鉄兜提督がブラック鎮守府に着任しました   作:幻在

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ならやれ

もはや、怒涛としか言いようがない。

「~~~~ッ!!」

目まぐるしく襲い掛かる二匹の獣たちの攻撃を、朝潮は決死の想いで自分の持てる全てをもって、捌いていた。

何度も起こる爆発、飛び散る火花、燃え盛る炎、闇夜に光る紅い目、月光を反射する金属光沢、飛び散る鮮血。

それらが秒単位で目の前で次々に様変わりし、脳が焼き切れそうな感覚を覚える。

ただ分かるのは、一瞬でも目以外の神経への注意を怠れば、あっという間に終わってしまうという事だ。

それほどまでに、敵の強さは異常だった。

伸ばした手、それを急いで引き戻せばすぐその前を敵の何かが通り過ぎる。

もはや砲弾なのか拳なのか判断も出来ない。否、そんな事を認識する事を放棄しなければ回避など皆無だ。

この戦闘において呼吸のタイミングは命取り。

人は呼吸を促す事で自らを落ち着かせるのだが、この戦いでは、それは安堵の息と呼べるほど()()()()()()であり、タイミングを外せば、すぐさま体を動かす力が緩む。それによって反応も遅れ、攻撃を喰らう。

敵は何が何でも一撃を入れる気でいる。ならば自分はそれに徹底的に抵抗する。

 

足止め。

 

それが自分に与えられた役割なのだから、その役割は最後まで貫きとおす。

もはや鋼の精神ともいえる集中力で、朝潮は限界を超えた戦いを繰り広げる。

だが、このままではジリ貧、敵は練度でも数でもこちらに勝っている。対してこちらは罠に次ぐ罠、卑怯な手に次ぐ卑怯、とにかく使えるものはなんでもかんでも使って遅れを取り戻している。

というか、あの提督にさせられた訓練は全て、練度不足を圧倒的卑劣な手段で補っているに過ぎない。

その卑劣な手段というのは、提督の戦い方の事。

徹底的に生き残る為の手段とも言ってもいい。

だから。

 

突如の金属音。

 

それに目を見開く夕立。

気付けば艤装に錨が引っかかっていた。

「なッ!?」

「やぁぁあああ!!」

そのまま背負い投げの要領で水面に叩きつける朝潮。

「うっぐぁ!?」

「夕立!」

すぐさま時雨が発砲。

朝潮はすぐさま避けるも二連装砲の片方を避け切れず左腕に当たる。

だが手応えは浅い。

「くぅ・・・!」

だが、朝潮は夕立への追撃を続行!

主砲を水面に倒れ伏す夕立に向ける。

だが、夕立は朝潮の引っ掛けた錨の鎖を引っ張る。

「うあ!?」

思わず態勢を崩す。

その一瞬の隙に時雨が蹴りを叩き込む。

メキリという音が響く。

「~~~~~~ッッッ!!??」

吹っ飛ばされる朝潮。

水面を水切りのように跳ね、水面に倒れ伏す。

「うっぐぁ・・・」

肋骨が何本か逝った。

あまりの痛さに苦悶の声を挙げる。

その間に、時雨と夕立が近付いてくる。

朝潮は、チカチカする視界、痛みで悲鳴をあげる体を、どうにか奮い立たせようと、力を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、こちらは矢矧を追いかける大淀。

もともと、スピードはほぼ同じ二人。

それが最大船速で追いかけっこをしていて、互いに追いつくどころか距離が変わる事なんて無い。

「くぅ!」

砲弾が当たらない。

比率は4:3。

これを、5以上の数字にすれば、当たらない事は無い。

だが、それでは防御の方がおろそかになり、最悪、辺り処が悪く一撃で大破になる可能性だってある。

その一歩が、大淀にはどうしても踏み込む事が出来ない。

これでもし失敗してしまったら?もし旗艦である自分が負けてしまったら?

