鉄兜提督がブラック鎮守府に着任しました   作:幻在

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第四鎮守府第一艦隊、初陣

「・・・・各艦隊、指定位置についた模様」

審判の男が、そう元帥、碇煉雅にそう告げる。

「そうか」

煉雅は、目の前に広がる海を見る。

しばしの逡巡のあと、また審判の男に向き直る。

「始めたまえ」

「はっ」

審判は、ポケットから懐中時計を取り出し、無線機より通信を送る。

「各艦隊に告ぐ。演習開始まで残り五分となりました。これより、本演習の最終確認を行います」

審判が、以下の事を述べる。

 

内容は、互いの艦隊の時間内の撃滅及び、撤退。時間切れとなった場合、それぞれの艦隊の損害状況によって勝敗を決めるものとする。ただし、先に敵艦隊を撃滅した場合は、その艦隊の勝利とする。

 

使用する砲弾は、実戦を踏まえた実弾を使用する。

 

演習海域外への逃亡行為は、即刻轟沈と判断する。

 

新戦力の投入は無し。轟沈させる事は認められない。

 

轟沈させてしまった場合、その時は、重い厳罰が下る事を覚悟する事。

 

以上の項目以外の行為は、全て黙認される。

 

 

 

 

 

それらが述べられ、審判は、懐中時計を見る。

見ると、すでに一分前。

「提督の方々も、よろしいですね?」

審判の男が、提督と玄に向かってそう聞く。

「ああ」

「構わないよ」

そう返事を返し、了承の意を示す二人の提督。

「では、演習開始まで、残り十五秒。十・・・九・・・八・・・」

審判がカウントを始める。

「三・・・・二・・・一・・・演習開始!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったな」

勇がそう呟く。

 

演習において、激しい戦闘を想定しているのだが、その際の指揮はその艦隊の旗艦に任せられる。

だが、時々行う定時連絡を行う際に、提督との通信は許可されている。

 

「第三のあの水雷戦隊は、戦艦群相手に無傷で勝った程だ。第四如きが勝てる訳ねーっつの」

真が何ともいやらしい笑みを浮かべながらモニターを見ている。

彼ら二人、何故この様な場所にいるのかというと、単純明快にただ第四の無様な姿を見たいだけなのだ。

ただ、勇にはもう一つ別の目的があるのだが。

勇の目は、第四の旗艦に向けられていた。

「大淀・・・・貴様が出た所で結末は変わらんぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――川内。夜偵はどう?」

「まだ来てない」

「そう」

矢矧の問いに淡々と答えた川内。

今日は、満月。

その為、月明りが闇夜を照らしていた。

周囲を警戒している艦娘たちは、無言で辺りを警戒していた。

周りには、いくつもの小島があり、身を隠すにはもってこいだ。

ふと、北上は隣にいる駆逐艦たちに視線を向ける。

その表情は、能面の様に感情を映していないが、その眼には、ある一つの標的に対する殺意と呼べるものが感じられた。

(たぶん、朝潮の事だろうね・・・さっき二人が話していたの聞いたからね・・・)

夕立と時雨。互いに姉妹艦だというのもあるが、どういうわけか、艦娘は姉妹艦との繋がりが深い。

その信頼は、とても深く固いものだ。

むしろ、その絆があるからこそ、今までの受けてきた仕打ちに耐えられてきたのだろう。

当然、その繋がりを奪われれば、激昂するし、その相手を酷く憎む。

いつの間にかそんなシステムが組みあがってきてしまっているのだ。

 

提督たちがそれに気付かないうちに。

 

(ま、今は演習に集中しようか。たとえ、あの人の艦隊であっても、手加減は許されないからね)

北上は、敵の襲来を待ち構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵、発見しました」

『ご苦労様です。どの様な様子ですか?』

「川内さんを使って、周囲を索敵しているようです。夜偵もっているの、川内さんだけだから」

『想定内ですね。敵はまだこちらを発見していませんね?』

「見た所、そうかと」

『分かりました。良いですね?合図したら、探照灯、お願いしますよ?』

「了解です」

『よし』

無線の向こうで、一息つく声が聞こえた。

『では、予定通りに、第一の作戦、開始します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲を警戒していた第三の艦隊。

「ん?」

「どうしたの、川内」

「通信が途切れた。落とされた」

それに、僅かばかりに反応を示す矢矧。

「どういうこと、音は聞こえなかったわよね・・・」

「機銃でも使ったんじゃないの?」

北上が警戒しながらそう言う。

「夜偵は南東の方で落とされた」

「そこにいる可能性が高いわね・・・・良いわ。行きましょう」

第三の艦隊が動き出す。

彼女たちのいる南東には、小さな小島が一つ。

そこに、敵がいると踏んでの事だろう。

全員が、そちらに微速で近付いていく。

 

 

その時、彼女たちを照らす光が、彼女たちの背後から当てられた。

 

 

「!?」

「探照灯!?」

光の直撃。

単縦陣を展開していた彼女たちに、僅かに斜めから当てられた光が全員を照らし出す。

 

彼女たちを、闇夜の元にその居場所を曝け出す。

 

