右からのブロー。

成す術もなく不知火のラッシュが朝潮に叩き込まれる。

「ここまでですね」

大淀が、勝ち誇ったかの様に言う。

「もはや朝潮に勝機はありません。大人しく、死んでください」

大淀が、主砲を提督に向ける。

「ッ・・・・」

「動かないで下さい、隼鷹さん」

構えた隼鷹の背後。

満潮だ。

「下手動けば、艤装を展開する前に撃ち抜きます」

流石に艤装を展開していなければ、駆逐艦であっても主砲を耐える事は出来ない。

「・・・・・やはりこうなったか」

ふと聞こえた提督の一言。

「おい、そいつはどういう意味だ?」

摩耶が、そう問いかける。

「始めから分かっていたって口調だな」

「ああ」

提督は答える。

「分かっていた」

「ハ!お前も相当なクズだな!はじめっからあいつに期待なんてしていなかったんだな!」

笑う摩耶。

そして艤装を展開し、それを提督に向ける。

「死ねよ。クズはクズらしく、惨く死にな」

死亡宣告。

もはや助かる可能性は無いと言ってもいいだろう。

「・・・・・・何を言っている?」

ふと、提督が口を開く。

「ああ?」

「俺がいつ、あいつに期待していないと言った?」

「それがどうしたんだよ?」

首を傾げる摩耶。

振り返る提督。

「俺が、何の勝算も無しに、奴に全てを任せたと思うのか?」

その兜の奥から見える紅い瞳の真っ直ぐな視線に、思わず絶句する摩耶。

この男は、主砲を向けられているという事実を、()()()()()()()()かの様に、全く怯えていない。

それどころか、呆れさえも感じている。

「まさか」

鳥海が口を開く。

「あの子が、不知火に勝てると思っているんですか?」

「当たり前だ」

提督は、さも当然の様に、答えた。

「でなければ、こんな事させない」

 

 

 

 

 

 

(何故・・・・)

不知火は、どこか焦っていた。

(何故・・・・倒れない!?)

もう何十発と拳や蹴りを叩き込んでいる筈なのに、朝潮は、倒れる気配を見せない。

「ハー・・・・ハー・・・・ハー・・・・」

息をあげて、上目遣いで不知火を睨み付ける朝潮。

ぐったりと上体を前に出して、足は今にでも崩れそうな程にがくがくしている。

だが、倒れない。

彼女の瞳には、確かなる意志が、想いが、込められていた。

その眼差しに、苛立ちを覚える不知火。

「何故ッ!」

「ぐあ!?」

左拳が、朝潮の顔面を捉える。

「何故!そこまでして立つんですか!?勝ち目がないと分かっていながら、何故立とうとするのですか!?何故、倒れないんですか!?そこまで大切なんですか!?何も持っていない貴方が!?たかが一人の為にそこまでするんですか!?どうせ、失うものなんてないのに!」

失うものが無い。

その言葉が、朝潮を大きく動かす。

そんな事、無い。

(あの人は、私に、料理を食べるよいう喜びをくれた。たった一つの料理だけで、私を救ってくれた)

もはや理由はそれ一つで十分。

立ち上がる力なんてそんな想い一つでどうにでもなる。

複雑な事情なんかどうだって良い。

何もなくたっていい。

だけど、この気持ちにだけは、嘘を吐きたくない。

不知火の右のブローが朝潮の頬に当たり、顔が大きく港を向く。

そこには、こちらに背を向け立つ提督の姿。

その近くには、主砲を向ける艦娘たち。

「し・・・・れい・・・かん・・・・」

彼の仮名を呼んだ。

彼は、こちらを向く事などしなかった。

だが、それだけでも十分だ。

姿を見れただけで、いくらだって踏みとどまれる。

大きく片足を下げて、崩れた態勢を立て直す。

「いい加減に・・・」

不知火の左拳が迫る。

「倒れろッ!」

「ッアァ!」

「!?」

それを初めてかわす朝潮。

そして、右手に持っていた主砲を捨て、拳を振りぬく。

「ッ!」

不知火は、とっさに頭を挙げる。

だが、拳が、顎に掠る。

がくんと視界が傾くも、かすった程度。大丈夫な筈だ。

だが、急激に平衡感覚を失う不知火。

「な・・・に・・・!?」

顎を揺らされれば、脳も揺れる。

それによって、不知火は、まともに動けない。

「ぎょ・・・らい・・・そう・・・・てん・・・・ッ!!」

ガシャンッ!と魚雷発射管に、魚雷が装填される。

「これで・・・・・」

そして、それを不知火に向ける。

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああぁぁああ!!!!!!!」

叫び、魚雷が不知火に向かって突き進む。

そして、直撃し、高い水柱を挙げる。

「く・・・あ・・・・」

直撃を受け、水面に腰をつく不知火。その姿は、大破状態だった。

『不知火の轟沈を確認。よってこの演習、朝潮の勝利とします!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよ・・・・・」

摩耶が、信じられないといった表情で茫然とする。

「決まりだな」

提督は、そう呟く。

「決まり?何がですが?」

そんな声が聞こえる。

「戦いに勝ったからって、貴方の死が変わる訳ではありませんよ?どちらにしろ、貴方が死ぬ事に変わりは無いんです」

大淀が、完全に動揺しきった表情で提督に主砲を向けていた。

それを、見て、提督は、溜息を一つついた。

「なんですか・・・・?」

「俺がそれを予想していなかったと?」

直後、大淀の艤装が吹き飛ぶ。

「な・・・・!?」

驚く大淀。

すぐさま艤装を吹き飛ばした犯人の姿を見る。

「不知火・・・・!?」

それは、ボロボロになって朝潮に肩を貸されている不知火だった。

「何故・・・」

「盟約です」

不知火は、淡々と告げる。

「私は演習で負けた。だから私は約束通り、提督の側に寝返ります」

もはや、説得の余地はない。

 

「盟約に誓って、本日をもって私は貴方の元を離れます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室にて。

「それでは改めて、陽炎型二番艦『不知火』です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」

淡々と自己紹介をする不知火。

この部屋には、入渠を済ませた不知火と提督の他には誰も居ない。

「そうか。早速だが不知火。お前には『秘書艦』?というものをやってもらいたい」

「朝潮が良いのでは?」

「俺の方針はあくまで深海棲艦との戦いに勝利する事。その為に必要な事をするだけ。お前たちとはあくまで『提督』と『艦娘』。そこまで深い関係になる気は無い」

「必要な時だけ必要な事をする、てことですね」

不知火が応える。

「そうだ。今後の艦娘との接触は不知火を通して行う事になる。主に命令の伝達を任せる事になる。書類仕事は殆ど俺がやる。良いな」

「分かりました。しかし、料理の方はどうなるので?」

「安心しろ」

提督は言う。

「腕利きを呼んでおいた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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