そんな考えが頭をめぐり、どうしても、一歩が踏み出せない。

だが、このまま敵を味方の元に合流させてはならない。

ならどうするか。

どうすれば良いのか。

大淀は、考える。

「どうすれば・・・・・」

『何を考えている?』

「て、提督!?」

突然、提督からの電信。

「あ、えっと、その・・・」

『さしずめ失敗を恐れているのか?』

「うぐ・・・」

『下らんな』

「でしょうね・・・」

『ふん、()()()()()()()()()()だろう?何故それだけの事に全力を出せない?』

「しかし・・・・」

『良いか、この作戦の概要は如何にして相手を()()()()()()()()()()()()だ。動けなく出来れば、あとは離脱なりなんなりすれば良い』

「はあ・・・」

『まさか忘れていたんじゃないだろうな?』

「いえまさかそんな!」

『ならやれ。でなければお前の嫌いとか言っていたぴーまんを喰わすぞ』

間。

「やります今すぐやります」

即答だった。

途端にブツリと通信が途切れた。

「・・・」

なんだか思いっきり馬鹿な事を言い合っていたような気がする。

だが、そう考えても仕方が無く、大淀は、こちらに背後を向ける敵に視線を向ける。

彼の言葉には、不思議と前に踏み出す勇気をくれる気がする。

それが、自分の身勝手な思い込みか、はたまたそんな遠回しな気遣いか。

それでも、確かに前に進む勇気は受け取ったと思える。

「比率変換、7:0!」

今なら、行ける!

大淀の戦闘力を7として、矢矧の戦闘力は10。

しかし、矢矧はそれを5:5の比率で攻撃と防御に振り分けている。

それは、逃げている事でも言える事。

だから、こそ。

「っつあ!?」

全ての力を攻撃に注いだ大淀の攻撃は矢矧に届く。

「なにが・・・!?」

突然の被弾に驚愕する矢矧。

だが、その後も立て続けに被弾が続く。

「く、この!」

矢矧が反撃する。

その砲弾が、大淀に跳んでいく。

だが、大淀は・・・・その砲弾を避けた。

「ッ!?」

「あっぶなぁ・・・!」

なんと、ギリギリの所で比率変換をして攻撃と防御の比率を逆転させて避けたのだ。

だが、これで確実な隙が出来た。

近付くには、十分な時間が出来た。

「これでぇ!」

「ッ!」

魚雷を装填。距離は必中確定。一度放てば、回避の成功は無い。

勝利の確信をする大淀。

そのまま魚雷を放つ―――――――筈だった。

 

 

 

瞬間、視界が真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めーいちゅー」

北上が、遠くで立ち上った水柱を確認して、その様に呟く。

「いやぁ。君たちはよく頑張ったよ。まさかここまでやるなんてさ。流石、あの人の艦隊だね」

北上は、振り返ると、ボロボロになった不知火と摩耶が、無理矢理にでも立ち上がろうとしていた。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

「ゼエ・・・ゼエ・・・ゼエ・・・」

荒い息をあげ、中破状態となった体で、北上を睨み付ける二人。

「う、る、せぇ・・・・まだ、おわってねえんだよ・・!」

摩耶が、そう吐き捨てる。

「まあ、終わってないと言えば、終わってないけどさ・・・・時間、もう無いよ?」

事実、作戦というのは、難易度がコロコロ変わるタイムレースのようなものだ。

それは激しい砲火が交わる艦隊戦でも同じだ。

二隻を相手どって無傷でいられる北上相手に、もう残り少ない作戦時間で倒せる保証などない。

いや、そもそも倒す事など出来ないのかもしれない。

「・・・はっ」

ふとそこで、不知火が()()()

「?」

「天才ともあろう人が、何故不知火たちが貴方を()()()()()()()()のか、まだ分かっていないようですね」

「・・・・どういう意味かな?」

不知火は、スカートのポケットに手を突っ込む。

「不知火・・・」

「仕込みは終わりましたよ」

あとはただ、願うのみ。

「理由は、すぐに、分かりますよ」

そして不知火は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

その瞬間、周囲が緋色の光に包まれる。

「これは・・・燃料!?」

「そうですよ。燃料を燃やしたんです」

知らず知らずの内に、不知火は北上を囲うように自らの燃料をばらまいていたのだ。

そして、マッチの火でその燃料を燃焼させ、その炎で北上を囲んだのだ。

「でも、こんな事をしたからって、戦況が逆転する訳じゃないよ?」

「そう、私たちがどう足掻いたって貴方には勝てない。だけど・・・」

「アタシたちだけ、の話だけどな」

北上はまだ理解できない。

彼女たちは何を考えているのだ?

一体、どんな手があるというのだろうか?