そして、夕立の目は、光に阻まれる視界の中で見た。

憎き存在の姿を・・・朝潮の姿を。

「朝潮・・・!」

「ッ!舐めた真似を!」

二人の表情が明らかに豹変する。

まるで捕食される側である標的に傷をつけられ激怒した猛獣の様に。

そして、探照灯に照らされて、黙っている彼女たちではない。

「夕立、時雨、行きなさい」

矢矧がそう命令を下した。

その瞬間、二隻は朝潮に向かって最大船速で接近を始める。

「いいので?」

神通が聞いてくる。

「近くに伏兵がいるかもしれない。二隻いれば、想定外の事に対処できるでしょう」

実際、矢矧のこの見解は正しい。

確かに、単独(ソロ)よりも二人(ツーマンセル)の方が、やられる危険性は減る。

提督の命令は徹底的に叩き潰せ。

ならば確実に倒せる確率で叩いた方が良い。

それに、あの二人はあの艦娘に『特別な感情』を抱いている。

それを抑え込めば、最悪の所で失敗する可能性がある。

ならば行かせてそのストレスを発散させれば良い。

だが、相変わらず彼女たちは照らされまま。

何故朝潮は単身こちらに探照灯を当て続けるのか。

「・・・・?」

ふと、北上の顔が曇る。

「? どうしたの北上」

「なんか聞こえない?」

「?」

北上の言葉を聞き、耳を澄ます四人。

確かに、風を切る様な音がいくつも聞こえる。

「これは・・・・・ッ!?」

矢矧の顔が強張る。

直後、彼女たちが立っていた海面から巨大な水柱が立ち上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカな!?」

真が椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がる。

勇の眼にも、驚愕の表情が現れていた。

他にも、周囲にいた士官たちが口々にどよめいていた。

「何が・・・おきやがった・・・!?」

真の表情は、驚愕半分、怒り半分といったものだった。

その場には、元帥もいた。

その目は、確かに見開かれていた。

「なんで・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な・・!?」

背後で起きた光景に絶句する時雨と夕立。

何が起きた?何故いきなり水柱があがった?

周囲に敵がいたのか?だけどどこにいるんだ?

だが、その疑問は突如消えた光によって断ち切られる。

「ッ!?」

振り向く時雨。

そこには、こちらを真っ直ぐに睨み付ける朝潮の姿があった。

「ッ~~!!」

その表情が、二人の逆鱗を逆撫でする。

「「うざいッ!!」」

ふたり同時に飛びかかろうとする。

だが、一歩踏み込んだ直後に夕立の足元がいきなり爆発する。

「な!?」

「夕立!?」

その爆発の威力から、魚雷と判断する時雨。酸素魚雷ではない。

だが理解できない。

朝潮は一体いつ魚雷を放った?

目を離した隙にか。

いや、これ程の距離だ。いくら相手が憎くても周囲の警戒は怠らなかった。

それに雷跡も見えなかった。

いくら暗くても、酸素魚雷じゃない魚雷の雷跡が見えない訳が無い。

「チィ!」

舌打ち。それと同時に朝潮に突撃する時雨。

一方の朝潮は下がるのみ。

「逃げるなァ!」

そんな朝潮に対して発砲。

「ッ!」

朝潮は表情を強張らせる。

ギリギリの所で回避に成功する朝潮。

だが、その直後に二撃目の砲撃が朝潮に直撃する。

「うあッ!?」

「まだやられていないっぽい」

夕立だ。

朝潮の動きが鈍る。

その瞬間を見逃さないように時雨が急接近する。

その勢いのまま朝潮を横へ蹴とばす。

「げう!?」

体格の差から宙を舞い、水面に叩き着けられる。

「よくも舐めた真似をしてくれたね、この落とし前はッ!?」

時雨が何かを言い終える前に爆発。

思わずよろける時雨。

「くそ!」

(何が起きているんだ!?)

今のは背後から。

後ろを向いてもそこには誰もいない。

「すみませんが・・・・」

朝潮がゆっくりと立ち上がる。

「貴方達には、ここで足止めをくらってもらいます・・・」

「ッ・・・この裏切り者がぁ・・・!」

朝潮の真っ直ぐな眼差しに、どうしようもない怒りを表す時雨たち。

朝潮はゆっくりと、その砲身を二人に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、こちらは矢矧たちのいる場所。

「被害状況を」

「特に問題はありません」

「こっちも問題無し」

「私も問題ないよー」

なんと全員無傷。

あの爆発からどうにか逃れられたようだ。

「一体なんだったの?」

気付けば、聞こえていた風切り音は消えていた。

あれが一体なんだったのか、彼女たちには理解できない。

「被害が無ければよし。ちょうど向こうから来ているようだしね」

川内がいきなり右に向かって発砲。

「きゃあ!?」

悲鳴と共に、水柱があがる。

「・・・外したか」

舌打ちする矢矧。

そこには、一隻の重巡艦娘がいた。

鳥海だ。

「単艦、という訳ではないようですね」

神通が鳥海から視線を外し、横を見る。

そこから不知火がやってくる。

「ん、どうやらバラバラに分かれていたようだね」

北上が今度は鳥海のいる反対の方向を見る。

そこからは摩耶。

「全艦に告ぐ」

矢矧が、三人に背を向け、口を開く。

「敵との交戦を許可。ただし、決して油断する事はしないで。徹底的に叩きのめしなさい」

『了解』

それぞれが艤装を構える。

敵も、こちらを囲む様に構える。

 

 

 

 

 

その時、この演習で初めて艦隊の主力同士の戦いが始まった。


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