考えられるとすれば・・・・・・最初に起こったあの爆発――――――

「ッ!?」

まさか。

それに気付いた時には、もうそれはすぐそばまで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し遡って、こちらは鳥海のいる海域。

「ぐあぁ!?」

水面を転がる鳥海。

その姿は大破といっても良い程にボロボロだった。

「ぐっぅう・・・」

(まさかここまでの実力差があるなんて・・・)

目の前に立つのは、神通。

川内は、先ほど機雷によって巻き起こした爆発で機関部を破壊したが、それでも援護射撃という名の精度の高い狙撃で動きがかなり制限されてしまう。

ついでに神通との圧倒的実力差。

勝てる要素など微塵も無い。

だが、ここまでは良く粘れたものだと自分を褒めたいぐらいの気持ちはある。

しかし、そんな事を言っている場合ではない。

無理矢理にでも立ち上がろうとする鳥海。

「もう諦めたらどうですか?」

神通がそう問いかける。

「よくここまで私たちを足止め出来た事は褒めますが、実力が足りませんでしたね」

神通は良く出す様にそういう。

「時間一杯、といった所ですが、一度も私たちに攻撃を与える事はおろか、反撃する余地も無く、まさに防戦一方。よくそんな実力で私たちと張り合おうと思いましたね」

まさにその通りだ。否定する気も無い。

というか、そんな言葉攻めは散々提督に言われてきたから慣れている。

容赦無い言動は、もうあの提督で慣れている。

ただ、鳥海は、予想通りな言葉に、ただただ笑う事しかできなかった。

「?何が可笑しいんですか?」

「いえ、なんとも予想通りな事を言ってくるので、思わず」

鳥海は、痛む体を起こし、立ち上がる。

「予想通り?・・・・!?」

ふと、神通の背後が明るくなる。

振り向くと、そこで赤い光が光っていた。

「あれは・・・・」

「どうやら、時間の様です」

鳥海は空に向かって主砲を向け、何かを撃つ。

それは、数秒した後に、眩い光を放ち、辺り一帯を明るく照らす。

「これは・・・!?」

「照明弾、というものです」

「それに何の意味が・・・・」

神通には訳が分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

それは、矢矧も同じだった。

「何故このタイミングで照明弾を・・・!?」

北上からの魚雷(援護)が無ければ、確実にやられていた。

目の前には、小破状態の大淀が立っている。

ギリギリの所で回避に成功したようだが、魚雷発射管は破壊されており、航行能力に支障が出ている。

ただ、それは矢矧にも言える事。

機関部、主にスクリューの片方を破壊され、まともに動けない状態だ。

「・・・ふふ」

「!?」

「とうとう準備が出来た様ですね・・・・」

「何を言って・・・」

立ち上がる大淀。

そして、不敵な笑みを矢矧に見せ、言い放つ。

詰み(チェックメイト)です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首を掴まれ、持ち上げられる。

「終わりだよ」

時雨が、主砲を朝潮に向け、死刑宣告のようにそう言う。

体中が痛むうえに、もうまともに体も動かせないこんな状態では、なにをしても無駄だろう。

「・・・・何が可笑しい」

だが、それでも朝潮は笑っていた。

何せ、もう、決着はついているのだから。

「はは・・・まだ分からないんですか・・・?」

「何をだい?」

「どうして、私が単身で貴方達二人の足止めをしたのか」

朝潮は、時雨や夕立にとって気味の悪い笑みを向け、言い放つ。

「貴方たちを本体から引き離したのは、何よりも危険の察知に鋭いから。だけど、その危険察知能力も、私が挑発するだけで簡単に鈍る。だからこそ、私が貴方達の囮を引き受けた。私たちの切り札を、()()()()()()()()()()()()だけに」

「だから何を・・・」

「もう終わってるんですよ。この戦いは!」

「!?」

朝潮が、背中の艤装から何かを落とす。

それは、時限式の機雷。

爆発するまでたったの三秒。

「くぅ!」

思わず手を離す時雨。

同時に、朝潮のいる場所で爆発が巻き起こる。

「自爆!?」

「バカな事を・・・・」

二人は、朝潮のその行動を冷ややかな眼で見る。

だが、二人知る由も無かった。

 

 

 

 

 

それが、味方に敵の位置を教える手段だったという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付いた時にはもう遅かった。

 

第三の艦隊は、ある事を忘れていた。

 

普通、艦隊は六人編成。

 

そのルールに則り、第三は六隻でこの戦いに出撃していた。

 

だが、第四は、そんな六人を()()()()で相手どっていた。

 

それはなぜか?

 

簡単だ。

 

 

 

 

 

 

「やられたね、これは・・・・」

北上が、諦めたかの様に、空を仰ぎ見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の一隻が空母だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、六つの場所で爆発が巻き起こった。

 

 

 


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